ハギザ68
よろしくお願いします
店内の奥は更衣室で、ロッカーが並んでいるだけで、店内の容姿とは別に、現実味を感じる僕らしか居ない空間。
「ねえ、お母さんって?」
男の言葉を何よりも先に、君に聞かなくてはいけなかった。しかし、それはもう聞かなくても大凡の察しはついていた。
「わかるでしょ?鈍感すぎでしょ」
「僕は鈍感だから、わからないことにしてくれる?月乃さんから聞かなきゃわからないよ」
不機嫌な君の表情は、鈍感である僕に対してのもの。しかし、ここに連れてきたのは君であり、こんな事をして、なんらかの意味を持っているのも君であるのだから、僕は怒られる義理も何もない。ただ、不安な感情に苛まれているだろう今の君が、どうか楽になれる様にしてあげたいだけ。
君は深くため息をついた後、僕の目を見た。それと同時くらい、僕は君の背後に現れた灰色の化け物を直視してしまっていた。
空かさず。ハギザが僕の背後で両手を出した。
『しん、構えてろ』
「私のお母さん、ここで働いてる」
「そっか」
一瞬俯いた君だったけれど、君の声は一定を保っていた。そして、俯いた理由を理解すると同時に、また君は僕を見た。
「あのね、私は恥ずかしかった。親がこんな所で身体売ってお金稼いで、しまいには私も働けだなんて言うんだよ?なんでそうなるの?私って彼奴にとって何者なの?秋乃くんにとって私達って化け物なの?」
初めて見る君の泣き顔。
隠しもしないで、僕を睨みつけるように話しきった。 なのに僕は、今の君の感情を理解するものの、他人のそんな感情もどうでもいいかのように、無神経なことを考えていた。
「僕には関係ないことだよ、それに月乃さんが何者かなんてどうでもいいよ。ただ僕は君が化け物だなんて思わないし、今も凄く、可愛いと思う」
誰も居ない地味な更衣室で、まさかこんなことを言うとは思ってもなかったし、よく考えれば場違いでの人生初の告白だ。
『なんだ、俺は用済みだな、がはははは!』
僕の告白に対してハギザは馬鹿にしながら背後でまた小さくなっていった。すると、君の灰色の化け物も同時くらいに君の横から距離を置いた。
果たして、君の化け物は一体どこから現れてどこに行くのだろうか。そんなことはわからないままで、目の前で涙を手で拭く君の姿があるだけだ。
「私さ、秋乃くんにだったら本当のこと話してもいいのかなって、そう思ったから連れてきたかった」
「僕に何かできることがあるなら…。いや、何もなさそうだね」
あははは。
こんな情けない僕に君は笑うけれど、さっきまでの涙はどこに行ったのか不安になるだけだ。
ありがとうございます




