第33話 わたし、有名人でした!(悪い意味で)
「こんなお金、使い切れませんよ」
マセッティが用意してくれた宿の外へ出て、リッコは戸惑いを言葉に出す。
「旅の資金にでもすればいい。先は長いんだ。すぐになくなるさ」
「できれば、管理してくれる相手が欲しいですねー。おや?」
うなだれた表情のノームが、トボトボと歩いているのが見えた。僧侶特有の長い帽子がない。おかっぱだったのか。ワンピース姿でなければ、男子に見間違えたことだろう。
「すいません、あなたは」
「ああ、聖騎士『アイリス・フォート』様、先日はどうも」
特徴的なメガネで分かった。
やはり、昨日殺されかけたノームの女性である。
「アイリス・フォートって、なんですか?」
「え、ご存じないのですか? リッコ・タテバヤシさんですよね? あなたはギルド界隈ではアイリス・フォート、『白百合の要塞』として恐れられているのですよ?」
聞くところによると、白銀の全身鎧とヒーターシールド一つで前線に立ち、大型魔獣に立ち向かう姿は、ギルド界で「アイリス・フォート」と呼ばれているらしい。
「たしかに、リッコの出で立ちはまさしく『白百合の要塞』と呼ぶに相応しい」
「二つ名を付けられるとは、思ってもみませんでした」
『朱砂の魔女』という二つ名を持つソランジュの方が、すごい功績なのだが。
「申し遅れました。あたし、ノーム族のジョーイ・ショーバンです」
耳が長いが、エルフのように上へ尖っていない。下に垂れ下がっている。
大きな八重歯が、女性型ノームの特徴である。
男性ノームは総じて出っ歯だ。
「白百合の要塞様、この度は助けていただき、ありがとうございます」
「そんな大層な名前、わたしには似合いませんよ。リッコとお呼びください。リッコ・タテバヤシ。それがわたしの名前です!」
小心者が顔を出し、リッコはペコペコと頭を下げた。
「心得ました、リッコさん。といっても、もうお目にかかることなどないでしょうけど」
「何かあったのですか?」
「お恥ずかしながら。あたし、冒険者をクビになりまして」
なんでも、度重なる失態から、ジョーイという名のノームは冒険者の登録を抹消されたらしい。
「なんのためにワーンスから出てきたのやら。鍛冶屋の父から『嫁に行け』と言われて反発し、冒険者になったと言うに」
聞けば、ジョーイの実家は鍛冶屋であり、父親はリッコのヨロイを作った鍛冶屋だという。
「その節はお世話になりました。ジョーイさん」
「いえいえ、こちらこそ」
お互い、ペコペコと頭を下げ合った。




