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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
波乱の行進曲(マーチ)

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第4話 戦場の再会、不敵なエメラルド

褐色の髪をツンツン立てた男の人が、わたしの手を離さないまま、わたしの目を覗き込んだ。


怖い……! 何で凝視してるの!?


彼は、わたしとティナを見比べて、口の中で「ふうん」と呟いた。


「ま、いっか。で? その妖魔に襲われてる奴を助ければいいわけね?」


「えと……ええ、出来たら、お願いしたいんですけど」


軽い調子の彼に、わたしは戸惑いながらも頷いた。

わたしは、ティナに乗ったまま。

落ちそうになったわたしを、彼が助けてくれて、そのまま馬上にいた。


彼は、ようやくわたしの手を離してくれて、そして軽々とティナに乗った。


……わたしの、後ろに。


わたしの横腹越しに、手綱を握る。うう、近い……でも、我慢しなきゃ。

わたしが頼んだんだもの。


わたしの大切な人たちが、妖魔と戦っているので、助けてください。


わたしは、そう彼にお願いをした。

そして、彼が言ったのが、さっきの一言。


彼は、赤茶の瞳をわたしに向けながら、首を傾げた。


「そだそだ。あんたの名前、聞いてなかったな。俺は、えーっと、ソルト。ソルトでいいよ」


……明らかに偽名ね。


でも、そんなに悪い人には見えないけど……ちょっと軽そうだけど。


わたしも名乗った。「藤森彩花」ってね。

嘘じゃないもの。今のわたしの名前は、これだから。


「アヤカか。面白れえ名前だな」


失礼ね。

ソルトだって、充分面白い名前だよ。塩じゃないの。

そう思ったけど、そこも我慢。


引きつった笑みを浮かべながらも、ティナの首筋を叩いたわたし。


「ティナ、ラディ達のところへ戻って、お願い!」


するとティナは、返事をするかのように、大きくいなないて駆け出した。


「おっ、賢いな。さすが……」


そこで言葉を止めたソルトが気になったけど……でもそれどころじゃない!!

ティナの爆走が始まってしまった。


ガンガン揺れて、ピュンピュン飛ばす。


わたしはティナにしがみつき、振り落とされないようにしているのが精一杯なのに。

ソルトは可笑しそうに笑い声を立てている。


「すげー! 何だこいつ、最高だな!!」


そうですか、よかったね……。


ティナは一度主の下へと戻ると決めたら全速力。あっという間にラディ達のところへ着いた。


「おー、やってるやってる」


呑気な声を上げて、ソルトが手綱を締めた。


ラディ達のところから、少し離れた場所にティナを止め、そして自身はひらりと馬上から舞い降りた。


わたしはすでに、ラディ達に目線が釘付け。


あの大きなオーガの攻撃を交わしながら、ラディの剣は砂煙に向いてる。


空をぱたぱたと飛ぶキューちゃんが、時折口を大きく開けて、そこからなんと真っ赤な炎を吐いていた!


「ありゃアステリアの下級使い魔だな。灼熱の炎か」


呟いたソルトに、わたしの使い魔だと教えるべきか悩んでしまう。

助けを求めたけれど、まだこの人がどんな人か分からないし……。


キューちゃんから吐かれた炎が、砂を焼いていく。

すると僅かな時間だけ、その砂の中から人影が見えた。

大きな鎌を持った、揺れるその姿は……


「死神……!?」


本とかで読む、あの死神の姿そっくりだった。


ああ、だからか……死神の影……


その姿が見えた瞬間、ラディの剣が狙いを定めて襲い掛かる。

だけど直に姿が消え、また元の砂嵐になってしまう。


「ふうん、戦い方は心得てんじゃん。じゃ、俺はあいつでも仕留めるかね」


そう軽い調子でソルトは言い、わたしに剣を手渡した。


思わず受け取ってしまったわたしだけど、え? 剣無しで?


