29.リーウィアは学習できる子
リーウィアがアンネリーエチャレンジに勤しむ一方で、結婚式を目前に控えたレウリアーダ家は慌ただしさを増していた。
当然主役の一人であるリーウィアも例に漏れず――と言いたいところだが、周囲が並々ならぬ熱量で動いてくれるおかげでリーウィアはそれなりに余裕を持って過ごせていた。
それでも花嫁でなければ務まらないこともある。
チャレンジに区切りをつけ、結婚式まであと七日となったその日、リーウィアはまだしつけ糸が残る仮縫い衣装に袖を通していた。
ウェディングドレスの仮合わせである。
「重くありませんか?」
「ええ、このくらいなら問題ないわ」
仕立て職人にそう答え、リーウィアは丁寧に身のこなしを確認しながら着心地を確かめていく。
彼女たちは本当に良い仕事をしてくれていると思う。
ただでさえ名門辺境伯家の婚礼衣装を仕立てるのは大仕事だ。
その出来栄えには家門の面子がかかっているので下手な仕事はできない。
なのに納期は通常の半分、たったの三か月しかないときている。
さらに花嫁は傷物であることから傷痕を露出しないよう気を遣いつつ、けれど華やかでなければならず、だというのに脚が不自由なので衣装をあまり重くしてはならない。過度な装飾は厳禁だ。
こんなの無茶振りもいいところだろう。
それだけに、リーウィアは少なくない心苦しさを感じずにいられなかった。
だが、
「どこか不具合がございますか?」
目ざとくリーウィアの機微を察知したのは侍女長のオーサだ。
ウェディングドレスは言わば女の戦装束ということで、この場には、別件で手が離せない義母フレンダを除くレウリアーダの女衆が勢揃いしていた。
「えっと……腰回りがほんの少しだけきつい気がするけど、このくらい――」
「直せ」
厳とした義祖母ヘレンの指示を受け、職人たちが動き出した。
お嫁さんの要望を叶えようとすることが常態化しているヘレンたちも、この手のことは有無を言わさず却下する。
リーウィアとしても家門の面子に関わることなので否やはないのだが、やはり感情面では申し訳なく思ってしまうわけで、
「太っちゃったかしら?」
リーウィアがバツの悪さを誤魔化すように水を向けたのは義妹のシーラだ。
「当家にお越しになられた頃を思えば少しだけ健やかになられた気はしますけど……」
「今のお姿よりも、まだお痩せになっていたのですか……?」
思わずといった風に声を上げたのは、リーウィアにとってもう一人の義妹となるアンジュという女性だ。
イェルドの実弟、レオンの伴侶である彼女とは、本当に今しがた出会ったところだ。
「せっかく来てくれたのに忙しなくてごめんなさいね」
「いえいえ、お忙しいところにお邪魔してしまって申し訳なく思っているくらいですから」
「あとでお茶をしましょうね」
「はいっ」
リーウィアが試着を始めたところで本領組が王都別邸に到着したらしく、この場にはアンジュだけが通されていた。
義祖父グレーゲルと義弟レオンも一緒に到着しているそうだが、彼らとはまだ挨拶もできていなかった。
もちろん彼らが遠き本領から王都を訪れたのは、イェルドとリーウィアの結婚式に参列するためである。
そんな義妹二人がひそひそ話を始めた。……丸聞こえだが。
「もっと食べていただいたほうがいいんじゃないですか? 触れたら折れちゃいそうですよ?」
「また思慮の浅いことを……。こういうことは時間をかけて少しずつ進めねばならないのです。お義姉様をあなたやサシャのような、脳みそまで筋肉でできている女と一緒にしないでもらえますか?」
「たしかに。なんというか、凄く儚げで、品がおありで、お美しいですよね。さすがは伯爵家のご令嬢です」
「……わたくしも辺境伯家の令嬢なのですけど?」
「お嬢様は所詮レウリアーダの娘じゃないですか」
「どういう意味です」
「いくら外面を取り繕ったところで中身は私たちと同類という意味です」
「ぶ、ぶれいな……」
物凄く興味が惹かれる話が聞こえてくる。
どこから手を付けて良いのか迷うくらいだが、ひとまず、
「二人は義姉義妹の関係なのに、友人のように気安いのね」
「わたくしのお義姉様はリーウィアお義姉様ただお一人です。これは義姉と呼ぶに値しません」
「ひどいです。これ扱いはないでしょう?」
「お黙りなさい。義姉として扱われたいのであれば相応のたおやかさを身に付けることね」
「たおやかさ」
「意味を理解できていますか? リーウィアお義姉様のような、しなやかな所作と品格を備えろと言っています」
「また無茶なことを」
「そんな始末だから〝これ扱い〟で十分だと言っているのです」
聞いているだけで好奇心が満たされていく。
が、彼女たちとは家族になる。リーウィアも積極的に混ざっていきたい。
「ところでアンジュさんはおいくつなのかしら?」
「奥様と同じ十九ですが、私のことはどうか呼び捨てになさってください。なにぶん木っ端な騎士爵家の娘なので、伯爵家のお嬢様に気を遣われては恐縮してしまいます」
木っ端な騎士爵という言い回しに、リーウィアは強く反応した。
(……この子、なんだか凄くレウリアーダっぽいわ! さらっと私のことを奥様呼びしているし!)
