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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
番外編:祝福への受難曲(カンタータ)

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第5話 蒼の疾風、女神(たから)を護るために

『蒼の疾風』は、その名の通り、馬術に長けた者ばかりだ。

それだけではない。


かつて国として名を冠していた頃のアステリアで、剣術、馬術、それに人物、それら全てを考慮して、我が隊に入隊する許可が下りる。


『蒼の疾風』が、アステリア髄一のエリート集団などと謂われる所以かもしれない。


だが、隊員達はそんなことを意識などしたことはない。

ただ、アステリアのために。持てる力を、自分の誇りと名誉を捧げたものへと尽くす。


それが、我らの存在意義だった。


隊長たる俺は、長い間アステリアを留守にして、レーリアを護りに地球へと旅立ってしまっていたが、その間もしっかりとサーシャが監督をしていてくれたようで。

俺の愛馬、ティナのスピードに皆頑張って着いて来てくれていた。


「少し、休ませないと。人間よりも馬がやられてしまいますよ」


俺の横にぴったりと着いたサーシャは言うが、だが、少しでも進めておきたい。


レーリアは、ポワンに乗って先にフォーティニアへと向かっている。イスランはミネリアとティリシアで兵を確保すると言っていたから、恐らく途中でレーリアと別れて兵を統率するだろう。


そうしたら、レーリア一人になってしまう。ポワンがもちろんいるが、それでも俺は不安でならない。


レーリアに、もし、万が一のことがあったら。


そう思うと、いても立ってもいられない。彼女を想うだけで、胸が苦しくなる。


だが、サーシャの言うことももっともだ。馬がやつれてしまっては、効率が悪くなる。

悔しいが、ここは休息を取らせるべきだ……。


俺たちは、広い草原の中にある木の茂った場所で、一時期の休息を取ることにした。

隊員は、皆疲れ切ってしまい、肩で息をしている者すらいる。


このまま俺のペースで進めるのは無理か。ペガサスを持つのは俺だけ。それは仕方のないことだ。しかし……。

ならば、どうする。俺だけ先に行かせてもらうか。


「サーシャ、ここからは……」


俺が、一足先に。そう言おうと思っていたのに。


サーシャは両足を投げ出して寝転んでいたが、すっくと立ち上がり、大きく伸びをして。

そして隊員を見渡した。


「よっしゃー! 休んだな。メシはこの先の村で食おう。そこで今日は宿を取る。それまでは一刻でも早く、司令官とレーリア様に追いつくようにかっとばすぞ!」


サーシャの言葉に、隊員達は苦笑いを浮かべながらも立ち上がった。

それぞれの馬を労わりながらも、俺の指示を待っている。


「だが、サーシャ……」


俺の先走った思いを、サーシャはにんまりと笑って抑えた。女性になぞらえられる顔に、不敵な笑みを浮かべて。


「隊長、レーリア様を護りたいのは、あんただけじゃないんですよ。アステリアを護るレーリア様を、俺たちで護る。何か、かっこいいじゃないっすか」


「そうですよ、アステリアの自慢なんですからね、『祝福の女神』様は」


「そうそ、アステリアの宝なんです、レーリア様は。隊長だけの『祝福の女神』様じゃないんですから!」


「他の領地のやつらよりも、本当は先にレーリア様のお傍に着きたいっすよ。やですよ、先を越されたくないっす。だから気合入れていきましょう!」


サーシャに続いて他の隊員も笑顔で言う。疲れているはずなのに。


なのに……レーリア、伝えたい。


きみは、こんなにもアステリアの者から慕われているよ。

自覚してないだろう? きみの優しい気持ち……アステリアを愛する気持ちは、みんなに伝わっているんだ。


だから、だから……。


「よし。じゃあ、スピード上げていくぞ。追いつけない者は、無理をしなくてもいい。最終的に、全員がフォーティニアへ着けば、それで問題はないんだ。いいな。自分の身を大事にしろ。それがレーリア様の本意だから」


