3話
俺とリシャさんは伯爵家の屋敷の庭にある訓練所にきた。
訓練所では騎士と兵士たちが訓練をしていたのだが、リシャさんと俺が来るとみんな訓練をやめてきれいに頭を下げる。
それにしても結構な人数がいるとは聞いてたけど実際に見るとちょっと怯むね。
「中断させてごめんね。端っこをちょっと借りてもいい?」
「もちろんですよ、ギリス様。端っこと言わずに真ん中をどうぞ」
一人だけ頭を上げた屋敷に帰ってくるときに御者をやってくれていた騎士がにこやかにそう言ってくれるので、俺は、「悪いね」と断って訓練所の真ん中に陣取る。
きっと向こうもそこは譲れないと思うから遠慮は時間の無駄だよね。
「それでギリス様、なにをなさるのですか?」
「うん、ちょっと待っててね。えーと……」
俺は事前に母さんに教わった通りに両足を肩幅より少しだけ大きく開いて、両手を前に突き出す。
それからギリスがカッコ悪いからという理由で使っていなかったらしい魔法を唱える。
「クリエイトスケルトン」
ふわっと何かが体から少し抜ける感じがすると訓練所の地面に魔法陣が描かれて、そこからズズズっとスケルトンがせり上がってくる。
「おぉ、カッコいいね」
俺が思い描いた黒光する金属製のスケルトンが、反りのある海賊とかが持ってそうなカトラスみたいな片手剣と金属で補強された木の丸盾を持って、バイキングみたいな角が両側に生えた兜に、こっちも金属で補強された革の胴当てと籠手を付けてブーツを履いた姿はなかなか強そうだ。
「ギリス様?」
「これが俺の魔法みたいなんだよ」
「記憶が戻られたのですか?」
「ううん、違うよ、母さんに教えてもらったんだ」
俺が笑って答えると騎士はリシャさんを見て、「一度で成功するものなのですか?」と聞く。
「固有魔法だからね」
「前のスケルトンは、もっと、そのぉ、貧弱だったようなぁ」
「ギリスは天才なのよ」
「装備ももっと簡単な盾と剣だけでしたよね?」
「ギリスは天才なの」
「そうですか……」
何か言いたそうな顔をした騎士が首を小さく横に振ってから、俺が作ったスケルトンを見て、「ギリス様、前のスケルトンは白だったのですが、こいつはなんで黒いのですか?」と聞いてくる。
「アイアンスケルトンだからだよ。やっぱりアイアンって言ったら黒でしょ?」
「えっと……灰色なのでは?」
「そうかなぁ、でも黒の方が強そうじゃない?」
「確かに強そうではありますね」
騎士が苦笑いを浮かべる。
納得してないね。
「せっかくだからオランに頼んで、騎士団のみんなにこの子の能力を試してもらったら?」
「おおぉ、模擬戦ですか、いいですね、それ。ギリス様、よろしいですか?」
「構わないよ」
「ありがとうございます」
オランさんはリシャさんと俺に対して恭しく頭を下げた。
俺とリシャさんから少し距離を取ったところでオランさんと騎士たちが少し話し合いをおこなって指名された兵士の一人が前に出て俺のアイアンスケルトンと向き合う。
だけど、なんだかヒョロヒョロだし、頼りない雰囲気の兵士だ。
「あの兵士で大丈夫?」
「大丈夫ですよ、とりあえずやってみましょう」
「いいならいいけど……」
俺がうなずくと試合が始まったのだが、「きょぇぇぇ」という気合いと共に切り掛かった兵士の剣を反りのある剣で軽く受け流したアイアンスケルトンが、体勢を崩した兵士を盾を使って相手を突くシールドバッシュって呼ばれる技で吹き飛ばす。
「まあ、そうなるだろうね」
簡単に吹っ飛ばされた兵士が囲んで声援を送っていた兵士たちに突っ込んで、突っ込んだ兵士だけでなく、他の兵士たちにも怪我人が出たようなのだが……。
次は俺だと言わんばかりに囲んでいる輪から次の兵士が出てきて俺のアイアンスケルトンと向き合う。
最初の兵士よりは強そうな兵士だったので何合か打ち合うことはできたのだが、最終的にアイアンスケルトンのシールドバッシュでその兵士も大きく吹き飛ばされて、囲んでいた兵士たちから、「強っ」とか、「マジかよ」なんて言葉が漏れた。
アイアンスケルトンがその声が聞こえた方を見てカタカタと骨を鳴らしながら笑うとヘラヘラとしていた兵士たちの顔つきが変わった。
そして、次々にアイアンスケルトンに挑んでいくのだが——
「あのさ、そろそろ部屋に戻ってもいい?」
「構いませんよ」
腕を伸ばしたり膝を曲げ伸ばししたりして準備運動をしているオランさんが俺をチラッと見て、なんでもないように言ってから、「あいつは貸してください」と言う。
「まあ、いいけど」
「ありがとうございます」
オランさんがさらっと感謝を述べて話は終わりだと言う感じで俺からアイアンスケルトンの方へ視線を戻すと、リシャさんが、「オラン」といつもとは違う低い声を出した。
「あなた、ギリスにそのような態度をとって許されると思っているの?」
「りっ、リシャ様?」
「私はギリスが何よりも大事なの。言っている意味わかるわよね?」
リシャさんがかわいらしく首をかしげるとオランさんが青ざめてすぐに俺の前で、「申し訳ありません」と土下座した。
おおぉ、さすがはゲーム世界どう見ても西洋風の世界なのにジャパニーズドゲザはあるんだね。
ああぁ、それどころじゃなかった……。
