24話
デレデレ顔でふにゃあとなっている母さんを見ながら俺はため息を吐く。
やはり我が母親も女の人だったのだとわかるとちょっと切ないというかやるせないというかそんな感じの気持ちになったりするのは俺だけなのだろうか……。
しかもその相手はスケルトンなのだ、確かに立派だし青白い魔力を纏っているし、気品すら感じるのだが、だからと言って自分の母親がスケルトンの腕に絡みつきデレデレとしているのを想像して欲しい。
はぁっと俺はまたため息を吐く。
「あら、ギリス、焼いてるの?」
「母さん、何度も言ってるけどランスロットはランスロットであってランスさんじゃないからね」
「わかってるわ、わかってるって」
ぜってえ、わかってないよ、これは。
母さんにせがまれて俺の実の父ことランス・バーネルさんを模した魔鉄製のランスロットを作成した。
母さんの話だと普段は気さくな性格で領民たちとも交流するような貴族とは思えないような人物で、勇敢で、名誉を重んじ、レディファーストを守る……ここまで聞いて騎士道精神を思い浮かべると金髪碧眼のイケメン騎士が思い浮かんだ。
戦う時の動きは盾の使い方がうまかったそうなので、盾が得意な騎士の動きを採用して、そのままクリエイトスケルトンでランスロットを作成したんだけど……。
ランスロットに抱きしめられた母さんが泣き崩れて、なぜかポルグヤックの領民のじいちゃんばあちゃんが口々に、「バーネルの若様が帰ってきた」と泣くもんだからまさに大惨事になった。
「ギリス!」
「魔鉄製にしたら消費する魔力がかなりやばいことになってるの、悪いとは思うんだけど少し我慢してくれよぉ、クラリス」
「でも……」
一人だけしょんぼりなのは戦闘民族幼女ことクラリスである。
母さんのランスロットを作成するあたって俺の魔力がまた足りなくなりそうなので、彼女の大好きな遊び相手であるグリゼルダとラビリスにはストレージでそのまま休んでもらっている。
「だからって、母さんとノルゥからランスロットとアルテミスを取り上げるわけにはいかないでしょ?」
「わかってるの」
「そうだよね、クラリスはわかる子だもんね。しかたないからしばらくオランのおじさんに遊んでもらいなさい」
「オラン、体力ないからつまんない」
クラリスが振り返るとすでにボロボロのオランさんがぐはぁと言いながら倒れる。
じつに惜しい人を亡くした……合掌しておこう。
「だいたい、コレットがさっさと消費魔力を抑えるっていう魔導回路を完成させれば全ての問題はまるっと解決するんだよ」
「コレットは無能なの」
しょんぼりさんのクラリスがコレットを見るとコレットもぐはぁと言って倒れた。
君はほんとにノリだけはいいね。
だが、君は惜しくもなんともない。
さらばだ、ビッチ。
「なんで私には手を合わせないのよ」
「合わせるわけないだろ、このクソビッチ」
「このクソビッチ」
「な・ん・で・よぉ」
倒れているのでうまく地団駄を踏めないからなのか、買って買ってとせがむ地面に寝転んだ子供みたいに手足をバタバタさせている。
ほんとにこいつはアホだな。
「母さん、ちょっとランスロットをクラリスに貸してあげてくれない?」
「いいわよ。あなた、うちの嫁の遊び相手になってあげて」
母さんが言うとカリカリと首の後ろを掻くようなそぶりをしたランスロットがクラリスと模擬戦を始めた。
笑いながら襲いかかる戦闘幼女に対するは我らが骨騎士王ランスロット。
腰を落としたランスロットが盾を使って幼女の荒れ狂う攻撃が全て受け止める。
それを見た騎士たちがざわざわとし出した。
「ちょっ、マジかよ。ランス様、強すぎじゃないか」
「ランス様の防御力は王国一と謳われたほどだったからな、もちろん当時よりはかなり劣るのだろうが」
「それにやっぱり固有魔法は使えないんだな」
「ああぁ、水の障壁を張るレイクライトガーディアだよな」
「ランス様が湖の騎士と呼ばれた所以だった固有魔法だったのだが……」
なにそれ、カッコ良すぎるって……というかラビリスもクラリスのバーサクモードは使えないし、もちろんグリゼルダもなにも持ってないし、他の騎士たちを模したスケルトンたちも魔法やスキルはつかえないんだよねぇ。
模したとしても元はスケルトンだからしかたのないことなのかもしれないけど……。
「昔見たレイクライトガーディアはまるで湖の水面のようにキラキラと光ってて本当にすごかったからな。やはり天使様たちも現世に降りてくるためには、なにか制約みたいのがかかるのかもしれんな」
「そりゃあ、そうだろうよ。だけど、それでも戻ってきてくれたんだ。ありがてぇじゃねえか」
「だな、リシャ様のあんなにうれしそうな顔も久しぶりに見たしな」
ちょっ、ちょっと待て、なにその設定、知らないよ、そんなの。
ただ単に俺のイメージ不足とスケルトンの経験不足、それから素材のレアリティが足りないとか、スケルトンであることによる制約とかだよね?