「それ持って、ここで見学してな」


そう言うや、ソルトは体重を感じさせないほど軽やかに駆け出していった。


わたしは、ソルトの剣を抱きしめて、……今は見守ることしかできない。


悔しいけど、レーリアの力が目覚めてない今、わたしは足手まといでしかならないもの。



……頑張って、ラディ……。


ソルトは、あっさりと戦いの中に入っていった。

そして、陽気な様子で手を軽く上げる。


「よう、色男。俺も仲間に入れてくれよ」


「……何者だ」


ラディは軽く眉を寄せ、だが剣を怠ることなく振るっている。


ソルトは口笛を吹き、襲い掛かる死神の影の鎌、そしてオーガの斧から軽々と避けて跳んだ。


「あのベッピンさんにナンパされたんだよ。楽しいパーティがあるから、来ないかってな」


ソルトの言葉に、ラディははっとして彼の指差す方へと目を向けた。


そこに、彼の愛馬のティナ、そして彼女に乗る彩花の姿がある。


ラディの表情が、一瞬曇ったが、瞬間ポワンの声が響き渡った。


「ラディ、チャンスよ!」


キューの灼熱の炎が、砂嵐全体を巻き込んで焼き尽くす。

そこに現れた、不気味な死神に向けて、ラディの意識が集中した。


今は、こいつを倒すことだけを……。


ラディが背中を向けたのを見た後、ソルトは楽しげに笑って、まるで足元にバネでも生えているかのような身軽さで、その場を飛び跳ねている。


「ほんじゃま、行くかね」


そう言うや、ジャンプを止め、膝を大きく曲げ、腰を落としたソルトの口から深く息が吐かれる。


「はぁぁああ!!!」


ソルトの体は、オーガの膝を蹴り、更に斧を踏み台にして宙を舞った。


「やあああ!!!」


ソルトの声と同時に、ラディの掛け声も響き渡る。


ラディの剣が、死神の影の本体を一刀両断に。

ソルトの足が、オーガの首元に叩き付けられた。


ぐるんとオーガの目が回り、白目を向いてどうと倒れたところへ、ラディに振り向いたソルト。

丁度死神が砂に戻っていくところだった。


「おい、止めを刺せ!」


ラディはちらりとソルトを見、低く舌打ちをして剣を振り上げた。

間違いなく、オーガの心臓目掛けて剣が振り下ろされる。

びくびくとしばらく痙攣していたオーガの体の動きが、やがて完全に止まった。


ソルトは、腰に手を当ててその様子を見、そしてラディに顔を向けた。

陽気な笑顔で。


「こいつは、ああやって気絶させてから倒すのが、一番手っ取り早いんだよ」


「……分かっている」


「あ、そかそか、そりゃまあ失礼」


手を振って笑うソルトに、ラディは目を細めて一歩近づいた。

その眼差しは、ソルトの瞳に注がれている。


「あの体術は、ミネリアのものだな。ミネリアの、みどりの……」


ラディの低い声に、ポワンがびくりと身体を震わせた。


碧の、一族……。


そして、あそこに他国が狙う、レーリア様がいる。

レーリア様だと、気付かせちゃダメ……。


だが、ラディとポワンの思いを何も感じないかのように、ソルトはにこにこと笑いながら頷いた。


「バレた? じゃあしょうがねえよなあ。まあね、剣を持たないで戦うのって、うちの一族だけだしね」


ラディに、緊張が走る。


ここで、戦うか?

彩花をとにかく、『魔女の館』へ連れて行かなくてはならない。

それまでに、他国と関わっている暇はない。


……倒しておくか。


密かに柄を握り直したラディの手元を、一瞬目を眇めて見つめたソルトは、彩花に振り返った。


「おおい、アヤカっち! こっち来いよ、面白れえもん、見せてやっからさ!」


アヤカっち……?



