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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
反乱の狂詩曲(ラプソディー)     

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第3話 冷徹な、兄の帰還宣告

吉田くんと前に来たバー……ソルトと地球で思わぬ再会をした場所。


そこへわたしの手を、恭しく取った黒竜さん(今はダンディーな男の人の姿だけど)が連れてきてくれた。


元の姿が竜だからなのかな。

手を触れられても、全然怖くない。


吉田くんもわたしの隣を歩くけど、彼を咎めようとしなかった。


ただ、時折わたしを覗き込んで、


「大丈夫?」


と聞いてくれるけど。うん、全然大丈夫だよ。


何ていうのかな……人間臭くないっていうか。

当たり前だけど、竜なんだから。

むしろ、神聖な感じがして、こちらが拝みたいような気分になってくる。


「階段を下りた先が、アステリアへの道になります。レーリア様、ご覚悟はよろしいか」


この人……面白い話し方をするなあ。よろしいかって、生で初めて聞いた。

だから思わず、わたしはびくりと身体を震わせて、


「よ、よろしいでございます……」


あああ、妙な返事をしてしまった!


吉田くんたら、わたしから顔を背けて肩を震わせてる。

もう、もう! 絶対笑ってる!


見た目と違って、凄く笑い上戸な吉田くん。しばらくこの笑いの発作はおさまらないだろう。

あーあ、恥ずかしいなあ。


わたしは気を取り直して、黒竜さんを見上げた。


吉田くんの黒い瞳とは違った黒さの瞳。

深い、闇のような色。


その瞳が、じっとわたしを見つめてる。

うう、何だか全て見透かされてるみたいだなあ……。


「あの、覚悟は出来てるけど、どうやってアステリアまで行くの? 歩いて?」


「歩くまでもございません。竜族の、空間を渡る力を使いますれば」


「竜、族……」


「アステリア国の使い魔は、竜族なんだよ」


ああ、立ち直ったのね。

いつもの吉田くんに戻った彼は、わたしの肩に軽く手を掛けて教えてくれた。


そうなんだ。知らなかった。


「そうなんでございますのよ、彩花様。アステリア国は、他の国とは形態が異なりましてね、使い魔が主を選ぶのでございます。ですので、ラディのように魔力の低い者は、使い魔たる竜族からは、見向きもされないんですわ、オッホッホ!」


何だか勝ち誇ったように、二本足で高笑いをしているポワン。

言われてしまった吉田くんは、苦笑を浮かべている。


あ、でも、待って?


「黒竜さんは、シェニムさんの使い魔よね?」


「ええ、恐れながら」


「そんでもって、ポワンはわたしの使い魔なのよね?」


わたしがポワンを見下ろすと、ポメラニアンの姿のポワンが、わたしと黒竜さんを見比べて、みるみる顔を赤くした。


ポワンの表情が、見たこともない色を浮かべてる。


真っ赤になって、そして眼差しが動揺したように揺れて。どうしたんだろ?


「ええ……その。そう、でございますね……」


「ポワン、わたしを選んでくれたの?」


「あ、そっちですか」


明らかにポワンは、ほっとしたような顔をした。

どっちのことを、考えていたの?


でも、ポワンはわたしの言葉で、いつもの彼女を取り戻したようだった。


「ええ、本当に恐れ多いことですが、アタシ、彩花様の……レーリア様のお力になりたくて。アタシの魔力が、少しでもレーリア様のお役に立てるならって思って、使い魔にさせて頂きましたのよ」


