第6話 大きな依頼ほど、派手な判断は要らない
第六話です。
依頼書を見た瞬間、
ギルドの空気が少しだけ変わった。
「……これ、受けるんですか?」
若い剣士が、思わず声を上げる。
内容は、街道の長期護衛。
期間は一週間。
報酬は高いが、責任も重い。
失敗すれば、
信用を失う。
成功すれば、
名前が売れる。
ギルド長は、俺の方を見た。
「アレンさん、どう思います?」
前なら、
「やってみましょう」
という声が先に出ただろう。
でも、今は違う。
俺は、しばらく黙って依頼書を読んだ。
人数。
補給。
交代のタイミング。
天候の影響。
一つ一つ、頭の中で潰していく。
「……受ける条件次第です」
誰かが、息を呑む。
断るのか、と思ったのだろう。
「まず、人員を一人増やします」
「それから、途中で休める拠点を二つ確保」
「依頼主には、天候次第で行程を変更することを
事前に了承してもらう」
静かな声で言ったつもりだったが、
部屋の中は、しんと静まり返った。
「そんなに、慎重にやる必要ありますか?」
別の冒険者が、遠慮がちに言う。
「報酬、下がるかもしれませんよ」
その言葉に、
前のギルドでの記憶が、少しだけよぎった。
――細かすぎる。
――空気が悪くなる。
俺は、一瞬だけ迷ったが、
言葉を選んで答えた。
「下がる可能性はあります」
「でも、失敗するよりは、安いです」
誰も、笑わなかった。
ギルド長が、ゆっくり頷く。
「その条件で、交渉してみましょう」
依頼主との話し合いは、予想以上に時間がかかった。
「そこまで準備する必要があるのか?」
「今まで、そんな話は聞いたことがない」
何度も、そう言われた。
俺は、淡々と説明した。
過去の事故。
想定外の天候。
撤退判断の遅れ。
感情は、挟まない。
「失敗の責任を、誰が取るのか」
「成功したとき、誰が得をするのか」
それだけを、整理した。
最終的に、条件は通った。
報酬は、少しだけ下がった。
でも、責任範囲は明確になった。
出発の日。
護衛は、驚くほど静かに進んだ。
トラブルは、いくつか起きた。
だが、想定内だ。
雨で道が悪くなれば、
無理をせず、拠点で待つ。
魔物の気配を感じたら、
進まず、回り道を選ぶ。
派手な戦闘は、なかった。
それでも、
依頼は、確実に終わった。
街に戻ったとき、
依頼主は、深く頭を下げた。
「……正直、ここまで安心して任せられるとは思わなかった」
その言葉を聞いたとき、
誰かが、ぽつりと言った。
「……地味ですね」
一瞬、空気が止まる。
だが、その続きは、違った。
「でも、楽でした」
「怖くなかった」
「こういう仕事、嫌いじゃないです」
俺は、少しだけ笑った。
(そうだ)
派手じゃなくていい。
目立たなくていい。
必要なのは、
無事に終わることだ。
その夜。
ギルド長が、酒を持ってきた。
「大きな依頼でしたね」
「正直、賭けだと思っていました」
「……失敗すると思ってましたか?」
「少しだけ」
そう言って、苦笑する。
「でも、分かりました」
「このギルドには、
“止める役”が必要です」
その言葉に、
胸の奥が、静かに満たされた。
俺は、杯を置き、答える。
「じゃあ、
俺はここで、それをやります」
それでいい。
大きな依頼ほど、
派手な判断は要らない。
必要なのは、
最後まで、誰も欠けないこと。
それだけだ。
誤字脱字はお許しください。




