23話
魔鉄製の戦闘幼女型スケルトンことラビリスとの模擬戦に大変満足された我らが戦闘民族幼女クラリスにせがまれてグリゼルダを魔鉄製にしたまでは良かったんだけど、なぜかコレットの実家のポルグヤック領の街の領民たちが男性も女性も子供も老人もみんな膝をついて祈りを捧げ始めた。
「なんなのよ、なんなのさ」
「コレット、落ち着けって」
「これが落ち着いていられるかっての」
「お嬢様、落ち着いてください」
「だって……だって、グリゼルダさんが……」
コレットが両手で顔を覆う。
「ちゃんと夢を叶えてたんだよ」
なにを言ってんの、こいつは?
盗賊のアジトの片付けを終えて近くの街に戻ってからグリゼルダを魔鉄製にしてくれとクラリスから頼まれて、どうせするならラビリスとは違う方向に強化した方がいいと思い、やっぱり盾を持った剣士といえば中庸万能型だよねぇと思いながらそんな感じの者にしてみよっとなんて悪ノリしたのが悪かったんだと思う。
やはり悪ノリってのは危険だね。
ラビリスと同じ魔鉄製のはずのグリゼルダは青みの濃いグレーのボディでうっすらと青白い輝きの中に赤紫色が少し混じっているような魔力を纏っていた。
「灰色の戦の女神グリゼルダ様が我らを助けに来てくださったのだ」
「なんて神々しいの」
「神は我らをお見捨てになられてはいなかった」
「グリゼルダ様ぁぁぁ」
まてまて、グリゼルダは俺の固有魔法のクリエイトスケルトンで作ったただの魔鉄製のスケルトンだよ。
「ギリス」
「どうかしたの、母さん」
「あなた、もしかして、天使だったの?」
「いいえ、リシャ様、ギリス様はきっと天使よりも上の存在です」
「そんなわけあるかぁ!」
「じゃあ、やっぱり天使なの?」
「天使なんかじゃないよ」
「じゃあ、なんなのよ」
「いや、ギリスでしょ?」
正直言って俺も自分がなんなのかわからないのでそう聞き返すとノルゥが、「そうですね」とうなずく。
そうだよね?
俺はギリスであってるよね?
やっぱりノルゥは頼りになるなぁ。
「ギリス様は唯一絶対の存在ですから、何匹もいる神とか天使とかそんなもののわけないのですね。ギリス様は、ギリス様だから、ギリス様なのですね」
なにを言ってんだ、この子は?
ダメだ、ダメだ、このまま放置しておいていい流れじゃないぞ。
魔王ならまだいいけど罷りまた違えて天使なんて呼ばれてみろ教会が絶対に黙ってない。
最悪、崇められるとかならまだマシだけど、教皇だの枢機卿だのがどこの馬の骨とも知れぬ悪役令息が天使なんて呼ばれることを許すわけないよね。
もうここでウズウズしているい……幼女にゴーを出してうやむやにしよう。
うん、それがいいね。
「クラリス、いいよ」
「いいの、ギリス」
「模擬戦してみたいんでしょ?」
「うん、してみたい」
うなずいて駆け出していったクラリスがグリゼルダと模擬戦を始める。
うんうん、無邪気なクラリスは癒されるなぁ。
誰だよ、戦闘民族幼女とか呼んでんのは……ああぁ、俺か?
クラリスとグリゼルダの模擬戦が始まると暴風のように襲いかかるクラリスとそれを避けまくるグリゼルダの動きにみんな目を奪われた。
「やばすぎだろ、あの動き」
「ギリギリとはいえ、ちゃんと見て避けてるぞ」
「ああぁ、クラリス様の動きもすごいとは思うけど、俺たちに真似なんてできっこない、だけど……」
「グリゼルダさんの動きこそ、俺たちが見習うべき形なのかもしれないな」
騎士たちがうなずき合ってうまく話が逸れたからやめればいいのにオランさんが、「グリゼルダ」とつぶやいたせいで、一部から嗚咽が漏れ出す。
なにをやってんだオランさんは……ってか、なんでオランさんまで泣いてんだよ。
おいおい、もしかしてあの話は本当なのか?
