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12話

屋敷の入り口でのお話を終えた俺たちは訓練所に来た。

早くしろと言わんばかりにそわそわとしているオランさんは、まあ放っておこう。

たぶんそういうお年頃なんだよね、うんうん。

誰もいない訓練所の端の方で十人のイチロー君たちが待機しているんだけど、剣と盾を足元に置いてひざまづいている姿が彫像とかみたいでなんかかっこいい。


「ストレージスケルトン」

「あぁぁぁぁぁぁ、俺のデルタが……」

「あのさ、オランさんのじゃないからね」

「そんなにケチケチしなくてもいいじゃないですか、坊ちゃん。減るもんじゃないでしょ?」


なんだよ、そのちょっとノリでやらせてくれてもいいじゃないか的な発言は?

認めないよ、イチロー君たちは俺のなんだからね。

……さてと、そんなちょっとアレなオランさんは置いておいて、ボクサースタイルのスケルトンなら金属よりカーボンとかの方がいいのかな。

しなりを効かせた動きとかそんな感じで、それになるべく損傷させないようにするならちゃんとグローブと、ヘッドギアの代わりの兜とかボディープロテクター代わりの胴当てとかは全部中綿入りの革製で厚みを持たせてっと。

この兜と胴当てにある程度のダメージが入ったら倒れる感じをイメージしとこっかなぁ、ボクシングならやっぱり倒れないとつまらないだろうし。


「坊ちゃん?」

「ギリスはどうすればいいのか考え中なのよ」

「ちょっ、集中しているにしてもちょっとやそっとの集中力じゃないですよ。ハイライトまで消えているじゃないですか?」


動きはあの人だな……いや、あっちの人も捨てがたいし、でも初めての人たちが見るならクレバーなボクシングスタイルよりやっぱり。


「クリエイトスケルトン」


地面に魔法陣が浮かび上がってそこからズズズっと黒に近いグレーで少し光沢感のあるカーボンスケルトンがせり上がってきた。

おおぉ、これはこれでなんかかっこいいね。

もちろん兜、胴当て、ハーフパンツ、ボクシンググローブ、ブーツは赤色にしている。

あとでリボーンしてこれらにスポンサー名とか入れればいいよね。


「ねえ、ギリス」

「どうかしたの?」

「なんなのこの子の素材は? チタン合金ってのとも違うわよね?」

「カーボンだけど?」

「「カーボン?」」


ああぁ、さすがにファンタジー世界にカーボンはないよねぇ、そもそも石油由来の繊維とかがこの世界にあるわけないんだもん。

それにアクリル樹脂とか、石油、石炭からとれるピッチとかいう有機物を繊維化して……なんて釣竿メーカーの友達から話を聞いてなかったら知らなかった。

カーボンってなんかゴルフクラブとか車とかに使われているすごいやつぐらいの認識で、前世の俺もそれがなにかなんてあの飲み友達から話を聞くまでは考えたこともなかったし。


「えっとぉ、鉄より軽くて強度が強い素材だね。だけど金属に比べるとなんていうかしなりはあるんだけど、硬い物が当たったときに変形が起きない代わりに割れやすいんだよ。だから剣闘とかには向かないかもね。柔らかいグローブを使ったスポーツボクシングには向いているんじゃないかと思ってこれにしてみたんだけど……まあやってみないとわからないね」

「……そうなのね」

「おい、坊ちゃんの言ってることの意味がほとんどわからないのは俺だけなのか?」


オランさんが首をかしげるとノルゥが、「ご安心ください、たぶん皆さまわかっていませんので」と答える。


「ちなみにギリス、この子の名前はなんと言うのかしら?」

「陽気なカンムリワシことヨウコー君です。オーケーでクレバーな漢ことガッツ君とどちらにしようかすごく迷ったんだよぉ。やっぱり相手に右が来ると思わせておいて強烈な左フックをお見舞いする幻の右とかも見てみたいからね。だけど今回はパイナップルを素手で殴って割る漢でお馴染みのヨウコー君に来てもらったんだ」

「なるほど、確かにパイナップルを素手で殴って割るのはすごいことだから今回はヨウコーちゃんが適任ね」

「そうだよね」


俺が母さんにうなずくとユーゴス先生が「パイナップルってなんだ?」とポーラン先生に聞いて、「知らないけど、パイナップルはきっとパイナップルなのよ」と答えている気もするのだが……やっぱりそんな些細なことは気にしたら負けだよね?


「だけどどうして二人とも来てもらわなかったの?」

「いやぁ、そこはさぁ、勝敗をつけちゃダメなやつなんだよねぇ。うんとぉ、夢だね、夢」

「夢?」

「あるでしょ? 酒のつまみにもしあの二人が戦ったらどっちが勝つんじゃないかぁ、みたいな話をするの。まあ、そもそも階級が違うからその勝負の話も夢でしかないんだけどね」

「そっ、そうなのね」

「リシャ様、そろそろ見せてもらいましょうよ」

「そうね」


そんな感じでもう一人ヨウコー君を作ろうとしたんだけど……。


「出せないね」

「どういうこと?」

「いやぁ、よくわかんないんだけど、同じヨウコー君を作ろうとしても無理みたい」

「……イチローちゃんは複数作れるわよね」

「うん、おかしいなぁ」

「ねえ、オラン、他の子を呼んでみたら? あなたの夢を壊すつもりはないのだけれど、同じ戦い方をする戦士同士だけじゃなくて、違う戦い方の戦士の対戦もあれば見応えがあるし、あなたの言うスポンサーってのも付きやすくなるんじゃないかしら?」

