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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
決戦の協奏曲(コンチェルト)

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第5話 託された指輪、下された勅命

由利ちゃんは、取りあえず一つのテントにいてもらうことにした。


軟禁……というと、言葉は悪いけれど。

由利ちゃんのあの状態では、逃げるとはとても思えなかったけれど、一番由利ちゃんが自分で自分の命を絶ってしまうのではないかということが、怖かった。


イスラン兄さんに言われて、気持ちの変化があったみたいだから、大丈夫だとは思うけど……。


もう、後悔したくない。


すでに、ティリシアの貴族が、数人亡くなってしまった。

わたしは、誰も死んでもらいたくなかった。

だけど、……結果がこれだ。情けなくて、切なくなる。


由利ちゃんの元には、ポワンを残している。

きっと彼女の弾丸トークは、由利ちゃんを元気づけてくれるはず。


そして今、わたしはイスラン兄さんとシェニム兄さんと、同じテーブルについていた。

ここは、アステリア軍の本営。

さっき、イスラン兄さんが蹴り飛ばしたテーブルの上には、ワインと簡単なつまみが並べられている。

これが、今日のわたし達の夕食。


「さて、ユリシーダ王女の処遇ですが」


シェニム兄さんが、静かに切り出した、その時。


「失礼します。『蒼の疾風』隊帰還しました」


声と同時に、テントの入り口が開く。

現れたのは、ビターチョコレートの色の髪に、汚れない海の色の瞳の持ち主。


その隣には、銀色に近い金髪を短くし、栗色の大きな瞳の、可愛い女の子と見紛う隊士が並んでいた。


ラディとサーシャが、戻ってきた。


わたしは、胸がドキドキして止まらなくて。


すごく、会いたかったの、ラディ。

会いたかった。

そして、たくさん話をしたい。


だけど、今はその時じゃない。分かってる……。


ラディはちらりとわたしに目線を向けたけれど、すぐに兄さん達へと頭を下げた。


「申し訳ございません。レクサスを、取り逃がしました」


逃げ切ってしまったのね……すぐのことだったし、簡単に捕まると思っていたのに。

一体、どこに逃げたのだろう……。


シェニム兄さんは肩を竦めて頷いた。


「そうですか、まあ仕方ない。『蒼の疾風』が取り逃がしたのでしたら、そうやすやすとは見つからないでしょう。いずれにしても、アステリア全土に指名手配をします。その手配は、城でぬくぬくとしている老中達へ任せるとして」


シェニム兄さんは、一旦言葉を切り、サーシャに労いの言葉をかけると、侍女を招いてラディのためにワインを運ばせた。


サーシャが一礼をして退出しようとするのを、わたしは思わず立ち上がって止めた。


「待って、サーシャ! これ、返さなくちゃ」


そう言って手に嵌められた指輪を外した。

蒼い綺麗な石のついた指輪。サーシャから、借りたままだった。


手のひらに載せ、差し出したわたしを見つめていたサーシャは、にこりと笑って首を振った。


「それは、レーリア様に差し上げたものです。どうぞ、お持ちください」


「え、でも……」


「お持ち頂いていて欲しいんですよ」


サーシャは広げたわたしの手を、剣だこのついた手のひらで包み込んで。

ああ、やっぱりこんなに可愛らしいサーシャも、剣を握ることに慣れた手をしているのね。

ぎゅっとわたしの手を握らせた。


「受け取ってやって、レーリア。俺の隊の連中も、きっと喜ぶから」


ラディは柔らかく微笑んで言った。


いいの、かな。わたしも出来たら、持っていたい。

『蒼の疾風』のみんなに、わたしを認めてもらったみたいで、嬉しいもの。


わたしはサーシャに頷いて、そしてもう一度、その指輪を嵌めた。


「ありがとう、サーシャ」


「いえ。それじゃ隊長、他のやつらに休憩を取らせてきます」


「ああ、頼んだ」


サーシャは深くわたし達に一礼をし、テントを後にした。


残されたわたし達は、再びテーブルを挟んで向き合う。


「では、先ほどの続きを。ユリシーダ王女の処遇ですが、皇帝陛下から、今しがた勅令が下されました」


早い!


