5話
馬車の中で俺の固有魔法であるクリエイトスケルトンを使ってアイアンスケルトンのイチロー君、ジロー君、サブロー君を作成して、ストレージスケルトンで待機していてもらって疲れたら休む。
夜は宿場町の高級宿屋で同じように作成して疲れたら寝る。
そんなことをしていれば三日などすぐに過ぎて……。
「ギリス様、本当なのですか?」
「うん、間違いないと思うよ」
一つ目の盗賊たちのねぐらはノルゥの実家の領地と王家の領地の境目にある森の中にあった。
木を切り倒して開いた土地に丸太を並べて地面に刺しただけの木製の塀に囲まれた盗賊たちのねぐらは、見た目には普通の開拓村に見えなくもないのだけど、その村の中を歩いているのが明らかにガラの悪い男たちばかりで普段からみんな武装しているなんて不自然すぎる。
「ライズスケルトン」
ズズズっと魔法陣が描かれた地面から槍を持ったジロー君が五人せり上がってくる。
「じゃあ、ちょっと様子を見てきてくれる?」
俺の前にひざまづいたジロー君たちにお願いすると、立ち上がったジロー君たちが走ってひょいっと軽く木製の塀を飛び越えて村の中に入って行った。
「えっ?」
ノルゥが俺ではなく御者として付いてきてくれた騎士のオランさんを見る。
「えっと……おかしいですよね?」
「ギリス様は天才なんだよ」
「そうなのでしょうけど……あの高さの塀を軽々と越えるスケルトンなんて……」
「ギリス様は……」
すぐにジロー君たちが半裸のお姉さんたちを担いで戻ってきたので、俺は、「ライズスケルトン」と唱えて倉庫で待機してもらっていたイチロー君とジロー君とサブロー君たちにも出てきてもらう。
「嘘っ、ギリス様の言っていた通り、ここが盗賊のアジトなんですね」
「うん、やっぱりそうみたいだね」
「それよりもなんて数のスケルトン……」
二箇所ある入り口の前に黒光りするスケルトンであるイチロー君たちがずらっと並ぶと、盗賊のねぐらの中は一気に慌ただしくなった。
なにか騒いでいるけど遅いよね?
捉えられていたお姉さんたちをジロー君たちが助け出したので、あの中には盗賊しかいない……と思う。
「とりあえず今出せるのは以上だけどね」
「とりあえずってことは、もっと出せると言うことですか?」
「う〜ん、やってみないとわからないよ」
僕がノルゥに答えるとオランさんが、「壮観ですね」と笑う。
「笑い事じゃないですよ、オランさん」
「笑い事だよ、ノルゥ嬢、ギリス様は天才だ」
「そうなのでしょうけど」
ノルゥが困惑気味に自分の胸に手を当てるので思わずその慎しみ深い胸元に目を向けるとノルゥが真っ赤な顔をして自分の胸を隠しながらわざとらしく、「うううん」と咳払いした。
ああぁ、それどころじゃなかったね。
「じゃあ、イチロー君、ジロー君、サブロー君、わからせてあげなさい」
手を前に突き出しながら言うと、イチロー君たちが足を踏み鳴らして威嚇しながら出撃した。
おおぉ、なかなかかっこいいね。
——
怒号と悲鳴だけが飛び交う塀の中、それも二十分ほどで静かになって血まみれのイチロー君が一人歩いてくると俺の前にひざまづいた。
「終わったみたいだね」
イチロー君にうなずいてからノルゥを見る。
「後片付けしといた方がいいよね」
「……はい」
盗賊のアジトの後片付けは御者として付いて来てくれていた騎士のオランさんにひとっ走り近くの街の冒険者ギルドに依頼してもらって、その依頼を受けた冒険者さんたちにお願いする。
タルとか木箱とか重そうな物はイチロー君たちに運んでもらったのだが、青い顔をした冒険者さんが俺を見て、「魔王」とか呟いていたような気がしたけど、そんなわけないので気のせいだ……こんなかわいい系の俺が魔王なわけないよね?
