SP 1 とある女子の会話
(時間軸は吉田くんがシレッと会社に居座り始めた数日後くらい)
珍しくわたしと由利ちゃんの退勤の時間が被ったので、飲みに行こうという話になった。
何だか仕事中も、わくわくソワソワしちゃう。
どこに行こうかな、どんなお店だったら由利ちゃん楽しめるかな?
そんなことを考えていたら、すぐに吉田くんにバレてしまった。
「今日は宮下さんと飲みに行くの?」
「あれ、何でそれを」
「楽しんできてね。帰り、迎えが必要なら連絡して。すぐに行くから」
……出木杉くん??
でもまあわたしも大人なので、吉田くんの迷惑にならない程度のお酒の飲み方は知っているつもり。
――つもりだった。
わたしがお店を探そうと思っていたのに、すでに由利ちゃんは予約しているという。
「コースも考えたんだけど、彩花は好き嫌いがあるからね。現地で決めましょ」
ありがたい。
そう、わたしは結構好き嫌いが多い。
基本的に匂いの強いものは苦手。ピーマンとか、セロリとか、パクチーとか。
だから、タイ料理とか憧れるけど、きっと無理なんだろうなあとか食べる前から挫折している。
由利ちゃんが選んでくれたお店は、イタリア料理メインの居酒屋だった。
初めて来たお店で、イタリア国旗があったり、大きな生ハムの原木…ハモンセラーノっていうんだって…が、ドカーンと鎮座していたり。
そんなお店で、スパークリングワインで乾杯した。
由利ちゃんは、まるでモデルさんのような美しい顔を手の上に乗せて、目を細めながらわたしを見ている。
ん? と思い、細長いシャンパングラスから唇を離すと、由利ちゃんはにこりと笑って言った。
「で? 吉田くんとはどこまで行ったの?」
どこまでとは。
一体由利ちゃんは何を言っているんだろう?
「前から吉田くんが、彩花を見る目が他の女を見るものと全然違うのは知っていたけれどね。最近は、ちょっと度が過ぎていると思うのよ」
ん?
小首を傾げつつ、スパークリングワインをまた一口。
いやしかし、このワイン美味しいな。
ピンク色のロゼで、酸味と甘みが絶妙のバランスだ。
これはヤバい。ぐいぐい行っちゃうな。
思わず頬が緩んでしまっていると、由利ちゃんは微笑みを深め、わたしのグラスにボトルからピンクのシュワシュワを注いでくれる。
「由利ちゃん、これ、美味しいねえ」
「ふふっ、気に入ってくれて良かったわ。―――で、昨日なんだけど、彩花が課長に報告書のことを聞きに行っていたでしょ?」
「え、あれ、何でそれ知っているの?」
「私が彩花のことで知らないことなんてないわよ」
「えー……」
「その時の吉田くんがデスクからあなたと課長を見る目。あれは、常軌を逸してたわ」
またまた、由利ちゃんたら大げさな。
わたしが思わず笑ってしまうと、由利ちゃんは美しく微笑んだままだ。
だけど、その目が笑っていない。
「ねえ、彩花。私はあなたが心配なのよ。あの男に、強引に何かされていないか、とかね」
「何かって……何もないよ?」
そりゃあ、吉田くんと初めて会った日(周りは初めてじゃなかったみたいだけど)に、おっかない牛鳥とゾンビもどきに襲われた時に、吉田くんがわたしを護ってくれて。
怯えたわたしを抱きしめてくれたことがあったけれど。
言えない。
いくら由利ちゃんでも、とてもじゃないけど、言えない。
あんな妖魔だか使い魔だかが出てきたこと自体、わたし自身もまだ信じられないし、そんなことを言ったら由利ちゃんに「とうとう彩花が頭イカれた」って思われるのが関の山だし。
吉田くんに抱きしめられたなんて……恥ずかしすぎて、絶対言えない。
わたしがははは、と乾いた笑いで誤魔化しながら、またシャンパングラスを傾けると、由利ちゃんのすんなりした手がボトルを掴んで、わたしに注ぐ。
注ぎながら、少し身を寄せて、小さくわたしに囁いた。
「ねえ、全部、言っちゃいなさいよ。私と彩花の仲じゃない。隠し事は良くないわ?」
「か、隠し事なんて、してないよ」
「あら、そう? でも吉田くんの様子を見ているとね。―――私の彩花に手を出したら、あいつ絶対許さない」
「え?」
「うふふ、何でもないわ。さあ、彩花、せっかくだからたくさん飲んで、たくさんおしゃべりしましょ?」
何か不穏な言葉が聞こえた気がしたけど、にこやかな由利ちゃんを見て、気のせいだと思った。
だって楽しい。お料理美味しいし、お酒も美味しいし。
何だかふわふわしてきて、由利ちゃんの言葉がまるで心地よい真綿にくるまれているかのようで。
色々質問されたりとかしていたけれど、その声が私の耳から脳内に留まることなく、ふんわりと抜けていく。
「うん、うん、そうだねえ……」
そんな返事を繰り返していたら、ぼんやりとした視界から、由利ちゃんがスッと身を引いた気がした。
「チッ、ここまで飲ませても吐かないか……。あの男の非常識な言動を少しでも聞けたら、合法的に葬ってやったのに」
ウソウソ、あんなに優しい由利ちゃんは、そんなことを言わないよぉ……。
ああ、楽しいのに、段々眠くなってきちゃった。
もったいないなあ、まだ起きていたいなあ……。
「彩花、ねえ、彩花……忘れないでね、ねぇ……私はいつまでも、あなたの傍にいるわ。だから……」
うん、由利ちゃん。大好きだよ。こんな素敵な先輩を持てて、本当に私、
幸せでね……。
そしてそのまま、ブラックアウト。
気付いたら、わたしの部屋のベッドの上だった。
どうやって帰ってきたのか、記憶ないけれど。何だか吉田くんに迷惑を掛けた気がして、とにかく謝っておいた。……覚えてないけど。
吉田くんは笑って、
「迷惑なんて掛けられていないよ。楽しかったのなら良かったね」
なんて言って許してくれたけど、うう、失敗した。
由利ちゃんにも、変なこと言わなかったかなあ? もはや確認することすら怖い。
そしてにこやかな彼と会社に着いたあと、吉田くんと由利ちゃんとの眼差しがまるで火花が散っているようで、ちょっと怖かった。何でだろう?
女子会は楽しい。
でも、今後は羽目を外さないようにしよう。
――飲みやすいお酒ほど危険だ。
そう心に誓ったわたしだった。
久しぶりに書いてみました。
お楽しみ頂けたら嬉しいです♪




