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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
揺れる奇想曲(カプリス)

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第3話 原色の三姉妹、美味しい騎士への熱視線

「本当にいい男だねえ」


「おいしそうだねえ」


「どんな味がするんだろうねえ」


面白そうな、からかうような声が響いてる。


声の方を見上げても、濃い緑がうっそうと茂っているだけ。

隙間から零れ落ちる陽がもれて、薄暗い森の中を照らしている。


わたしは隣を歩くラディを見上げた。

彼は、端正な顔を絵に描いたようなぶすっつらのまま歩いていた。


自分のことを、いい男はともかく、おいしそうだと言われて嬉しいはずもないか……。

わたしが困り果ててしまっていると、頭上からの声は更に響く。


「あれは、レーリア様だろう?」


「そうだろうねえ、あれだけの魔力なんだから」


「何しに来たんだろうねえ」


「バカだねえ、封印していた魔力が漏れてしまっているんじゃないか」


「ああ、そうか。願いに来たんだね」


「自分で封印しなおせばいいのにねえ」


……それが出来れば苦労しないっていうの!


「それにしても、間抜けづらに育ってしまったねえ」


「本当だねえ。けぶるような金髪が、それは美しい方だったのに」


「あの汚い髪の色、どうしたんだろうねえ」


間抜けづら!?

汚い!?

失礼ねっ!!


何だか、段々腹が立ってきた。


「見て、あの二人、手を繋いでるよ」


「本当だ。初々しいねえ」


「でも、あの繋ぎ方。きっとまだ通じてないよ」


「そりゃそうだろう、レーリア様の顔を見れば分かるよ」


「男を知らない顔だよねえ」


ちょっと!!

何よ何よ!! 言いたい放題じゃないの!


ラディは確かに、今わたしの手を繋いでくれてる。

繋いでるっていうか……引っ張ってくれているっていうか……。


でもこの繋ぎ方が、何だって言うのよ。まあ、大人が子供の手を引っ張るような繋ぎ方ではあるけど。

でも、他人にとやかく言われることじゃないじゃないの。


ムカムカムカ。


男を知らない!? ええ、知りませんよ!


昨日、それをラディにバレてショックだったのに。

更に言われて、もうヘコむよりもムカついて仕方ない。

 

「ちょっとー! ずるいじゃないの! 姿を見せなさいよ!」


わたしは空を見上げて声を上げた。

突然だったので、ラディもポワンも驚いたようにわたしを見てる。

だけど、沸いた怒りはなかなか収まらない。


「好き勝手言っちゃって、何よ! 隠れてないで、出てくればいいじゃないの!」


「レーリア、落ち着いて。放っておけばいい」


「そうですわ、レーリア様、落ち着いてくださいませ! そこで怒り出しては、相手の思う壺ですのよ!?」


そうラディもポワンも言ってくれて、わたしはぐっと言葉を堪えた。


……あれ?


今、ラディ、わたしのことレーリアって呼んだ?


「面白いねえ、見てごらんあの使い魔。レーリア様の使い魔だろう?」


「本当だ、弱弱しいねえ」


「それに間抜けな姿だねえ」


くすくすと笑う声が聞こえる。


わたしだけじゃなく、ポワンのことまでバカにして!


わたしが再び声を上げようとしたら、わたしの前にポワンが甲高い声で、怒涛のごとく。


「お黙りなさい、魔女の分際で!! このアタシの姿は、恐れ多くもレーリア様自ら魔法を掛けてくださったのよ! しかもこの姿はあんた達は知らないだろうから教えて差し上げるけどねっ! ポメラニアンっていって、スピッツグループに属し、そのルーツは、5000年程の前のスイスにいた古代犬種にさかのぼるといわれているのよっ! ポメラニアンは、北ドイツのポメラニア地方が原産地で、名前もこの土地にちなんでつけられたんだから!」


……畳み掛けた。

凄い。凄すぎる。


知らなかった。ポワンたら博識なのね……。


わたしはぽかんとしてポワンを見つめていると、彼女は肩を大きく上下して、荒い息を吐いている。

さすがの魔女たちも、驚いたのか言葉を失っていたけれど。


「うるさいねえ」


「本当、うるさいねえ」


…………。


もう、放っておこう。ラディの言うとおりだ。放っておいて、出てこないんだったら、こっちから乗り込んでいってやる。


「きっと、もうすぐだよね、ラディ」


そうわたしは隣の彼を見上げると、険しい顔で何かを考えていたラディは、はっと気付いてわたしを見下ろした。

その時には、いつものあの優しい微笑を浮かべてた。


「うん、もうすぐだ。頑張ろうな」


……どうしたんだろう。

何を考えているの?

聞きたいけど、何だか聞いちゃいけないような雰囲気。


何だろう、胸騒ぎがするよ。

一人で、何か抱えていない?


