第61話 この出会いは、幻でしょうか?
気がつくと、リッコは見知らぬ部屋に立っていた。
どうやら、知らない女性の寝室にいるらしい。細身の女性が、ベッドに半身を起こした。ウェーブのかかった長い髪で、キエフオパールのようなオレンジ色の瞳を持っている。
「あなたは、どなた?」
少女に話しかけられ、リッコは慌てふためく。
「うわ、ごめんなさい! すぐ出ます!」
ドアノブに手をかけた。しかし、ノブは手をすり抜けてしまう。
「いいわよ。ここは死後の世界だから」
「わたし、死んじゃったんですか?」
リッコが慌てると、少女はクスクス笑われた。
「大丈夫よ。あなたは死者じゃないわ。すぐに元の世界へ帰れるから、安心して」
少女からアドバイスをもらい、リッコは胸をなで下ろす。
「あなたは、何者なんです? わたしは、リッコと言います」
目の前の女性は、どこかで見たことがある。つい最近、博物館で見たような。
「ねえ、ベルトの紋章……あなた、ひょっとしてソルのお友だち?」
「ソル……?」
聞き覚えのない言葉を聞き、首をかしげていると、女性はヒントをくれた。
「ソランジュ・オルセンのコトよ。朱砂の魔女って言えば分かるかしら?」
「知ってます。すると、あなたコジモ姫様ですね!?」
この人が、コジモ王女だったのか。
「ええ。といっても、もう会えないんだけどね。死んじゃったし」
コジモは、自分の死を自覚しているらしい。
「あの、わたし、ソランジュさんとクテイの秘宝を解放したんですけど」
「へえー。あなた、そこまで辿り着いたの?」
「はい。なんとか。色々な方々の知恵を借りて。どうやらわたし、秘宝のカギを発動しちゃったみたいで」
リッコが事情を告げると、コジモ王女が「まあ」と声を上げた。
「そうなの? クテイの血を継いだ王家じゃないと、そのカギは開かないわ。あなたはワタシの子孫か何かかしら?」
「そこまでは。両親はいなかったので、聞くわけにもいかず」
ベッドから立ち上がった姫は、本棚から一冊の本を取り出す。
「ねえ、バッジを持っているかしら?」
「はい。こちらに」
リッコは、手に握りしめていたバッジを、コジモの霊に見せる。
「やっぱりだわ。バッジにクテイ王家の魔法が込められているからなのね。それがあれば、あなたでも開けられるみたい」
「そうだったんですね。わたしなんかが、王家なワケないですよね」
自分が王家であるなんて、あり得ない。そう、リッコは確信した。
「あの、わたしの正体はなんなんでしょう?」
「分からないわ。ワタシと関係しているかも知れない、としか」
「ですよね。変なコトを聞いてすいません」
コジモは百年ほど昔の人間だ。そんな人物が、百年後に産まれた人間のことなど分かるわけがないのだ。
「ソルは元気?」
ベッドに戻ったコジモが、尋ねてきた。
「色々と助けてもらっています。でも、何も返せなくて。時々寂しそうにしています。あなたに会えなくて」
「ワタシも、寂しい。一度でいいから、ソルと旅に出たかったわ」
虚空を見上げながら、コジモ姫は寂しそうな顔をする。
「あなたがワタシと対面したのも、きっとバッジが見せた幻よ」
「どうして、あなたを見せたんでしょう?」
「ソルの魔力がバッジと呼応して、幻を見せたんでしょうね」
リッコの身体が、実体を持っていく。
「お別れの時が来たようね。バッジの魔力が切れたんだわ」
コジモ姫が、「ねえ」と切り出した。
「ねえ、リッコさん。ワタシたち二人が会っていたことは、ソルにはナイショにして。あの子、嫉妬深いから」
「はい。お約束します」
「いいお友だちをに会えたのね、ソルは。あなたみたいなキュートな人の方が、アガリアレプトなんかよりお似合いよ」
コジモ王女の姿が、だんだん遠ざかっていく。
「ありがとうございます」
「それじゃあね」




