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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
番外編:祝福への受難曲(カンタータ)

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第3話 銀翼の涙、主従を超えた抱擁

フォーティニアまでの道のりの間に、わたしはポワンの背の上で、ママさんと『言玉』を何度もやりとりをした。


わたしは、あんまりフォーティニアの使い魔のことを知らない。

だってママさん、わたしが地球へと旅立つ直前にいなくなっちゃったし、使い魔っていったらアステリアの竜のことくらいしか知識として無かった。

ポワンが、色々教えてくれたし、竜のことは。


ティリシアの使い魔は、地球で身を持って体験したし……怖かったなあ、あれは。

牛鳥と、ゾンビもどきと。まあゾンビもどきは、由利ちゃんが攻撃力を上げるためにああいう形にしたっていうのが分かったんだけど。

ゾンビになる前の下級使い魔は……まあ、見れるけど、それでもキューちゃんに比べたら、全然可愛くない。



アステリアは、上級使い魔に主が選ばれる。竜が、主を選ぶ。


ティリシアは、主が使い魔を作り出す。


そしてフォーティニアは、主となるのを望む者が使い魔の住む森へ行き、そして服従させると盟約成立なんだそうだ。



『方法はねー? どうでもいいのよ。ただ服従させればそれで。盟約しちゃえば、もう永遠にその子は主に仕えるの。ママの場合はね、一応国王の孫なんだから使い魔を持てって言われてね。仕方なく森へ入ったの。そしたらね!! ジョナサンちゃんに出会っちゃったのー! これがもう、キュートで、ママ一目見てキュンキュン来ちゃって! ジョナサンちゃんも、ママにキュンキュンしてくれたみたいで。お手ってしたら、すぐにお手してくれて、それで盟約成立したの……あらら、また時間切れだわ。『言玉』って不便……』


ここでブチッと言葉が切れた。


わたし達のやり取りを聞いていたイスラン兄さんは、眉をしかめてこめかみを押さえている。

ははは、ママさんのテンションの高さに辟易しているみたい。


「母上、お前相手だと更にヒートアップする感じだな。オレと話すときは、ここまでじゃねえぞ? 確かにかしましい女性ではあるが」


「は……はは……」


「ま、それだけレーリアのことを好きなんだってことだよ」


うん、それはわたしにも伝わるよ。

ママさんは、わたしを凄く心配してくれているし、大事にしてくれている。

だって、フォーティニアで、ずっとパパさんに会えない時にも地球のわたしを見守ってくれていた。


わたしは、記憶を全て無くしていたのに。

寂しかったろうな。だから、わたし、親孝行したいんだけど……ママさんのテンションに時折ついていけない。


そして早速転がってきた『言玉』。


虹色のその玉が、ピコーンピコーンとウルトラマンのカラータイマーのようにフラッシュしている。

 

『レーリアちゃん、使い魔が暴走しているって、何か原因があると思うの。あの子達、いい子なのよ? だから、その原因を探ってね。そしてね、ジョナサンちゃんを見つけてほしいの! 呼びかけても応えてくれないのよ。こんなこと、初めて。きっとフォーティニアで何かあったに違いないわ。ジョナサンちゃんを、助けてあげて。ううん、何よりも、フォーティニアの人達を、あなたの『祝福の力』で護ってあげて欲しいのよ。お願い、お願いね!』


ママさん、やっぱりこんなキャラでも国王だったんだなあ。ちゃんとフォーティニアの人達のこと心配している。

わたしとイスラン兄さんは、目を合わせて微笑んだ。何だか、嬉しかった。


「レーリア、そろそろ魔力温存しとけ」


兄というよりも、司令官らしい言葉を言ったイスラン兄さんに頷き、わたしは最後の『言玉』を作った。


『ママさん、色々情報ありがとう。イスラン兄さんもいるしラディもいるし、あっちにはシェニム兄さんがいるから大丈夫よ。もう、魔力を高めておきたいから、通信これで断ち切るね。後は吉報を待ってください』