いつ、お父様と連絡をつけたんだろう。

あ、シェニム兄さんが、一人でテントを出たときかな。さすが、素早い……。


それにしても、由利ちゃんは、どんな処罰を下されるのだろう。

何だか、怖い。


わたしが手を膝の上で握り締めていると、わたしの手の上に、暖かいものが。


ふと見上げると、隣に座っていたラディが、真っ直ぐシェニム兄さんを見つめたまま、わたしの手を握ってくれていた。


わたし、震えてた。


わたしは、由利ちゃんのことが大好きだし、今も彼女を信じているけれど。

彼女の犯した罪は、大きいことは分かってる。


それに対して、どんな罰が下るのか、怖かった。


ラディは、わたしに触れた手に、少しだけ力を入れて。

まるで、わたしを励ましてくれているようで。


ごめんね、ラディ。

疲れ果てているはずなのに。

心配ばかり掛けて、ごめんね。


でも、勇気が湧いてきた。

どんなことになっても、由利ちゃんを守る勇気が。


「皇帝陛下は、ユリシーダ王女が起こしたクーデターの発端に胸を痛められています。結果的に、ティリシア貴族の大半が、このクーデターに賛同した。ということは、現ティリシア王が、人心を掌握していないということです」


「だな。まあ、あんまりいい噂聞かねえしな、あの三姉妹は。クーデター起こす前は、末娘の行方が分からなくなったとか言ってたけど」


「分からないはずです、地球にいたのですから。その間にも、王たる長女、そして補佐役の次女はお互いを常に牽制し合っていましたしね」


そうだったのか…………。

力って、怖い。


その魔力にとりつかれれば、全てを捨ててでも手に入れたくなる。

そして手に入れれば、決して手離さぬように策を弄してでも守りに入る。


力は、人の心を壊す。


それが例え、血を分けた肉親であっても。自分以外はきっと全て敵とみなす生き方しか出来なくなるんだろう。


それが、今の由利ちゃんのお姉さん達。

だから、クーデターを起こし、失敗に終わった由利ちゃんの命を欲しがったんだ。


「ティリシアは、もはや国家として壊滅状態です。王は、人民に見離された。その結果が、今回のクーデターです」


「まあ、そうだな。だが、ユリシーダ王女を、王に据えるか? それは他国が黙っちゃいねえだろ」


うん、イスラン兄さんの言うとおりだ。

由利ちゃんは、このまま王になってはいけないと思う。

彼女が王冠を被るならば、彼女らしく……レクサスの策略なんかに乗せられなくったって、ティリシアの人たちは由利ちゃんの味方になってくれるだろうから。


国民の支持を、正しく受けて、王になってもらいたいよ。


わたし達を見渡したシェニム兄さんは、どこからか一枚の書状を出した。


折りたたまれ、蝋で封印された書状。その印は、アステリア皇帝。お父様の印だ。


「ここに、皇帝陛下の下された勅命が書いてあります。読み上げますよ」


シェニム兄さんの白い手が、封を破る。


そして広げたその書状の内容は。



ティリシアを、一時アステリア国の属領とする。

領主を据えるのが望ましいが、現王の支持が著しく下降し、図らずも反逆を起こしたユリシーダ王女への支持が逆に上昇しているのを踏まえ、現王とユリシーダ王女のどちらを領主に据えるかを、国民投票にて決定する。


なお、ユリシーダ王女の処遇については、以下の通りにする。


今回、アステリア全土を混乱に招いた行動に対し、アステリア国、ミネリア国、フォーティニア国各国に謝罪を述べ、アステリア皇帝に忠誠を誓うこと。


国民投票に先駆け、国民の支持がその魔力の高さではないことを証明するために、永遠に魔力を封印すること。


「とまあ、こんなところですかね。一時と表向きにはしてありますが、これで実質ティリシアはこの先ずっとアステリア国領土になります。だからこそ、ユリシーダ王女の罰もこれだけで済むわけですが」


書簡を折り畳んだシェニム兄さんは、軽く肩を竦めた。


「ユリシーダ王女だけではないですよ。彼女の姉達も、税率を不当に上げて、相当私腹を肥やしているようです。それが支持の低下に直結していると判明しているので、彼女達の隠し財産を洗い出すと、うちの老中達は意気込んでます」


