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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
未来への鎮魂歌(レクイエム)

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最終話 永遠の組曲(アンサンブル)、祝福の夜明け

レクサス、あなたの望みは何だったんだろう。


由利ちゃんを、その手で孤独から救いたかったのかな。

だけど、由利ちゃんは自ら光の道へと歩き出そうとした。

憎しみは、愛情の裏返しだったのかな……。


もう、いいや。

疲れちゃった。

眠たい。


いいよね、もう。


みんなの力を借りて、アステリアを救えたもの。


ラディ、あなたの腕の中で眠れるなんて、わたしとっても…………


「面倒くさいねえ」


「そうだねえ、でも一応、私達にも責任の一端はあるって言うしねえ」


「全く割りに合わない仕事だった。もう魂と肉体の分離の依頼は止めようねえ」


そう、同じ声で同じ口調の女性が話し出す。

その途端、わたしの身体に、壮絶な、想像も出来ないほどの痛みが駆け巡った。


痛い、ちょ、待って、本当に痛い!!!!


「レーリア様、声出ないだろうけど、でも相当痛いだろうねえ」


「そうだねえ、細胞、無理矢理くっつけてるから。あーあ、こんなに肉体をボロボロにしちゃって」


「無茶しすぎだよねえ。いくら『祝福の女神』だからって言っても」


細胞!?


くっつけてる!?


うあああああ、痛い、痛いぃーーーーーーー!!


「レーリア、頑張って。これでも、俺の力がきみの中に多少入ってるから、痛みがまだマシなんだって」


え? ラディの力?


なにそれ、意味分からない。てか、痛みで脳内がまともに働かない!!


「『魔女の館』の長。がっつりとやっておしまいなさい。全く、勝手に暴走して。どれだけ私達に心配を掛けたと思ってるんです」


シェニム兄さんの冷ややかな声が聞こえる。


酷い、何て言い草!


わたしはわたしなりに、頑張ったのにー!!

あううう、痛い痛い痛い!!


「ごめんな、レーリア。きみを救うには、あれしか思いつかなかった。俺にも責任があるから、後でいくらでも俺を殴っていいよ」


ラディがわたしの耳元で囁いて、ちゅって頬にキスをしてくれたけど。

でも今は、何だか嬉しいよりも痛みが先に立ってしまって……あうううううーーーー!!


「もう少し、もう少し」


「そうだねえ、もうちょっと。ああ、頑固な細胞だねえ」


「本当だねえ、レーリア様の性格にそっくり。さっさと気を失ってしまえば、ラクになるのに……くす」


くすっ!?

笑った!? 今、笑ったー!?


そして襲い掛かる、最後の壮絶な痛み。


全身を大きな太い針で串刺しにされたような衝撃で、わたしの身体は跳ね上がり、


…………そのままブラックアウトした。



あれから、1週間もわたしは意識を失っていたそうだ。

何でも肉体が元の状態に戻るまで、脳がそのように指示を出して眠り続けていたんだって。

『魔女の館』の長達は、わたしの意識が戻るやいなや、明らかにほっとした顔をした。


「やれやれ、やっと森に戻れるよ」


「城は嫌だねえ。人が多くてかったるいねえ」


「本当だねえ」


そう言いながら、驚くべき速さで森に戻っていってしまった。

本当に、人嫌いなのね……


そして今日、わたしは真っ白なドレスを身にまとい、大聖堂の中にいた。


やっと。


誕生日を迎えてかなり日を経たせてしまったけれど。


やっとわたし、『成人の儀』を迎えた。


司祭が跪いたわたしの頭部に、濡れた葉を当てた。


「レーリア・チュニス・エルハラード・アステリア。成人を迎えるにあたり、そなたの望みを告げよ」


わたしの望み。


わたしは顔を上げ、司祭に目を向けた。

そして振り返り、居並ぶ面々を見渡した。


パパさん、ママさん。


イスラン兄さん、シェニム兄さん。


アステリアのみんな、それに…………


ラディ。


わたしの視線に気付き、柔らかく微笑んで頷いてくれたラディに、わたしも微笑みかける。


『微笑みの力』は、あなたに。


わたしは視線を司祭に戻し、深く頭を下げた。


「ラナディート・エルハラードと、共に生きていくことを望みます。そして、わたしの力をアステリアの幸福のために捧げます」


「『祝福の女神』の望み、ここに誓わん! 何人たりとも、この誓約を汚すことなかれ!!」


司祭は声高らかに宣言されて。


わたしは、やっと自由になった。


だけど。


「では、無事に我が娘、レーリアの儀式も終了したということで、ここから総軍事会議を執り行うこととする」


突然立ち上がったパパさん。


え!? 何!?