香る。いまだリーウィアが乗り切れていない、レウリアーダ特有のノリを強く感じる子だ。
まるでサシャのような――そうだった、彼女のことも聞きたかったのだ。
「それじゃあアンジュと呼ばせてもらうけど、私たちは身内になるのだから奥様と呼ぶのはやめてね?」
「わかりましたっ、ではお嬢様に倣ってお義姉様とお呼びします」
「それでお願い。あとさっきシーラが『あなたとサシャのような』って言っていたけど、二人はもしかして……?」
「はい、サシャ姉さんとは従姉妹です」
「まあっ、そうなのねっ」
その瞬間――、
「えっ!?」
大きな声を上げたのは、部屋の隅で静かに控えていたマヤである。
自然、視線が集まると、マヤは「なんでもありません」と頭を下げ、一緒に隣で控えている同僚にささやきかけた。
「サシャ様、サシャ様」
「なんですか?」
「もしかしてアンジュ様ってフロルヴィーナちゃんの飼い主だったりします?」
「はい? ええ、そうですが……」
「やっぱり」
だったらなんだという話だが、エロ犬ヴォルデガルフに付け狙われていたという、あのフロルヴィーナちゃんである。
その飼い主とこんな形で出会うとは。マヤはなんだか伏線回収されたような心地よさを感じていた。
「……アンジュのやつは上手くやったのです」
「まあ、夫は辺境伯家のご次男様ですものね」
「小耳に挟んだところだと、レオン様は旦那様のご結婚を契機にレウリアーダが持つ子爵位を継がれるとかなんとか」
「間もなく子爵夫人になられると」
「ちなみに恋愛結婚です」
「それは確かに上手くなさいましたね」
レウリアーダを訪れたあのとき、オーサから「マヤさんは騎士爵の娘として得られる最高に近い立ち位置にいるのですよ」と言われたことが頭をよぎった。
(オーサ様がおっしゃったように、これは……同じ騎士爵家の娘として嫉妬してしまいますね)
オーサはマヤの立ち位置を「誰もが歯噛みして羨むでしょう」と評価してくれたけれど、アンジュはマヤとは比較にならないくらい、騎士爵家の娘が得られる最高の立場を獲得している。
悪感情など一切覚えていないが、アンジュのことを素直に凄い、やり手だと感服する。
(……私も子作り頑張ろうかな)
むしろ良い意味で野心を刺激してもらえたと感謝しているくらいだ。
リーウィアが産んだ御子と我が子が乳兄弟――狙ってみても良いかもしれない。
かたやリーウィアたちの雑談も進んでいた。
「なるほど。アンジュの実家はレウリアーダの陪臣のお家なのね」
「はい、ですのでなんでも申し付けてくださいね。シーラお嬢様の取り巻きを長くやっていたので結構使えると思います」
「誤解を招く言いかたはやめなさい!」
「取り巻き……」
「ち、違いますよ、お義姉様!? わたくしは高位貴族の子弟がやりがちな――」
「懐かしいわ、取り巻き。やり甲斐のある務めよね」
「え……」
「あれ?」
義姉の意外な反応を受け、義妹二人が固まった。
シーラが言いかけたように、高位貴族の子弟はしばしば寄り子や陪臣の子弟たちを取り巻きにする。
集団を形成することで周囲を威圧したり、力を誇示したり、ときには敵対派閥を攻撃することもあるし、ただ気に食わないからという理由で取り巻きを使って嫌がらせをすることもある。
だが、
「どうして驚くの? 高位貴族が取り巻きを連れて歩くのは普通のことでしょう?」
リーウィアは貴族的価値観が強い娘だ。
高位貴族はそうして当然と考えているところがあり、またリーウィア自身も取り巻きを――それも率先して務めていた時期があるのだ。
「……お義姉様ってそういうお考えなのですか?」
「……かなり意外かもです」
「そう? 私も学生の頃は嬉々として取り巻きをしていたわよ? アンネリーエ様の」
「まあ……」
「王太子妃殿下の取り巻きですか。同じ取り巻きでも巻く相手の格が違いますね」
「アンジュはわたくしに喧嘩を売っているのかしら?」
そこでヘレンが柏手を打った。
「おしゃべりはそこまでだ。リーウィア、次は宝飾品を選ぶよ」
「はい」