いやいや、落ち着け、そんなわけないよ。
というかグリゼルダもたいがいだね。
バーサクモードではないといってもクラリスはいつもより早く動いているのに、見切ってギリギリで避け続けてるよ。
やっぱり素材を良いものにするとそれに合わせてスケルトンの能力も少し上がるようだ。
今まではクラリスのテンションが上がって動きが早くなってくると対応できなくなり始めて、バーサクモードになるたびに吹っ飛ばされて破損していたからね。
それにしても楽しそうだな、クラリス。
「あのぉ、ギリス様」
「どうしたの、ノルゥ」
「姉様を……」
「姉様?」
「はい、亡くなってしまった私の姉様を呼んでもらうこともできるのでしょうか?」
うーん、困ったね。
オランさんが勝手に言ってるだけでグリゼルダはオランさんの幼馴染とかじゃないし、グリゼルダやラビリスに自我があるとは言っても別に生前にいた人を呼び出しているとかじゃないんだけど……ノルゥの気持ちにできるなら答えてあげたいよね。
「あのね、ノルゥ」
「はい」
「俺は神とか天使とかじゃないからノルゥのお姉さんを呼び出すとかはできないんだけど、ノルゥの話を聞いてお姉さんに似せたスケルトンなら作れるかもしれないよ」
「それは……グリゼルダさんたちもギリス様がグリゼルダさんたちを模して作ったけど、たぶん本当のグリゼルダさんではないと思うってことでしょうか?」
「そうそう、そんな感じ」
ここでノルゥを騙してお姉さんだよぉとスケルトンを作るのはない。
やっぱりちゃんとできないことはできないと説明して納得してもらってから作るのが筋だよね。
「どうする?」
「……お願いできますか?」
「じゃあ、お姉さんがどんな人だったか、話してくれる?」
「はい、アルテ姉様は優しくて、でもちょっとおてんばで勇敢な方でした……」
そこからのノルゥの話だと民を思い自ら弓を持って戦い、そんな戦いの中で亡くなってしまったそうだ。
となると、弓持ちで魔力は動きの精密さに極振りした感じかな。
あとは優しさと気高さを持った女性を……そこまで考えたのだが……。
「やっぱり無理ですか?」
「ごめん、やっぱりお姉さんを見たことないからうまくイメージできなくて……」
「……しかたないですよね」
正直、弓を得意武器にしている騎士たちの動きを見せてもらって、その人たちを模したサブロー君を作っているからその動きならイメージできるんだけどね。
「あのさ、お姉さんと同じ動きは出来ないとお思うけど、弓を使うスケルトンなら作れるけどどうする?」
「……お願いできますか?」
「わかったよ」
中肉中背のあの女性騎士さんの動きでいいかな、それから性格はノルゥから話してもらったアルテさんみたいな優しさと気高さを持った女性……そこまで考えたら革鎧を身につけて白い髪を三つ編みにしている弓を持つノルゥに似た女性が思い浮かんだ。
「クリエイトスケルトン」
うわっ、やっぱりかなりごっそりと魔力を持っていかれるね。
クラリスを模したラビリスと灰色の戦に耐える女性でお馴染みのグリゼルダを魔鉄に変えたときもかなり持っていかれたから、やっぱりチタン合金で作るより魔鉄のスケルトンたちの方が魔力消費がエグい。
地面に浮かび上がった魔法陣からズズズっと白いに限りなく近い灰色でうっすらと青白い魔力を身に纏った弓持ちのスケルトンがせり上がってきた。
「気高い志を持った純潔の乙女ことアルテミスさんだよ」
「アルテ……ミス様」
「ノルゥはアルテ姉様って呼んだらいいんじゃない?」
「……アルテ姉様!」
ノルゥが呼びかけるとアルテミスがコクリと一つうなずいて、ノルゥのところに歩み寄りノルゥを抱きしめた。
ノルゥが、「姉様ぁぁぁ」と泣き出すと母さんまで泣いて、もちろん涙脆いビッチことコレットも泣く。
「よかったね、よかったのさ」
「やっぱり……ギリスは天才ね」
まあ本当のアルテさんじゃないけど、これでよかったってことにしようよ。
いつでも必要なのは残酷な真実じゃなくて、夢のある虚構だよね。
前世にも残された者たちの心を癒すためにお盆には故人が帰ってくるとか、良い香りのお線香をあげて故人を偲べば故人の心も癒される的な話があるんだもんね。
「ギリス、あなた、本当に神じゃないの?」
「母さん、俺が神のわけないでしょ? というか母さんは神を産んだ覚えがあるの?」
「ないわね」
「でしょ? もし俺が神なら母さんは神の母、聖母とかってことになって無差別に人々から崇め奉られるよ。だぶん教会とかに押し込められて自由とかないよ」
「それは嫌ね」
「でしょ? それにアルテミスはあくまでもノルゥのお姉さんの性格を模して俺のイメージできる弓が得意な騎士さんの動きを取り入れたスケルトンのアルテミスであって、ノルゥのお姉さんのアルテさんじゃないし」
「でも……」
なぜかクラリスとグリゼルダの模擬戦に夢中になっていたはずの騎士たちが俺にひざまづき、街の人たちは胸が地面につくのではないかと心配になるぐらいの土下座をしている。
「聖人様じゃ、ギリス様こそ聖人様だったんじゃ」
「俺は見たぞ、女神が呼び出される瞬間を」
「私も見たわ、気高い志を持った純潔の乙女、アルテミス様とおっしゃるそうよ」
「おおぉ、まさに女神」
さすがにやばいんじゃないか……これは?