俺がオランさんを立たせるために手を差し伸べようとすると、リシャさんが「待ちなさい」と俺を止めた。
「あの子もギリスの能力なの。あなたたちはもっとギリスを崇め奉り、敬意を持って接するべきよ」
リシャさんが立ってこちらの様子をうかがっていた他の騎士と兵士たちを睨んで、「死にたくなければ」と付け加えたような気もするが、まさか優しいリシャさんがそんなことを言うわけ……すぐに騎士と兵士たちがその場で、「申し訳ありません」と土下座したので、俺は思わず、「あうちっ」と声を漏らす。
「どうする?」
「どうするって?」
「この者はギリスに失礼な態度を取ったんだから万死にあたいするわ。死罪にする? いえ、死罪にしましょう。もちろん、家族もろとも……」
「いやいや、大丈夫だよ。俺は全然気にしてないから」
「だけど、先ほど寂しそうにしてたように見えたけど……」
リシャさんに言われて俺は、「あはは」と笑いながら頭をかく。
「アイアンスケルトンが俺と違って人気だから少しうらやましくてさ」
「安心しなさい、ギリスは私にすごく大人気だから」
リシャさんはさらっと言ったが頬が少し赤い。
「そっか、ありがとう、母さん」
「いいのよ」
リシャさんが両手を開く。
「ハグする? いいえ、ハグが必要だと思うわ、ハグしましょう」
「えっと……」
「……」
俺を待っているリシャさんが耳まで赤くなったので、俺はままよとリシャさんを抱きしめる。
というか俺とリシャさんの身長差がやばいので特に顔の辺りが最高です。
リシャさんは小柄でたぶん百四十ぐらいしかないのに、リシャさんの方が頭一つ以上背が高いんだよね。
「どうかしら?」
「うん、これなら寂しくないや」
「そうでしょうとも、そうでしょうとも。だけど私はギリスが全てなの。だからいつでも側にいるから寂しいなどありえないわよ。忘れないで」
「それなら安心だ。ありがとう、母さん」
俺がリシャさんをギュッとするとリシャさんがすごく小さな声で、「うふふ、素直なギリスは最高」と言ったような気がするのだが……。
「あのぉ、リシャ様」
リシャさんが俺を抱きしめたまま声をかけてきたオランさんに顔だけ向けると、オランさんが、「もうよろしいですか?」と正座したまま俺たちを見上げる。
「本当に死にたいのね、オラン」
「……ギリス様の優しさに甘えてしまって申し訳ありませんでした」
「しかたないわね。優しいギリスに感謝するのよ」
「はい」
リシャさんが俺とのハグを終えると騎士と兵士たちが立ち上がらせる。
「あと二人ぐらい出しとく、イチロー君」
「イチロー君ですか?」
「うん、真面目でしっかり者のアイアンスケルトン家の長男だよ」
俺が言うとオランさんがサッとリシャさんを見るのでリシャさんは、「イチローちゃんね」とうなずく。
「……えっと、じゃあ、お願いします」
「ほぉ〜い、クリエイトスケルトン」
俺がさっき出した奴と同じ反りのある片手剣と丸盾を持ったアイアンスケルトンを二人出すと、それを見て騎士と兵士たちが、「おおぉ」と声をあげる。
「ギリス様、ちなみにイチロー君には他にもご兄弟がいるのですか?」
「うん、快活で豪快な自由人こと次男坊のジロー君と、手先が器用なちゃっかり者こと三男坊のサブロー君がいるよ」
俺はそう答えて、「クリエイトスケルトン」と槍を持ったアイアンスケルトンと弓を持ったアイアンスケルトンを出した。
「槍というかハルバード持ちがジロー殿で、弓持ちがサブロー殿ですか?」
「そうそう」
俺が軽くうなずくとオランさんが真面目な顔で、「これってあとどのぐらい出せますか?」と聞いてくるので、俺は、「う〜ん」と唸った。
「やってみないとわからない」
「そうですよね」
オランさんが笑うので俺はとりあえず、「ジロー君とサブロー君は下がってもらっていい?」と聞く。
「はい、イチロー君三人お借りしてもよろしいですか?」
「うん、いいよ。そんじゃあ、ストレージスケルトン」
俺が呪文を唱えるとジロー君とサブロー君こと、ハルバードを持ったアイアンスケルトンと弓を持ったアイアンスケルトンの足の下に魔法陣が浮かび出て、二人はズズズっと沈んでいった。
「えっと、ギリス様、お二人は?」
「うん、俺の魔法には作ったスケルトンに休んでもらう部屋みたいなものがあるんだって、そこに入ってもらったんだ」
「えっと……ということは一度そちらに入ってもらったお二人にまた出てきてもらうことも可能なのですか?」
「うん、ライズスケルトンで呼び出せるらしいよ」
俺が答えるとオランさんがリシャさんに向かって、「別館のやつらはこのことを知っているのですか?」と聞く。
「本館に来たことなんてないでしょ?」
「そうですね……」
オランさんが顔をしかめるので、「じゃあ、俺たちは部屋に戻るね」とその場を後にする。
俺が部屋に戻った後もイチロー君を相手にして騎士と兵士たちが大盛り上がりする訓練所。
模擬戦は白熱し、途中から使用人たちが観戦に来て賭けまで始まったらしい。
お風呂の後にオランさんが来てイチロー君の増員を頼まれたのでイチロー君を七人追加した。
だけど、多少の個人差とかもあるにはあるのかもしれないけど基本スペックが同じアイアンスケルトンであるイチロー君同士の模擬戦とか意味あるの?
まあ、いいけど。




