第4話 微笑みの残光、託された聖剣
幼いあの頃を、思い出した。
ねえ、ラディ。
なに? レーリア。
約束よ。チキュウで、わたし、頑張るから。戦争は、いやなの。だから、チキュウで大人になって、ラディがわたしを迎えに来てくれるまで……成人の儀を迎えられる日まで……頑張るから。だから、絶対わたしを迎えに来て、わたしを護ってね。
約束、レーリア。
俺も、頑張る。レーリアを護れるようになるように、強くなる。
だからもう、泣かない。
あの日交わした約束。
俺はレーリアに誓ったんだ。
その誓いを守るために、俺は……
レーリア、護るよ。
きみを、護る。
愛してるんだ。どうしようもないくらい、愛してる。
俺の全てを投げ出してもいい。
きみのためならば。
だから、レーリア。
俺の持てる全てをきみに捧げる。
苦しい。
わたしの中で蠢く魂。
異物が入ったことで、わたしの身体が拒否反応を起こす。
それを押さえつけるのは、わたしの魔力。
レクサスの魂をわたしの中に引きずり込んだ。
逃げようとするレクサスを留めておくには、限界がある。
分かる。だけど、逃がすわけにはいかない。
このまま、わたしと共に。
果てるまで、わたしは戦い続けるつもりだった。
レクサスの魂が消去する頃には、わたしも魔力を使い果たしているかもしれない。
その結果がどうなるのか、予想がつくけれど、でも手離すわけにはいかない。
『ぐうううううぉおおおお!! 離せ、祝福の女神!! 離せぇ!!』
わたしの中のレクサスが暴れる。
それを力ずくで押さえ込み、わたしは彼に言った。
「無駄よ。あなたをもう外へ出すことはない。このままわたしと共に果てるのよ」
『何を言う……!!なぜ、そこまでして、お前は……!!』
驚愕するレクサスの声に、わたしは思わず笑いそうになってしまった。
なぜ?
そんなの、理由は一つしかないわ。
わたしの希望。
わたしの願い。
『祝福の女神』として生まれたからじゃない。
愛する人が生きる地を、護りたい。
「アステリアを、あなたの自由にはさせないわ」
わたしが静かに言うと、レクサスは苦しみ悶え、わたしの中で蠢き続ける。
その苦しみが、ダイレクトにわたしに伝わり、それを抑えることで精一杯になった。
魔力を、レクサスの魂を抑えることに集中するあまり、結界が解けていく。
思わず倒れてしまったわたしを、ラディが支えてくれた。
朦朧としてくる意識。
だめ。
ここで気を失う訳にはいかない。
レクサスにこの身体と魔力が操れるとは思えないけれど、でも、わたしはわたしの意識があるままで、レクサスを閉じ込めていなくてはいけない。
「レーリア、レーリア!!」
ラディが悲痛な表情で、わたしの名を叫ぶ。
ああ、よかった。
ラディ、魂の傷も修復できたみたい。
今ほど、忌まわしいわたしの力に感謝したことはないわ。
あなたの魂は、純粋で…………汚れなくて…………
まっすぐに進む思い、それをずっと大事にしてもらいたいの。
そんなあなたが、大好きだから。
今までも、これからも。
好きなの、ラディ。
大好きなの。
だから、わたし、後悔しないわ。
あなたを護れた。
ずっと、あなたに押し付けてしまった約束のために、あなたを縛ってきてしまったことが心に引っかかっていた。
あなたの人生を、わたし中心にしてしまった。
もっと、やりたいこともあったかもしれない。
わたしがいないアステリアで、恋もできたかもしれない。
それを捨てさせてしまったことに、わたしは申し訳ない思いでいっぱいだった。
これからは、ラディ。
あなたの自由に生きて。
どれくらい、わたしの中に魔力が残っているだろう。
魔力よりも、わたしの身体が限界に近くなってきていることが分かる。
あちこち、悲鳴をあげている。
『祝福の女神、私を解放しろ! でないと、お前の身体が引き裂かれるぞ!!』
レクサスも、わたしの身体がどうなってきているのか感じたようだった。
今、わたしの身体が生命の刻みを止めれば、おのずとレクサスの魂も消去する。
焦るレクサスの声。
だけど、わたしは彼を手放すつもりなどなかった。
「レーリア、レクサスを離しなさい! 後は、何とでもしますから!!」
珍しい。
シェニム兄さんが、焦ってる。
「馬鹿野郎、お前、何を考えてるんだ!! 早くいいからレクサスを出せ! オレがやっつけてやるから!」
ふふ、優しいイスラン兄さん。
いつもそうやって、わたしの無茶をたしなめてくれたね。昔と、変わらない。
「アヤカっち!! もういい、もういいんだ! ……レーリア……!」
あれ、ソルト、初めてわたしの名前を呼んだ。
『レーリア姫』じゃなくて、『レーリア』だって。
ふふ、どうしてそんなに泣きそうなの? そんな顔、あなたに似合わない。笑っていて。それが一番、あなたらしい。
「レーリア様……!」
その先、言葉にならずに唇をかみ締めているサーシャ。
ああ、そんなに涙を零したら、本当に女の子みたいよ。わたしよりも、ずっと可愛い。
だけど、知ってる。あなたは誰よりも、男っぽいのよね。
駄目だ。
もう、意識が遠くなっていく。
皆のわたしを呼ぶ声が、段々遠ざかっていく。
どうしよう。
最後に、あなたの声が聞きたいのに。
「レーリア…………」
望んでいた声だ。
低く、耳に心地いい声。
愛するあなたの声。
わななくわたしの唇を、そっとその声の持ち主が塞いだ。
暖かいの。
胸に沁みていく、あなたの想い。
愛してるわ。
愛してくれて、ありがとう。
わたしを、最後まで護ろうとしてくれて、ありがとう。
言葉にならないわたしの声を、きっとラディは受け止めてくれただろう。
わたしの髪をひとしきり撫でていたその大きな手は、わたしから離れ、剣を握り締めた。
「レーリア、『祝福の女神』の力を、俺に」
どうなるか、分からない。
自分の魔力の限界が、分からない。
だけど、あなたがそう言うのなら。
『やめろ、何を考えている!! 祝福の女神、私を解放しろ! そして私と共に、このアステリアを…………!!』
アステリアを、闇の世界にするわけにはいかない。
ラディがその剣で、わたしごとレクサスを貫いてくれるなら。
きゅっと唇をかみ締めたわたしは、震える身体を叱咤して、半身を起こした。
そして片手を、ラディへ向ける。
『やめろーーーーーーーーーー!!!』
レクサスの悲鳴を聞きながら、わたしはラディへと向けた右手に全神経を集中させた。
わたしの残る力、全てを。
あなたへの想いを込めて。
このアステリアを、どうか護って。
わたしの手から放たれた力は、構えたラディの剣へと吸い込まれていく。
前に由利ちゃんと対峙した時よりも、ずっとずっと強い力がラディへと流れていく。
わたしは、意識を失うまで、力を放出し続けた。
ラディ、あなたを抱きしめる時のような思いを込めて。
だって、それが『微笑みの力』だから。
どうか、わたしの想いを、受け止めて。




