表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
再会の夜想曲(ノクターン)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/89

第5話 歪な執着、鏡合わせの二人

この大きな椅子が、きっと玉座なんだろう。

そこに、身体にぴったりとしたドレスに身を纏った女性が腰掛けていた。


形のいい足を、スリットからむき出しにして、優雅に組んで。

肘掛に肘を乗せ、手の甲に顎を乗せていた。


わたしとラディがその場に現れても、全く焦る様子も無い。


長い黒髪は、癖が一切無く……ああ。

おしゃれに妥協しない、彼女らしい。

今日も、化粧はばっちり決まってる。


そのドレスだって、身体の線がとても綺麗に見える。


でもね。


『男のためじゃない。女に生まれたからには、おしゃれを楽しまないとね』


そう言っていたんだもんね。


きっと、自分のためだ。

ううん。

もしかしたら、わたしのためかもね。


精一杯おしゃれして、わたしを迎えてくれたのかもしれない。


微笑んだ彼女は、組んだ足を解いて、ゆっくりと立ち上がった。


「どうしたの、彩花。泣いてる」


その言葉に、初めてわたしは、自分が涙を流しているのに気付いた。


「由利ちゃん……」


やっとの思いで、言葉を紡ぐと、目の前の女性は…………由利ちゃんは、笑みを深めてわたしに近づいた。


瞳は、燃えるような真っ赤で。

わたしを真っ直ぐ見据えている。


隣で、ラディが剣を何かにぶつける音がした。


だけど……ごめん。

由利ちゃんから、目が離せない。


「やっと会えたわね、彩花。長かったわ」


「由利ちゃん……何を、しているの? 何をしようとしているの?」


ああ、違う。

もっと、ちゃんと理論整然と話をするつもりだったのに。


頭が、真っ白になっていく。


由利ちゃんはくすりと笑って、わたしに手を伸ばした。

びくりと身体を震わせ、わたしはその手を無意識に拒否してしまった。


怖い。


由利ちゃんの真意が分からない今、この手はわたしの知っている手じゃない。

由利ちゃんは、笑みを少し寂しそうなものに変え、そのまま手を下ろした。


「何度も、あなたに触れたのに。思えば、あの時が一番私は幸せだったわ。毎日彩花と顧客巡りをして。小うるさい部長達を論破して、難しい会社を落として。二人で喜びを分かち合ったわね」