三人が雑談をしているあいだもリーウィアの周りには職人たちが衣装に針を打ったり、装飾を当てたりしていたのだ。
それがひと区切りしたということなのだろうけど、
「……このなかから選ぶのですか?」
「一生に一度の晴れ舞台じゃないか」
うんざり気味なリーウィアの一方で、ヘレンは「主役のあんたが気合を入れないでどうする」とでも言わんばかりだ。
雑談しながらリーウィアも気づいていたのだが、多数の使用人を動員し、恐らくレウリアーダの所蔵であろう宝飾品の数々がところ狭しと並べられていた。
試しとばかりにヘレンが手近の髪飾りを取り上げて、結われたリーウィアの髪に差してくれた。
ヘレンは満足そうにひとつ頷き、
「アンジュとも上手くやっていけそうじゃないか」
「はい。お義祖父様とレオン様とも仲良くできれば良いのですけど」
「ハッ」
ヘレンが鼻を鳴らして肩をすくめた。
「あんなのただのジジイと小僧さね。どうってこたあない」
「まあっ」
リーウィアとヘレンは幸せを噛み締めながら笑いあったのだった。
◆◇◆
その日の夕食後、リーウィアとイェルドは就寝までそう長くない時間を二人きりで過ごしていた。
今日は義祖父たちが訪れたということで日課になっているお茶会が行われず、彼らとの交流の時間に充てられたからだ。
一応その場にイェルドも顔を出していたのだが、そこは久し振りとはいえ飽きるほど顔を見てきた家族だ。
彼らにあれこれ言われるのが面倒になったのか、イェルドは早々に席を辞してしまった。
その埋め合わせでリーウィアから声をかけたのだが、イェルドの顔が今ひとつ晴れない。
「ずっと言おうか悩んでいたんだが結婚式まであとわずかだ。憂いを除いておくためにも話しておこうと思う」
「はあ……」
神妙な面持ちでそう切り出されたところで、リーウィアはとぼけた声で応じるしかなかった。
なにせ思い当たることがまったくない。ここ暫くはいたって平和な日々である。
「君は変わってしまった……」
「はい?」
「私のことが嫌になったのか? 思うところがあるなら言ってくれ」
「いったいなんのお話をされていらっしゃるのですか?」
リーウィアがとんとわからず首をかしげると、イェルドはスッと手を持ち上げこちらの手元を指さした。
「二人きりの時間だというのに、なにか読んでいるじゃないか」
「……それが?」
確かにリーウィアは手に一枚の書類を持っていて、万年筆を片手に内容を確かめている最中だ。
「以前は私との時間を片手間に過ごすなんてことはしなかっただろう?」
「申し訳ありません。失礼でしたね」
「そういうことが言いたいんじゃない」
「ではなんなのです」
「今回だけじゃない。私への態度が随分とよそよそしくなっていないか? それこそレウリアーダに来た直後まで巻き戻ってしまったくらいに」
「そのことですか」
リーウィアは深く頷き、書類と万年筆をテーブルに置いた。
「私が気づいていないとでも? 初デートした頃と比べたら別人のように冷たいじゃないか。積極的に触れ合ってくれていたあの頃の君はどこへ行ってしまったんだ」
「そのことについてはイェルド様に落ち度があるわけではありません」
「だったらどうして――」
「私は学習できる子なのです」
「…………うん?」
「あの頃、イェルド様は『問題ない』と私に嘘をつきながら、結局小太陽事件を起こされましたよね?」
「それは……」
「いえ、別に責めているわけではないのです。あのとき話し合ったとおり、あのような始末になってしまったことはどちらにも責任があったことですから」
それ自体はいい。済んだことだ。
だがあの事件を契機にリーウィアは学習したのである。
「最初に気づきを与えてくれたのは愛しい弟でした」
小太陽が昇って暫くしてリーウィアはスヴェンに叱られたのだ。
――だからああいうのは良くないですよと言ったじゃないですか。
「姉上のなさっていることはただの性的誘惑ですからね? と叱られたのです」
「…………」
