同じ名前 ?
ただいまぁ
「 としちゃん 今日帰り早いね どうかしたの 何かいい事でもあった ? 」
『 うるさいなぁ 』
「 これは いい事あったなっ 怒ってるけど 顔がニヤけてるぞっ 」
『 何にもないよ 』
小腹がすいた僕はおもむろに冷蔵庫を開ける プリンが目についた
『 優 ‼︎ このプリン食べていい? 』
優 とは 東山 優 僕の2つ下の妹だ
「 食べていいけど 120円ね ‼︎ 」
実に可愛げのない妹だ 名前に『 子 』 という文字が付いていると付いていないとで こうも違うものか
『 はい 優 120円 なっ‼︎ 』
「 えっ ほんとに払ってくれるの ? としちゃん大丈夫 ? 」
いつもと違う僕に妹は困惑している 自分ではいつもと同じつもりなのだが 他人からは どうも浮かれて見えるようだ 実際に浮かれてるんだけど
その日から僕は寝ても覚めても優子の事ばかりを考える日々が続いた 会いたくても会えないもどかしさ 現代のようにスマートフォンなど便利な物はなく 待ちぶせ という手段が主流だった当時は本当に不便なものだった
日を重ねる毎に 聞きたい事は山のように増えていく どこに住んでいるんだろう? 彼氏はいるのかなぁ? 家の電話番号は? 次のコンサートはいつ行くの? 週末は何してる? ほんと思春期の男子が考える実にバカげた内容だ
時季は梅雨に入り優子に会えない日々がひと月ほど続いていた 来週からは学校もテスト期間に入り テストが終われば 長い夏休みがやってくる 夏休みに入れば優子に会える確率などまったく無くなってしまう でもここんところ授業が早く終わってくれない どころかテストのために補習までしてくれる ありがた迷惑な事だ ため息ばかりが増えてくる いつもより数本遅い電車に揺られながら居眠りをする ハッと目を覚ました時は乗り換え駅の2つ前の駅 習慣ってすごいもんだ
あたりはすっかり夕暮れ 駅には電気が灯りはじめていた 電車を降りてホームをとぼとぼ歩き 電車の連絡地下道へ向かって階段を降りていく 階段をほぼ降りきったその時 偶然左側から優子歩いてきた しかも今日は1人だ 彼女は下をを向いて歩いている こっちには気付いていないようだ 僕はすぐに人混みをかき分け優子に近づいていった
『 おっすっ 』
いつも心の中では勝手に優子って呼んでいるのに 本番ではなかなか呼べない
「 あっ 俊彦君 」
いつもの友達がいないからなのか 少しおとなしく清楚に感じられた
『 今日は遅いんだね 友達は? 』
「 うん 今日は学校にノート忘れちゃてさぁ 取りに戻ってたんだ 友達は先に帰ってもらったよ 俊彦君は待ちぶせかなっ? 」
『 いやっ 偶然 偶然 僕もびっくりしてたところ 』
ここでかっこよく " 君に会いたくて ずっと待ってたんだ " とか言えばよかったかなぁ
無情にも優子が乗る 7番線へ登る階段が近づく
「 この時間 乗り継ぎが悪くて 今から1時間近く待たなきゃいけないんだぁ 」
チャンス到来 ‼︎
『 同じくだよ 田舎は辛いよねっ 少し話でもしない ? 』
と言いながら 僕も優子と一緒に 7 、8番線 のホームの階段を上がった すると優子が僕の乗り換える9番線を見て
「 電車 きてるよ 」
えーっ‼︎ この時間って 9番線絶妙なタイミングで乗り換えできるんだっ ‼︎ でもこのチャンスは逃せない
『 うん いいんだ こっちの電車が来るまで付き合うよ 』
「 いいよ いいよ 子供じゃないんだから いきなよっ 」
嫌われてるのかなぁ でも今しかないんだ 今を逃すと次は夏休みが終わるまで会えなくなる
『 いやっ 少し話しない?1人でいるよりは 暇つぶせると思うよ 』
優子は微笑みながら
「 そうだね じゃあ ここ座って 」
と 7番線の方を向いたベンチへ僕を座らせた よしっ 願っても無いチャンス ‼︎ 女子と並んでベンチなんて経験した事ないよ
優子は僕の前を通り背中合わせの8番線の方を向いたベンチへ座った えっ⁉︎ これおかしくない?
「 ごめんね うちの学校さぁ 男女交際禁止なんだ 制服だし 誰かに見られちゃうとマズいんだよね 」
不覚だった 有名なお嬢様女子校 そりゃそぉだよなぁ
でも背中合わせでも話せるだけで良しとしよう
『 あっ 次コンサートいつ行くの? 』
「 秋のコンサートは地元には来ないんだよねぇ? 」
『 そぉなんだよねぇ 僕は遠征しようと思ってるんだっ もし行くなら一緒にどう? 』
「 でもチケットとるの面倒だよね 」
『 僕 妹の分もとるから 一緒にとろうか? 』
「 ほんとっ⁉︎ 甘えちゃっていいのかなぁ? 」
『 いいよ いいよ 二枚も三枚も同じだからね 』
「 うわぁ ありがとう 楽しみがひとつふえたねっ」
コンサートが楽しみなのか?僕と行けるのが楽しみなのか? おそらくコンサートに行ける事が嬉しいんだろうなぁ まぁどちらにせよ彼女と同じ時間を一緒に過ごせるわけだから僕にとっては大進歩だっ
いつも一人で待つ電車はなかなか来ないのに 二人で待つ電車はすごく早くホームへ入ってきた あっという間のプラットホームデートは出発のアナウンスと共に終わりを告げた
僕は階段を下り地下道をぬけ9番線ホームへの階段を登った さっきまで二人で話していた7番線ホームのベンチが見える 僕は彼女に言えなかった一言をつぶやく
『 優子 ばいばい 』
日はすっかり暮れ ホームから見える夜景は いつもより輝いて見えた




