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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
決戦の協奏曲(コンチェルト)

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第3話 共鳴する魂、崩落の終止符

レーリアの記憶が、彩花に戻った。

封印が、解かれた。


身体を強張らせた彩花の周囲に、白い(もや)が掛かり、彼女は身体を硬直させて仰け反り。

俺が呆然とその姿を見つめている中で、彩花は身体を戻して顔を上げた。


靄が全て取り払われた時、彩花の髪は、あの焦げ茶色ではなく、けぶるような金髪に。

眼差しは、強く、意思を持って。

レクサスを見上げた視線に、一点の曇りも無い。


レーリアだ。


この時の俺の感情を、どう表せばいいのだろう。


ずっと待ち望んできたレーリアが、俺の目の前にいる。


約束を、守ったよ。


そして、これからも守り続け……護り続ける。きみを。


俺の全てを、きみに。


「レーリア……」


思わず呟いた俺に、レーリアはふわりと柔らかな笑みを浮かべた。


「ただいま、ラディ」


お帰り、レーリア。


お帰り。


そしてレーリアは、俺に両手を翳した。


「わたしの力を、受け止めて!!」


俺に託してくれた、きみの思い。

ユリシーダを、アステリアを大切に思うきみの気持ちに応えよう。


レーリアは、俺だけのものじゃない。

そんなこと、分かっていた。


今、ユリシーダはきみを必要としている。

その彼女を、心から救おうとしているきみに。


俺が、できること。


俺の剣になだれ込む、レーリアの力は凄まじく強く重く。


「ぐっ……!!」


手が、痺れる。

地球で、同じようなことがあったけれど、あの時の比じゃない魔力の強さ。


駄目だ。支えきれない。

魔力の少ない俺では、レーリアの力を受け取れ切れない…………!!


剣を取り落としそうになった俺に、再びレーリアの声が聞こえた。


「ラディ、わたしを見て!」


緩やかに靡く金髪。

着ている衣服は、『蒼の疾風』。


レーリアは、真っ直ぐに俺を見つめてふと微笑んだ。


「わたしを、受け入れて。あなたの中に、わたしを」


受け…………入れているよ。


俺には、ずっときみしかいなかった。


例え力を失っても。

記憶を無くしても。


きみの中で、俺が消え去っていたとしても。


俺には、ずっときみだけだった。

きみだけを、愛してる、レーリア。


だから、俺はきみを護り、きみの力になりたかった。


力に、なりたい。


そう思った瞬間、俺の中に、強い波動が流れ込んできた。


レーリアの魔力だ。

これが、『祝福の女神』の力…………


俺の細胞全てに、レーリアの魔力が注ぎ込まれていく。


力が、漲っていく。


受け入れ、天を仰いでいた俺は、身体の隅々までレーリアの力を受け入れて。


深く呼吸を整えると、レクサスに目線を向けた。


剣を、再び構え直した。


レーリア、きみが望むなら。

俺の全てを懸けて、戦おう。



ラディはわたしの力を正面から受け止めようとしていた。


苦しんで、剣を取り落とそうになる。

わたしは首を振り、ラディにもう一度声を上げた。


「わたしを、受け入れて」


分かってる。ラディはいつだって、わたしのことを一番に考えてくれていた。


これからも、きっと、ずっと。

わたしもね。あなたの思いに応えたい。

だから、わたしの力をあなたに。


ラディは剣を大きく振りかざし、


「やぁぁああああああーーーーー!!」


震える剣を、両手で力をこめて振り下ろした。

剣に籠められた、わたしの力。


それを目を見開くレクサスに向けて放った。


剣の先から、膨大な光が一つになり、膨張し、そしてこのフロア全体を包むような眩しい光がレクサスに襲いかかる。


「く、くそっ、…………祝福の女神、死ね!!」


レクサスの身体が、光に飲み込まれそうになる瞬間、おぞましいほどの毒意に満ちた目線がわたしを貫いた。


瞬間、わたしの目の前に、牛鳥とゾンビもどきが立ち塞がる。


それも……5体ずつ!?


今、作り出したの? これだけの数を、まさか。


わたしの首を、一体のゾンビもどきが締め上げた。


腐った親指が、わたしの顎の下をぐっと締め上げて……呼吸すら困難になる。


くるしい…………


「レーリア様!!」


悲鳴のようなポワンの声。

うっすら眼を開けると、牛鳥の斧が、わたしの目前に迫ってる。


もう、だめ?

だめ、かな。


結構頑張った、よね、わたし。


アステリアでは、女神として恥ずかしく無いように頑張った。

地球では、なるべく目立たないようにしていた。

心の見えない奥底で、わたしは女神なんだから、出来るだけひっそりと時を過ごそうとしていた。


そして時が満ち、わたしは祝福の女神として、最後には由利ちゃんの力になれたかな…………。


「彩花!!」


由利、ちゃん。


わたしが、朦朧としてそちらに眼をむけると、由利ちゃんはポワンに支えられながらわたしに手を向けた。


何を、しようとしているの?