凄いな……。


アステリア国の老中は、アステリア全土を掌握していなくてはならない立場にある。

他の国の貴族達とは、やっぱり一線を画してる。


今回の事件をチャンスに変えて、ティリシアを皇帝の手に入れさせた。

少しぞっとするほどの速さで。


「それにしてもよ、魔力を封印するって、しかも永遠て……レーリアに掛けさせるのか? まあその方が、あの小娘にとっちゃ身体の負担も軽減されていいだろうけど」


由利ちゃんは、一気に魔力を使いすぎた。

もう少しわたし達が突入するのが遅ければ、レクサスによって更に使い魔を増産させられて。

命を落としかねなかった。


そのことを、イスラン兄さんは言っているのだろう。


でも、封印が解けたばかりの今のわたしが、永遠に由利ちゃんの魔力を封印できる自信なんてない。


そのことを告げようとしたら、目の前のシェニム兄さんがふいに手を翳し、わたしを止めた。


わたしが目を見開くと、シェニム兄さんは、にやりと笑った。


この人の悪い笑み。変わらないなあ……。


「私に、一つ作戦があります。一挙両得とは、まさにこのこと。私としては、ユリシーダ王女が領主に収まってくれた方が、色々と扱いやすいというものです。どうも現王は苦手で」


「へえ、シェニムにも苦手な者がいたのか」


意外そうに、ラディが眉を上げると、シェニム兄さんは大きく首を振った。


「現王の香水のきつさには、辟易としていたんですよ。さて、ではその前に、この勅令を発動させるためには、ミネリア王とフォーティニア王の承認が必要です」


わたしが首を傾げると、隣のラディがそっと教えてくれた。


ティリシア国をアステリア皇帝の属領とするためには、他国の承認が必要だと。


まあ、そうよね。そんなことを勝手に決めてしまったら、他の国が黙ってないだろう。


「ということで、幸いなことにここはミネリア領土。ラナディート、部下の者を遣いにやりなさい。王に、とっととこちらへ参りなさいとね」


何て偉そうに!

仮にも向こうは、一国の王様なのに。


シェニム兄さんは澄ましてワインを口に運んだ。全く神経が太いったら。


「『祝福の女神』に会わせてやると。そう言えば、すっとんで来るでしょう」


「わたしをダシに使うつもり!?」


なんてこと! わたしが立ち上がって憤慨すると、シェニム兄さんはわたしの口に、チーズの塊をちぎって放り込んだ。


うっ!


吐き出すわけにいかず、しゃべれなくなってしまった。


「あなたはにっこりと笑っていればそれでよいのですよ、取りあえずはね。王の承認印さえ貰えれば、それでいいのですから」


全く、全く! 何て腹黒なの!


シェニム兄さんは、わたしの微笑が幸せになれる象徴だということまでも利用しようとしている。

利用されてしまう側のことも、考えずにね!


もぐもぐとチーズを口に入れながらも反論しようとしていたわたしに、ラディは苦笑して頭をぽんぽんと撫でた。


「まあ、俺達がいるから、大丈夫だろう。サーシャに行かせよう。何だかミネリアの嫡男と仲良くなったようだし」


仲良くなったのかな? だったら嬉しいけど。


今回のことで、ティリシアは今後永久にアステリア国皇帝直下の属領になってしまったけれど。


でも、それでも由利ちゃんの居場所は、ちゃんと残す決断をしてくれた。


きっと、大丈夫だよ、由利ちゃん。

ティリシアの人たちは、あなたを支持し続けてくれると思う。


例え、魔力がなくなっても。


わたしは知ってる。


由利ちゃんに、魔力があるなんて知らなかった頃から、あなたの魅力をたくさん知っているよ。


レクサスの行方は気になるし、不安だけれど。

でも、まずはティリシアの国民のために。


あまり、政治のことは得意じゃないけれど。

それは、兄さん達に任せるとして。

わたしは、由利ちゃんのことを考えていこう。


由利ちゃんが、国民選挙に名乗りをちゃんと上げてくれるのか。

そこが心配なんだけど……じゃなければ、現王が領主となり、今までとさほど変わらない状態になってしまう。


わたしの不安は、シェニム兄さんの目にはお見通しだったようで。


「レーリア、心配することはありません。全て、うまくいきますよ」


そう微笑むシェニム兄さんに、今は全て任せるしかない。

わたしは小さく頷いて、ラディを見上げた。


「きっと、大丈夫。大丈夫だよ」


ラディも、傍にいてくれる。

うん。大丈夫だよね。

きっと、大丈夫。


わたしは大きく頷いた。

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