俺の言葉に、皆が頷く。


レーリア、待っていて。すぐに追いつく。


俺たちが着くまでに、壊滅的な事態になっていないことを心から祈った。


早く、きみに会いたい。そしてこの手で、きみを護りたい。




わたしの意識を、手のひらに集中させる。うん、大丈夫。ちゃんとわたし、魔力をコントロール出来る。


「シェニム兄さん、とにかくあの火災を消すね」


とにかく、フォーティニア全土に広まってしまっているであろう火災を消さなくちゃ。


シェニム兄さんが小さく頷くのを見て、わたしは雨雲を引き寄せた。

自慢じゃないけど、アステリアで天候を左右できるのは、わたししかいないだろう。

だから、この力を存分に利用していかなくちゃ。


アステリアのために、よき世界にするために。


じゃなければ、わたしが生まれた意味がない。そう思うようになってきた。


わたし達の頭上に、重く垂れ込んだ雨雲が集まってくる。時折雷を迸らせながら。


よし。成功した。


わたしは隣にいるポワンに目を向けた。


「ポワン、ティロンの手助けをして」


「でも……いいのですか、アタシはレーリア様のお傍にいた方が」


ポワンはそう言いながら、結界があるというのに懲りずにガンガンとこちらへと向かってくる恐竜もどき達を見ていた。


うーん、フォーティニアの使い魔は、あまり知力がないのかな。それとも、操られているのだろうか。


誰に……?


見上げた先には、あのプテラノドンみたいな空飛ぶ恐竜の骨がいる。

あいつが、元凶なんだろうか。まだ、分からない。シェニム兄さんですら、よく分かっていないみたいだもの。


わたしは小さく首を振り、頬に冷たい雫を感じた。

やがて音を立てて、強い雨が降り注ぐ。


「大丈夫よ、こっちは。わたしとシェニム兄さんで、何とかしてみる。ポワンはティロンを助けてあげて」


ティロンは竜の姿で、対等にプテラノドンの骨と戦っている。対等だから、その先勝利に繋がるまでに時間がかかる。

体力を消耗して、弱味を見せた瞬間に攻撃の手を強められたら……それが怖かった。


わたしと同じ思いでいたんだろう、ポワンは胸に手を当てて大きく頭をわたし達に下げた。


「では……お言葉に従います。レーリア様、どうかご無理なさらないで。もし何かありましたら、すぐにアタシを呼んで下さいませね。お約束ですわよ?」


ポワンたら。本当に心配性なんだから。

わたしはくすりと笑って、天に掲げていた手を引っ込めて彼女を抱き寄せた。


ポワンの長い銀髪が、わたしの頬に触れる。


心配で、仕方ないのはわたしも同じだよ、ポワン。あんな得体の知れない化石みたいなのと、ポワンを戦わせたくない。

だけど、あなたの大切な人が今、危機にある。助けにいきたいよね?


分かるの、ポワンの気持ち。でも、あなたはそれを言葉にしなかった。わたしを想ってくれてのことだって思うと、胸が痛いよ。


わたしの力になってくれようとしているポワンの優しさに応えるには、彼女の願いを最優先したい。


大切な人を、護りたい。

分かるから。だから、ポワン。


「ティロンの傍に行ってきて。わたしは、大丈夫だから」


「はい……!」


ポワンの身体を離すと、彼女は目を閉じて気を集中させた。

抜群のスタイルを誇る人型の彼女に、淡い光が包み込んで。眩しい輝きが消えたと思ったら、そこには美しい銀竜がいた。


しなやかな身体をくねらせて、天に昇っていく。

それは見ほれるほど美しい姿だったけど、でも迎えるのは戦場の地。


わたしはポワンとティロンが、限りなく怪我をしないことを祈ることしか出来ない……ううん、違う。


わたしに出来ること、たくさんあるはず。


降り出した雨により、大分火災は鎮火してきたように思えたけど、でもウサギのような姿をした、下級使い魔はまだ火を噴きながら、ぴょんぴょんと飛んでいる。消しては火を起し……キリがない。