チビとかそういうことじゃないよ。
「ストレージスケルトン」
後片付けが終わったので、イチロー君たちには戻ってもらって次に移動する。
馬車に乗り、次のアジトがあると思われる場所に向かって移動していると、ヒャッハァーと盗賊が現れた。
「女は殺すな、男は皆殺しだぁ!」
言ったゴツい坊主頭の男が、足下に浮かび上がった魔法陣からせり出してきたジロー君に串刺しにされると、「あっ」と盗賊たちが声を漏らして動かなくなった。
盗賊たちの周りの地面に浮かび上がる魔法陣からズズズっと現れて包囲したイチロー君たちが、足を踏み鳴らしながらその包囲を少しずつ縮めていく。
すぐに泣きながら命乞いをした盗賊たちが、縄で縛られて俺の目の前の地面に転がった。
「まっ、魔王様、お許しを……」
「魔王って誰のこと?」
「ひぃぃぃ」
笑顔で首をかしげたのに盗賊たちは変な声を出してさらに泣き出す。
荒事を得意としている男たちがあっという間にこんなに怯えるなんて、よっぽどイチロー君たちが怖かったんだね。
確かにイチロー君たちはみんなすごく強いし、黒いし、大勢で威圧しながら寄ってくる様は敵からするとかなり怖いと思う。
さもありなんとうなずいているとオランさんが、「いかがなさいますか?」と聞いてくる。
「うーん、聞いてたアジトはまだ先だよね」
「はい、たぶん別の奴らかと」
「そう、じゃあ、せっかくだからこの人たちのねぐらを先に潰していこうよ」
「そうですね」
盗賊たちに案内させてサクッとねぐらを潰し、予定していたもう一箇所も同じように潰す。
なぜか最後のねぐらの掃除をするころになると冒険者さんたちが俺を見てガタガタと震えている気がするのだが……気のせいだよね。
良いことをしているのに怯えられるとか意味わかんないし。
夕暮れ、高い城壁がオレンジに染まる領都ディアンに来た。
だけど俺たちが乗った馬車は近くの平原まで来ると止まって、馬車の扉が開いた途端に、「ギリス」と入ってきたきれいな女の人が俺に抱きついた。
いや、リシャさんだね。
「母さん、どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ。なんでいきなり他所の領地の盗賊狩りなんて始めるのよ」
「だって、友達が困ってたから……」
口をつぼめるとリシャさんが、「そんなかわいい顔しても騙されないわよ」と俺を抱きしめたままで目を尖らせる。
二十分ほどリシャさんに拗ねら……叱られて馬車から降りるとディアンの目の前の平原にうちの騎士や兵士たちがテントを張って夜営の準備をしていた。
その数はなかなかの人数だ。
「ディアンを攻めるの?」
「違うわよ!」
俺の質問にリシャさんが答えると壮年の男の人が、「あっははは」と笑いながら寄ってきた。
「ギリス殿、うちの娘の願いを聞き入れてくださってかたじけない」
「ノルゥのお父さん?」
「そうだ」
「初めまして」
男の人が差し出してくれた手を握るとリシャさんが、「初めてではないんだけどね」と補足してくれてから、「トビア・ルオディアン男爵よ」と紹介してくれた。
「三つも潰してくれたそうだね」
「うん、まずかったの?」
「いや、そんなことはないのだが……」
トビアさんが気まずそうに笑ってリシャさんを見た。
「なにを要求されることになるのか、怖くてね」
「あらやだ、それじゃあ私がまるで業突く張りみたいじゃない」
「いや、そんなつもりではないのだが……」
トビアさんが肩をつぼめて小さくなるとリシャさんがほほえみながら、「ギリスの前で変なことを言うとあんたのけつ毛までむしり取るわよ」とすごく小さな声で呟いたような気がするけど……うちのかわいくて優しいリシャさんがまさかそんなことを言う訳ないの……最近空耳がひどいよね。
