表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
再会の夜想曲(ノクターン)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/89

第1話 再会への、蒼き特攻服

全然眠れなかった夜が明けていく。

といっても、まだまだ日は昇らない。


わたし一人だけの広いテントの入り口から、小さな声が聞こえてきた。


「……起きているか?」


ラディだ。

耳に心地いい低い声。

わたしはこんな戦地に不似合いの、ふかふかの布団から起こした。


「うん、起きてる」


その返事を合図に、ラディがそっとテントに入ってきた。

手にしていた、ほんの少しの灯りを近くに置いて、わたしに近づいた。


そしてわたしの顔を覗き込み、小さく溜息をついた。


「やっぱり、全然寝ていないな?」


寝れるわけないよ。

興奮しちゃって、無理。


4時には、ティシリア城に総攻撃を仕掛ける。

そして先陣を切るのは、ラディ率いる『蒼の疾風』部隊。


わたしは彼らに混じって、由利ちゃんを目指して駆け抜けなくちゃならない。


……うう、大丈夫かな。

何が心配て、体力が心配だったりして……。


ラディはわたしに、折りたたんだ布を差し出した。


首を傾げてそれを受け取り、広げてみると。


紺色の軍服。それに、白いスカーフもついてる。

今、ラディが着ている服とお揃いだった。


「レーリアとばれないように、俺たちに混ざってもらう。今から、きみは『彩花』に復活だよ」


「えっ……!」


わたしが目を見開くと、ラディはふわりと笑って、わたしの髪を撫でた。


「ミネリアにも、ティリシアにもレーリアがティリシア城を攻め込むことを隠すためだ。もしレーリアだとばれたら、きみは最優先で狙われて、囚われるかもしれない。ミネリアにしても、ティリシアにしても。危険は同じだからね」


そうか……そうね。


シェニムさんの策略が、意外な方向に転がった。

どう思っているのかな、参謀としては。

悔しいのかしら。それとも、こういう事態も見越していたのかな?


「アステリア軍には、きみは『蒼の疾風』のアヤカだと言い含めてある。軍の4分の1を裂いて、レーリアの影武者をさっき、アステリア国に向かわせた。最悪、ミネリア王がそちらへ兵を動かしても、こちらの優位は変わらない。だとしたら、ミネリアは動かないだろうと我らの参謀殿は読んでいるようだよ」


そっか。さすがだなあ、シェニムさん。

わたしだったら、絶対思いつかないや。


妙に関心してしまったわたしに、ラディはもう一度、強く繰り返した。


「いいね、彩花。きみは今から、俺たちの部隊の一員だ」


「……うん」


身が、引き締まる気がする。


それにしても、精鋭部隊だというラディの部隊の仲間入りさせてもらっちゃって、何だか申し訳ないなあ。

きっと憧れている人たち、たくさんいるだろうに……。


ちゃんと由利ちゃんに会って、しっかりと話をすることで許してもらうしかない。


「わたし、出来る限り足手まといにならないように、頑張るね」


わたしが、服をぎゅっと胸に抱いてラディを見上げると、彼は笑みを優しげに変えて、両手をわたしに差し出した。

そして、その胸に抱かれた。


暖かい、広い胸。

居心地のいい、わたしの大切な場所。


「彩花、何も心配しないで。きみは、必ず俺が護る。この手で護って、ユリシーダのところへ連れて行くから」


耳元で、囁かれる声はとても穏やかで。

わたし、何も心配しなくてもいいって錯覚しそうになるよ。


でも、そうは言ってられない。

ラディの優しさに、甘えてばかりじゃいけない。


そうは言っても、わたしに何が出来るのかな。剣なんて使えないし、魔法も使えない。

全くの役立たずだもん。情けない。


「今、役立たずだな、わたしって思った?」


ラディはくすりと笑って、わたしをぎゅっと抱き締めたまま更に囁いた。


えっ、どうして分かったの!?

わたしは思わず目を見開いて、ラディを見上げた。


目の前には、沖縄で見たときのような、限りなく澄んだ汚れない海の色の瞳がある。

吸い込まれそうに、綺麗な瞳。

その瞳が近づいて、思わず目を瞑ったわたしの瞼に暖かい感触が。


「きみがいてくれるだけで、俺の力になる。俺だけの、勝利の女神…………」


祝福の、女神じゃないの?

ラディにとっては、わたしは勝利の女神なの?


