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アステリア ―蒼い約束―  作者: 沙莉
波乱の行進曲(マーチ)

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22/89

第2話 空からポメラニアン、地からオーガ

落ちていく恐怖にわたしが叫び続けていると、耳元で指笛のような音がした。

すると、目の端に茶色いものが見え、お尻にどん、と衝撃が走る。


お尻に、何か固いものが当たってる。……っていうか、わたし、何かに座ってる?

それでも悲鳴を上げるのを止められないでいると、わたしの髪をそっと撫でたラディの声がした。


「……やか、彩花、落ち着いて」


ふえ……?


いつの間にか、わたしはラディにがっしりとしがみ付いていた。

パニックになってしまって、全然気付かなかった。

片手をわたしの髪に当て、もう片手は何か綱みたいなのを持ってる。


「下はまだ、見ないほうがいいかな。そのまま、俺に掴まってて」


見るなと言われると、見たくなるのが人間の心情というもので。

わたしは薄く目を開けて、首を下に向けてみた。


……ひぃー!!


まだ、空中にいる!!


わたしとラディは、茶色い馬に乗ってた。

その馬が、バサバサと羽をはためつかせ、一気に下降している途中だった。


馬に……羽? ペガサス!?


でも、今はそれどころじゃない。


「うっ!! Gが! 重力がぁ!」


胃が浮くよお、気持ち悪い!!

あの、ジェットコースターに乗ってるみたいな感覚。


「うん、もう少し……はい、着いた」


とん、と馬は地面に足を付け、ブルブルと鳴いてる。

わたしはまだ身体が震えて止まらない。

こ……怖かった……。


ラディはわたしの両膝の裏に手を差し入れて、わたしごと地面に降り立った。


「立てる? 大丈夫?」


そうわたしを覗き込んでくれる、ラディの瞳は心配そうで……。

でも、このままお姫様抱っこは恥ずかしすぎる。


「う、うん、大丈夫だから、下ろして」


きっと顔が真っ赤になってしまっているだろう。

わたしの人生初の、お姫様抱っこ……こんな形で、ちょっと情け無い。

ラディはまだ心配気だったけど、わたしが少しもがき始めたら、そっと地面に下ろしてくれた。


ああ、足、ちょっとガクガクするけど。

ラディの腕に掴まらせてもらって、何とか立てた。


「はぁ……何が何だか分からなくて……」


「そうだよな、説明しなくてごめん。この馬は、俺の愛馬だよ。さあ、ティナ、彩花にご挨拶を」


ラディの言葉に、茶色いペガサス……ちゃん? はブルブルと鳴きながら、鼻をわたしに擦り付けてきた。

ううーん、頭のいい子なんだなあ。可愛い。


わたしが彼女の頭を撫でていると、耳元に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


『無事に地上に辿り着きましたね?』


あれ? あれ??


きょろきょろと辺りを見回しても、この広い草原には、わたしとラディと、それにティナしかいない。

ラディは、遥か頭上のぽっかりと浮いたアステリア城を見上げた。


「シェニムが、魔法で声を流しているんだ」


へえ……魔法って、便利なんだ。電話がいらないね。

何か違う意味で感心しているような気がするけど、まあいいや。

シェニムさんの声が、続いてる。


『ではレーリア。あなたの使い魔を落としますからね。しっかりと受け取りなさい』


え!?


今、送るじゃなく、落とすって言った!?


シェニムさんの声の後、遠くから悲鳴が流れてくる。


「ひゃー……」


それが段々大きく、凄まじくなってきた。


「ぎゃあああああああああああああ!!!!」


ああ、その甲高い悲鳴は!!


「ラディ、ポワン、ポワンが!」


アステリア城から、ぽいと投げられたのは、わたしの愛犬で使い魔のポワン。

ポメラニアンの姿の彼女が、口と目を全開にして落ちてくる!

