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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
未来への鎮魂歌(レクイエム)

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第3話 魂の修復、慈愛の煉獄

あの時、ミネリア王と剣を打ち合わせたとき。


大きく口を開けたミネリア王の口内にあったもの。


それは、漆黒の闇だった。



そこから歪んだエネルギーが抜け出して、俺の体内に滑り込むように入ってきた。

逃げる暇がなかった。


まさか。どうして。


俺の身体を駆け巡る熱い闇。

そして聞こえる声。


『くっくっ……やっとこの時が来た。ラナディート・エルハラードの身体をこの手に入れる瞬間が』


レクサスか。

最初から、俺が狙いだったのか。


そして流れてくる、レクサスの思考。

俺の意思とは関係なく動く、俺の肉体。


待て、やめてくれ。


呆然としたミネリア王を、俺の剣が貫いた。



混沌。



俺の身体が、俺の意思なく動く。

俺の口が、俺の思うこととは別のことを話す。



レーリア、会いたい。

でも、会ってはいけない。


この手できみに触れたくない。

触れさせてはいけない。


なのに、きみは輝く笑顔で俺の…………いや。

俺を操る者の腕の中に飛び込んできた。


俺の中のレクサスが、歓喜している。


これで、『祝福の女神』を我が手で。


やめてくれ。

レーリアを、穢さないでくれ。


レーリアは、俺の…………全てだから……



レーリアは、俺の中のレクサスに気付いた。

そして言った。


「ラディを返してもらうわよ」


レーリアが、俺を操るレクサスの腕の中にしなだれかかってきた。


どうしてだ。

何をしようとしているんだ、レーリア。


今、レクサスを解放したら、また誰かに乗り移る。


レクサスがこの身にいる間に、俺をレクサスごと殺してくれれば、それでいい。

それで、全てが終わるんだ。


きみのために死ねるなら、俺はそれで本望なのに……


何が起きたのか。一瞬、分からなかった。


だが、次の瞬間、ぎゅっと俺の身体に入り込んだ魔力。


力強く、熱く。

真っ直ぐに俺の魂へと流れてくるその魔力に、レクサスは恐怖に戦いた。


「やめろ、何だこの力は……熱い、焼ける!!」


「レクサス、苦しい? そうよね、苦しいわね。だって、あなたとラディを引き離そうとしているんだもの」


レーリアの声は、囁くように小さく。


「ラディ、聞こえる? あなたも苦しい? だけど、少しだけ我慢してね。待っていて、あなたを救うから」


更に強く流れてくる魔力。

レクサスは大きな悲鳴を上げ続けた。


「『祝福の女神』、離せ、やめろ!! こんなことをしたら、ラナディートの魂が傷つくぞ!!」


俺に食い込んだ、レクサスの魂が引き剥がされていく。

彼は、自分の意思で俺の身体に入り込んだ。

まさか、強引にこの身体から出されることなど想定していなかったのだろう。


レーリアの魔力は、止まることをしらない。


身を引き離される強い苦痛。


だけど、もう。


それ以上魔力を放ったら、きみが…………


やめるんだ、レーリア。


伝えたい。

伝えたいのに、伝える術がない。


「ぐぅあああああああああーーーーーーーーー!!!」


耳をつんざく悲鳴を上げたレクサスの魂が、俺の中で完全に俺と分離した。


それが分かった次の瞬間、レーリアは踵を上げ、俺の頭部をかき抱き、唇を俺に重ねた。

そして今度は、そこから魔力を少しずつ俺に注ぐ。


俺の魂は、レーリアのその魔力に包まれるように。


剥がされた魂の欠片を、修復していく…………


暖かい。


まるで、きみに抱かれているような。

俺を包み込む、きみの暖かさが心地いい。


レーリア、きみの力は、『護る力』…………そう言っていたね。


そしてその言葉は、正しかった。


「うぐ、は、離せ……! やめろ、ああ、ぐうあああ、ああああああ!!」


分かる。

俺の中のレクサスが、引き出されていくのが。


そして、その魂は、少しずつレーリアに…………嘘だ。


レーリアの身体に吸い込まれていく。


「や……めろ………」


この口から零れた声は、誰のものだ。


「やめろ…………レーリア、やめるんだ……そんなことをしたら、きみが………」


唇を離したレーリアは、苦しげに眉を寄せて、だけど俺を見上げて微笑んだ。

柔らかい、微笑を。


「ラディ……よかった。……ごめんね…………」


何で謝るんだ。


歪む。視界が。


だけど、ここで気を失うわけには行かない。


剣を床に突き立てて、何とか身を支えている俺の目の前で、レーリアが腹部を押さえて倒れこんだ。


「ぐうううう、ううううううう」


まるで獣の鳴き声のような声を上げている。

レクサスが、のた打ち回っているんだ。レーリアの、体内で。


自分よりも強い魔力の者には憑依出来ないレクサスの魂は、圧倒的な力を持つレーリアの身体に苦しみを与えられているんだ。


「レクサス、離さないわ…………そのまま消えていくまで……絶対、離さない……」


「だが、お前の身体も無事では済まないぞ………」


一つの唇から、二つの声が流れる。


俺はよろめきながらも、転がるレーリアの身体まで這い寄った。

そして手を伸ばし、苦しみに歪むレーリアの頭部を抱きかかえた。


「レーリア、レーリア!」


「ラディ…………」


レーリアは、一瞬だけ笑みを浮かべ、だがすぐにその表情は見ていられぬほどの苦痛に変わる。


何か、俺に出来ることはないのか。

俺が、レーリアを護るはずだったのに。どうして、レーリア……


そして、レーリアが張った結界が、消えていった。

徐々に、この場にいなかったイスランやシェニム、そしてサーシャ達の姿が浮き彫りになってくる。


レーリアの結界が消える。


レーリアの魂が…………命の炎が消えていく。


「嫌だ、嫌だ! レーリア!!」


俺の悲鳴が、部屋に木霊した。

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