そう……そうだったんだ。


わたし、全然知らなかった。


生まれた時から、ずっと一緒だったと思ってたポワン。

あなたが、わたしを選んでくれたのね。


そして、その言葉通り、わたしがレーリアから彩花になってしまっても、犬の姿に変えられてしまっても。


吉田くんが現れるまで、ずっと犬の姿のまま、わたしの傍にいてくれた。

そして、わたしのグチを黙って聞いてくれたり、頬を舐めて励ましてくれていた。


わたしは何だか胸がいっぱいになってしまって。とても、とっても嬉しくて。

思わず、腰を屈めて、ギューッとポワンを抱き締めた。


「あの、あの、彩花様!?」


「……ポワン、ありがとう。ずっと、わたしの傍にいてくれて、ありがとうね……」


ポワンから、香ってくるお日様の香り。


暖かい身体。


これからも、ずっと一緒にいようね、ポワン。


大好き。大好きだよ。


何だか涙が浮かんできそうになったわたしの頭を、優しくぽんぽんと撫でてくれた吉田くんには、きっとわたしの気持ちが伝わったんだろう。

ポワンも、わたしを何度も呼んでくれているけれど。その声が、涙で滲んでる。


どれくらい、そうしていただろう。


ポワンは、そっとわたしの頬を伝う涙をぺろっと舐めて、優しい、穏やかな声を上げた。


「参りましょう、彩花様。あなたにとって、大事な時間が来ます。この数日間、ずっと悩んでらしたことを、あのティリシアの王女にバシッとぶつけて、すっきりしましょう、ね?」


ふふ、ポワンらしい。


そうね。うん、本当にそうだ。


わたしは大きく頷いて、立ち上がった。


だけど、ふと思い出して、再びポワンを見下ろした。


「ポワンも、竜なの?」


「え? え、ええ、そうですわね……」


ポワンは、少し戸惑ったように、目線を下げて頷いた。

あれ?


「なら、黒竜さんみたいな?」


「いえ、ポワンは我ら竜族の長の娘、銀竜でございますれば」


そう教えてくれたのは、黒竜さんだった。


銀!! すごい、かっこいい!

しかも、竜族の長が親御さんなんて、すっごい!


