選ぶ理由
違和感は、戦いの最中に来た。
硬い手応え。
いつもより、わずかに重い反発。
「……?」
ウォーテンは一瞬だけ剣を見た。
問題はないように見える。
だが、何かが違う。
「前!」
ナレンの声で意識を戻す。
迫る魔物。
受ける。
弾く。
振り返す。
いつも通りの動き。
だが。
鈍い音。
刃が、ほんのわずかに鳴いた。
―――
戦いが終わった後、ウォーテンは一人で剣を見ていた。
夕陽にかざす。
細い線。
刃の根元に、ヒビが入っている。
「……来たか」
驚きはなかった。
いつかは来ると思っていた。
使い続けた剣だ。
何度も受け、何度も振った。
その結果が、これだ。
「それ、もう危ないわね」
マーニャが後ろから覗き込む。
「折れるわよ、次で」
リルクも頷く。
「早めに替えた方がいい」
ナレンは短く言った。
ウォーテンは少し考えた。
「……そうだな」
否定はしなかった。
これ以上は持たない。
分かっている。
「街に戻る?」
マーニャが聞く。
「いや」
ウォーテンは首を振った。
「あそこに村がある。武器屋もあるかも」
さびれた村には満足な宿屋さえ無さそうだった。
「こんなとこにまともな店あるの?」
「どうだろう。無ければ街に戻ればいいさ」
―――
町外れの道は、静かだった。
人通りはほとんどない。
草が伸び、道も半分消えかけている。
「……あった」
ウォーテンが立ち止まる。
傾いた看板。
色あせた文字。
武器屋。
「うわ、いかにもって感じね……」
「戻る?」
ナレンが聞く。
ウォーテンは首を振った。
「入ってみるよ」
扉に手をかける。
軋む音をたてながらゆっくりと開く。
―――
「いらっしゃい」
軽い声が響く。
金髪をコーンロウに編んだ美男子が立っていた。
店の中は、静かだった。
武器は並んでいるが、どれも主張しない。
ウォーテンはゆっくりと歩いた。
一つ一つを見る。
手に取る。
確かめる。
どれも、悪くない。
だが。
どれも、違う。
「探してるものでもあるのかい?」
男が声をかける。
ウォーテンは少し考えた。
「今使ってる剣がだいぶ刃こぼれして」
正直に答える。
男は肩をすくめた。
「じゃあ、これなんかどうだ」
よく手入れされた剣を差し出す。
「切れ味もいいし、扱いやすい。中級者には十分だ」
ウォーテンは受け取る。
軽い。
振りやすい。
確かに良い剣だ。
だが。
しっくりこない。
視線が、自然と逸れる。
店の奥。
隅。
埃を被った一本の剣。
「……それかい?」
男が気づいたように言う。
「百年は売れてないやつだ」
ウォーテンは近づく。
手を伸ばす。
触れる。
冷たい。
だが、嫌ではない。
「……これ、見せてください」
男はため息をつきながら、剣を持ってきた。
「正直、この剣はよく分かってないんだ。ただ――」
渡す。
「メンテナンスしなくても、刃こぼれしてない」
ウォーテンは握る。
その瞬間。
違和感が消えた。
何かが“合った”。
「……これにする」
迷いはなかった。
「本気かい?」
男が聞く。
「金貨二枚だ」
ウォーテンは袋を取り出す。
中身を見て、少しだけ止まる。
そして。
全部、差し出した。
「……全財産で買います」
「おい!」
マーニャが叫ぶ。
「何やってんの!?」
リルクも驚く。
「それ、明らかに安物でしょ!」
ナレンは黙って見ている。
ウォーテンは剣を握ったまま、微笑んだ。
「いいんだ」
静かに言う。
「これにする理由がある気がする」
「気がするって……!」
マーニャが呆れる。
ウォーテンは首を振った。
「違う」
少しだけ考えてから言う。
「これから、理由を作る」
「その剣はオーギュレイという名前でね。古代ヒスカニア
語らしいんだ。名前の意味わかっていないのと、まぁまぁ の武器だが、持ち主にすぐ飽きられてしまう」
「まぁまぁか…。僕と似ているな」
店の外に出る。
夕陽が差し込む。
新しい剣は、光らない。
特別でもない。
ただ。
手に馴染んでいた。
ウォーテンは一歩踏み出す。
ヒビの入った剣は、もうない。
ウォーテンとオーギュレイの出会いだった。




