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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
波乱の行進曲(マーチ)

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第3話 死神の影、頬への誓い

スピードを緩めたティナ。


あああ、背後の死神の影とかいうのが、どんどん迫ってくる!

姿が見えないで、ただ砂煙が接近してくるものだから、余計怖い!


「ラララララ、ラディ、前のオーガもやる気満々ですわよ!?」


ポワンが悲鳴のような声を上げて、注意を引いてくれるけど。


どうすんの、どうなるの!?


わたしは自分の血の気が引いてくるのが分かった。


怖い、このままわたし、死んじゃうのかな。


あのオーガが持ってる棍棒、頭にぶつけられたら、相当痛そう。

ううん、痛いって感じる暇、あるかな。


ないといいな……。


あまりの恐怖に、一瞬脳内がトリップしてしまった。


ぽかーんとバカなことを考えていたわたしの顔に、ラディの大きな手が触れた。

ティナを止めて、両手でわたしの両頬を掴んで。


でも、優しく、そっと。


わたしを後ろに振り向かせ、ラディは端正な顔を寄せた。

間近に迫る、汚れない海の色の瞳。


え、ちょっと、何? 待って!


目を見開くわたしの、唇の端ぎりぎりの頬に、温かくて柔らかいものが触れた。

でも、一瞬だけ。


身体を離したラディは、目を細めて微笑んで、わたしの頬をもう一度撫でて。

そして、ティナの背の上に膝立ちになった。


「ポワン、行くぞ」


ラディの声に、ポワンは一瞬息を飲んだ。


「ほんとに本気で!?」


「ああ。キューの力が必要だ」


ええ!? 行くぞって、どこに!?

キューちゃんの力!?


わたしがまた混乱していると、ラディはわたしの目を見つめて言った。


「彩花、まっすぐ『魔女の館』を目指すんだ。必ず、追いつくから」


何を……何を言ってるの?

ラディの言葉が、頭に入ってこない。


だけど、そんなわたしから目線を外したラディは、手を伸ばしてティナの首筋を叩いた。


「ティナ、森の外で待機だ。そこまで、突っ走れ。いいな」


そう言うや、ラディは膝を曲げ、軽々とティナから飛び降りてしまった。


「ラディ!」


そう声を上げるわたしに振り向くことなく、ラディはすらりと剣を抜いた。


対峙するは、前から迫り来るオーガ。


うそ!!


ポワンは、しばらくわたしとラディを見ていたけれど、でも彼女もラディに続いて、ティナから飛び降りた。


「やだ、ポワン!!」


そう叫ぶように言うと、ポワンは顔を上げてにっこりと笑った。


「レーリア様、アタシの使い魔に、名前を付けて下さってありがとうございます」


やだよ……

何で……


涙が、段々浮かんでくる。視界が、ぼやけてくる。


ポワンが降りたのを確認すると、ラディはティナのお尻を足で軽く蹴り飛ばした。


「行け!!」


その声に応えるように、ティナが大きく一ついななき、そして走り出した。


待って、ティナ!

皆を置いて行けないよ!!


「やだ、やだよラディ!!」


わたしは爆走体制に入ったティナの首筋にしがみ付き、何とか振り返って叫んだ。

だけどそこには、剣を振りかざすラディの姿は見えなくて。

大きなオーガの背中で、ラディもポワンもキューちゃんも、皆隠れてしまっている。


やだ!

このまま、わたし一人になるの、やだよ。


色々戸惑うことばかりだけど、でも、ラディが傍にいてくれたから。

だから、受け入れて、前向きに頑張っていこうと思ってたのに。


ラディがいないアステリアなんて、やだよ。


吉田くんがいない地球にも、戻りたくないよ……。


わたしのために、ラディとポワンが命を張ってくれる現実。


認識、出来ない。

全然、考えがまとまらない。

何で?

何で……。


わたしは、ティナの首筋にぎゅっと掴まり、そして顔を俯かせたまま。

身体をティナの揺れに任せて、ずっと自分の思いと向き合ってた。


わたしは、どうしたい?

地球に、帰りたい。


だけど、このまま『魔女の館』に向かってもいいの?

よくない。犠牲を出してまで、地球に戻ってしまってはいけない。


ラディを、信じないの?

信じない訳じゃない。ただ、嫌なだけ。ぬるま湯に浸かって甘えてる自分が、嫌なの。


だったら、どうする?

どうするの? 彩花。


「戻って、ティナ」


次に顔を上げたとき、わたしは決心していた。


戻ろう。


わたし、なにも出来ないかもしれない。だけど、一人であの森の外で、ただ待っているなんて嫌だ。

ただの我がままだろう。

ラディもポワンも、わたしを考えてくれた結果、こうなったんだから。


だけど。


「お願い。止まって、ティナ」


強くティナの首筋を叩いて言うと、ティナはゆっくりと足を止めてくれた。

そして首を曲げてわたしを振り返った彼女の瞳は、何だか困っているようだ。

それはそうだろう。飼い主のラディから、森へ向かえと命令されたのだから。


でも、わたしは。


「ティナ、命令よ。戻って」


「あれあれ、何だお前。すげえ魔力だな。抑えてる気も感じる。何者だ?」


わたしの強く言った言葉に被せるような、男の人の声。

びっくりして辺りを見渡していると、笑いを堪えたような声がまた。


「バカだなあ、どこ見てんだよ。下だよ、下」


え!?


慌てて下に目をむけると、ティナが丁度またぐような格好になって、男の人が地べたに座ってる。


危ない……踏むところだったんじゃないの!?


わたしと同じ年くらいか、少し上か。

褐色の髪は短く、つんつんと上を向いていて。

手には剣を鞘に収めたまま握ってる。


わたしを面白そうに見上げる瞳は、赤茶の色。大きくて、少し上がり気味のその瞳が、段々近づいてくる。


「ひゃ!!」


驚いたわたしは、逃げるようにのけぞって、思わずティナから落ちそうになってしまった。


「おっと危ねえ」


赤茶の瞳の男の人の手が、わたしの手をがしっと掴んで引き止めてくれた。


大きな手。


戦いに慣れているのかな。ごつごつしてる。


でも、わたし、凄く怖くて。

わたしと同じ年以上の男の人、怖くて堪らない。

喋る分には何とか大丈夫だけど、こうして触れられると、体が震えてくる。


「あの……ありがとうございます、離してくださいますか……」


何とか言葉にすると、わたしを見上げたその男の人は、興味津々でわたしを覗き込んだ。


やめて! 怖いの、本当に!!


わたしが怯えているのに気付いたのか、男の人はわたしの手を掴んだまま、身体を少し離してくれた。


「何か、困っていることでもあんのか?」


ええ、今まさに。

あなたが掴んでいるこの手を離してくれれば、それは解決できますが。


そう言おうと思ったけれど、でもそれどころじゃない。


この男の人、剣を持ってる。

もしかしたら、ラディ達の力になってくれるかも!


わたしは小さく深呼吸して、何とか彼について来てもらえるように頼むことにした。


あんなヘンな妖魔が2匹もいるところへ、来てくれるかな。


でも、来てくれないと。怖いけど、頑張ってお願いしてみよう!


ラディ、きっとあなたは望まないだろう。

だけど、わたしは待つだけの女でいられない。


レーリア、あなただったらどうする?

知力と魔力の高いあなただったら。


ううん。そんなこと、考えても仕方ない。

わたしは、わたしの今、出来ることをしたい。


それが、どんな結果になろうとも。

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