「ポワンの本当の姿、見るの楽しみだなあ」


わたしがそう微笑むと、ポワンは何だかほっとしたようにくすくすと笑った。


「ええ、それはもう美しい姿でございますのよ? 前にも申し上げましたでしょ?」


「うんうん、聞いたよ」


「魔力が戻りましたら、アタシのナイスバディーを彩花様にご覧にいれましてよ!」


あはは、それでこそ、ポワンだ。


楽しみが、一つまた増えた。



さあ、行こう。

再び、アステリアに。


どうなっているのか、少し怖いけど。

由利ちゃんに、会ってまず何を言えばいいのか、まだ不安でいっぱいだけど。


隣を見上げれば、吉田くんが限りなく優しい笑みを浮かべている。

見下ろせば、ポワンが可愛らしい姿で、わたしを応援してくれている。


こんなに心強い仲間が……大切な仲間がいるんだもの。


わたし、頑張る。

頑張るから……だから、二人とも、ずっと、わたしの傍にいてね。


見守っていてね。



アステリアへの道……本当に、道っていうほどの距離じゃなかった。


あの、牛鳥達が出てきたような、歪んだ空間が確かにバーにあって。

黒竜さんが、手をそこへ差し入れると、その空間が大きく広がった。


「さあ、あまり長い時間は保てません。お急ぎくだされ」


黒竜さんの言葉通り、広がった空間が、早くも縮み始めている。


わたし達は、慌てて空間へと足を踏み入れた。

怖いなんて思ってる暇はない。返ってよかったかも。のんびり考えたら、恐怖心が沸いてきちゃう。


足を踏み入れた瞬間、全てが歪んだような、不思議な感覚がわたしを襲う。


「あっ……!」


思わずふらついてしまったわたしを、しっかりと抱きとめてくれたのは、吉田くん。


「彩花、大丈夫?」


歪み続ける空間の中で、吉田くんはいままでと変わらない微笑を浮かべてくれた。


それが何だか、ほっとして……わたしは首を振って、吉田くんの腰に手を回した。

こんな大胆な行動に出れるようになった自分が、信じられない。

でも、吉田くんの腕の中、本当に居心地がよくて、安心できるんだもの。


「大丈夫。あなたが、いるから」


「彩花……」


「怖くない。アステリアに着くまで、こうしていて?」


わたしは吉田くんの広い胸に、顔を埋めて小さく呟いた。


顔、上げられない。

だって、きっと真っ赤になってる。


吉田くんの心臓の音が、少し早くなって、わたしを抱き締める腕に力が篭って。

吉田くんは、アステリアに着くまで、ずっとわたしを包み込んでいてくれた。


「着いたよ、彩花」


吉田くんの声に、わたしはそっと顔を上げた。


吉田くんは、わたしを抱き締めた手を離したけれど、今度は腰に手を回してわたしを引き寄せた。


辺りを見渡すと、前回黒竜さんに連れてきてもらったような、草原じゃない。

全てが闇に包まれていて、不気味に静かで、虫の音一つしない。


「ど……どこ、ここ……」


「ミネリアとティリシアの国境付近でござる」


わたしが吉田くんの服の端っこを掴んで聞くと、黒竜さんが抱いていたポワンを下ろしながら教えてくれた。

あ、ポワン、抱っこしてもらっていたのね。良かった。


そう思ったのに、ポワンはつんとした態度で、黒竜さんに声を掛けることなくわたしの傍へやってきた。

ポワン、冷たい。どうしたのかな?


「もうすぐ、我が主が迎えに来る手筈となっておりますれば、しばしお待ちを」


黒竜さんは、何でもないかのように表情を変えずに言った。


うーん……? 気にしない方が、いいのかな?


「彩花、この地には、血の香りがする。もう、始まっているのかもしれない」


吉田くんの耳に心地いい声に、僅かに緊張の色が混ざってる。


血の香り……それって、まさか!


「ユリシーダ王女が、ティリシア城を乗っ取り、おびただしい数の使い魔を解き放っています。我が軍も応戦していますが、篭城したユリシーダ王女の統率力は侮れないものがありましてね」


ふと、暗闇から声がした。


聞いたことある声。ううん、間違いない、わたしのお兄さんの声だ。


そしてすぐに姿を現したのは、長いハニーブロンドを、緩やかに後ろで一つに縛った、綺麗な顔の男の人。

涼やかな目元にあるのは、濃い色のマリーンブルー。


「シェニム……兄さん!」


「お帰りなさい、レーリア。ああ、ラナディートも」


おまけのように言われた吉田くんは、軽く肩を竦めたけれど、

シェニムさんは全く気にすることなく黒竜さんのところへ歩み寄った。


「ご苦労様でした。少し休みなさい」


「はっ、仰せのままに」


そう言った黒竜さんは、一点を見つめてる。その先にいるのは……ポワン。


二人の眼差しが絡み合い、言葉を交わさぬまま、シェニムさんの指がパチンとなって、黒竜さんは姿を消した。


うーん、この二人、何かある。

気になる、気になるけど、今はそれどころじゃない。


「シェニム兄さん、由利ちゃん、由利ちゃんは!?」


わたしはシェニムさんの腕を思わず掴んでしまった。


由利ちゃん、戦ってるの!? 軍隊相手に。


怪我とかしていないだろうか。由利ちゃん、あの時の怪我、治ってるのかな。大丈夫なのかな。


由利ちゃんがわたしを狙ってるってこと、分かってるけど、でも心配でしょうがないよ。


シェニムさんは、わたしにされるがままに腕を揺らされて、わたしをじっと見下ろしていたけれど、だけどふいにわたしの両肩を掴んで、腰を屈めてわたしを真っ直ぐ見つめた。


「レーリア、ちゃんと自分の考えを纏めてきましたか?」


「う、うん、わたしなりに……わたし、馬鹿だけど、わたしなりに考えたよ」


「馬鹿は余計です。ですが、まあよろしい。これから、あなたにしばらくの間、『アヤカ』を捨ててもらいます」


え……?


シェニムさんの言ってる言葉、意味が分からない。


わたしはそれこそ馬鹿みたいに、ぽかんとしたまま、シェニムさんを見つめていた。


吉田くんは慌てて、わたしとシェニムさんの間に割り込んだ。


「待て、シェニム、彩花の気持ちを考えろ。まだそれは……」


「お黙りなさい、ラナディート。これは、アステリア軍参謀としての命令です。これから私が許可を出すまで一切、レーリアを『アヤカ』と呼ぶことを禁じます。いいですね」


何で、どうして突然……?


シェニムさんの考えが、分からないよ。


前にアステリアに来たときも、わたし、記憶全然ないから、初めて来た土地みたいで。

不安でしょうがなかったけど、でも、吉田くんが「彩花」って呼んでくれたから。

だから、わたし……


急に訪れた、衝撃。


わたしの名前を……藤森彩花を、捨てろと…………。


わたしはただ、呆然と立ち尽くしてしまった。

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