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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
番外編:祝福への受難曲(カンタータ)

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第4話 骸(むくろ)の翼と、女神の決意

それから間もなくティリシア城につき、一人城に入っていったイスラン兄さんは、すぐにわたし達の元へ戻ってきた。


意外に思うほど短い時間だった。そして傍にはドレスを身にまとった由利ちゃんが。


「彩花!! あなたが行かなくちゃならないほど、大変なことが起きたのね!?」


「う、うん。まだ何が起きたのか、よく分からないんだけど」


由利ちゃんは瞳を曇らせると、わたしをぎゅーっと抱きしめた。


「く、苦しい、由利ちゃん……」


「ああ、彩花! 絶対怪我なんてしないで。元気な顔を私にまた見せてね? イスラン!」


急に振られたイスラン兄さんは、びくりと身体を震わせた。

……ティリシア城内で、どんな話をしたんだろうな、この夫婦は。


「イスラン、私と彩花を、また無事再会させるのよ。いいわね!」


命令ですか。


びっくりしているわたしに、由利ちゃんはあの地球で見せたような微笑を浮かべた。


「彩花、手伝えなくてごめんなさい。私も行きたいところだけど、でも、魔力を失った私は足手まといにしかならないから」


そんなこと。


由利ちゃん、そう思ってくれるだけで、わたしはどんなに嬉しいか。

見て、イスラン兄さんも暖かい眼差しで由利ちゃんを見つめている。あなたの気持ちが嬉しくて。


「由利ちゃん、ティリシアの兵士さん達、連れて行くのを許してね?」


そう言うと、由利ちゃんはうんうんと何度も頷いている。


「よしゃ、じゃあ行くか。ユリシーダ……」


イスラン兄さんが、わたし達に歩み寄ってくる。

あれ、あれあれ、これはもしかして。


わたしは由利ちゃんの肩をぽんぽんと叩き、ポワンの背に飛び乗った。

ちらりと振り返ると、もうまともに見ることなんて出来ない! ってくらい、アツアツな二人のラブシーンだった。

はー、何だかんだ言って、ラブラブなんだから。やってられない。


わたしは苦笑して、ポワンに合図した。


イスラン兄さんは、ここからは地上で兵士を統率しながらフォーティニアを目指す。

後から来る、ミネリアの兵と合流してね。


だから、ここからはわたしとポワン二人で、一足先にシェニム兄さんの下に行くことになる。

一番先に、わたし達……少し不安だけど、でもきっと大丈夫、だよね。


「行こう、ポワン」


『はい、レーリア様!』


ふわりと浮かんだポワンの背で、わたしは両手を握って額をつけた。

魔力を高めながら思うのは、あなたのこと。


ラディ。

大好き。愛してる。


あなたの生きるこの地を、もしわたしだけが……わたしの力だけが、護れるのだったら。

少しだけ無理をしてしまうかもしれない。それを許して。


ラディの優しい眼差しを思い浮かべながら、わたしは意識を自分の力の根底に向けて。

どんな状況にも対応できるよう、わたしの出来る範囲の準備をしていた。



『レーリア様、あれをご覧くださいませ』


ポワンの声で、わたしは目を開けて眼下を見下ろした。


もう、ティリシアの港まで来ていた。

その港に、大きな観光船や貿易船が、多数停泊している。


「あれは……?」


『フォーティニアからの船らしいですわね。逃れてきた民ではないでしょうか』


そうか、そうだね。続々と人が降りてくる。

着ている者は、千差万別。フォーティニアの全ての人々が、ティリシアに避難してきているようだった。


何が起きたの。聞いてみたいけど、でもその時間すら惜しい。

一分、一秒でも早く。


シェニム兄さん、待っていて。すぐに向かうから……!


途中の海上で、船がいくつも行き来している。フォーティニアは人口密度が高い。

それを救出するためだろう。混乱はしていないようだ。それは安心できたけど


「ポワン、あれ……!」


わたしは思わず悲鳴のような声を上げてしまった。

もうすぐ、フォーティニアに上陸出来そうだという頃。


わたしとポワンの目の前で、黒い竜がしなやかな身体をくねらせている。

そして、大きな口を開けて、灼熱の炎を吹き出している!


『ティロン……!』


ポワンの掠れるような声。


やっぱり、あれはティロン!?

そして対峙するは……なにあれ!! プテラノドン!? てか、骨!?


わたしはあまりに驚いて、声が出ない。

空飛ぶ恐竜の化石……他に何て言えばいいのだろうか。


骨。


それが、ばさばさと飛び、ティロン目掛けて空虚な目元からビームを出してる!