っん?
あれ?
「ギリス?」
「母さん、ちょっと……まずいかも……」
「えっ?」
目の前が暗転した。
——
「……り…………ぎり……リス……ぎ……ギリス!」
「……うーん、あと五分……」
「ギリス、大丈夫?!」
「っん?」
目を開けるときれいな母さんの顔が見える。
泣いていてもきれいでかわいいね……って。
「ごめん、ごめん、魔力切れを起こしたみたい」
「ギリス!」
「ぐふっ」
「どうして、いつも、いつも、無理をするの?!」
「いやぁ、無理はしてないよ」
「してるわよ!」
「はい、すみません」
できることをしようとしていろいろ考えちゃうとどうしても配分とかを無視しがちになっちゃうんだよね。
あれ? これって出来るんじゃない? とか思うといろいろ取っ払ってやっちゃうことってあるよね?
ついつい寝なきゃダメだってわかっているのにあと少しあと少しとやってしまって気がついたら朝になっていた、みたいなやつだよね。
あのときの罪悪感と母さんにバレたら死ねるみたいな部屋を出るときのドキドキ感といったら……。
「聞いてるの?」
「……ごめん、聞いてなかったや」
「ギリス!」
「申し訳ありませんでした」
そこからしばらく母さんに泣かれ、ノルゥにも泣かれながら二人に怒られて、オランさんに呆れられた。
オランさんはそんな目で俺を見ても絶対にこっち寄りでしょうが。
イチロー君たちの模擬戦で徹夜した前科持ちでしょうが。
「身体は本当に大丈夫なのよね?」
「うん、なんなら魔力を使ってないからスッキリして……あっ」
「どうかしたの?」
「気絶したせいで、みんなストレージに戻ってしまって」
「あっ」
母さんが固まるとオランさんが、「ちょ」と俺に詰め寄る。
さもありなん。
「ギリス様、それはもしかして、ヨウコー君たちも戻ったってことですか?」
「戻って……」
「戻って?」
「……戻ったね」
「おい!」
うん、まずい、かなりまずいと思う。
デンマーさんたちの準備がどこまで進んでいるのかわからないけど、下手をするとイベント中とかイベント前日とかに選手が全員、忽然と居なくなったってことだもんね……ヤバい。
「……母さん」
「まだ準備している途中よ。でも、かなりの騒ぎにはなってるでしょうね」
「だよね」
「問題は……再発防止なんだけど」
「リシャ様、無理だと思います。どうせギリス様はまた無理をしますので」
母さんとノルゥから揃ってジト目で見られる。
美女と美少女からジト目で見られるって一部のお友達にとってはご褒美かもしれないが、残念ながら俺はどノーマルなので……いや、意外といいな、なんか気持ちわかったかも。
「まったく反省してませんね」
「そうね」
二人が並んではぁとため息を吐く。
「あのぉ、ギリス様がいつもリシャ様の膝枕とかで、ぐでぇとしているのはもしかして魔力の使いすぎなんですか?」
「そうよ」
「はぁ? いやいや、下手すると死にますよね?」
「そうなのよ、それなのにいくら言っても大丈夫、大丈夫って聞かないの」
「アホなのです、ギリス様は本気のアホなのですよ」
ノルゥが胸を張ったが確かに魔力切れを起こすほど魔力を使い切る魔法使いとかアホで間違いないよね。
しょんぼりなクラリスが歩いてきてガシッと俺に抱きついた。
「っん? どうしたの?」
「無理はダメなの、ギリスが死ぬと困るの」
「そうだよね、心配してくれてありがとう、クラリス」
「っん」
マジで気をつけよう、俺が死んだら母さんとノルゥとクラリスが路頭に迷わないけど……ろくなことにはならないと思う。
ビチビチのビッチはなんとかするよね、ビッチはマジでしぶといし。
だからなんで君まで神妙な顔してんのさ。
あれか、俺を笑わせるつもりなのか?




