表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
波乱の行進曲(マーチ)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/90

第5話 解けた魔法、愛してるの残響

完全に、わたしの意識が途切れてしまうその瞬間。


「やーめよーぜぇー」


呑気な声が聞こえる。


ふらつく頭を抑えていると、ラディがわたしに気付いて身体を支えてくれた。


「大丈夫か、彩花!」


「あ……うん……」


「何だよ何だよ、そんな深刻な顔しちゃってさあ。俺、別に蒼の一族とかさぁ、碧の一族とかあんま興味ないんだよね」


ソルトはわたしとラディの目の前まで歩み寄り、そしてわたし達を交互に見比べた。


「俺は、祝福の女神にも興味ないんだよ。幸せは、自分で掴むもんだ。与えられるもんじゃねえ」


わたしの心臓の鼓動が、一瞬跳ね上がった。

この人…… 何が言いたいの……。


ラディは、わたしを守るかのようにぎゅっと抱き締めてくれている。


あったかい、腕の中。

さっき、ラディが怒ってるのかと思ったときは、ちょっとだけ怖かったけど。 でも、今は安心する。


ほっとしたわたしに顔を近づけたソルトは、にこりと笑ってわたしの鼻に触れた。

やだ!


「でもな、アヤカっちには興味ある。あんたをもっと知りたいなあ」


げげ!  彼氏いない暦何年だと思ってるの!?


男性恐怖症のわたしに、至近距離で笑うエメラルドグリーン。

楽しそうに笑っているけど、でも怖い!!


だけどわたしの視界から、すぐにその瞳は消えた。 ラディが身体の位置をずらして、わたしとソルトの間を阻んでくれたんだ。


「無闇に、彩花に近づくな」


そう言ってくれたラディに、ソルトは身体を起こして腕を組み、笑みの種類を少し変えた。 ……挑戦的?


「へえ、あんたアヤカっちの彼氏?」


「…………」


黙るラディ。

そうだよね……別に、わたし達、付き合ってる訳じゃないし。

ラディは、レーリアとの約束を守るために、地球に来てくれたんだもんね。


レーリアは、わたし。

わたしは、レーリア。

なのに、何だか遠い。


だけど、次の瞬間。


「遠い昔に、俺の全てを彩花に捧げると誓った。そういう仲だ」


ラディ…… 今、彩花って。

そう、言ってくれた。


わたしは嬉しくて、泣き出しそうになってしまった。

ううん、涙が零れてきてしまって、それを誰にも見られないように、ラディの胸に顔を押し付けてる。


ごめんね、ラディ。服が濡れちゃう。 だけど……このまま、腕の中にいたい。


わたしが身動きしないで、ぎゅっとラディに抱きついていると、ソルトは呆れたような声を上げた。


「何だよ、デキてんだ。でもまあ、いいけどね。アヤカっち、近いうちにまた会うよ。 そんときに、改めて俺のことを知ってもらうからさ。楽しみに待っててよ」


「必要ない。さっさと行け」


ラディが低い声で吐き捨てると、ソルトは肩を竦めて、 「何だよ、助けてやったのに冷てえなあ」 何て言いながら、あの軽い足取りでアステリア城に向かって歩いていった。


たった、一人で。

どっかの王子様らしいのに。

……ヘンな人。


ソルトが去っていって、しばらく経つのに。


ラディの腕は、わたしを抱き締めたまま動かなかった。

さすがに恥ずかしくなり、わたしは顔をあげようともがいた。


「あの、ラディ?」


「……ごめん、彩花……」


すぐに降る、ラディの声。

後悔に満ちた、苦しそうな声。

どうして……?


すると、わたしの頭を撫でていたキューちゃんに、ポワンが大きな声を掛ける。


「さあ、キュー。働いた後はお腹が空くわね!! あっちで何か食べましょう! ええ、1時間くらい食べてこようかしらねえ!?」


……わざとらしい。 ポワンたら、気を遣っているつもりなんだ。


わたしはくすりと笑って、顔を上げようとしたけれど。

でも、ラディの腕の力が強くて、……身動きできないよ。


「ラディ、ラディ? 苦しいよ……」


そう言うと、ラディの腕の力は、少しだけ弱まったけど。

でも、まだぎゅっとわたしを抱き締めたまま。


「あの……ごめんね、勝手に戻ってきちゃって……」


そのことで怒ってるんだと思ったわたしは、先に謝ってしまうことにした。

だけど、ラディは首を振ったみたい。

その後に、否定の言葉があったから。


「違う……あんな態度をしたのは……ごめんな、彩花……」


「いいの、怒られてもしょうがないもん。先に行ってろって言われていたのに」


「違うんだ。違う。彩花……俺は……」


ラディの腕が緩んだ。

わたしの身体が、少しまた解放される。 だけど、見上げたわたしの目に映った、ラディの表情が、わたしを彼から離れることを止めてしまった。


後悔に満ちた、まるで今にも泣き出しそうな、そんな表情。

どうして……?