「シェニム兄さん、どうする!? どうすればいい?」


そう切羽詰った声で聞いたわたしをちらりと見たシェニム兄さんは、わたしにとんでもないことを提言した。


「レーリア、結界を張ったまま、他の術を使うことは可能ですか」


「結界を張ったままって……わたしが?」


「そうです。私は結界を張ると、そこから身動きできなくなります。ですがあなたほどの魔力があれば、もしかしたら……」


結界を張ること自体、あまりしたことがない。だから、分からない。

でも、シェニム兄さんの言うように、結界を張りつつ、何とか使い魔を制御できるような魔力を発揮出来れば。


初めての試みで、怖い。どうなるのか、分からない。

だけど、わたしは大きく頷いていた。


「やってみる。代わる、シェニム兄さん、手を貸して」


今まで張っていた結界を受け継ぐために、わたしはシェニム兄さんの長い指にわたしの手を絡めた。


その瞬間、衝動がわたしの中を駆け抜ける。シェニム兄さんの魔力だ。


感情をあまり出さない兄さんだけど、魔力の力は違う。かなり、攻撃的。

それがわたしの身体を抜けていき、思わず深く溜息をついてしまった。


受け継いだ結界に、わたしの力を更に込める。段々、わたしの色になってきた結界。


「どうです、いけそうですか?」


解放されたシェニム兄さんは、腰に手を当てて空で繰り広げられているバトルをみやりながら言った。


うん……いけそうな、気はするけど……正直、自信はない。


「待って、もう少し。力を注いでからの方がいいかも」


「そうですか。ならば私は」


そう言うや、シェニム兄さんはつかつかと歩き始め、結界の外に出てしまった。


嘘! 何でそんな!!


「待って! ちょ、待って!!」


そういうわたしを無視し、シェニム兄さんは彼に殺到するティラノザウルスもどき達に手を振った。

瞬間、大きなカマイタチのような旋風が巻き起こり、上級使い魔達が倒れこむ。


そして倒れこんだ上級使い魔に、左手の人差し指を向ける。

右手は、空中に複雑な文様を描いて。その途端、歪む空間に、次々とティラノザウルスもどきを左手で操っては放り込んでいった。


「使い魔の里へと一時送り返します。このままでは埒が明きませんからね。全く……許せませんね」


あれ?


何か、シェニム兄さん、…………感情的になってる?


「……許せません。誰かが指示をしているはず。犯人を見つけたら、木っ端微塵のみじん切りにしてやりましょう」


低い声が……怖すぎ!!


「フォーティニアをこのような有様にした犯人、必ず捕らえて……ふふ……」


必ず…………どうするのー!? 木っ端微塵で済むの!?

いっそひとおもいにって思えるような刑でも処するつもりじゃないの!? しそう! だから怖い!


静かにブチ切れたシェニム兄さんの背中を見つめて、わたしは結界をわたしと同化させていた。


もう少し、あと少し。

結界を定着させたら、何とか動きがとれるかも。


ラディ、早く来てとは言えないけど、でも、出来るだけ早く、お願い!!


見上げた空では、ポワンが大きく口を開けて、雷を放つところだった。

そして、ティロンも。火を放つ瞬間。


二匹の竜と、一体の化石。


そしてフォーティニアの暴走する使い魔。


一刻も早く、止めなくちゃ……!


ティラノザウルスは、何とかシェニム兄さんが食い止めてくれそうだ。でも、あのウサギみたいな下級使い魔、数が多すぎる。


どうする、暴走している上級使い魔が、制御してくれるはずもない。

でも、とにかくわたしは手を掲げたまま振り返り、シェニム兄さんに魔力を提供してくれていた若い男性達に声を上げた。


「今のうちよ、逃げて!」


「しかし、レーリア様、このままでは……」


戸惑う彼らに、わたしはにこりと笑顔を向けた。彼らが、安心出来るように。


「大丈夫よ、追ってアステリア司令官が軍を引き連れて来てくれる。それに、『蒼の疾風』が間もなく着くわ。だから、あなた達は逃げて」


イスラン兄さんの名前を出すと、彼らはほっとしたようにわたしに頭を下げ、そして静かにブチ切れて、上級使い魔を次々と空間の向こうへ追いやっているシェニム兄さんに最後に魔力を捧げて。

足早にこの地を去っていった。


取りあえずは、一安心ね。民間人はこれでいなくなったはず。


さあ、ここからよ。わたしが一番効率よく、力を発揮するにはどうしたらいい?


考えて、レーリア。雨の力が足りない? でも、これ以上雨雲を増やしたら、頭上でバトルを繰り広げているポワン達に何か影響が出るかもしれない。

危険は限りなく冒したくない。


どうする、どうしたらいい……?


ラディ、早く来て。わたしの力をあなたに……ううん。違う。

傍にいて、わたしを励まして。力をわたしにちょうだい。


あなたがいれば、わたしはどんなことでも出来るような気がする。


わたしは今出来ること……それを、魔力を高めつつも模索していた。

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