わたしの『言玉』を、きっとパパさんと聞いているはず。そして、幼いレンとも。


レンが生まれてきてくれて、嬉しかったな。初めてのわたしの下の身内。わたしは一番下だったから。

だから、可愛くて仕方が無い……抱っこすると泣かれちゃうけど。


体力を温存するためか、ポワンのふわふわの背中の上でひっくり返ったイスラン兄さん。

瞳を閉じているけど、何を考えているんだろう。家族の、ことかな。


ふと、真下を見下ろすと、イスラン兄さんからの命令に従って、ミネリア兵が馬に乗って走っている。

相当数だ。


ソルトがいれば、ミネリア兵の指揮をとってもらえるけど、残念ながら彼は今アステリアにはいない。

何でも『修行の旅』とかに出たんだって。それを聞いて、わたしは首を傾げてしまった。


ソルトって、そういうの嫌いだと思っていたんだけどなあ?

でも、いないなら仕方が無い。事は急を要しているもの。


シェニム兄さんからのSOS。こんな言葉をシェニム兄さんから聞いたのは初めてだ。


『何とか食い止めようとしましたが、恐らく私だけの力では限界が近いでしょう。なるべく早くフォーティニアへ向かってください。そのために、兵はアステリアからは最小限にとどめ、途中でミネリア、ティリシア兵を順番に数多く引き連れてくるのです。そのほうが時間短縮になりますし、兵の疲労も少なく済みます。頼みました』


それが、シェニム兄さんからの最後の『言玉』だった。


それ以降、シェニム兄さんから連絡が来ることはない。何があったの。心配で、胸が締め付けられる。


だって、あの鬼の参謀と恐れられているシェニム兄さんが、「限界近い」なんて弱音を。あり得ない。

とにかく、急がなくちゃ。ポワンはそれを分かっていて、凄いスピードで頑張ってくれている。

一度、ミネリアに降りた時、息切れしていたのを見てしまった。


「ポワン、もう少しゆっくりでも……」


言いかけたわたしに、竜の姿のポワンは首を振って言った。


『アタシがレーリア様のお役に立てるのであれば、力尽きるまで全力で頑張らせて頂きます。それが、使い魔ってものですのよ?』


ずきん。


痛い。胸が、痛い。

ポワンの言葉、凄く重く感じた。


わたしの中では、ポワンは使い魔、そしてわたしは主って気持ちが薄い。だから、何だか友達のような感覚でいた。

それなのに、ポワンは必死で務めを果たそうとしてくれている。


甘ったれた考えを、わたしはまだまだ捨てきれない。


押し黙ってしまったわたしに、ポワンはまだ荒く息を継ぎながら、綺麗な瞳を向けてくれた。


『レーリア様、僭越ながら、アタシはあなたが大好きなんです。だから、お役に立ちたいんです。きっと今頃、ティロンもアタシと同じ気持ちで、シェニム様のお傍にいると思います。だから。ティロンに負けないように、アタシも頑張りたいんですのよ』


