第8話 想定外は、準備している者にだけ牙をむく
第八話ですが、もうすでに毛色を少しずつ変えていく感じです。
挑戦寄りの依頼は、
王都近郊の交易路再開だった。
最近、商隊が襲われている。
魔物の数が増えているという噂もあった。
「危険度、Bランク相当です」
依頼主の声は硬い。
「成功すれば、王都商会との正式契約を検討します」
部屋の空気が震えた。
王都商会。
成功すれば、
このギルドは一段跳ねる。
俺は地図を広げた。
(……嫌な感じがする)
魔物の出没位置が、不自然に偏っている。
「通常の魔物じゃないかもしれません」
誰かが息を呑む。
「群れを誘導している可能性があります」
「誘導?」
「人為的、です」
一瞬、場が凍った。
ギルド長が静かに言う。
「つまり……盗賊か」
「その可能性が高いです」
挑戦は、突然“事件”に変わった。
⸻
出発から三日目。
予感は、当たった。
魔物の襲撃は、陽動だった。
本命は、背後。
「伏兵だ!」
矢が飛ぶ。
商隊が混乱する。
「隊形維持! 撤退ラインB!」
俺は叫んだ。
だが、相手は予想以上に統率されている。
「くそ……数が多い!」
槍使いが後退する。
(やはり、盗賊団)
しかも、訓練されている。
その瞬間、別方向から角笛が鳴った。
嫌な予感が、確信に変わる。
「……囲まれてます」
一瞬、沈黙。
そして、俺は言った。
「予定通り、C案に移行」
「C案って……!」
誰かが叫ぶ。
それは、最悪想定用の作戦。
商隊を分散させ、
囮を置き、
最短で防衛拠点へ退避する。
「商隊の半分を南へ!」
「俺たちは北に誘導する!」
矢が肩をかすめる。
だが、隊形は崩れない。
なぜなら――
最初から、この可能性を想定していたからだ。
盗賊団は混乱した。
「なんでバラける!」
「追え!」
だが、追えない。
補給地点を事前に確保していたからだ。
地形を把握していたからだ。
撤退を前提に組んでいたからだ。
戦闘は、派手だった。
血も出た。
悲鳴も上がった。
だが――壊滅はしなかった。
商隊は守り切った。
盗賊団は退いた。
⸻
夜。
焚き火の前で、槍使いが震えた声で言った。
「……もしC案なかったら、終わってましたよね」
俺は黙って頷く。
ギルド長が、低く言う。
「慎重すぎる、か」
誰も、もう言わなかった。
⸻
王都商会。
豪奢な部屋。
依頼主が立ち上がる。
「正直、壊滅も覚悟していました」
静かな声。
「ですが、あなた方は生き残った」
そして、俺を見た。
「指揮を執ったのは?」
ギルド長が、迷わず答える。
「アレンです」
視線が集まる。
俺は一歩前に出る。
「特別なことはしていません」
依頼主は、ゆっくり笑った。
「それが特別なのです」
机に置かれた書類。
王都商会との長期契約。
そして――
「もう一つ」
別の封筒が差し出される。
封蝋には、見覚えのある紋章。
元いたギルドの紋章だった。
「あなたの元所属ギルドから、正式な抗議文が届いています」
部屋の空気が、爆ぜた。
「依頼妨害」
「盗賊団との関与疑惑」
はっきりと、そう書かれている。
槍使いが立ち上がる。
「ふざけんな……!」
俺は、封筒をゆっくり閉じた。
(……そう来たか)
ざまぁは、
静かに始まるわけじゃないらしい。
今度は、本当に――
正面から来る。
登場人物が、みんな真面目なので、(連載的に)誰も暴れずに、割と早めに完結しそうな予感がしています。