びっくりしているのは、わたしだけ。


確かに、ここには各地の首脳部が揃ってる。



アステリアの皇帝陛下であるパパさん。

アステリア国軍司令官、イスラン兄さんに参謀のシェニム兄さん。


ティリシア領主由利ちゃん。


ミネリア領主ソルトパパに、次期領主になるだろうソルト。


そそ、ミネリアは今回のことの責任を取るということもあり、自らアステリア国領地になることを望んだんだそうだ。


わたしが寝ている間に、とんとん拍子に話が決まって。

ソルトは、なぜか嬉しそうにわたしに教えてくれた。

元々、国としてこだわるべきじゃないって思ってたって。そう言って。


そして、ママさん率いるフォーティニア国。


あっという間に大聖堂は会議室に変貌してしまった。


「さて、フォーティニア国王、セリカ」


そう促されたママさんはすと立ち上がり、わたしにそっくりな顔に笑みを浮かべた。


「フォーティニアは、今日をもってアステリア国の領地になることを宣言いたします」


はいーーーーーーーー!?


驚いているのは、わたしだけじゃない。

フォーティニアの人たちは、顔色を赤くしたり青くしたり、大忙しだ。


「え、何? 今国王陛下、何て仰った?」


「フォーティニアが、アステリア国の……ええええ!?」


「お待ちくだされ、セリカ様!!」


「もう、決めたことです」


ああ、なんて強引でマイペースな人なんだろう、ママさん。


にこりと笑うと、ママさんはまっすぐにシェニム兄さんに指を突きつけた。


「問題ありません。フォーティニアの財源は、今のまま維持をしていく。次期領主、シェニムが上手く采配してくれることでしょう」


言われたシェニム兄さんは、端麗な美貌を困惑……というか、苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。


「いつ、どこで、誰が決めたんです、そんなこと」


あらら、聞いてなかったことなのね。

それなのに、ママさんは笑みを深めて言い切った。


「今、ここで、私が決めたのよ。シェニム、あなたは国王にはならないと言ったけど、領主ならこなせるでしょ? 今の仕事に、ちょこっとだけ色がつくだけよ」


…………違う。

それは違うよ、ママさん。


すんごい大変になると思うよ? きっとシェニム兄さん。


だけど、ママさんは、

 

「あら? 出来ない? まさか、出来ないなんていうの? 私の息子は、参謀は出来ても領主にはなれないヘナチョコなの?」


びくん、とシェニム兄さんが頬を引きつらせた。

それを見て、畳み掛けるママさん。


「そんな訳ないわよねー。ぶっちゃけ、領主なんかよりも参謀の方が大変でしょ? ていうかいいじゃない。今までだって、フォーティニアの税金の計算とか試算しなおしてたりしてたでしょ? 脱税してないかとか、調べてたじゃない。それなのに、出来ないなんていうの? あなたが仕事をアステリア国でも出来るように、わざわざ領地になってあげるのに!」


えー……

……どんだけ無茶振り?


確かに、国王となればその地から離れるわけにはいかない。

領主だったら、現場は土地の者に任せ、中央部にいることは可能だけど……


シェニム兄さんは、ひくひくと頬を引きつらせ、そして深い溜息をつくと片手を上げた。


「仕方ない……いいでしょう。ただし」


にこりと笑ったシェニム兄さんは、それはそれは壮絶に美しく、恐ろしく……

眼差しは、まっすぐにフォーティニア面々に向けられている。


その目線を受けた者達は、カチーンと固まってしまっていた。


「私が領主となるからには……ふふ、覚悟は出来ていますね?」


「前言撤回してくだされー、セリカ様!!」


「嘘だ、こんなの悪夢だーーーーー!! 鬼の参謀、シェニム様の下で生きていける自信がございませんーーー!!」


だけど、さっきまで国王だったママさんは、喜色満面でパパさんの下に駆け寄り、ぎゅーっと二人硬く抱きしめあった。


「ハルちゃん!! これでずっと、ハルちゃんの傍にいれるわ!」


「セリカ、長かった。よく我慢してくれていたね」


「大好きよ、ハルちゃん! もっと、ぎゅってして!」


両親のラブシーンを見せられ、わたしは思わずくすくすと笑ってしまった。

そして視線を感じ、そちらに目を向けると、ラディが微笑んでわたしを見てる。


その眼差しは暖かく、包み込むようで……あなたの傍にいたい。


わたしは、そう望んだ。


アステリアで、この世界を祝福に導きながら。


どこまで出来るか、分からないけど、でもわたしが出来ることをしていきたいの。


きっと、幸せになれるわ。


皆が幸せになれる方法を、これからも考えていこう?


ラディ、あなたと二人で。





ポワンは、あれからティロンと結ばれた。

竜族の長の娘の婚姻なので、竜族総出の華燭の典だった。


わたし達アステリア王族もお呼ばれしてもらって、とても素敵な時間を過ごさせてもらった。


銀色の髪を綺麗に結わいて、美しい花嫁姿になったポワン。

いつもながらに無表情だけど、幸せオーラが出まくっているティロン。


本当に素敵だった。


ポワンと二人きりになるチャンスがあったので、ずっと気になっていたことを聞いてみた。


ティロンの話をすると、気まずそうにしていたのはなぜなのか。

時折、ティロンに冷たい態度を取っていたのはなぜなのか。


するとポワンは、美しい顔を綻ばせて教えてくれた。


「だって、主のレーリア様が男嫌いの魔法をご自身に掛けられたんですもの。使い魔のアタシが男にうつつを抜かしているなんて知られたくなかったんですわ」


「そんなあ……気にしないのに……」


「ふふ、レーリア様はそう仰ると思って黙っていたんですのよ。それにしてもラディ、もっとちゃんとしっかりしてくれたらアタシもこんな苦労しなくて済んだのに! 思い出すと腹が立ちますわ! やっぱり一言、言ってやらないと気が済みませんことよ!! ラディ、ラディー!」