そうだね……

由利ちゃんと過ごした、地球での日々。


本当に毎日楽しくて、充実してた。

由利ちゃんに、わたし、色んなことを教えてもらった。


大学を卒業して、就職して。

初めて心を許したのが、由利ちゃんだったんだよ。

大好きだった……その思いは、今も変わらない。

だからこそ。


「由利ちゃん、もう、逃げられないよ」


わたしは意識して、強くそう言った。


「話して。どうして、こんな……クーデターなんて起こしたの?」


「言ったわよね、彩花。私は、第三王女。このままだと、王位は回ってこない。だから、あなたの力を貸してって」


言った。


だけど、わたしは由利ちゃんに協力できない。

力をただ望む由利ちゃんには。

わたしの目をじっと見ていた由利ちゃんは、くすりと笑って、目線を横にずらした。


釣られてわたしもそちらに目を向ける。


ラディが、二人の男の人を相手に、剣を振るっている。

まるで、流れるような、舞踏のような捌きで、ラディは二人相手にも負けてはいない。


そしてキューちゃんは、ポワンのきびきびとした指示で、ゾンビもどきに火を吹いている。

ゾンビもどきを、わたし達とラディの元へ行かせないよう、牽制している。


「吉田くん、ここまで彩花にご執心とはね。アステリアから地球へ来た時には、単なるレーリア様の護衛だと思っていたのに」


「ラディは……わたしの我がままで、着いて来てくれたんだよ」


「我がまま? 彩花が?」


由利ちゃんは目を見開いた。

そしてくすくすと笑い、首を振った。


「彩花は、我がままなんて言わないわ。いつも、自分を抑えてた。言いたいことの、半分も言えないで。他人の影に隠れていて、何度も悔しい思いをしてきたじゃないの」


「そんなこと……」


無い、って言い切れない。

会社に入って、一番近くにいたのが由利ちゃんだから。

わたしが入社してから苦労していた時期を、よく知っている由利ちゃんだからこその言葉。


ますます、泣けてきた。


「だから、彩花にはもっと強くなってもらいたかった。私が傍にいられる間は、あなたの力になりたいと思っていたのよ」


「……力に、なっていてくれたよ。私、依存してたもん」


それは、今も同じ。


由利ちゃんがいた頃は、由利ちゃんに。

今は、吉田くんに……アステリアに来てからも、ラディという存在に頼りきってしまっている。


情け無い、わたし。

だけど、前に進みたい。

わたし、自分の力で動いていきたい。


「彩花、それは違うわ。あなたに依存していたのは、私の方よ」


思いがけない由利ちゃんの言葉に、わたしはポタポタと涙が零れているというのに、目を見開いた。


だって……だって、あんなに自立して。

男の人相手にも、強気を隠さず持論を展開する由利ちゃんが、私に依存していただなんて。


由利ちゃんは、腕を軽く組んで、困ったように微笑んだ。


錯覚する。

地球に、戻ったみたいだ。

あの頃に、戻ったような気持ちになる。


だけど、隣でラディが、ポワンが、キューちゃんが必死に戦ってくれている。


わたしの為に。

わたしの望みは、今叶った。

由利ちゃんと、話が出来た。

そしてその会話を、持続させてくれようと頑張ってくれている。

だから、これからは、わたしの番だ。


由利ちゃんを説得する。


下の階で、まだ命を張っていてくれている皆を救出するためにも、由利ちゃんと早く、きちんと話をしなくてはならない。


冷静になるんだ、彩花。


「どうして、依存なんて。由利ちゃんは、今までずっと、わたしを助けてきてくれたじゃない」


「そうね。彩花が困らないように、全力であなたの力になった。そうすることで、私は満たされていた。あなたの力になることで、私は必要な人間なんだって、認識させてもらっていたのよ」


由利ちゃん……?


意味が、分からない。


「彩花が私を必要としてくれるならばと、地球では完璧な先輩でいようとしたわ。ところが、アステリアから来たあの男。あの男が来て、私は焦ってしまったの。彩花を、取られる。私の居心地のいい場所を、取られてしまうとね」


アステリアから来た男……ラディのことだ。


由利ちゃんは、目を眇めて、奮闘してくれているラディに目を向けた。

その赤い眼差しは、憎悪すら感じて……わたしは背筋が凍る思いだった。


こんな目をする由利ちゃんは、初めて見る。


怖い。


だけど、由利ちゃんは目線を和らげ、再びわたしに瞳を向けた。


「だから、焦って、私自身何も動いていないというのに、あなたの力を求めた。それじゃあ拒否されるのも、当たり前よね」


「由利ちゃん……」


「あの時の、レーリア様としてのあなたの力を受けて、私気付いたの。彩花に私を受け入れて貰い、私に力を貸してもらうには、私自身でティリシアを手にしなくてはならないと。だってね、彩花。私は、アステリアが欲しいのよ」


どうして。

どうしてそんなに、力を欲するの?


わたしは、こんな『祝福の女神』なんて力、いらないと思うのに。


普通の女の子で、いたいと思うのに。


「……とどめだ!!」


鋭い声に、はっと横に意識を逸らす。

由利ちゃんも、ゆったりと顔を動かすと、ラディの首元に剣が突きつけられていた。


「レクサス、その男は殺しちゃだめ。生かして捕らえるのよ」


由利ちゃんは、残酷なほど冷静に言った。


「彩花の前で、殺しちゃだめ。分かったわね?」


「……っ!!」


わたしは言葉にならない悲鳴を上げた。


何て……何て事を言うの!!


だけど、ラディは足を伸ばして、レクサスと呼ばれた、黒い短髪の男の人の足を払った。

転ばなくとも、数歩下がったその隙に、身体を回転させて離れた場所へ移動した。


とりあえずは、危機を逃れた……


「彩花」


ほっとしたわたしに、声を掛けたのは、レクサスともう一人、長い灰色の髪の男の人相手に剣を構えたラディだった。

眼差しは、わたしに向けることなく、真っ直ぐにティリシアの貴族に向けられている。


「俺は、大丈夫だから。だから、自分のすべきことを果たすんだ」


うん。


ごめんね、ラディ。


もう少し。

もう少しだけ、わたしに時間をちょうだい。


由利ちゃんの、本当の気持ちが、少しだけ見えてきた。


だから。


由利ちゃんは、絶対にわたしには嘘をつかない。

そう、信じてる。

だって、真紅に染まっているけれど、今の由利ちゃんがわたしに向ける眼差しは、あの頃のままだから。


ばーん、とわたしの背中を叩いて。


「おはよ、彩花!!」


そう笑顔を向けてくれたあの時と同じ。

だから。


わたしは深呼吸して、由利ちゃんを見据えた。

覚悟は、出来てる。


「由利ちゃん」


「なあに、彩花」


「あなたの、力にはなれない。わたしのレーリアとしての力は、由利ちゃんに貸せない」


由利ちゃんの目が、僅かに細まった。


怒らないで。

聞いて、由利ちゃん。


説得出来るだろうか。


わたしの思いを、ちゃんと伝えられるだろうか。


わたしは今、ユリシーダとレーリアとしてではなく、由利ちゃんと彩花として対峙できることに感謝した。

だからこそ、伝えられる言葉がある。


わたしと由利ちゃんの話し合いは、始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