25話
俺の目の前でコレットが、「うー」と唸りながら頭を抱えている。
いろいろ痛いやつではあるんだけど、俺にしこたま頭を殴られたせいで頭が痛いとかそういうことではないよ。
俺が固有魔法クリエイトスケルトンで作るスケルトンたちから魔力が漏れるのを抑えるための魔導回路が思うようにうまくいっていないのだ。
「とりあえず二割ぐらいはカットできているんじゃない?」
「それで満足できるわけないのよ。私を誰だと思ってんの?」
「アバズレのビッチなアホでしょ?」
「そうよ、天才美少女魔道具師コレットちゃんよ」
「何度も言うけど、それって自分で言ってて虚しくなったりしないの?」
「ならないわよ、事実だもの」
自信満々で胸を張ったがもちろん母さんやコレットの侍女であるマギーさんには遠く及ばす、クラリスやノルゥのような好きな人はとても好きなものってわけでもないので……。
「なんでそんな残念な物を見るような目で見るのよ」
「どんまい」
「なにが、どんまいなのよ!」
コレットが怒るとノルゥとマギーさんが揃ってはぁっとため息を吐く。
まあ、いつものお決まりの流れなんだけど、変に落ち込まれているよりいいよね。
無理に……それは違うな、ただアホなだけだよ、きっと。
「そういえば、マギーさんはこいつに注意しなくていいの?」
「諦めました。お嬢様はお嬢様なので、お嬢様なんです」
「そうなんだ。まあ、諦めが肝心なこともあるよね」
「はい、幸いなことにこのまましれっとラグズリーフェルトに引き取ってもらえそうなので、旦那様も胸を撫で下ろしておられました」
「はぁ? だから引き取らないよ」
「じゃあ、誰が引き取るんですか? このお嬢様を」
「ぐふっ」
確かに王家から睨まれているラグズリーフェルト伯爵家の元婚約者で、婚約者との婚約を破棄するために恋仲の男爵令息を使って決闘に誘い出して殺そうとした上に、その恋仲の男爵令息と婚前交渉した挙句、その男爵令息に捨てられたと思われているからなぁ。
こんなことになってしまっているコレットを婚姻の相手として引き取って大事にしてくれる同年代の令息なんていないのかもしれない……でも、顔とノリはいいんだよ。
それに魔道具師としての腕もあるみたいでとりあえずコレットが書いた図面通りに俺がリボーンスケルトンを使ってグリゼルダに施した魔導回路のおかげで、溢れ出ていた少しだけ赤紫色が混ざった青白い魔力の一部が骨の中で循環して消費魔力が体感で二割は減った気がする。
しかも副作用的にグリゼルダの動きがさらに良くなったので、暴走戦闘民族幼女ことクラリスも大満足していた。
ニコニコ顔で、「グリゼルダがちょっとエグくなったの」と無邪気に言われたのは少し後ろめたい気持ちになったけど……とほほ。
「お嬢様が猫被りをやめてはっちゃけたのはギリス様のせいなので、責任を取ってください」
「それは俺のせいじゃないよね?」
「それに……デスバルドがお嬢様を侍女としてなら引き取ってもいいと」
「はぁ?! まさか受けてないよね?!」
「もちろんです」
ぐっ、あのクソ野郎どもノルゥが手に入らないからって令嬢として価値のなくなったコレットをおもちゃにしようってのか、ふざけてるね、舐めんなよ。
ああぁ、もうイライラする……また不快なことを思い出してしまったじゃないか。
「わかったよ。とりあえずうちで引き取るから、ふざけた奴らのふざけた提案には乗るなと伝えてくれる?」
「それは側妻にしてもらえるということですか?」
「いや、とりあえず魔導具師としてだね。クラリスの家との話もあるからさ」
「……そうですね」
「あちらにもきちんとことの経緯を話して判断を聞かないとダメでしょ?」
「おっしゃる通りだと思います」
うなずいたマギーさんが少しうなだれた。
たぶん俺たちとは大して歳も離れてないし、気持ち的には侍女というより姉みたいな感じなんだろうから、そりゃあ、コレットの行く末が不安にもなるだろうね。
