表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
反乱の狂詩曲(ラプソディー)     

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/89

第4話 神聖な、偶像という名の檻

あまり表情を変えないまま、シェニムさんはわたし達を陣営に連れて行ってくれた。


テントがいくつも張られていて、かがり火があちこちに設置してある。


ひしめき合ったその空間の向こうに、薄気味悪く浮かび上がった城があった。


どことなく、サクラダファミリアみたいな、あちこちが作られている途中みたいな、そんな城。

見ていて、どうもすっきりしない。作りかけで、中途半端な感じの城。

アステリア城は、そんな感じなかったんだけどなあ。


「レーリア、どうしました。取り合えず、兄上に挨拶なさい。まあ別にしたくければそれもいいですけど」


ぼーっと城を見つめていたわたしに、シェニムさんが声を掛けてくれる。

掛けてくれるけど……ずっと思ってたけど、シェニムさんてSだよね。絶対サドだ。


無表情での彼のターゲットは常に……


「レーリア、レーリアといったか!? まさか、よもや、ええい、どうでもいい! レーリアーーーー!!」


突然、バカでかい声がしたかと思うと、テントの一つから大きな身体が転げ出てきた。

華麗に一回転して、そしてぎらりと睨みつけるのは、……えええ、わたし!?


どどどどど……と音が鳴るような響きを上げて、突進してきて。


そして呆然と立ち尽くしているわたしを、ガッシリと抱き締めてくれたのは、アステリア皇帝長子の……。

わたしの上のお兄ちゃんの、イスランさん。


「レーリア、ああ、全くお前はどうしてこうも可愛いのかな! 食べてしまいたいくらいだな、なあ、ラディ!?」


「え、あ、ああ……」


「何だー!? その生気のない返答は!! ま、まさかオレの最愛の妹が、食べてしまいたいくらい可愛いと認めたくないのか!」


うう、やめて。


何だ何だと、他の兵士さんが顔を出してこっちを見てるよ。

それを、食べたいだ、食べたくないだ……わたし、どうしていいか分からないよぉ!


だけど吉田くんは、わたしとイスランさんを見比べるや、漆黒の髪を掻き揚げて、小さく溜息をついた。


「可愛いよ。可愛いに決まってるじゃないか。だけどそれを、他の者にアピールして、それが何になる?」


可愛いって……


ドッカーン!と音が鳴るんじゃないかと思うほど、わたしの心臓は音を立てて打ち鳴ってる。


吉田くんが地球に来てくれるまで、わたしは散々他の人に、「地味」だとか「大人しい」だとか、そんなような形容詞しか与えて貰えて無かったから。


吉田くんみたいな、かっこいい人が普通に「可愛い」なんて言ってくれることに慣れない。

うん、きっとずっと慣れない。うわー、思い出しただけで赤面する。


「で、ちゃんとしっかり兵士を休ませているでしょうね? 闇に紛れて動き出す馬鹿はいないでしょうね」


わたしの頭をぽんと撫で、シェニムさんが一歩前に出た。


イスランさんは、軽く肩を竦めて頷いた。


「ああ。命令は徹底させているからな。鬼の参謀に逆らったらと、皆怯えてるさ。ある意味、統率は取れてるな」


そう明るく笑っているイスランさんの、右肩から血が滲んでる。


え……怪我!?


わたしはびっくりして、シェニムさんと歩き出したイスランさんに駆け寄った。


「あの、イスラン兄さん、ここ……!」


「あ? ああ、かすり傷だよ、名誉の負傷だ。気にすんな」


イスランさんは笑っているけど、でも、血、出てるし!!

白い服に滲んでるくらいだもの、深いのかも。


「そうです、レーリアが気にすることはありません。司令官のくせに、前線に常に出ようとする、この馬鹿がいけません」


「馬鹿!? お前今、馬鹿って言ったか!?」


「おや、空耳ではありませんか? 耳まで遠くなるとは、兄上もお年を召されたようだ」


「待てー! お前な、兄に向かってジジイ扱いはよせ!」


「あの、あの。手当て、した方がいいと思うんだけど、えっと……」


勃発した、いつものじゃれ合いを止めながら、思わず横から割り込んだ。


わたしが出来ることってあるのかな?