おかしい、なにかが完全におかしな方向に向かっているような気がする……どこかでテコ入れ的に方向修正とかしないと決定的におかしなことになるような……。
「クラリス様が楽しそうでよかったですね」
「そうね、あの人も楽しそうだわ」
「父様からランス様は子供好きだったと聞いていますので、きっと娘ができてうれしく思われているのですね」
「そうかもしれないわねぇ。クラリスちゃんはおてんばだけどかわいいもの」
「クラリスのはおてんばってレベルじゃないでしょうが!」
ツッコミを入れているビッチが一番まともという現実。
これは間違いなくまずいぞ。
「ギリス様」
「どうかしたの?」
「いつ頃、王都に戻られる予定ですか? 旦那様に手紙を出したところ大変およろこびでぜひにもお会いしたいとおっしゃておりますので」
「っん?」
「おとぼけになられても無駄ですよ。もう旦那様もノリノリですので」
「ってか、何度も言うけど、君たちは問題児をうちに押し付けたいだけだよね?」
クラリスの侍女と護衛騎士が揃って俺から視線を逸らす。
マジでこいつらはぁ。
「君たちも一緒に来てもらうからね」
「「えっ?」」
「押し付けているわけじゃないんだよね?」
「お待ちください、ギリス様、後生でございます。この通り」
「マジで無理なんです。お願いします」
侍女と護衛騎士の一人がしゃがみ込んで俺の足下は俺がチビだから無理なので……とりあえず縋りついた。
ちっ、チビでなにが……。
「模擬戦は俺のスケルトンたちがなんとかするからマジで付いてきてやってよ。他家に嫁ぐことになるんだからクラリスが一人じゃかわいそうでしょ?」
「それは……」
「うちのお嬢様がそんなこと気にすると思います?」
「ぐふっ」
「戦えればなんでもいいんですよ。学園に通ってるのもここに盗賊狩りにきたのも戦えそうだからなんです」
「あのねぇ、それだって君たちが付いてきてくれてなんぼだよね?」
まったくこいつらはなにを考えてんの?
クラリスだって女の子なんだから一人なんて無理に決まってるよね?
「確かにそうですね。私はお嬢様と一緒にラグズリーフェルト伯爵家のお世話になりたいと思います」
「我々は……」
「とりあえずお嬢様に確認してもいいですか?」
「わかったよ、だけど誘導とかしたらしばらくクラリスの相手は君たちにさせるからね」
「……わかりました」
「俺はクラリスお嬢様に付いていきますよ。ギリス様の側はおもしろそうだし」
「そっか、じゃあ、君はそれで決まりね」
「はい、よろしくお願いします、ギリス様」
「うん、良きに計らいたまえ」
なんだよ、ちゃんとクラリスを思ってくるやつもいるんじゃないか。
やっぱりそうでなくちゃね、クラリスは別に悪い子ってわけじゃないんだし、ちょっとだけ戦闘民族なだけで……きっと戦いにワクワクしちゃうのは血のせいとかなんだと思うよ。
「だっ、大丈夫なのかよ」
「大丈夫ですよ。だって絶対に楽しいことになるじゃないですかぁ、教会とか、王家とかほっとかないだろうし」
「だから……」
「きっとラグズリーフェルトにいたら、めっちゃ戦えますよ」
違ったぁ、こいつも戦闘民族なだけだったぁ。
どうなってんの、西部は……さすがは群雄割拠、時はまさに戦国時代ってはことなの?




