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『追放された理由が、真面目で「空気が悪くなるから」だった件』  作者: くろめがね


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5/10

第5話 戻ってこい、とは言われなかった

第五話です。

昼過ぎ、ギルドの扉を叩く音がした。


珍しい時間帯だった。

依頼の打ち合わせは、今日は入っていない。


ギルド長が応対に出て、

少ししてから、こちらを振り返った。


「……アレンさん」

「知り合い、ですよね?」


視線の先に立っていたのは、

元いたギルドの副長だった。


久しぶりに見た顔は、

以前より少しだけ疲れて見えた。


「話、少しいいか」


俺は一瞬、迷った。


断る理由もあった。

会う義務もない。


でも、

逃げる必要もないと思った。


「どうぞ」


簡素な応接室。

向かい合って座る。


副長は、しばらく黙っていたが、

やがて、短く息を吐いた。


「……最近、依頼が上手くいってない」


「そうですか」


それだけ答えると、

副長は少しだけ眉をひそめた。


「前は、こんなことなかった」

「判断が遅れるんだ」

「誰も止めない」


俺は何も言わなかった。


彼は、言葉を探している。


「……お前が抜けてからだ」


ようやく出てきた言葉は、

責める調子ではなかった。


むしろ、

どこか困惑していた。


「戻ってこい、とは言わない」


その一言に、少しだけ驚いた。


「……言えない、って顔だな」


副長は苦く笑った。


「今さらだ」

「空気が悪くなるって言って、切ったのは俺たちだ」


しばらく沈黙が落ちる。


俺は、ゆっくりと口を開いた。


「前のギルドが、嫌いになったわけじゃありません」

「でも……」


言葉を選ぶ。


「俺がやっていたことは、

 “止める役”でした」

「それを要らないと言われた以上、

 戻っても、同じことになります」


副長は、目を伏せた。


「分かってる」

「……だから、頼みがある」


顔を上げる。


「やり方を、教えてくれないか」

「判断の基準とか」

「準備の仕方とか」


その言葉を聞いた瞬間、

胸の奥で、何かが静かに揺れた。


(……そこまで、追い込まれてるのか)


同時に、

はっきりと分かったこともあった。


――それは、俺の役目じゃない。


「すみません」


俺は、きっぱりと言った。


「もう、俺は別の場所でやっています」

「中途半端に関わるのは、

 誰のためにもなりません」


副長は、何も言わなかった。


しばらくして、立ち上がる。


「……そうだな」


扉の前で、少しだけ振り返った。


「正しかったのは、お前だ」

「俺たちは……楽な方を選んだ」


それだけ言って、

副長は出ていった。


応接室に、静けさが戻る。


「大丈夫でしたか?」


ギルド長が、気遣うように聞いてくる。


俺は、少し考えてから答えた。


「はい」

「もう、区切りはつきました」


その言葉に、

自分でも驚くほど、迷いはなかった。


その日の夕方。


新しい契約書が、机の上に置かれた。


役職名は、地味だ。

報酬も、派手じゃない。


でも、そこには、

俺がやってきた仕事が、

正式に書かれていた。


――作戦立案

――依頼調整

――リスク管理


ギルド長が言う。


「空気を悪くする役、

 必要なんです」

「うちでは」


俺は、思わず笑ってしまった。


「……そう言ってもらえるなら」


ペンを取り、署名をする。


その瞬間、

ようやく実感が湧いた。


俺はもう、

「余計な存在」じゃない。


必要とされる場所に、

自分で立っている。


それで、いい。


誤字脱字はお許しください。

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