大変ね、たくさんの女神をしなくちゃならないのね、わたし。

くすりと笑ったわたしの唇が、塞がれて。

わたしとラディは、薄暗いテントの中で抱き合った。



わたしが着替え終わり、テントから出ると、もうそこに『蒼の疾風』の皆さんが勢ぞろいしていた。


改めて数えてみると、ラディを入れて8人いた。

ラディと、可愛らしい女の子のようなサーシャ。それに、他の人たちも皆若い。

サーシャは他の隊員の人と話をしていたけれど、わたしの姿を見るや、ツカツカとわたしに近づいた。


少しだけ、わたしよりも背が高いサーシャ。

でも、こんだけ可愛いからかな。男の人だって分かっても、全然怖くない。


「サイズ、大丈夫だったようですね」


「え、これ、もしかしてサーシャの?」


「ええ、胸元がきつかったら申し訳ないと思っていたのですけど」


そう悪戯っぽく笑ったサーシャを、思わずわたしは睨みつけた。


もう、もう! どうせわたし、胸ペタンコだもん。


だけどサーシャは「失礼しました」と頭を軽く下げるや、わたしの手を取り、左手の中指に何かを差し込んだ。


え、何?


サーシャが手を離してから、自分の手を見ると。

小さな青い石が入った指輪が。サイズもぴったり。


「サーシャ、これ……?」


「『蒼の疾風』隊員は、皆お守りとして、蒼いものを身につける風習があるんだ。俺は、これ」


代わりに応えてくれたラディの胸元のスカーフに、確かにタイピンのような青い小さな石が光ってる。


「あたしはこれよぉ。ほらね」


サーシャの短い髪の下のピアス。

うん、それ、知ってる。初めて会った時に気付いたもの。


他の隊員の人たちも、それぞれブレスレットやネックレスなどをわたしに見せてくれた。


「さあ、アヤカ様。これであなたも、あたし達の仲間入り」


悪戯っぽく笑ったサーシャは、じっとわたしを見つめ、表情を一変させた。

そして、わたしに跪き、わたしの手を取って。

彼が填めてくれた指輪に唇を寄せた。


「誓いは必ず守ります。あなたを護る、隊長を護るのが我らの役目。そして私は、あなたに命を捧げた。あなたの望みを成就させるために、命を捧げさせていただきます」


気付けば、隊員全てがわたしの前に跪いていた。

どうしよう、どうすればいいの?


わたしの隣に立つラディは、わたしの肩を抱き、そっと促した。

言葉を、掛けろと言っているのね?


……うん、ここから、始めよう。


わたしの思いを、わたしの言葉で。


「あのね、あの……皆さん、ありがとう」


わたしの言葉に、隊員の皆さんの視線が突き刺さる。

うわ、一斉に注目されると、緊張する!


だけど、言わなきゃ。


「でもね、でも、わたしに、命を捧げないで。自分の一つしかない命だもの。絶対、大事にして。わたしのために、捨てる覚悟なんてしないで。それが、わたしのあなた達への望みなの」


へん? ぬるま湯に浸かった小娘の言葉だったかな。

だけど、わたしの為に命を捧げるなんて……そんなの嫌だ。


不安になって、ラディを見上げると、彼はにっこりと笑ってわたしの言葉を継いでくれた。


「アヤカ様の思いを忘れるな。全力でアヤカ様を護り、ユリシーダとの面談を果たすのが我らの務め。だが、命を粗末にするな。それが出来る部隊だと、俺は信じている」


「はっ!!」


「では、出立!」


ラディの言葉に、少数精鋭部隊、『蒼の疾風』隊は、ティリシア城近くの森に移動した。

特攻部隊だと言っていたから、少ないとは思っていたけれど。

隊長入れて、8人しかいないなんて、思ってもみなかった。


「もうすぐだ。時間になれば、大砲がティシリア城を撃つ。それが突撃の合図だから」


「う、うん……」


わたしは、ラディとサーシャの間に座り、力ない返事をしてしまった。


だって、だって怖い!

段々恐怖心が増してくる。


精鋭部隊だっていうから、きっと皆強い。

大丈夫だと分かってるけど。でも、怪我とかするだろうな。


あのゾンビもどき、結構力強いし、牛鳥の斧だって強力だもん。

またウジャウジャ出てきて、誰かがもし、倒されてでもしたら……


そう思うと、震えが止らなくなる。


「彩花……」


ラディが気遣わしげにわたしを覗き込み、わたしの頬に手を触れようとした瞬間。


わたしの頭を、ぎゅーっと突然抱き締められた。


「ひゃぁあー!?」


「アヤカっち、みーっけ!」


呑気な、軽いその声は!


