ハギザ69
よろしくお願いします
「あーれ光ちゃん!やっと働く気になってくれたのー?お母さんあなたの為に今日もくたくたなんだよ?」
僕らは距離を縮めて、更衣室のベンチに腰をかけていた。それは、とある人物を待ちながら。
そしてその時が来る。僕らが何事もない話をしていた時だった。
僕らがこの場所に入ってきたドアから顔を見せた人。僕らを見るや否や、直ぐに声をかけてきたのは、それこそ僕らが待っていた人物だ。けれど、その人物を待っていたと言うのに、僕は無責任にも帰りたくなった。
「お母さん、私は絶対、こんな所で働かないよ」
僕のズボンをぎゅっと掴んだ君の手は、助けを求めているようだった。
「あら、その男の子、家の前であった子じゃない?光ちゃんってば、彼氏作ったの?」
真っ赤で、肌の露出が大胆な服装。
間違いなく君の家の玄関で会った君の母親。
恐らく酔っている。
顔がほろけていて、何処かに身体を掛けていないとふらついてしまうのか、入ってきたドアに寄りかかっている。
「彼氏じゃないよ…」
また、ぎゅっと僕のズボンを引っ張る君の手。
「月乃さんのクラスメイト、秋乃しんって言います」
「いい男ね、光ちゃんさ、どうせ直ぐ捨てるんでしょー?やめときなさい、秋乃くんだっけ?利用されて終わるわよ?」
にやけ顔で、嫌味なのか事実なのかわからないことを不真面目に言う母親に何を思うこともなく、僕のズボンを握っている君の手にそっと触れた。
「私は帰る、もう二度と誘わないで」
「怒らないでよー、光ちゃんくらい可愛ければ直ぐに稼げるようになるわよ?」
立ち上がる君に連れて僕も立ち上がる。
母親に背を向けて、僕らがこの場所に入ってきた方向とは別のドアに歩き出す君。
この時、もう君の手は離れていた。
そして、僕は酔っている母親に顔を向けて会釈をした。
「あなた…いい男だね」
『がはっ、馬鹿馬鹿しい』
本当にこの人は酔っていたのだろうか。
そう疑ってしまうほどに、表情が難く真っ直ぐと立っていた。そして、この人の化け物が背後で捻れ原型をとどめていないことに、何よりも驚いてしまっていた僕。
言葉は発さず、もう一度会釈をして振り返って君を追った。
ありがとうございます