イェルドはあのとき「もっと粘ってくれてもいいだろ!」と義弟を呪ったことを棚上げし、今度は「今さらいらんことを吹き込みやがって……」と呪い直した。
「マヤにも言われました」
――あれだけお嬢様の無自覚善意攻撃に晒されて、旦那様はよく耐えておられたと思います。
「そう思っていたならどうして止めてくれなかったの? と申しましたら『間違いなく効いてはいたのでお止めするのもどうかと思った』と。私も手応えを感じていただけにマヤを責められませんでした」
「そんな……」
イェルドは「どうかと思うならそのままにしておけよ!」と、評価してくれている侍女のことも呪った。
「そこで私は過ちに気づき、念のためにお義母様たちや家人の皆様にも聞いて回ったのです。私の行いを見てどう思っていたのかを」
皆が皆、まさに異口同音にこう答えた。
「ハラハラして見ていられなかったと」
「余計なことをっ……」
イェルドは家族と家人のことも当たり前に呪った。
「ここまで衆目の一致を見るなら私も過ちを認めざるを得ません。私のイェルド様に取っていた態度は不適切だったのです。ですので改めて婚約者同士が取るべき距離感を調べ、実践することにした次第です」
「なんてことだ……」
イェルドは絶望した。
依然として女神は顕現したままだが甘々ではなくなってしまったのだ。
「じゃあ、いってらっしゃいの口づけはもう……?」
「いたしません」
「おかえりなさいのハグは?」
「笑顔を添えてお出迎えいたします」
それは嬉しいけれども、イェルドが求めているのはそういうことではない。
「そこをなんとか」
「食い下がっても駄目です」
「いいじゃないか、そのくらいっ……」
「だって、そんなことをしたらイェルド様がまたムラムラされるではありませんか」
「するけどっ、今はもうリーウィアが鎮めてくれるからあんなことにはならないし、じっさい石材以降のことはすべて君の指示によるものじゃないか……」
縋るイェルドはもはや調教済みのヴォルデガルフと化していた。
「ムラムラなさるたびに『なあ、リーウィア……』って擦り寄って来られるの、あまり格好よろしくございませんよ?」
「そこを突かれると痛い」
「惚れさせてくださるお約束でしたよね?」
「そうだな……あまり情けない姿は見せられないか」
リーウィアは「すでに手遅れな気が……」と口にしたくなったが、せめてもの情けで言わないでおいてあげた。
それにたとえ凛々しくなくとも、こうした姿を見せてくれることが愛されているなによりの証だ。
悪い気になるはずがない。だから、
「あと七日だけ我慢してくださいね」
「え……」
伏せていた顔を上げたイェルドの瞳に希望が灯る。
それがリーウィアにはどうにも可愛らしく思えて、
「私が申し上げているのは、あくまでも婚約者としての適切な距離感です。夫婦となったのちは旦那様の希望をできるかぎり叶えて差し上げたく存じます」
「おお……」
「ふふっ、そんなに嬉しそうなお顔をされて」
リーウィアは微笑みながらさきほどまで確かめていた書類を差し出した。
促されるまま内容に目を通しながらイェルドはかすかに眉をひそめ、
「招待客の名簿なのはわかるが、この名前に印を打ってある人は?」
「現時点で魔種と判明している人たちです」
イェルドの目つきがいよいよ真剣なものに変わった。
色々と想像を膨らませているであろうイェルドにリーウィアがいたずらっぽく言う。
「今日も私はえっちですか?」
イェルドが吹き出すように鼻を鳴らした。
「ああ、いつだってリーウィアは魅力的だよ」
「ふふ、イェルド様は紳士ですね。ヨランお祖父様にお尋ねしたら『くっそドエロイわ』と言われてしまいました」
「下品なジジイだ」
失笑気味に吐き捨て、イェルドは名簿をそっとテーブルに戻した。
「来るか。他国の魔種たちが。私とリーウィアをその目で直接確かめるために」
「恐らくは」
共通した結論を持てたところで、リーウィアはここ暫くのあいだ独自に動いていた内容を明かした。