手当てって言ったって、わたしそんなこと、したことないし。

どうしようかと迷っていると、吉田くんがわたしの背を軽く叩いた。


「あや……」


言いかけて、シェニムさんの鋭い視線を察し、吉田くんは咳払いをして言い直した。


「レーリア、しばらくイスランとシェニムの元にいて。俺はちょっと俺の隊の様子を見てくる」


ああ。『蒼の疾風』ね?


吉田くん、そこの隊長さんなんだし、わたしなんかよりも、もっとそっちを見てなくちゃ駄目なのに。

でも、吉田くんは、わたしを護りに地球に来てくれて……わたし、吉田くんを独り占めしちゃってる?


『蒼の疾風』隊の皆さんに、ご挨拶すべき!?


悶々と考えていたわたしの肩を、軽く叩いて吉田くんは去っていってしまった。


その後姿が、何だかわたしの知っている吉田くんじゃないようで……緊張感が、走っていて、スーツ姿なのに、この戦場に、すでに溶け込んでいるその姿に、わたし、何だか……


一人、取り残されてしまったような気分になる。


戦場……この、雰囲気に呑まれてしまっているわたしと、慣れている様子の吉田くん。

実際に、戦争をしたことはないって言っていたけど、でも訓練しているんだもんね……。


ううん、駄目だ。

こんなことで、思い悩んじゃ駄目だ。

わたしは色々考えて、すぐに落ち込んじゃうから。それが、わたしの悪いところ。


わたしは頭一つ振って、傍にいた兵士さんに目を向けた。


まだ若い、少年のような兵士さんは、わたしの眼差しを受けるとびくりと身体を震わせた。


「救急箱、あったらお借りしたいんですけど。お願い出来ますか?」


なるべく、驚かさないように、優しく言ったつもりだったのに。

その男の子は、みるみるうちに、大きな瞳を潤ませて、涙を浮かばせた。


えええー!?


わたし、声を掛けただけで泣かしちゃった! どうしよう!!


「あの、あの、ごめんね?」


おろおろして、わたしがその子に謝っていると、イスランさんといつもの調子でやりとりしていたシェニムさんがやってきた。


「どうしました、レーリア」


「あのね、ごめんね、わたしそんなつもり無かったんだけど……」


「いえ、申し訳ありませんでした」


男の子は、ぐいと涙を拭ってテントに入り、そして大きな箱を手にして戻ってきた。


そしてわたしに跪き、それを差し出してくれた。


「どうぞ、お受け取りくださいませ、レーリア様」


恭しいその姿に、わたしは思わずぽかんとしてしまった。


「え、えーと……?」


どうしていいか分からずにいると、男の子の目が、またしてもウルウルと……


わーん、どうすればいいの!?


わたしがパニックになりそうになると、笑いを堪えたようなシェニムさんが、わたしの手を取ってその箱を受け取らせた。


「レーリア、彼はあなたに声を掛けられて感動しているんです。悲しくて泣いている訳じゃありませんよ」


「え、感動って、何でぇ!?」


「あなたが、祝福の女神だからです」


祝福の女神……そうだよね、レーリアはそう呼ばれているって、聞いてた。

だけど、声を掛けられるだけで泣くって、どんだけ!?