そう聞きたい……でも、きっとその時になれば、教えてくれるはず。

だからわたしは、今自分が出来ること。

自分の足で、ちゃんと魔女達に会うために、痛む足を叱咤して歩き続けた。


葦で編んだような、大きな家がいくつも点在している。

雨漏りしないのかな……大雑把なその作りの家は、ところどころ傾いていたりして。


そんな家々が建っている広場のような場所に、わたし達は立っていた。

そこだけ、森の中じゃないような、不思議な空間だった。


「……着いたの?」


「ああ、どうやらそうみたいだね」


ラディは腰に手を当てて、一箇所を見つめている。

その先には、古代の高床式住居のような建物がある。この一つだけが、他の家と違った作りだ。


「長は、あそこかな。行こう」


ラディがわたしとポワンを手招きし、わたし達はその建物に向かって歩き始めた。

途中、他の家を通り過ぎるときに、強い視線をいくつも感じた。

振り返ると、人影がさっと消えたり、窓から姿を隠したり。

見える魔女は一人もいない。

だけど、こちらを伺っているのが分かる。

何だか、やだなあ。監視されているみたいで。


「よっぽど心が狭い一族なんですのねっ。コソコソして、いやらしいったらありませんわ」


ポワンが声を潜めて呟く。

うん……何か、変な雰囲気だなあ……。


高床式住居の真下まできたわたし達。でも、階段がない。

どうやって上まで上るんだろう?


「ラディ、どうするの?」


わたしがラディを見つめて言うと、彼は腕を組んで上を見上げた。


「アステリア皇帝陛下の直子、レーリア様が御自らお越しである! 長はただちに姿を見せよ!」


ひょえー、舌を噛みそうな言葉遣い!

おんみずから……。時代劇みたい。生で聞いたの、初めてだ。


ラディの声が、広場に響き渡ると。

高床式住居の入り口から、真っ白なドレスみたいな服を纏った女性が現れた。


長い髪は、目が覚めるようなまっ黄色。

シェニムさんの金髪の色とは、全然違う。

何ていうのかな……絵の具の黄色って感じ。

彼女は、ぴょんと数メートル上の建物から飛び降りた。


危ないっ!!


だけど彼女の後から現れた、二人の女性もぴょんぴょんと飛び降りてくる。

残り二人は、これまた絵の具を搾り出したような赤と青の髪。

ザ・原色!っていったようなその髪をバサバサと振り乱して飛び降りると、わたし達の前に3人揃って並び立った。


何というか……ど派手……。


「三つ子……ですわね」


ポワンがこっそりとわたしに囁いた。


うん、そうみたい。

髪の色はそれぞれ違うけど、顔はそっくり。


瞳の色は3人とも薄い茶色で、目尻が垂れている。

口元はこれまた鮮やかなピンク色の口紅で彩られていて、笑っているようだけど、自然な笑みとはちょっと違う。

企んでいるような笑みなのかな……少し不気味だ。


「お初にお目にかかります」


「レーリア様と、おいしそうないい男」


「それに間抜けな姿の使い魔」


3人が同じ声で話し始めると、わたしは声を上げて行儀悪く彼女達を指差した。


「あなた達! 途中でぺらぺらと喋ってた人たちね!?」


「まあ、やっと気付くなんて」


「レーリア様って意外に鈍いんだねえ」


「本当、鈍いねえ」


……わたしの目の前でも、臆することなく言うなんて。

何て図太い神経の人たちなの!?


わたしはあまりに腹が立ちすぎて、何だか眩暈がしてきた。


そんなわたしの前に、すと人影が。

ラディだ。わたしを庇うかのように、わたしの前に立ちふさがった。


「レーリア様に、立ち話をさせるつもりか。早く中へ案内せよ」


「本当にいい男だねえ」


「本当。皇帝陛下もいい男だったけど」


「でも、ここまでおいしそうじゃないよ。おいしかったけど」


おいしかったって!! パパさん、食べられちゃったの!?


どこを、一体どこを食べられちゃったの!? ま、まさかまさか……。


わたしがモヤモヤと妄想してしまっていると、ラディは低く舌打ちをして黄色い髪の魔女の胸倉を掴んだ。


ええー!? ラディ!?


ぐっと手に力を入れると、黄色い魔女の身体が僅かに宙に浮かんだ。


「ちょっと、あの、ラディ!?」


わたしが慌ててラディの腕にすがると、彼は顔をニヤニヤと笑う魔女に寄せて低く囁いた。


「あまり人を馬鹿にした態度をしていると、ただじゃ済まさんぞ。レーリア様に敬意を払う行動をしろ」


「おやおや、面白い男だねえ」


胸倉を掴まれた魔女は、おかしそうに笑って言う。

彼女の左右にいる赤い髪の魔女と青い髪の魔女も、その言葉に続いて、ニヤニヤ笑いながら、


「ますますおいしそうじゃないか」


「本当だねえ、面白くておいしそうだねえ」


何がおいしそうなのー!?


不気味に笑う魔女達を前に、ますます機嫌が悪いラディと。

憤然として、毛を逆立てているポワンと。

戸惑ってばかりのわたしと。


本当に、魔力を封印しなおしてもらえるのだろうか。不安が増していった……。

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