「イェルド様が大功を挙げられたイグサーマク王国との戦争から四ヶ月あまりが経過しました。かの戦争におけるあなた様のご活躍は大いに他国の目を引いたことでしょう」
――グランフェルトに次代の魔導卿が出てきたかと。
「周辺国は魔導卿閣下の恐ろしさをよく承知しているはず。しかしヨランお祖父様はご高齢です。そう遠くない内に我が国が持つ、大きすぎる盾が失われることが確定しています」
「そこに無名だった私が突然あらわれたわけだ」
「はい」
当然周辺国はイェルドを調べ始めるだろう。
そしてイグサーマク王国との戦争から四か月が経過している。
「すでに粗方の諜報を終えた頃かと」
「芋づる式にリーウィアのことも知られただろうな」
「私はそもそも疑問だったのです。イェルド様とヨランお祖父様は私が持つ魔力がとてもえっちだとおっしゃいますけど、お二人のような特別な魔種ではなく、一般的な魔種に私はどう映るのだろうと」
そこでヨランの伝手を頼って宮廷魔導師団を紹介してもらった。
彼らはグランフェルト王国において最高位の魔導師たちである。
そのなかにはイェルドやヨランほどでないにせよ、生まれながらに優れた魔力量を持つ――いわゆる魔種がいる。
「彼らに聞いたのか?」
「はい、皆様は私がえっちに見えますかって」
「なにをやっているんだ……」
一般的な魔種とされる彼らは一様に――いや、顔を赤くしたり、息を荒くしたり、目をギラつかせたり、目を逸らしたりなど反応は様々だったが、答えは総じて「とても煽情的」だった。
「……なんだか嬉しそうですね」
「それは得意にもなるだろう。皆が羨む魅力的な女性が私の妻なのだから」
「まだ婚約者ですけどね」
「そんなもの、今となっては誤差だ」
宮廷魔導師の反応を確かめたことで、リーウィアはいよいよ確信を深めた。
「私たちの結婚式は非常に良い機会です。他国は――特に他国の魔種はイェルド様と私をその目で確かめようとするだろうと考えました」
リーウィアは学習できる子である。
アンネリーエチャレンジでもそうだったし、そもそも今回はチャレンジでもなんでもない。
そうしたことが起こり得ると、リーウィアはアンネリーエに報告と相談をしていた。
「アンネリーエ様のお力を借りて現状で魔種と判明している招待客を特定していただきました」
「その結果がこの名簿か」
「はい」
イェルドは改めて名簿を目で舐める。
「私も名前だけだが知っている者が三人いるな。御老も承知だろう」
顎に手を添え、数秒の黙考を経たうえでイェルドが続ける。
「ただまあ、彼らも自国の特使として参列するんだ。そうそう変なことを仕出かすことはないと思うが……」
「たとえばです」
「うん?」
「仮にイェルド様が彼らの立場だとして。品定めに来た結婚式の場で初めて私を目にしたとします」
「……想像したくもない」
ゆらりと、イェルドの全身からにわかに魔力が立ち上った。
不快感を隠そうとしないイェルドに構わず、リーウィアは続ける。
「直ぐそこでとてつもなくえっちな子が着飾っています。平静でいられますか?」
「………………わからない」
その答えで十分だ。
「つまりそういうことかと。現実には無いとは思っていますけどね」
他国の大貴族の結婚式だ。外交使節として招かれている立場で騒ぎを起こすとは思えない。
それでもイェルドが小太陽を作り出したように、魔種の行動は常識に収まらないところがある。注意は必要だろう。
「心配ない。たとえ誰がなにをしてこようとも私が即座に叩き潰す」
「そういう意味では頼もしく思っていますし、安心もしているのですが、どうか穏便に……」
「私のリーウィアに手出しするなど万死に値する」
「お気持ちは嬉しく存じますけど、もし問題が起きてもどうか穏便に済ませてくださいね。外交問題になってしまいます」
「………………わかった、善処する」
この人ぜったいわかっていないわ、とリーウィアは思わずにいられない。
(何事もなければいいけど……)
本来なら生涯で一度きりの幸せな日になるはずなのに、リーウィアはただただ無事に済んでくれるよう祈るばかりだった。