それを軽やかに避けたティロンは、また口を大きく開けて、ぼおーっ! と劫火を吹いた。


火に包まれたプテラノドンの化石は、苦しげに身を悶えるけど、羽ばたき一閃で火を吹き飛ばした。

うわ、凄く強い!?


『レーリア様、あそこにシェニム様がいらっしゃいますわ。取り合えず一旦上陸しますわね!』


「うん……待って、ポワン!!」


強い魔力を感じる。わたしはポワンを制止して、瞳を閉じた。


探っていく魔力の元……シェニム兄さんだ! まさか。フォーティニア全土を包む、結界を張っている!?

嘘。これだけの大きな魔力を使ったら、シェニム兄さんの命が危ないじゃないの!


わたしはポワンにぎりぎり下まで下降してもらい、シェニム兄さんの姿を探した。


いた。


海岸線沿いに、片手を天に掲げて、立つハニーブロンド。端正な美貌は冴え渡り、真っ直ぐにティロンと恐竜化石のバトルを見据えていた。


ここから、声を張り上げても聞こえないかな。

でも、結界を張った状態のフォーティニアに、ポワンは降りられない。


仕方ない。

目をぎゅっと瞑ったわたしは、意識をシェニム兄さんに集中した。


『シェニム兄さん、聞こえる!? レーリアよ、後ろを見て!』


わたしの魔力を使った言葉が届いたようで、シェニム兄さんは髪を揺らしてわたしに振り返った。


『おやレーリア、早かったですね』


それ!? 最初の言葉!!

ていうか、もっと焦ってもいいんじゃない!?


あああああ!! 待ってシェニム兄さん、後ろからティラノザウルスがどっすんどっすん走ってきてるー!!

凄い怖い!! 巨大な恐竜が、かなりの量で群れを成して、シェニム兄さんに襲い掛かろうとしていた!


けど、その瞬間、ばちんと壁に塞がれるかのように、ティラノザウルスたちは次々と弾き飛ばされていた。


『あれが、フォーティニアの使い魔です。困ったものです、暴走を始めてしまいました』


と、ちっとも困っていない様子でシェニム兄さんは言うけど、でもこれって大変な状況なんじゃないの!?


『と、とにかく降りたいの! 結界緩めて!』


『それは出来ません。結界を全体的に緩めたら、使い魔が他の地方に流れていってしまう。危険です』


それはそうだけど……!


仕方がない。わたしはポワンの背の上で、手をシェニム兄さんに掲げた。


魔力の相殺。


シェニム兄さんと同じくらいの強さの魔力を、調節して打ち放った。


一瞬、目の前の空間が歪む。


「今よ、ポワン!」


相殺された結界が崩れた瞬間、ポワンはシェニム兄さんの結界の中に、銀色の身体を踊り入れた。


ふう、やれやれ。


振り返れば、崩れた結界が修復されている。


やがて地上に降り立ったポワンからわたしは飛び降り、シェニム兄さんに駆け寄った。


その途中でも、結界が張ってあって。二重結界なんて、高度な技を……それに、相当魔力を消費するのに。

見れば、3人ほどの若い男性が、シェニム兄さんに向けて手のひらを掲げていた。彼らが、兄さんの魔力をサポートしていたのだろうか。


「シェニム兄さん……」


傍に寄ると、シェニム兄さんは少しやつれたような美貌に笑みをうっすらと浮かべた。汗まで滲ませている。

言葉ほど、余裕はないようだった。


「よく来てくれました、レーリア。暴走する使い魔や、あの謎の生物……生物と言っていいものか悩みますが。あれを堰き止めるので精一杯になってしまいました。私としたことが」


そう言いながらも、手は天に掲げたまま。

よほど強いのだろうか、あの謎の生物もどきは。シェニム兄さんに、こんなに力を使わせるなんて。


「兄さん、住民達は?」


「ああ、もう全てティリシアに避難出来たと思います。無残ですね、御覧なさいレーリア。あの美しい町並みが」


本当だ。白い建物が並んで綺麗だったのに……ウサギみたいな、ふわふわした生き物が、ぴょんぴょん飛び跳ねて火を吹いて回るものだから、町中が火の海になってしまっている。


消火しなくちゃ、でも、先に目の前のこの敵をやっつけるべき!?

どうしよう、どれから手をつければいいの!


現地に到着したものの、わたしはどうしていいか分からずに戸惑ってしまった。


早く何とかしなくちゃ! 気持ちは焦るばかり。


わたし達の結婚式の話から一転。何だかとんでもない騒動になってしまった。


でも、わたしの今、出来ることを。


わたしは手を掲げ、瞳を閉じた。

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