「きみが、俺達の事を心配して、援軍を連れてきてくれたことは分かる。 だけど……俺は一人できみを護ることが出来ないのかと思ったら、悔しくて、そしてきみが選んだあの男に嫉妬して……」


嫉妬って…… 選んだって…… 偶然、会っただけなのに。


「きみの男嫌いは、分かってるつもりだから。それでも、あいつを連れてきたってことは、多少心を許したってことだ。 だから、俺は……」


ラディは、そう思う自分が許せないのね。

そして態度に出てしまったことが耐えられない。


……でもね、ラディ……。


彩花、素直になろう。

少しだけ、前に踏み出そう。


「ラディ、わたし、怖かった。ソルトと一緒にティナに乗っているときも、 目の前に顔を向けられたときも、ずっと怖かったの」


わたしの言葉を、ラディは眉を寄せて苦しげな表情のまま、じっと聞いていてくれた。


うん。聞いて? ラディ。

お願い。

わたしの、気持ち。


「でも今はね。あなたと二人だけでいても、こうして目の前にいても。 ……さっきみたいに、抱き締められても、怖くないよ」


凄く、心臓がバクバクしてる。

だって、恥ずかしい。

きっと、顔が真っ赤になってる。


ラディの顔、真っ直ぐ見れない。 だけど……言わなきゃ。

言いたい。伝えたいの。


「ラディが、怖くない。もう、全然怖くないの」


わたしにしたら、告白のつもりだったんだけど。


ちょっと情け無い言葉だったかな。

でも、わたしにしたら凄い前進だった。

それに気付いてくれると、いいな……。


ラディをそっと見上げると、彼は綺麗な海の色の瞳をわたしに向けて、少しずつ苦しい表情を解いていっていた。


よかった……伝わった……?


「彩花……」


そう、わたしの名を呼んで、わたしの頬にそっと触れた。


あなたは、アステリアに来てから、一度もわたしを「レーリア」と呼ばなかった。


他の誰もが……ああ、あのソルトを除いてね。

皆、わたしをレーリアと呼び続けていたのに。

ラディ、あなただけはわたしの気持ちを察して、わたしを彩花と呼び続けてくれた。


それが、どんなに嬉しかったか。

心強かったか。


「彩花、今、俺のこと怖くない?」


わたしの頬を撫でながら、ラディは呟いた。


うん。 怖くない。


ラディの指先が、わたしの唇に触れた。

ああ……胸がどきどきする。

この指先も。 あなたの眼差しも。


汚れない海の色の瞳が、熱く強く、段々近づいてくる。


「怖かったら、言って……?」


間近で囁かれる声。 吐息を感じる距離。

だけど……怖くない。


心臓の音が、ラディに聞こえてしまうのではないかと思うほど、どきどきしてるけど。


目を閉じると、唇に暖かいものが触れた。

暖かくて……柔らかい。

何度も何度も、わたしを啄ばむみたいに触れるそれは、やがて惜しむように離れると、 わたしはラディの腕の中に再び包み込まれた。


「離したくない……離さない……愛してる、彩花……」


耳元で、何度も囁く熱い言葉。

わたしは目を閉じたまま、ラディの身体に手を回した。


大きな、わたしを護ってくれる大切な身体に。


わたしも、護りたい。

あなたに、わたしの微笑を。


ラディとわたしは、お互いの体温を感じたまま、ずっと固く抱き合っていた。

ラディの腕の中で、何度も繰り返される「愛してる」の残響。

今までずっと、誰かに触れられるのが怖くてたまらなかったのに。

わたしの呪縛を解いてくれたのは、やっぱりあなただった。

怖くないよ、ラディ。

あなたの吐息も、体温も、わたしを呼ぶその声も。

謎の男ソルトが去った草原で、わたしたちはいつまでも抱き合っていた。

絡み合う運命が、次にどこへ向かおうとしていても、この温もりだけは信じられる。

「波乱の行進曲マーチ」編、完結。

次回、新章「揺れる奇想曲カプリス」開幕。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