第7話 慎重すぎるという不満は、静かに生まれる
第七話です。
大きな護衛依頼が終わってから、
ギルドの雰囲気は明らかに良くなっていた。
依頼は増え、
依頼主からの紹介も増えた。
誰もが、忙しそうに動いている。
それでも――
小さな違和感は、確かにあった。
「最近、ちょっと……安全すぎませんか?」
若い槍使いが、ぽつりと言った。
食堂での軽い打ち合わせ。
何気ない一言だったが、
周囲の数人が、目を伏せた。
「安全すぎる?」
俺は、穏やかに聞き返す。
「いや、その……」
「稼ぎが、もう少しあってもいいかなって」
言いにくそうに、言葉を続ける。
「大きな依頼、断ること増えてるじゃないですか」
「前なら、もう少し攻めてたと思うんです」
空気が、少しだけ張り詰めた。
ギルド長が口を開こうとしたが、
俺は軽く手を上げて止めた。
「正直に言ってくれて、ありがとうございます」
そう言うと、
槍使いは少し驚いた顔をした。
責められると思っていたのだろう。
「確かに、稼ぎは大事です」
「生活もありますし」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「でも、俺のやり方は、
“失敗しないこと”を優先しています」
誰も、反論しない。
だが、完全に納得した顔でもなかった。
(……当然か)
成功が続けば、
もっと上を目指したくなる。
それは、悪いことじゃない。
「次の依頼、少しだけ条件を変えてみましょう」
俺は地図を広げた。
「危険度は上がります」
「でも、準備を増やせば対応できる範囲です」
ギルド長が、興味深そうに身を乗り出す。
「……バランス、ですね」
「はい」
「慎重さを捨てるんじゃなくて、
慎重に“挑戦する”形です」
数人の表情が、少し明るくなった。
話し合いは、長く続いた。
役割分担を見直し、
撤退ラインを明確にし、
報酬と危険の釣り合いを詰める。
派手ではない。
でも、確実に前に進む話し合いだった。
その夜。
片付けをしていると、
槍使いが近づいてきた。
「……すみません、さっき」
「謝ることじゃないです」
俺は首を振った。
「言ってもらえない方が、困ります」
槍使いは、少しだけ照れたように笑った。
「前のギルドだと、
ああいうこと言うと、怒鳴られてたんで」
その言葉に、胸の奥が少しだけ痛む。
(……あそこも、最初は違ったはずなんだけどな)
「ここでは、
空気を悪くしても大丈夫です」
そう言うと、
槍使いは、はっとした顔をした。
「止める役も、進む役も、どっちも必要ですから」
静かな言葉だった。
でも、確かに届いた気がした。
翌日。
新しい依頼の準備が始まった。
前より少しだけ、挑戦的な内容。
でも、無理はしない。
慎重さは、捨てない。
ただ、
前に進む速度を、少しだけ上げる。
それが、このギルドの新しい形になり始めていた。
誤字脱字はお許しください。




