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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
動き出す円舞曲(ワルツ)

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第6話 鏡の中の20年、女王の冷徹なる愛

わたしの目の前に、微笑して手を差し出す男性。

ラディと、背後のポワンに鋭い目線を投げかけたのを、わたしが気付かなかったと思っているのだろうか。


この人は、わたしを『祝福の女神』だと知っているはず。

この人だけじゃない。

ここにいる皆。みんな、知ってる。

だけど、本当のわたしの力を知らない。


わたしは、ラディを見上げた。

彼は、汚れない海の色の瞳をわたしに向けて、小さく頷いてくれた。


前に、ラディ言ってくれた。


『彩花は、彩花らしくいて。そのために、俺がいる』


あの言葉は、今もわたしの中で生き続けている。


レーリアとして生きてきた、アステリアでの記憶を無くしたわたしにも。

レーリアの記憶を取り戻して、まだ戸惑っているわたしにも。

幼い日の約束を守って、傍にいてくれるあなたの暖かい言葉が、どれくらい心強いか。

あなたがいるから、わたしはわたしらしくいられる。


やっと、それに気付いたの、ラディ。

だから、わたしらしく。


わたしはにっこりと微笑んで、ハシバミ色の髪の男性の手を取った。


「私の名は、シーガルと申します。現王セリカ様の父君の兄弟の血筋の者です」


紳士的に、わたしを外へ待たせた馬車へとリードしてくれるけれど。

その笑顔の裏に、何が隠されているのか。


忌まわしい、微笑みの力。

わたしに宿された魔力を使えば、このシーガルとかいう男の考えを読み取るなど造作もない。


重い。

苦しい。

わたしに圧し掛かる、負の感情。


この場で、それを明かすのは簡単だけど。

だけど、それより先にやることがある。


わたしは、胸元にしまった、お父様から預かった『言玉』を、服の上からぎゅっと握り締めた。


ティリシア城は、どこか作りかけのような印象があった。

あの、サクラダファミリアみたいな、そんな感じ。


アステリア城は、ヨーロッパに立つ古城のような、そんな城。


そしてフォーティニア城は、それらの城とは違い、ううーん、何ていうか。

ちょっと大きな、飾りの多いショッピングモール的な建物とでも言えばいいだろうか。

大きな敷地いっぱいに広げた感じの、フォーティニア城。


中を通されると、中央に広場があり、そこに噴水とかテーブルとか置いてあって。

その広場を取り囲むように、建物が建っている。

ゴチャゴチャとややこしい作りのアステリア城と違って、割と簡素な作り。


「この国は、商人や他国の旅行客の出入りが激しいので、城もある程度開放しているのです。避暑地としても有名ですので、フォーティニアは」


そう説明してくれる、シーガル。

彼はにこにこと笑って、わたしの腰にさりげなく手を当てて。

以前のわたしだったら、絶叫を上げて逃げ出すけれど、もう大丈夫。


男の人、怖くない。

怖くないけど、あなたの笑顔の裏の闇が、本当は怖い。

わたしに触れたその場所から、わたしに流れてくる感情の黒さに、本当は蹲ってしまいたい。

だけどそれを顔には出さずに、わたしもにっこりと微笑んだ。


「とても過ごしやすい、素敵な国ですわね。城の作りも明るく開放的で、素晴らしいと思いますわ」


わたしの答えに、シーガルは満足そうに頷いて、城の奥へと案内してくれた。

ラディとポワンは、わたしの後を着いて来てくれている。


大丈夫。

わたしは、一人じゃない。


玉座の間へ通されたわたし達は、その奥にある会議室のような場所へと入っていった。

先に到着したフォーティニア王……わたしの母と大臣、他の数名は、すでに席についていて。


大臣は、わたしを見るや慌てて立ち上がった。


「レーリア様、わが国へようこそいらっしゃいました。しかしながら、いらっしゃるのでしたら、ご連絡を頂ければ、お迎えに上がりましたのに」


「ええ、申し訳ございません。急に決まってしまったことですので。ティリシアのことは、まだご存知ではありませんね?」


だって、この数日のことだもの。

ティリシア城に、攻め入ったのは。


大臣とシーガルは、顔を見合わせて、そしてわたし達に席を指し示しながら咳払いをした。


「ええ……ティリシア国王の妹君が、なにやらクーデターを起こしたと。その情報は入ってきておりますが、その先は分かりかねますな」


「そうでしょうね。では、ご説明いたしますわ………」


わたしは、わずかに後ろを振り返った。


ラディとポワンが、二つの扉それぞれの前に寄りかかって立っている。

二人の目線は鋭く、室内を見渡していて。

わたし達のほか、誰もこの部屋へと入れない構えだ。


ママさんは、そんなわたし達を心配げに見つめてくれているけど……お願い。

もう少しだけ、あの弾丸トークを我慢してね、ママさん。


由利ちゃんが、ティリシアの貴族大半を召抱えて、クーデターを起こしたこと。

ティリシアの王、そしてそのすぐ下の妹は巨額の闇から生まれた金を手にしており、それがティリシア経済を逼迫していたこと。

その反感から、ティリシアは由利ちゃんを次代の王として選び、結果大半の貴族が由利ちゃんの味方についたこと。


だけど……


由利ちゃんは、本当は騙されていたこと。

由利ちゃんは、レクサスという男の駒の一つに過ぎなかったことを、フォーティニアの面々に伝えた。


「なんにせよ、ユリシーダ王女がアステリアを動乱へと導きかねなかったことは事実。王女には、それなりの処罰をもって断じ、その上でティリシアをアステリア国の属領にすることを決定致しました」