ラディは低く舌打ちをし、頭上を見上げながら身体を移動している。


「ラディ!! しっかりアタシを受け止めてぇ!!」


ポワンの悲鳴に、ラディは両手を天に翳した。

数秒後、その腕の中にポワンがすっぽりと収まった。


はぁ……驚いた。


『どうです、受け取りましたか?』


笑いを一つも含まぬ声で、シェニムさんが言う。


もう、もう!! 無茶苦茶なんだから!


文句言いたいけど、でも今のわたしには、シェニムさんに声を掛けることが出来ない。

さすがのポワンも、荒く息を吐いたまま口をぱくぱくさせたままだ。


『では、気をつけて。ああ、そうそう。何の役にも立たないポワンですが、下級使い魔の召還くらいの魔力は残っているでしょう。しっかりとレーリアの役に立つのですよ。足手まといにでもなったら、油で揚げて食べてしまいますからね』


そう凄い脅し文句を吐き捨て、シェニムさんからの通信は途絶えてしまった……。


「ま……っ、全く何て……本当に何て乱暴な皇子様方なんでしょ!! レーリア様、決して兄上様方を見習ってはなりませんよっ! この気品溢れる上級使い魔のアタシに、この扱いっ! 信じられませんわ!!」


やっと落ち着いたみたいで、ポワンはきゃんきゃんといつもの調子で喚きたてた。


彼女を抱っこしていたラディは、苦笑して地面に下ろしてあげると、わたしは膝を屈めてポワンを覗き込んだ。


「ねえ、ポワンが上級使い魔って……本当のポワンって、実はあの牛鳥みたいなの?」


ポメラニアンの姿は、きっとレーリアが魔法を掛けたんだろう。

本当の姿のポワンが、あの牛鳥みたいだったら……やだなあ。


そう思って聞いてみると、ポワンは犬の姿のくせに、明らかに「ガーン!!」とショックを受けた顔をした。


「失礼な! あんなキモい使い魔と一緒にしないで頂けます!? 本当のアタシの姿は、そりゃもう気高く美しく、レーリア様の使い魔に相応しい姿なんですのよっ!!」


そうは言っても、今のポワンはポメラニアンだしなあ。

しかも、騒々しいポメラニアン……あはは……。


あ、でも待って。


ポワンがもし、その気品溢れる姿だとしても。彼女が操る下級使い魔が、あのゾンビもどきみたいだったら……。


やだー!! 怖すぎる。

一緒に歩きたくない……。


「ポワンの使い魔って、見ることって出来るの?」


そうわたしが聞いたら、ポワンは僅かに胸を逸らせて頷いた。


「ええ。アタシの美しさには敵いませんけれど。でもティリシアのあのキモーい下級使い魔よりはマシですのよ?」


「ほんと? 見たいな」


どんな子なんだろ。気になる。

急がなくちゃいけないんだろうけど、でも少しくらいはいいよね。


ポワンは、二本足で立ち(これ、びっくりした!)、天に短い手を掲げた。

ううーん、この姿だけでも、充分可愛い。


「出でよ、我が使いの者よ!」


おお、凄い!! ファンタジーっぽいじゃないの!

するとポワンの手の先の空間が歪み、そこが割れて、のっそりと現れたのは……。


「きゃー、可愛い!!」


わたしは思わず、空間から現れた下級使い魔を抱きしめた。

キューキュー鳴いている声もまた、愛らしい。


まるでちょっと太ったアライグマの縫いぐるみみたいな姿。

背中に、小さなこうもりの羽根のようなものを付けて、パタパタと飛んで現れたのを、わたしがガシッと捕まえてしまった。


だって! 可愛い!!