きっと頭をたくさん殴られすぎたせいだから、あの主人公は俺とは離れたところで不幸になればいいと思うよ。
「リシャは昔から優しいからな。あっははは」
「そうでしょう? ギリスは私に似たのよ。おっほほほ」
「じゃあ、もう少し潰しとく?」
「いや、もう大丈夫だ。あとはうちの騎士と兵士たちでやる」
「そう、じゃあ、気をつけてね」
「ああぁ、そうしよう」
トビアさんが爽やかに言ったので、その日はディアンにある男爵家の屋敷で休ませてもらって翌日王都に帰ることになった。
「うぅ〜ん」
「母さん、母さん」
「あと……五分だけ……」
「まあ、別にいいけど」
俺がうなずくとリシャさんはパチリと目を開けて、周りを見て、俺を見て、「おはよう、ギリス」と笑う。
「母さん、おはよう」
「朝起きたら目の前にギリスの顔があるなんて最高の朝だわ」
「そう?」
「そうよ。だから、これからは毎日……」
「えっと……それは無理じゃない?」
学園に通うとなると朝は結構早いし、ここで安請け合いしてしまうと侍女やメイドたちにかかる負荷が増してしまう。
壁際に控えていた母さんの侍女さんを見るとニコニコなので間違ってないと思う。
「そうね、悪かったわ」
「とんでもございません、リシャ様」
「そんな素敵な笑顔で言われても説得力がないわよ」
「申し訳ありません」
侍女さんは言葉では謝っているけど笑顔のままなので、地雷を踏まなくてよかったね。
リシャさんに抱きしめられたりしながらしばらくゴロゴロして、それから朝食をいただき、王都に帰ることになったのだが……。
「せっかくだから残りも潰していこうよ」
「ギリス?」
「どうせ来たんだし」
「そうね」
ということでもう少し寄り道をしてから王都に帰ることにして、四人の騎士をリシャさんの護衛として残して他の伯爵家の騎士や兵士たちには先に王都に帰ってもらう。
王都の屋敷をいつまでも空けておくわけにはいかないからね。
「ありがとうございました。ギリス様」
「気にしなくていいよ、友達だからね。それに……」
俺が半笑いで答えて、少し離れたところでうちのリシャさんと話をしながら俺たちのことを見ているトビアさんの方に視線を向ける。
「見返りをなにか要求していると思うし」
「そうですね。ですが、うちからラグズリーフェルト家に支払えるものがあるとは思えませんが」
「えっ?」
「うちはラグズリーフェルト家の寄子ですよ。リシャ様がいつも支援してくださるので、倒れずに済んでいるんです」
「そうだったんだね」
ノルゥがほほえむ。
「うちの騎士たちからはラグズリーフェルト家に討伐をお願いしては、という声も上がっていたのですが」
「見返り?」
「いいえ、いつも頼ってばかりでは、と父様が」
なるほど、男爵としての矜持みたいなものかもしれないね。
もともと貴族は武力としてその地の領民たちを庇護する代わりに税を納めてもらっているわけだし、他の家に頼らないと守れないのではなんのための男爵なのかわからないもんね。
「アホだね」
俺が言うとノルゥが目を見開いたけど、オランさんが、「アホですね」と大きくうなずいて同意してくれる。
「できないなら頼ればいい、そうしないで傷つくのは領民だよね」
「そうですね。小さなプライドよりも領民の方が大事だと私も思います」
「えっと……ごめんね」
「いいえ、おかげで決心がつきました」
「決心?」
「はい、これからもよろしくお願いします。ギリス様」
「うん……こちらこそ、よろしくね」
少し首を傾げながら差し出されたノルゥの小さな手を握る。
あれ、なんか俺の方がちょっとだけ小さい?
またまたぁ。
ってか、なんでギリスはこんなにかわいい系なのさ。
筋肉ダルマは嫌だけどさ、もうちょいシュッと、こうシュッと高い方がいいと思うよ。