そっか。

そうだよね。


ティロンとポワン。二人同じ立場だ。お互い切磋琢磨しあいながら、自分を高めあっている。

いいね、そんな関係。素敵だな。


だからもう、わたしは何も言わない。

ただ、


「もう無理だって思ったら、絶対言って。わたしはあなたが大切なのよ、ポワン」


そう大きな鼻を撫でたら、ポワンは目を見開いて、そして。


一雫、煌く瞳から涙を零した。

びっくりしてしまっていると、ポワンは顔をわたしから背け、身体を震わせた。


『何てことを、使い魔の分際で主の前で……失礼しました、レーリア様』


ポワンは竜族の長の娘。だから、教育を徹底的に受けさせられているのだろう。

そんな彼女を見て、堪らなくなったわたしは、ポワンに身体を寄せた。


「ねえ、ちょっとだけ、人の形になって?」


体力使うのかな。もしそうだとしたら、悪いお願いしているかもしれない。


だけど、今、イスラン兄さんがミネリアと交渉しているこの時間。

あなたと二人きりでいる、この時間をわたしにちょうだい、ポワン。


ポワンは少し間をおいて、シュンと音を立てて、美しい銀色の竜から、長い銀髪の美しい女性へと姿を変えた。

目には、まだ涙を湛えている。


革鎧をまとった彼女の身体を、わたしは両手広げて抱きしめた。

驚くポワン。そうよね、だって突然だもの。

だけどわたしは、どうしても両手であなたの全てを感じたかった。


竜の姿じゃ、ほんの一部しか抱きしめられない。


「ポワン……大好きよ」


そう耳元で囁くと、ポワンは大きく身体を揺らし、そしておずおずとわたしの背中に手を回した。


「いいの。わたしに触れて? あなたから。大丈夫よ、大丈夫。ポワンのこと、わたし大好きだから」


そしてわたしはポワンを抱きしめる腕に力を込めた。

ポワンも、ぎゅっとわたしを抱きしめてくれる。


暖かい。ポワン、すごく暖かい。

声を殺して泣くポワンの背中をさすり、わたしはただ囁き続けた。


「無理して、ポワンがわたしの傍からいなくなってしまったら、わたしは絶望を感じちゃうわ。そんなの、嫌」


「……はい……」


「頑張ってくれるの、凄く嬉しい。だけど、力の配分して? あなたの体力と力は、あなたにしか分からないのよ」


「はい、はい、レーリア様……」


ポワンは泣きじゃくりながらも、何度も頷いてくれた。

よかった。わたしの気持ち、伝わったみたい。


やがてイスラン兄さんがミネリア城から出てきて、抱き合うわたし達を見て驚いていた。


「何だ何だ!? どうした、何かあったのか!」


そういう兄さんに、わたしは頬を寄せて悪戯っぽく笑った。


「女の子同士の、ヒミツよ。ね、ポワン?」


ポワンはわたしに微笑んで、そして大きく頷いた。


「はい!」



それから、ポワンは今度はティリシア城に向かって飛んでいる。


途中でスピードを緩めたりしているから、体力の調整をしてくれているみたいだ。よかった。


「……なあ、レーリア」


ひっくり返って、目を閉じていたイスラン兄さんは、ふとわたしに声を掛けた。


「なに?」


「ティリシア城には、お前が行ってくんねえかな」


「何で?」


だって、今、由利ちゃんがティリシアにいるんじゃないの? ミネリア国境近くにティリシア城はある。


もうすぐ着いちゃうのに。


なのにイスラン兄さんは、目を閉じたまま眉を寄せた。


「うー……」


唸るイスラン兄さんに、わたしは声を上げて笑い、バンバンと腕を叩いた。


「何よ、由利ちゃんに会うの怖いの!?」


「そ、そんな訳ねえよ! だけど、だけどな……」


「大丈夫だよ、由利ちゃんは。イスラン兄さんを困らせるようなことは言わないよ」


きっとね、多分。


由利ちゃんが、自分も着いて行く! とか言い出すのを恐れているんだと思う。

凄く大事に思ってるもんね、イスラン兄さんは由利ちゃんのこと。


でも、まだまだだね、兄さん。わたしの方が由利ちゃんのこと、分かってるようじゃ駄目だよ。


「ティリシア領主に面会して、ちゃんとティリシア兵を調達してきて。じゃなくちゃ司令官なんていえないよ?」


「くそー、お前結構辛口だなあ」


「あはは、だってシェニム兄さんの妹だもん」


そう、一分一秒でも早く、フォーティニアに向かわなくちゃ。だけど、ポワンに無理をさせるわけにはいかない。

だから、イスラン兄さんと由利ちゃんが会う時間も、限りなく短くなっちゃう。


申し訳ないけど……でもまたすぐに、きっと会える。


ポワンの背中の上で、イスラン兄さんを待っている間、わたしはラディのことを考えていた。


今、どこらへんにいるのかな。

途中で妖魔とかに出くわしてないかな。怪我とかしてたらどうしよう。


魔力使える人って、『蒼の疾風』でどれくらいいたっけ。


ああ、心配が尽きない。


大事な人のことって、心配でしょうがないんだ。

そう気付いたわたしは、一人苦笑してしまった。

今、わたしはたくさん心配している人がいる。胸が痛いけど、でもそれって凄く幸せなことだ。


だから、この世界を護れる。


そしてわたしを心配してくれる人もたくさんいる。


それが何だかとても嬉しかった。

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