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22話

ポルグヤック領を荒らしていた盗賊たちが泣きながら逃げ回るのを、大きな斧を担いだ金太……幼女がニヤリと笑いながら飛び跳ねるような動きで追いかけている。

これは夢だな、うん、悪夢に違いない……もちろん盗賊たちにとっての。


「楽しそうだね」

「そうね、すごく楽しそう」

「あれが戦闘民族幼女ということなのでしょうか?」

「なんでそんなに落ち着いてんのよ、あんたたち家族は?」


そりゃあ、落ち着きもするさ、まるで話にならないんだもん。

嬉々として戦闘民族幼女ことクラリスと灰色の戦の女神ことグリゼルダが盗賊たちをかき回して、討ち漏れを囲んでいるイチロー君たちが討ち取り、隙を見て逃げる奴らを弓持ちのサブロー君たちが、要救助者を身軽なジロー君たちが救助する。


「あのさ、これってもう騎士団よね?」

「っん?」

「だから、すっとぼけんじゃないわよ。あんたのところの騎士たちとうちのところ、それからクラリスのところの騎士たちを模したイチロー君って……こんなの従者や一般兵のいない、純粋な騎士団じゃない」

「うーん、ご本人たちには程遠いけどね」


時間と魔力が許す限りうちことラグズリーフェルトの騎士たちとコレットの護衛騎士、クラリスの護衛騎士たちを模した

チタン合金製のイチロー君たちを作った。

もちろん無垢のイチロー君たちよりかなりつよいんだけど、俺のイメージ不足とイチロー君たちの経験不足なのか、やっぱり本人たちの動きをの三分の一も再現することはできなかったし、あくまでもスケルトンなので騎士たちが持つ魔法やスキルも使えない。


「でも鉄の剣で斬られても斬られない、矢がささらない、炎に燃えないのよ。あんなの盗賊程度じゃ勝てるわけないわよ」

「そもそも人は多いけど寄せ集めだったとかじゃないの?」

「アホなの? 寄せ集めがなんで首領みたいなやつを守るのよ」

「確かに……じゃあ、数だけ多かったんだよ」

「その数だけ多い盗賊に領内を荒らされてたうちはなんなのよ……」


知らないよ。

そもそも戦闘民族幼女が戦闘に参戦した段階で盗賊風情が勝てるわけないんだよ?

素でも強いのにバーサクモードってクラリスの固有魔法がやばすぎた。

クラリスの目が赤くなった瞬間に動きが劇的に引き上がる……ただまさに制御不能なんだよね。

敵味方関係なくその暴風のような動きに巻き込まれてしまうので、アレは確かに従者や一般兵までいる騎士団や後衛がいるパーティなどは絶対に一緒に戦えない。

もちろん騎士を模したってだけのイチロー君たちもまったく対応できないので、距離を充分に取る形で囲んで暴れているクラリスとグリゼルダを見守り、撃ち漏らしだけ狩っている。


「だけど、やっぱり戦の女神グリゼルダさんよね」

「なんであいつまで回りながら戦ってんの?」


出会ってから毎日のように模擬戦をやってるせいなのか、クラリスの影響を受けて敵の中を回るように動きながら戦っている。


「でもなんだか優雅ね」

「やっぱりグリゼルダさんもギリス様のイチロー君なので天才なんですね」

「本当に神話に出てくる戦姫みたいね。きっと生前のグリゼルダさんも神話の戦姫に憧れてたんだわ、間違いないのよ」

「きっと、そうねぇ」


間違いだらけだよ。

ってか、なんでこいつはしれっとうちの母さんとほほえみ合ってんの、馴染みすぎだよね。

盗賊掃除が終わり、イチロー君たちが片付けを始めると斧を担いだ幼女が離れたところで見ていた俺たちのところにテクテクと戻ってくる。


「ギリス」

「どうかしたの?」

「つまんないの」

「だろうね」


正直言って騎士たちでも短い時間しか遊び相手が勤まらないようなクラリスの相手をするには、盗賊程度では役不足だよね。

うーん、グリゼルダだけ与えておけば大丈夫とか思ってたけど、同じ相手ばかりでもつまらないのかもしれないね。

そもそもグリゼルダも充分な遊び相手とはいえないし、魔法生物のスケルトンには体力とか関係ないから長いこと付き合えるとはいっても、クラリスがバーサクモードになると瞬殺されるし、かと言ってモデルオランは相性の問題なのかグリゼルダほどクラリスの遊び相手にはならなかった。