「ティリシアを!?」


「アステリア国の属領に!?」


ざわめく大臣達。

それはそうだろう。

アステリア国が、いくら皇帝陛下のお膝元とはいえ、ずっと長い間続いてきた4国共存。


その一つが、今消えてなくなろうとしている。


「ここに、皇帝陛下の勅令の書類がございます。すでに、我が兄イスランと、ミネリア王の承認は得ています。あとはフォーティニア王の承認を得られれば、ティリシアはアステリア国の属領として、領主選抜の国民投票を行う手はずとなっています」


「国民投票……なあに、それは」


選挙という制度自体が、古き時代に失われていたアステリアにとって、ママさんが知らないのも無理は無い。


わたしが説明すると、ママさんは眉を寄せて考え込んだ。


そうよ、ママさん。

考えてみて。

この話は、わたし達の未来にも繋がるのよ。


ママさんとお父様が、傍にいられる方法。


わたしは、フォーティニアの王になるつもりも、結婚するつもりもない。

でも、フォーティニアの直系がわたし達家族の他にいないのなら。

このわたしの出した結論は、決して不自然じゃない。


その話に繋がるの。

よく、考えて?


「レーリアちゃん」


わたしをまっすぐに見つめたママさんの眼差しは、強く。

さっきまでとは違う。これが王の貫禄なのだろうか。


「ユリシーダ王女は、あなたの知人ね。だから、あの子を後押ししているの?」


「違う、違います。由利ちゃんこそ……ユリシーダ王女こそ、ティリシアを統べるのに相応しいと思っています。残念ながら、方法を間違えてしまったけれど。だけど、国民の支持を得て、領主となるべくは彼女しかいないと信じています」


キラキラと輝く瞳は、わたしの心の奥底を読む力があるような気がして。

わたしは嘘をつきたくなかった。


心からの、わたしの言葉。

伝わって欲しい。

ぎゅっと目を瞑って、ママさんの返答を待った。


静かに流れる時間。

凄く、長く感じた。


「……いいでしょう。レーリアちゃんがそういうのなら、任せてみましょう。アステリア国に、ティリシアを。そしてその、国民投票とやらの結果も、とても興味あるわ」


「陛下!」


「そんな、簡単に!! 一つの国が、他国に吸収されるのですぞ!?」


口々に言う大臣達に、ママさんは鋭い眼差しを向けた。

とたんに口をつむぐ大臣達。


ママさん……あんなにおしゃべりで、テンション高めで。

感情豊かなんだけど、しっかりと国王やってるんだ……。


妙に感心してしまったわたしに、ママさんはにこりと笑って、わたしに手を伸ばした。

その手に、お父様からの書簡を手渡す。


さらさらとサインをしながら、目線を書類に向けながら。

ママさんは、わたしに言った。


「ねえ、レーリアちゃん。ミネリアの王子とはどうなったの?」


「えっ! ど、どうって……」


まさかここで、ソルトの話題になるなんて思ってもみなかった。

ああ、後ろでラディが不機嫌なオーラを発しているのを感じる。


「あの子、結構イケてるじゃないのぉ。ママ的には好みよ? 元気いっぱいっていうか。直情的っていうか。それに体術も心得ているようだしね。ラディ、あなたとミネリア王子、どちらが一体強いのかしら? その辺も興味あるわぁ。ルックス的にも間逆でいい勝負だし。ねえポワン、どう思う?」


サインをしながら、ペラペラとしゃべり始めたママさん。


あああ、始まってしまった!?


急に振られたポワンは、佇まいを直し、ママさんとわたし、そしてラディを見比べて困ったように眉を寄せた。


「ええと、あの、アタシが口を挟める立場ではないことは、皇后陛下にはご承知でらっしゃると思うんですけど……ええ!? それでも言え、ですか? 参りましたね、困ったな………アタシはラディといる時間の方が多いですし、それにミネリアの王子様も突然現れて突然消えたりするので、掴みどころが無かったりしますから、ええと……」


まさかここで余計なことを言うわけにもいかず、ポワンが言いよどんでいる。


ママさん!?

何が狙いなの、突然、こんな……。


「レーリアちゃん」


ママさんの眼差しが、ぴたっとわたしに向けられた。


「はい……?」


「決めてしまいましょう。もう、逃げられないわ。私はね、ずっとあなたの成長を見守ってきた。あなたの地球の部屋であった鏡、繋がっていたのはあなたの部屋だけじゃないのよ。私も、あなたを見てきたの。その上で、あなたにはフォーティニアで幸せに暮らしてもらいたいのよ」


そう言って、ママさんは懐から手鏡を取り出した。

赤い塗りの、小さな手鏡。

わたしに見せてくれると、……ああ!

地球のわたしの部屋が映されている。


ここにも、わたしを見張っていた人がいたとは……。


もう、逃げられない。

確かに、そうかも。

逃げないで、ちゃんと結論を出して、そして帰ろう。


ママさんのその手鏡に映ってる、わたしの部屋へ。


「ラディ」


わたしが呼ぶと、ラディはわたしの隣まで来てくれた。

香る、あなたのスパイシーシトラス。

それだけで、安心する。


だけど、今は。

わたしはラディの軍服の裾を、ぎゅっと握り締めた。

僅かに目を見開き、わたしを見下ろしたラディは、ふわりと笑ってわたしの背中を優しく撫でてくれた。


うん。

ありがとう。

大丈夫。


あなたからわたしに流れてくる気持ちは、暖かいものばかり。

だからこそ、傍にいてもらいたい。

わたしを、包み込んで。


わたしはわたしの未来を守るために、真っ直ぐに前を見据えた。

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