あああ……。ドレスの裾を捲って走って行ってしまった……。


それを見送りながら、わたしは一人くすくすと笑ってしまった。


ああ、わたし、大事に愛されていたんだと、改めて実感して。

恥ずかしくも嬉しくもあり。


心の中で、ポワンとティロンの幸福を―――祝福を祈った。





それから、わたしとラディは二人でアステリアを旅して回った。


水が少ない地には、雨季をもたらせ。

土地が痩せている地には、土壌を豊富にさせて。


わたしの持つ、『祝福の力』を、この世界のために使う一歩を歩み出した。


そんなことくらいしか、今はまだ思いつかないけど。

でも、もう一度アステリア城に戻ったら……もっともっと、わたしの力を有効に使える方法を考えたいな。


個性的で、素敵な仲間と。


そして、愛するあなたと。



最後に来た、このフォーティニアの地で、わたしはラディと手を繋いで、海を見つめてた。


「ラディ……?」


首を傾げて、わたしを見下ろすラディ。


彼を見上げて、わたしは幸せでいっぱいで、だけど頬が熱くなって。

それを抑えて、言葉を乗せた。


「あのね、あの…………これからも、ずっと傍にいてね」


ラディは涼しげな目元を細め、わたしの身体を彼に向けさせて。

そして、ゆっくりと端正な顔を下ろして囁いた。


「永遠に。愛してる、レーリア………」


わたしもよ。


愛してるわ、ラディ。



新婚旅行には、地球へ行こう。

そう囁いた唇が、わたしを塞いだ。



忌まわしいと、ずっと思い続けていた力。

こんなの、いらないって思っていた『祝福の女神』という地位。


でも、今は違うの。

あなたが傍にいてくれるから。


これからも、ずっと……。



それから、わたし達はイスラン兄さんと由利ちゃんの出来ちゃった結婚宣言(うっそー!)に驚いたり、地球へ迷い込んでしまった使い魔を探しに行ったり。


波乱万丈な生活が待っていたりするんだけど、でも全てが楽しくて、全てが輝いていて。


見上げれば、あなたがいる。


二人なら、何でも出来るような気がした。


「ラディ、ありがとう」


時折、そう言ってみる。


するとラディは、不思議そうに目を瞬かせて、首を傾げる。


分からなくてもいいの。


ありがとう。


わたしを待っていてくれて、ありがとう。

約束を守ってくれて、ありがとう。


傍にいてくれて、ありがとう。


永遠の幸せの中で、わたしは暖かい腕に抱かれて瞳を閉じた。


これからも、刻んで行こうね。




二人の…………アステリアの幸せな物語を。





END

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

序章、そして「終わりの始まりの序奏イントロダクション」から始まった激動の嵐が過ぎ去り、ようやくアステリアに穏やかな、そして最高に賑やかな朝がやってきました。


ずっと忌まわしい宿命だと思っていた『祝福の女神』という力。

けれど、愛する人を救い、大切な仲間たちが生きる世界を護るためにその力を使ったとき、レーリア(彩花)はようやく自分自身の運命を肯定できたのだと思います。


泣き虫だった少年が、愛する人を護るために強くなり、約束通り迎えに来る。

そんなラディのひたむきな愛が、異世界と地球、二つの世界を繋いでくれました。

最後、パパさんとママさんの熱烈なラブシーンや、兄様たちの苦労人っぷり(笑)も含めて、これぞ「エルハラード・アステリア家」という大団円を描くことができて、私自身も胸がいっぱいです。


恋愛ものをメインに書いてきた私にとって、異世界ファンタジーとしてのバトルや設定の構築は本当に大きな挑戦でした。「これで大丈夫かな?」と悩みながらの執筆でしたが、レーリアとラディの絆が、私をここまで連れてきてくれた気がします。


本編はここで幕を閉じますが、アステリアの物語はまだまだ終わりません。

……というか、書きたいことが溢れてしまい、この後「番外編」が控えています!


まずは、長い間二人を見守ってくださった皆様に、心からの感謝を。

二人の旅路の先に、永遠の幸福がありますように。


*-*-*-*-*-*-


「アステリア」本編をお読みいただきありがとうございました!

二人のその後を描く番外編『祝福への受難曲カンタータ』を、4月17日(金)の夜から連載開始します。

相変わらず騒がしいイスラン兄さんや、頑張るシェニム兄さん、そして新しい小さな仲間も登場します。幸せいっぱいの二人を襲う、新たな「嫌な予感」の正体とは!?ぜひまた遊びに来てくださいね!

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