となると……。


「クリエイトスケルトン」


地面に魔法陣が浮かび、ズズズっと小柄なイチロー君がせり上がってきた。

自分と同じようなサイズの斧を担いで。


「ちょ、ちょ、ちょっと」

「ギリス」

「君の相手が務まるのは君だけだと思ってね、もちろん本人よりはぜんぜん劣ると思うけど……イチロー君モデルクラリスだよ」

「ありがとうなの」

「いやいや、イチロー君ってこの子、斧持ちだし」


コレットさんよ、そういう細かいことは気にしたら負けなんだよ。

あんまり名前を増やすとそのうちに訳わからなくなるんだから、近距離担当はイチロー君ってことにしたの。

いや、斧持ちだからヨサクにしようかなぁ。

でも、それはなんか違う気がする……。


「クラリスにあごがれて研鑽を積んだ妹分のラビリスちゃんだよ」

「ありがとうなの」


俺がドヤ顔してクラリスがうなずくとコレットが、「しれっと修正するんじゃないわよ」とツッコミを入れてくるがもちろん細かいことは気にしたら負けだ。


「クラリス、とりあえず模擬戦してみたら」

「うん、やってみるの」

「二人してなにもなかったみたいにスルーするんじゃないわよ!」


ということで小野対小野……は違った、斧対斧、幼女対幼女、物理的にもビジュアル的にも最凶の対戦が……アホすぎた。


「なんなのよ、アレ、捕まって放心状態だったお姉さんたちが目を見開いて震えてるわよ」

「それにしてもクラリスちゃんもラビリスちゃんも速いわね」

「やっぱりいち……ラビリスちゃんもギリス様のラビリスちゃんなので天才ですし、クラリスちゃんが楽しそうで良かったですね」

「だから、なんでアレを見てそんなに落ち着いてんのよ、あんたたち家族は?」


嬉々として笑う幼女が振るう斧とカタカタと顎を鳴らしながら笑うスケルトンが振るう斧がぶつかり合い爆風が起こる。


「というか、クラリスの斧、やばくない?」

「なにがよ」

「チタン合金の斧とあんなに撃ち合って刃が欠けないどころか、ラビリスのチタン合金製の斧の方が少し欠けているんだけど?」

「お嬢様の斧は魔鉄製の特注品ですので」

「特注品?」

「はい、硬さだけならミスリルより硬い魔鉄製で本来属性付与などに使う魔鉄に含まれる魔力の全てを斧の耐久性に極振りしているので、伝説の金属であるアダマンタイトにはまったく敵わないでしょうが、かなりの硬さがあると思われます」

「マジか……あっ」


激しい撃ち合いでラビリスのチタン合金製の斧が大きく欠けた。

おいおい、工具の刃が欠けるでお馴染みのチタン合金製なんだよ……特注品の魔鉄製の斧がやばすぎだよ。


「あんなのが普通にあるとかやばいね」

「普通なわけないでしょうが」

「っん?」

「クラリス専用よ。耐久性を上げるってことは密度が詰まっているってことなのよ」

「それだけ重いってこと?」

「そうよ。だからあんなふうに振れるクラリスがおかしいだけってわけ」


しょんぼりとしたクラリスとしょんぼりとしたラビリスが歩いてくる。


「ギリス!」

「わかったって不満なんだよね」

「そうなの、どうにかして欲しいの」

「うーん、でも硬さを上げるって言っても限界はあるよ。それにあんまり重いと」

「ラビリスの斧は軽すぎるの」

「そうなの?」

「そうなの」


クラリスがラビリスを見るとラビリスがコクコクとうなず……。


「ちょっと待て、なんでラビリスがうなずくんだよ。俺のスケルトンには自我がないはず……」

「ラビリスにはあるの」

「マジか……」


グリゼルダやラビリスが一人しか作れないのはだぶんこれが理由だね……無垢なイチロー君たちは自我のない量産型、それに対してラビリスたちは自我があるプロトタイプとかオリジンとかそんな感じなんだろうな。


「ギリス」

「わかった、わかったって、重くていいんだな」

「大丈夫なの」


俺の質問にクラリスが答えてラビリスがコクコクとうなずく。

じゃあ、アレだよね。


「いくぞぉ、リボーンスケルトン」


足下に現れた魔法陣に一度沈んだラビリスが戻って来るとタングステン製の斧を持っていた。

かなり重いはずだけどそれでも軽々と振ってる。


「どう?」

「さっきのよりはマシなの」

「まだ足りないのかよぉ」

「足りないの」


うーん、となるとあっちの世界の金属では無理だね。


「ちなみに魔鉄ってのはどんな金属なんだ?」

「知らないの」

「知らないのかよ」

「魔鉄ってのは、鉄鉱石に魔力が染み込んだ物を魔導炉で魔鉄に製錬した物よ」

「つまり鉄に魔力が染み込んでいる物ってこと?」

「うーん、簡単に言うと魔力染み込んでいる魔鉄鉱を練り鍛えて硬度や魔力の質を上げた物って感じなのよ」


なるほど、それならイメージできるかもしれないなぁ……鉄も鉄鉱石もわかるし、魔力もこちらの世界に来てから毎日体がだるくなるほど使っている。

考えてもしかたないし、とりあえずやって見るかぁ。

魔鉄製で、魔力全てを耐久性に極振りしたスケルトン。


「リボーンスケルトン」


再び足下に描かれた魔法陣の中に入ってから戻ってきたラビリスは、黒に限りなく近い紫でなんか赤紫色の魔力をうっすらと纏っている。

おいおい、また魔王軍っぽさが増したなぁ。


「どうだ、クラリス」

「いい感じ」

「そっか」

「……なによ、それ」

「っん?」

「禍々しくてやばいと思ったのは私だけ?」

「いや、確かにちょっと禍々しいけど、魔鉄製ならこんなもんなんでしょ?」

「そんなわけあるかぁ!」


コレットがツッコミを入れるとラビリスを見つめていた母さんとノルゥがハッとしたように俺を見た。


「ギリス、あなた、もしかして魔王なの?」

「ギリス様は天才なのできっと魔王よりも上の存在だと思います、リシャ様」

「ノルゥ、じゃあ、なんなのよ」

「俺が魔王なわけあるかぁ!」


俺はただの序盤で退場する噛ませ犬的な悪役令息ですよ。

そこからラビリスの出来に満足したクラリスが嬉々としてラビリスと模擬戦を行ったのだがだんだんと観戦している騎士たちの顔色がおかしなことになっていき……さすがにクラリスがバーサクモードを開放するとすっ飛ばされたのに平気な感じで立ち上がったラビリスが顎をカタカタと鳴らすと、「魔王」という言葉が騎士たちの口からこぼれ始めたけど、そういうのは全てまるっと気にしないことにしたんだよ。

だって、悪魔の口ってのは覗き込むとあっちもこちらを見て来るらしいから……あれっ、これは違ったかな。

まあ、でも、こういう物はたいがい見て見ぬ振りってのが一番だよね。

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