思わず腕に閉じ込めて、頬ずりすると、全身を覆った毛がそれはもうフワフワしてて、暖かくて柔らかくて。


「ねえ見て、ラディ! 可愛いのー!」


わたしが感動してラディを見上げると、彼はくすりと笑って頷いた。


「そうだな。でも、結構強いよ? 爪も鋭いから、気をつけて」


そう言われて見ると、あらら、確かに。

小さな手に生えた爪は、大きくて尖ってる。引っかかれたら痛そうだ。


「どうです、レーリア様。でも、アタシはもっと愛らしい姿ですのよ!?」


うんうん、今のままでもポワンは充分可愛いよ。

だけど、このつぶらな瞳の下級使い魔ちゃんに、わたしのハートは掴まれてしまった。


「ねえ、ポワン。この子、何て名前?」


キューキュー鳴いて、多分嫌がっているであろう下級使い魔ちゃんの名前を聞くと、ポワンは呆れたようにわたしを見上げた。


「名前なんて、ございませんわよ?」


「ええー!? そんな、可哀想だよ」


「なら、彩花が付けてあげれば?」


そうラディが言ってくれたので、わたしはウンウンと悩んで……

でも、名前つけるのって、結構苦手で……


「キューちゃん。あなたは今から、キューちゃんよ」


あはは、鳴き声から名前を付けてしまうなんて。センス無さすぎ。

でもいいの。わたしはもう、大満足。


再びラディの馬、ティナにわたしを乗せてもらい、わたしの背後にラディが乗って。

ティナの頭に、ポワンがちょこんと座って。

わたし達の周囲を、ぐるぐると回りながら、キューちゃんが飛んで着いて来る。


ティナは、凄く早くて。


羽が付いているから? まるで暴走族みたい。ぎゅんぎゅんと飛ばして走ってる。


「ちょちょ……、ちょっとラディ! 凄い……」



「月曜日の営業会議に間に合わせたいんだろう? だったら急がないと」


ええー!? この早いスピードは、ラディの仕業なのね!?

でも、わたし、確かに言ったもの。月曜日には、帰りたいって……。


イスランさんは、2日は掛かると言っていた、『魔女の館』への道。

それをこの調子だと、かなり短縮できるかも。

振り落とされないように、気をつけなくちゃ!


わたしがティナの首にしがみ付いていると、わたしのすぐ傍で、キューちゃんの声が聞こえる。


「キュー!! キューーーー!!」


鳴きながら、あの鋭い爪を隠した手で、わたしの頭をぽんぽこ叩いてる。


「なあに、キューちゃん、わたし、喋ると舌を噛んじゃう……」


言いかけたわたしの頭を、更にキューちゃんは叩き続ける。そして、ちらちらと背後を見ていた。


「あっ!!! レーリア様、後ろをご覧下さいませ!!」


器用にティナから落ちないようにしがみ付いていたポワンが、驚愕の声を上げる。

わたしとラディは、一斉に背後に振り返った。

凄い……凄い砂煙!! どうして、草原なのに!! てか、その向こうには何も見えない!


「なに……!? 何? ラディ、砂しか見えないよ!」


「まずい……死神の影だ」


ラディの声に、緊張が走ってる。

わたしの背筋に、冷たいものが伝わったような気がした。


なにーーー!? 死神の影って!! 名前からして不吉極まりないんだけど!!

ラディの足が、ティナの腹を蹴り、爆走していたティナが、更にスピードをあげた。


「彩花、しっかり掴まっていて」


そう言ってくれるラディの声に、頷きたいけれど。

でも、前方を向いたわたしの目が、大きく見開かれたのが分かった。


だって、だって!


「ラディ! あれ!!」


大きな鉄の釘が刺さった棍棒を持った巨人が、ドッスンドッスンこっちに向かってる!

背後のラディは、その巨人を見て、


「オーガか。久しぶりに見たな」


ええええ!? 冷静に言うシーンなの、これ!?


前方のオーガ。

後方の死神の影。


早くも大ピンチなんじゃないの!?


前途多難な、わたしの魔力再封印計画。

一体全体、どうなるのー!?

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