駄目。


それ以上、魔力を使っちゃ駄目よ、由利ちゃん。


ああ、どうして泣いているの?

今、レクサスはラディが斃してくれる。

そうしたら、由利ちゃんは自由になれるよ。


ポワンは、由利ちゃんの手に、自分の手を添えて。


二人の力が重なり合って、わたしを包もうとするけれど。


魔法は、自分よりも強いものへは使えない。

だから、二人が張ってくれようとした障壁は、わたしの魔力の強さにより、張られる前にかき消された。


牛鳥の斧が、わたしの顔面を叩き潰す直前。

わたしの力全てを使って、ラディとポワン、由利ちゃんを城外へ出そうと念を籠めた瞬間。


わたしの襟首が掴まれ、ぐいと牛鳥とゾンビもどきから引き離された。

そして、ぽい、と後ろへ放られる。


「…………っ、げほ、げほっ!!」


わたしは喉を解放され、盛大に咳き込んでしまった。

背中を、誰かがさすってくれる。


「大丈夫ですか、レーリア。間に合ってよかった」


心底ほっとしたようなその声は……小さい兄様……シェニム兄さん?


涙混じりになってしまった目線を上げると、大きな背中が剣を振り上げ、ゾンビもどきを一刀両断していた。


「レーリア、生きてるか?」


生きてるか、なんて、随分ずさんな心配の仕方ね。

わたしはくすりと笑って頷いた。


「うん。ありがとう、大きい兄様」


そういうと、イスラン兄さんは一瞬眼を見開き、ちょっと照れたように笑って。

だけどすぐに他の兵士達と共に、牛鳥とゾンビもどきを相手に剣を振るった。


ラディが放った魔力を籠めた剣の力が収まると、そこにはレクサスの姿がない。


「隊長!!」


階段を駆け上がってきたサーシャ達、『蒼の疾風』に、ラディは窓の外へ指を差した。


「ユリシーダ王女を操っていたのは、レクサスという黒髪で短髪の男だ。逃げた、追え!!」


「はっ!」


「追って、彼の容姿を参謀から送ってもらう。外に逃げたのは間違いない!」


「畏まりました!!」


『蒼の疾風』隊員は、軽々と階段を駆け下りていった。


「おいおい、マジかよ~、俺運動って、実はちょっと苦手なんだよねー」


「嘘付け、敏捷性の塊のようなくせに! さっさと来い!」


ああ、そのやりとりはサーシャとソルトね?

二人とも、無事でよかった……。


でも。


逃げられた……レクサスは、牛鳥と、ゾンビもどきを捨て駒にして、逃げたのか。


やるせない気持ちと、憤りが混じってわたしを包み込む。

そんなわたしを、誰よりも深い色の蒼い瞳が、覗き込んだ。


「レーリア、私にレクサスとやらの容姿を送り込みなさい」


シェニム兄さんは、わたしに手を差し伸べた。

そうね。

やらなければいけないことが、まだある。


わたしはシェニム兄さんの手を取り、レクサスの姿を思い浮かべた。


数秒で、シェニム兄さんは頷き、そしてわたしにも彼が他の者に送った情報を伝えてくれた。


『首謀者は、この男です。名は、レクサス。草の根を掻き分けても、捕らえるのです』


この命令は、今この地にいるアステリア軍全てに伝えられた。

レクサスが囚われるのは、時間の問題だろう。


取り合えずの、危機は去った。


ラディはわたしに小さく頷き合図を送り、階段を駆け下りていった。


全ての牛鳥とゾンビもどきをやっと斃したイスラン兄さんは、わたしを心配そうに覗き込んだ。


「封印、解けたのか。大丈夫か? レーリア」


「ありがとう、でも、それよりも……」


逃げなくちゃ。城が、堕ちる。


そう言おうとした瞬間、わたし達がいた足元が、大きな音を立ててひび割れていった。


「きゃあああああーーーーー!?」


「危ない!」


由利ちゃんとポワンの声が聞こえる。

まずい、このままだと……!!


わたしはイスラン兄さんに縋りながら立ち上がり、ぎゅっと眼を閉じた。


これだけの大きな魔法を、まだ封印が解けたばかりのわたしが使ったら、どうなるか分からない。


だけど。やらなきゃ。


「この城に生きとし生ける者全て、城外へ移動させたまえ!!」


アステリア軍も、ティリシアの生き残りも全て。


「レーリア、あなたって子は……!」


耳元で、シェニム兄さんの声が聞こえる。


うん。

お叱りなら、後で沢山受けるから。

今は、許して。


目の前にいた、アステリア軍兵士やポワン、由利ちゃんが姿を消していった。


そして、イスラン兄さんや、シェニム兄さんも。


ちゃんと、移動の魔法、発動できた。

よかった。


わたしはぼんやりとそんなことを考えながら、自身も城外へと移動しながら、目の前が段々曇っていく。


気を失う直前に、わたしの目に映ったのは。


堕ちていく、何だか作りかけの城のような印象のティリシア城。


4つの国で分けられた、アステリア。


その一つ、ティリシア城が、今、音を立てて、崩れ落ちていった。

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