「ソルト!?」


ああ、腕、腕がわたしの目を隠してる!!

前が全然見えないよー!?


「さっすがアヤカっち! 声だけで俺が分かるなんて。それでなくちゃ、来た甲斐ないよなー」


嬉しそうに笑う声と共に、腕がようやく外されて、わたしは顔を振り向かせた。


やっぱり。


褐色の短い髪は、ツンツンと立っていて。

今は赤茶の瞳が、大きく輝いている。


「ソルト、どうしてここに……」


言いかけたわたしの声に被さるように、緊迫した抑える声が響いた。


「貴様、全く気配を感じなかった。何者だ!」


そう言って剣を構えているのは、サーシャだ。

彼は腰を低くして、今にも攻撃を辞さない構えだった。


「待って、待ってサーシャ!」


「只者じゃありません、アヤカ様。お下がりください!」


「何だよー、いきなり。怖えなあ。俺はさ、アヤカっちの友達。友達のピンチは助けなきゃでしょ?」


「……いつの間に、友達に昇格したんだ」


苦々しげなのは、ラディ。

ラディは、ソルトが嫌いなようで、会えば警戒し、冷たい眼差しを向けている。


でも、それを全く意に介さないのが、ソルトなんだよなぁ……。


「まーまー、今は戦力が一人でも多いほうがいいっしょ? 俺、そこそこは役に立つと思うよ?」


そこそこ、どころじゃない。ソルトは相当強いと思うよ。


彼の一族は、肉弾戦を得意とするらしく。魔力は全然無いんだけど、でもその代わり身のこなし方が半端じゃない。

サーシャはラディが手を挙げて制止したのを受け、だけど眉を寄せてまだソルトに警戒しているようだ。

ソルトは面白そうに、サーシャに目を向けた。


「あれ、『蒼の疾風』って、女の子もいたんだ。メチャクチャ可愛いじゃん!」


その言葉に、サーシャは眉間に皺を寄せたまま、彼の腕をむんずと掴んだ。

そしておもむろに、自分の胸へと当てさせる。


さすがに驚いた顔をしていたソルトだけれど、すぐに困ったような笑みを浮かべた。


「いやあ、参ったな。ええと、胸の大きさの感想を言ったほうがいいのかな。ねー、アヤカっち、こういう場合、女の子ってどう言えば傷つかない?」


あのねー! ソルト、どうしてそれをわたしに振るの!


「違う! 俺は、男だ!」


サーシャが憤然として声を上げると、ソルトは口元に手を当てて「静かに~」と囁いた。

もう、もう! あなたが一番うるさいのよぉ!


「しかし、そっかあ、そりゃまあ失礼しました。俺は、シオタくんでーす。よろしくね」


全く、このふざけた自己紹介。

本当に、わたしの力になってくれるつもりなの?

ソルトの真意が図れない。


そして、背後からは何か、大きな叫び声が段々近づいてくる。


「…………ルト、ソルトー! あんのクソガキャー、また勝手にどこに行きやがった!!」


「やべ、オヤジだっ!」


ソルトはわたしの背中に、身を隠した。

……ちょっと。わたしを助けに来てくれたんじゃないの?


「ソルトー! ゴルァ、見つけたらボコボコだぞ、オラァ!!」


ミネリア王も、かなり過激なお父さんだなぁ……


そんなこの場にそぐわないことを思っていたら。



ドゴーン!!



突然地響きのような音が鳴り響き、身体が揺れ動く。


「ひゃっ!!」


「彩花、合図だ。『蒼の疾風』、突撃!!」


ラディに腕を掴まれて、立たされたわたしは、突然のことで体勢も整わないうちに走らされた。


ひゃあ、足がもつれるぅ!!


「アヤカっち、今は祝福の女神とか、そんなの忘れちゃいな」


隣を走るソルトが、ふと真剣な眼差しで言った。



…………え?


「今は、自分のやりたいことだけを、考えな。それに付き合ってくれるバカが、こんなにいるんだし。まあ俺もそうだけどさー!」


そう言って、ソルトは早速先頭に向かって走るスピードを速めた。


「全くあいつは何なんだ! お前らー!! あのヘンなのに遅れを取るなー!!」


あー……サーシャはソルトに敵意をむき出しにしてるし。


始まってしまった、由利ちゃんと対面するための突撃作戦。



誰も、失いませんように。


わたしはそれだけを祈って、ラディに引かれた手のぬくもりを感じて。


ただ、走り続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