ハギザ9
気分が晴れない。
よろしくだ
体育館の表に設置されている自動販売機。
昼休み頃になれば混雑する場所だけど、まだ一時限目の休み時間ということもあって、生徒はまばらで、僕ら同様に2人組、3人組と仲の良い友達同士で屯っている。
「人は1人では生きていけない」
そんなことを、誰かが言っていた。周囲に人が賑わっている場所を見ると、いつもこんなことを考える。
『人気が多いといいなぁ、がっは』
こんな場所でハギザの機嫌が良くなることに理解が追いつかない。こんなにもたくさんの人と化け物。そんな存在を目の前にして、疲れないわけがない。
「ほれ、奢れよ」
岡山に肩を叩かれて、ぼーっとしていた意識から覚めた。
「えっ、嫌だよ。今日は平等に買うからな」
毎回こうだ。
岡山と自販機に来ると、岡山の余計な絡みが長引いてしまい次の授業の時間ギリギリになる。
「じゃんけん!」
「だーめーだー」
今日こそは、何がなんでも普通に買う。そう心に決めて、駄々をこねる岡山より先に飲み物を買った。
「あぁ。これで今日が最悪な日になった…」
態とらしく、ぶつぶつと文句を言っている岡山を置いてその場から立ち去る。
「じゃあ、先に教室戻ってるからな」
冷たいペットボトルを手のひらで感じてる。もしかしたら、今僕は岡山に対して同情してるんじゃないのか。勝手な僕の中の罪悪感が、溢れ出してしまった。
「わかったよ」
『おまえ馬鹿だ!』
「え、ましで?あんがとなっ!」
切り返しが早い岡山。きっと僕がこうすると期待していたに違いない。
『あははは、君は都合が良すぎるよね、本当に愉快なやつだよ』
岡山の背後にいる化け物が笑みを浮かべ、嫌みたらしいことを言った。
『がはっ‼︎』
僕が岡山にお金を渡す手と同時。
ハギザが太い腕で岡山の化け物の顔面を、片腕で鷲掴んだ。
『うぐっ!すみましぇん。ゆ、ゆるしゅて…』
見慣れた光景に今はなんとも思わない。
それに、こうなるのは岡山が悪いんじゃない。この化け物が僕を俯かせるだけだ。
「今度、ちゃんと借りは返すからよっ」
上機嫌にも純粋な岡山の笑顔を見て、僕は微笑む。そしたら心がスッキリしたように感じた。だから、あの化け物の嫌味はチャラになった。そう思いたい。
『つぎっ!そうだな!ガハハ!次に俺の視界に入ったら許さねーぜ?俺様って奴は本当に優しいぜえ?なあ?』
『視界に入ったらって!?そんな無茶なぁ!ワタシだってあんたになんか会いたくないわよぉぉ!』
『オカマ野郎、なんか文句あるか?聞くぞ?』
『いえっ、なんでも…ないっ。です』
岡山の化け物をイジメ足りていない様子のハギザを落ち着かせる為、一旦に岡山を視界から外して強制的に切り離す。
興奮気味のハギザは、一つ目を大きく見開き、尖った歯をむき出しにしたまま、荒い息を殺していた。
化け物同士で仲は悪くても、同じ飲み物を買った僕らは仲良く一口。
「うまい、まじでありがとなー」
「そーだね、それより夏休み中どこかいった?」
これ以上、奢ったことに気を遣われるのは嫌なので、話を逸らして、定番な夏休みの話を切り出す。
この時、未だに興奮状態のハギザが暴れることをせず、じっと我慢してくれていた事には助けられていた。
「おぉ、月乃と泊まりで旅行いった」
ぶはぁっ。
あははは。
飲み物を飲むタイミング。
なんでもないはずの言葉に、不意を突かれた。一方、隣で笑う岡山の姿にまた気分が良くなった。
そんな気がする。
ありがとうございます




