ハギザ65
よろしくお願いします
「っ!!がはっ!」
がたんがたん…。
目を覚ました瞬間だった。
眠っている間に長く息でも止めていたのか、激しい頭の揺れと耳鳴りが襲ってきている。
確かに、今は覚えている。
あの夢に出て来た化け物のこと。
あれはハギザだ。間違いない。
「秋乃くん、魘されてたよ?」
正面から聞こえた君の声。
僕が寝てしまう前まで隣に座っていたのに、わざわざ席を移動してどうして僕の正面に座ったのだろうか。
「ごめん、寝てた」
「そろそろ乗り換えかな、乗り換えたらすぐ着くから安心して」
「う、うん」
安心?
別に不安でもなんでもない。
でも、君からそう言われてしまうと、なんだか不安になる。そもそも、こんな都会まで来てこんな時間にどこへ向かうのだろう。
君の言われた通り、次の駅で降りて電車に乗り換えた。それから到着までは二駅先らしい。
「着いた、1時間ちょっとかかったね」
「そーだねっ、って。ここどこだ?」
乗り換えてから直ぐ、人混みに紛れ込んだ。
故に、電車の中は化け物と人間で埋め尽くされていた。
二駅後に改札を抜ける。
広すぎる交差点は赤信号。僕らは立ち止まる。そして、その周りには、どこから来たのかもわからない大勢の人間がその信号に止められている。
青になればいっせいに動き出すよう準備している。
薄暗い夜を明るくするのは建物の光。
休日のこの時間帯に賑わうこの場所は、居酒屋にホテル、そして何よりもだ。
僕の興味を誘ったのがキャバクラやガールズバーだった。
「秋乃くん、ここがいけない場所って奴だよ!」
「いや、想像していたのとだいぶ違うんだけど」
「いけない場所」とは、僕にとってのいけない場所ではなくて、君にとってのいけない場所のことであったらしい。
自分でもややこしくなる勘違いに、頭が追いつかない。それと、今僕が感じている勘違いが、夢で見た化け物との勘違いと似ていることに気がついた。
しかし、夢と現実を結びつけることは不条理であるから、意味はない。
「遊んでこ?」
「いや、僕は人混みが好きじゃないんだ」
人や化け物の多さに圧倒されてしまい、僕はここまで連れて来てもらったくせに、青信号になった瞬間にも足が進まなかった。
ただ周りの多勢が、僕らを置いてくだけ。
「いこっ!」
君の手の体温と匂いが僕の身体を誘う。
そんな君との距離に戸惑うが、直ぐに僕の感情は追いつく。
「大丈夫、ちょっと離れて」
「あ、ごめん」
君には気を遣わせていた。なのにその手を振り払ってしまった。たぶん、僕は君に二乗の不快を与えてしまったと思う。
『しんっ!焦るな!焦るなよ!落ち着け!落ち着くんだあ〜!』
「うわっ、頭いてぇ!」
耳鳴りと共に、ハギザの目覚めと興奮気味な雄叫びにやられる。
『あぁ!すまんすまん!目が冴えちまうぜ!こんな場所!』
「だ、大丈夫?秋乃くん?」
「うん、ちょっと寝違えただけだよ」
ハギザが現れてから一層に暗く見え始めるこの街で、ハギザの興奮した姿に化け物共がハギザを直視している。そして、それは人間もそうだ。
僕を見ている。
「ねえ、私行きたいお店あるから来てよ。そこなら人も少なくて、落ち着くと思う」
また手を引かれている。
君に助けられてしまっている僕は、もう抵抗なんてできなくて、君が言う人目が向かない場所まで早足で歩いて行った。
ありがとうございます