「ああ、確かにそうだね」


同じスタイルのボクサー同士の対戦ばかりじゃ飽きるだろうし、いろんなスタイルのボクサーがいた方が自分のお気に入りとかも見つけやすいかもしれない。

足を使うアウトボクサーが好きとか、相手の懐に踏み込んで殴り合うインファイターが好きとか、相手のパンチに合わせてカウンターで刈り取るカウンターパンチャーが好きとか、好みってかなり分かれるもんね。


「じゃあ、ガッツ君を作ってみるね。クリエイトスケルトン」


地面に魔法陣が浮かび上がって、そこからズズズっと黒に近いグレーで少し光沢感のあるカーボンスケルトンがせり上がってきた。

もちろん今度は兜、胴当て、ハーフパンツ、ボクシンググローブ、ブーツを青コーナーの青色にしている。


「呼べたわね」

「うーん、なんでだろう」

「坊ちゃんの固有魔法にもなにか制約があるってことじゃないですか?」

「制約?」

「固有魔法にも発動条件があったり、制限時間があったりするらしいんですよ。例えば、五分間能力が三倍になるけど発動後は十五分間能力が三分の一になるとか、そもそもピンチにならないと発動すらできないとか」

「そっか、じゃあ、それかもね」


確かに固有魔法はちょっとチートだから制限とか反動とかないとズル過ぎるもんね。

ヨウコー君やガッツ君みたいに明確に誰かをイメージしたスケルトンがプロトタイプとかオリジンとかそんなやつで、素材と外見に加えて戦い方をふんわりとしかイメージしていないイチロー君たちは量産型みたいな感じの扱いなのかもね。


「その辺の検証は後にして、とりあえず見せてくださいよ、ボクシング」

「わかったよ」


オランさんに急かされてヨウコー君たちのボクシングが始まったのだが……弾みのないノーモーションから繰り出される強いパンチとそれを避けまくる勘のよさ、フェイントなどで相手を誘導して繰り出される強烈なブロー、なかなか見ごたえのあるボクシングになっているんじゃないかと思う。

やっぱり単純な殴り合いなら踏み込んで戦うインファイタースタイルがわかりやすい。

もちろん僕のイメージ不足とたぶんスケルトンたちの経験不足で完璧なノーモーションにはなってないし、勘のよさもフェイントによる誘導も本家にはまるで及んでいない。

ぱっと見た感じ再現度二割って感じかなぁ。

でもそれも模擬戦を繰り返して個性が出てきたイチロー君たちみたいに試合を重ねるごとに経験として蓄積していって、本家とはまた違ったヨウコー君やガッツ君になるんじゃないかと思う。

それはそれで楽しみだよね。


「これはやばいな」

「やっぱりヨウコーちゃんとガッツちゃんはギリスのヨウコーちゃんとガッツちゃんだから、天才なのね」

「リシャ様、本当にわかってるんですか? とんでもないですよ、あいつらの動きは……」

「だけど、オラン、これならお金を取れるのではなくて?」

「そうですね。確かに……」

「かなり見応えもありますのでギャンブルじゃなくても見たいと思う方たちがいると思われます」


母さんとノルゥのヨウコー君たちを見る目がやたらとギラギラとしているような気がするのだが……気に入ってもらえたならうれしいからいいね。

気づいたらオランさんもかなり前のめりになって、「おい、なんであれを避けれんだよ」とか言ってるし、なかなかいい感触なんじゃないだろうか。


「母さん、先にスポンサーを見つけてくれたらリボーンで胴当てとかに名前を入れられるよ」

「それなんだけど、商人たちをここに呼んであの子たちを見てもらってもいいかしら?」

「いいよ」

「そう、じゃあ、すぐに呼ぶわね。それで、できたら他にももう少し呼んでもらえるかしら?」

「わかった、全部で十人ぐらいでいい?」

「そうね、一日五戦としてまずは十人でいいわ」

「じゃあ、オーソドックススタイルのガッツ君にインファイターのヨウコー君がいるから、あとはアウトボクサーならやっぱりホヅミ君だし、カウンターパンチャーなら幻の左のシンスケ君は外せないよね……」

「人選は任せるわ、それから名前はとりあえずヨウコーちゃんで統一してくれるかしら、命名権の話もあるし」

「そうだね、じゃあ、いろんなスタイルのヨウコー君を用意するね」

「お願いね、私は商人たちを呼んでくるわ」


母さんが俺にうなずいてから、「オラン」とオランさんを呼んだのだが……オランさんは、「よし、そこだ、いけ」とか言ってヨウコー君たちに夢中で全く聞こえてない。

もちろんバシッと頭を叩かれて襟の後ろを掴まれたまま、連れて行かれた。

さもありなん。

母さんたちが訓練所から出ていくのを見送って、ヨウコー君たちに視線を送る。

さてと、誰を作ろうかなぁ。

やっぱりナオヤ君は絶対に外せないし、丁寧なシャブとコンビネーションで見せるボクシングならカズト君が間違いないし、カリスマならジョウイチロー君とかもすごく魅力的だよねぇ、やばい、絞れないかもしれない……。

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