それにコレットは考えなしのアホだけど根っからの悪いやつってわけでもないと思う。
家のことやカインから聞かされていたこと、王家や公爵家からの受けがいいハルトからの甘い誘い、それにコレットが学園で周囲から受けていた扱いを考えれば、こいつには情状酌量の余地がないとは言い切れないと思う。
もちろん、そのせいであの前世のゲームの中の母さんやノルゥが酷い目に遭っていたのだから簡単に赦すわけにはいかないとも思うけど……。
「私は別に魔導具師としてあんたに仕えるでもあいつの侍女にされるでもどっちでもいいわよ」
「コレット、わかってんの。あいつの侍女になるってことはカインやジルのおもちゃにされるってことなんだよ」
「私もあんたに言われたことを考えたのよ。それにリシャ様やオランさんを見て自分のアホさ加減に嫌気がさしたわ」
コレットがぎゅっと顔をしかめる。
「私は打算や計算で私を大事にしてくれたかもしれないギリスを殺したのよ」
「それだって、本当はギリスの更生を願ってのことだったんだろ?」
俺が聞くとカッと目を見開いたコレットがノルゥを見て、ノルゥが顔をしかめているのを確かめるとフッと肩の力を抜いた。
「関係ないわよ。結果が全てなんだから」
「それは、そうかもしれないけどさ」
「だから、あいつの侍女にされておもちゃにされたとしても愚かな女に似合いの末路よ」
「ふざけんなよ!」
カッと頭にきて体の芯から震えが登ってくるので、コレットを睨みつけながら声が震えないように強めに声を出して続けてる。
「なにが愚かな女にお似合いな末路だ、おもちゃにされていい女なんているもんか、ぶっ飛ばすぞ!」
「ギリス」
コレットが目を見開くとマギーさんがバシッとコレットの頬を叩いた。
「マギー?」
「甘ったれるのもいい加減にしなさいよ」
「でも……私……」
「私たちが散々反対したのにあんたはなんて言ったの? 幸せは自分の手で掴みに行くんでしょ? 最後まで足掻きなさい、コレット」
「マギー、マギー、私……私」
マギーさんがコレットを抱きしめて、二人で泣き出すとノルゥもつられて鼻をすする。
「側妻にするわ。私がポルグヤックとクラリスちゃんの実家のディアイルカーソに話すから」
「母さん?」
俺が母さんを見ると母さんははぁとため息を吐いて見せてから苦笑いを浮かべる。
「ギリスとしても本当は赦しているけど、私や家のことがあるから赦せないんでしょ?」
「いや、俺には記憶がないからそもそも赦す権利も赦さない権利もないんだよ。でも母さんやノルゥたちが赦すなら前のギリスも赦すんじゃないかな?」
「あら、ギリスはずいぶんと無責任ね。でも、側妻にするってことはコレットちゃんの人生を背負うってことよ。だから、あなたがちゃんと選びなさい」
「ギリス様、私は赦します」
二人が俺を見るので俺は天を見上げる。
お前は赦せるのか、ギリス。
まあ、でも、赦せなくても今は俺がギリスなんだからな、何十年後かにコレットが死んでそっちに行ってから文句を言ってくれ。
ついでに俺もそっちにいたら、一緒に文句を言われてやるからさ。
「しょうがないから、アバズレなビッチのアホことコレットを俺の側妻にする」
「そう、わかったわ」
「どうすんだ、コレット」
俺が呼びかけるとマギーさんから離れて、袖で乱暴に涙を拭ったコレットがニヤリと笑う。
「しかたないから、天才美少女魔導具師のコレットちゃんが、あんたの側妻になってあげるわ」
「そっか、では、良きに計らいたまえ」
「ちゃんと大事にしてよね」
「いや、それは無理」
「な・ん・で・よぉ」
だからきれいに地団駄踏むんじゃないよ。
まだ涙目のマギーさんとノルゥがはぁと息をはいて、クラリスが、「よかったの」と笑う。
母さんが頬に手を当てて、「いつもにぎやかね」とほほえむから俺もなんか笑ってしまう。
確かにラグズリーフェルト家にはツッコミが不在なのでボケ兼ツッコミ兼賑やかし担当のコレットが必要だね。