ラディは剣の柄から手を離さず、にこにこ笑う赤茶の瞳からも視線を外さずに、彼の横を通り過ぎた。


そして、真っ直ぐにティナと彩花の元へと向かう。


剣を抱きしめて固まっていた彩花が、ラディの姿を見てほっとしたように微笑んだ。


「よかった、大丈夫? ラディ。怪我、してない?」


「……手を」


ラディはただ、それだけを言い、彩花がティナから降りるのを手伝った。


戸惑う彩花を抱き締めたい。


そして、今、抱いている思い全てを伝えたい。

しかし、この心にある黒い渦を、知られたくない。


隠すことによって、更に彩花に不安を与えてしまうことに、気付かないわけではないのに。


ラディは自身の抱いた感情に、困惑していた。



「アヤカっち、こっち来いよ!」


戦いが終わった後の、ソルトの声。


……何? アヤカっちって。たまごっちじゃあるまいし。


ああ、でも良かった。無事に終わった。

わたしはほっとして、深く溜息をついた。


ソルトが、もしラディに攻撃をしたらとか、そんな不安がどこかにあったから。

だから、協力してくれたことにほっとした。


ラディが、剣を鞘に収めないままの姿で、こちらに来る。


表情が曇ってる。


疲れてる……のかな。それはそうだよね。


でも、何だか様子がおかしい……?

怒ってる……?


「手を」


そう、ラディがわたしに短く言った。

こんな声を聞かされるの、初めて。

何だか知らない人みたいで……少し怖い……。


でも、もしラディが怒ってるんだとしたら、それはわたしのせい。


ラディを信じていないと思われても、仕方ない。


だけど、だけどね、ラディ。

わたしは、あなたを失いたくない。

一緒に地球に帰りたい。

だから、ソルトに応援を頼んだの。


そう言えれば、きっとすっきりするし、ラディも分かってくれると思うのに。


思うように、言葉が出ない。


わたしはただ、黙ってラディの手に取りすがってティナから降りた。


そして腰に手を当てて待つソルトの元へと行った。


「あの……ありがとう、ソルト」


わたしが彼の名前を呼んだ瞬間、ラディの視線を感じた。

でも、わたしは何だか……彼を見れなかった。


「いーってことよ。それよかさ、見て見て。俺の目、じっと見ててよ」


そう言うソルトの顔を、じっと見ていると。


彼は突然目を閉じて、瞼を軽く押し、そして再び目を開けた。


その時、彼の瞳にあった色は。

透き通った、エメラルドグリーン。


「やはりな……碧の一族か」


「そ。しかも俺、嫡男だからさ。心無いオトナたちに狙われちゃってるのよ。だからこうして変装してさ。ああ、アヤカっち、ありがとう。この剣も、必要ないけどでも偽装工作」


肩を竦めるソルトに、わたしは言われるままに剣を返したけど……


でも、碧の一族って……


蒼の一族が、アステリア。紅の一族が、由利ちゃんのティリシア。


じゃあ、碧の一族もどっかの王族……?


待って、ちょっと待って。しかも嫡男って!?


「あんたのその瞳。蒼の一族だろ? アステリアの。でもさあ、アヤカっちは黒茶の瞳……茶の方が多い色だよなあ」


そうわたしを覗き込むソルトから引き離すように、ラディの腕がわたしを掴んで引き寄せた。


ぎゅっとわたしを抱き締める、ラディの腕。

そして耳に聞こえる心臓の音は、少し早い。


……緊張している?


「彩花に言われたから、助けに来ただけじゃないだろう。お前の目的は、何だ」


もくてき……


あそこで、ソルトに会ったのって、偶然じゃないの?


計画されていたことなの?


わたし、また……騙されたの?


ラディ、ごめんなさい。

怒られても、仕方ない。

わたし、自分の首を絞めてばっかだ。


くるしい。

気持ち悪い。


頭が、ぐるぐる回ってる。


反省と後悔と……負の感情が、わたしを支配していく。


『今だけ……』


声が聞こえる。聞いたことのある、声。


レーリアの声だ。

わたしの中の、レーリアの記憶。


今だけ、なに?

暗闇に、包み込まれそうになる。


だけど、だめ。

今、レーリアの記憶を出したら……わたしがレーリアだって、ソルトにばれてしまう。


わたしは必死で、意識を保とうと戦っていた。

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