シェニムさんは、わたしが救急箱を抱き締めるのを見て、自分の腕を軽く組んで目を細めた。


「あなたの言葉すら、祝福をもたらす。そう信じられているのです。あなたのその力に皆あやかりたいのでしょうね」


うーん、どこかのインチキ宗教の教祖様みたいだなあ。


わたしが困ってしまっていると、シェニムさんはわたしを促している。

あ、イスランさんの方に戻るのかな。

わたしは慌てて、その男の子にお礼を言うと、男の子は感極まったのか、わんわんと泣き出してしまった。


ええーん、わたしがいじめちゃったみたいだよう。


何だか悪いことをしてしまったような気分でいると、ふと視線を感じる。


周囲の兵士さんたちが、皆わたしを見てる。

その眼差しに、悪意はない。

皆、わたしを崇めているかのような、そんな眼差し。


アステリア城の人たちは、わたしを見るときには、暖かい見守るような眼差しだったのに。


城内の人たちと、城下の人たちとの差なのかな……何だか、そんな目で見られても。

わたし、何も出来ないのになあ……。


わたしは身体を小さくしながらも、シェニムさんに連れられたテントの中に入っていった。

そこでは、イスランさんが地図のような紙を指差して、部下の人たちに指示を出している。


あ、すごい。本当にイスランさん、司令官なんだ。


何だかシェニムさんにやられちゃっていたり、わたしにニコニコと笑いかけてくれる姿しか見ていないから、毅然としたイスランさんが、とっても格好良く見える。


「……だがいいか、決して単独行動を取るなよ……何だ、どうした? レーリア」


イスランさんが、わたしとシェニムさんに気付くと、部下の人に一言、二言声を掛け、手を振って彼らを退出させた。


部下の人たちは、わたしの隣を通り過ぎるときに、わたしをちらりと見るや、瞳の色を変えている。


ああ、やっぱり。

神様でも見るような、そんな眼差し。


辛いな……。


「レーリア?」


シェニムさんはわたしを覗き込み、そしてわたしの背中に手を当てた。


あ……いけない。


ここは、戦場。大変な思いをしているのは、今、わたしじゃない。

他の人たちに、余計な心配をかけちゃ駄目だ。


わたしは首を振って、無理に笑顔を作ってイスランさんの前に膝をついた。


「イスラン兄さん、傷、見せて? 手当てしなくちゃ」


「いやいや、大丈夫だ。本当にかすり傷だから」


「ううん、駄目よ。ちゃんと消毒しておかなくちゃ」


わたしがイスランさんの服に手を掛けると、テントに数人の女性が入ってきた。

皆、他の兵士さんと同じ服を着ている。女性の兵士さんなのかな?


「レーリア様、こちらにおいででしたか」


「どうぞ、あちらでごゆるりとお休み下さいませ」


そう口々に言い、わたしの前に跪く。

わたしはびっくりしてしまって、持っていた救急箱を胸に抱き締めた。


「え、あの、でもわたし、イスラン兄さんの……」


「まあ! レーリア様がそんなことをなさらずに」


「わたくし達に、お任せ下さいませ」


「さあ、あちらに」


わたしは、女性の一人に救急箱を奪われてしまった。


助けを求めて、イスランさんに目を向けたのに、彼はわたしから箱を奪った女性にもう手当てを受けさせられている。

強引だけど、素早いその手つき。

素人のわたしがやるよりも、ずっと手際がいいけど、でも……わたしが、やりたかったな。


「さあ、参りましょう、レーリア様。こんな場所ですから、充分なおもてなしは出来ませんが」


わたしの手を取った女性に引っ張られながら、わたしは半泣きになりそうになり、シェニムさんの姿を探した。


「シェニム兄さん……!」


シェニムさんは、テントの端で、腕を組んでわたしの姿をずっと見ていたようだ。

わたしの声に気付き、腕を解いた彼は、無表情のまま薄い唇を開いた。


「明日まで、休んでおいでなさい。明日、皆の前であなたが一時帰還したことを報告します。その後、再びティリシア城に攻勢を仕掛けます。全ては明日からにしましょう」


「でも……」


「お休み、レーリア」


シェニムさんは、有無を言わさぬような口調でわたしに告げ、わたしに背中を向けてイスランさんと何かを話し始めてしまった。


わたしは、そのまま女性兵士に連れて行かれ、先ほどのイスランさんのテントよりも少し小ぶりな、だけど綺麗な飾り付けをしてあるテントの中に入らされた。


奥に作られた、沢山のクッションの山の中に座らされ、目の前には続々と料理が運ばれる。


「お口に合いますか、分かりませんが」


「このようなものしか用意出来なかったことを、どうぞお許し下さいませ」


数人の女性達が、わたしを畏怖するような眼差しで見つめ、わたしの一挙一動を見守ってる。


怖い。

みんなの眼差しが、怖い。

この世界で、わたし、独りぼっちになってしまったような感覚に襲われる。


怖いっていうよりも……寂しいよ。


吉田くん、早く戻ってきて。


どうしてポワンも、傍にいてくれないの?


わたしがレーリアに戻るって、こういうことなのかな。

藤森彩花の名前を捨てるって、こうしてわたしが一人きりになってしまうってことなのかな。


ぐるぐると、負の感情ばかりがわたしに襲い掛かってくる。


由利ちゃんと、ちゃんと話し合おうって思っていたのに。

しっかりと、覚悟を決めてきたはずなのに。


急激な環境の変化に、わたしは一人とまどい、今までどれだけ吉田くんがわたしの支えになっていてくれたのか、実感した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