立場の逆転
城へ向かう街道は、見通しが良すぎた。
左右に広がる平原。
隠れる場所はない。
だからこそ、安全と判断されていた。
「この任務は俺たちで十分だったがな」
ライゼルは迷いなく言った。
貴族の護衛。
選ばれたのは、彼の隊だった。
実力、実績、信頼。
どれも揃っている。
しかし、そこにウォーテン隊も補助で帯同していた。
「あいつら、この前の戦いで評価されたらしい」
副隊の一人が笑う。
「たまたまなのによ」
ライゼルはウォーテン隊を一瞥した。
―――
異変は、昼を少し過ぎた頃だった。
地面の揺れ。
遠くから、濁った唸り声が重なって聞こえる。
「……来るぞ」
見張りが叫ぶ。
丘の向こうから現れたのは、オークとゴブリンの混成部隊だった。
数が違う。
想定の倍ではきかない。
「隊列を組め!」
ライゼルが叫ぶ。
前に出る。
ライゼルは魔法が込められた剣を抜く。
「ここで止める!」
最初の衝突は、圧倒的だった。
ライゼルの一撃がオークを両断する。
副隊の剣がゴブリンを薙ぎ払う。
まるでバターのように切られていく魔物達。
「あの剣、やっぱ凄いね」
マーニャが驚く。
ライゼルの猛進は突き進み、魔物の群れに風穴を開ける。
押せる。
そう思った。
だが。
「数が……!」
後方から声が上がる。
側面。
さらに後方。
回り込まれている。
「囲まれてる……!」
誰かが叫ぶ。
ライゼルは歯を食いしばった。
「押し切るしかない!」
前へ出る。
さらに前へ。
だが、それが致命的だった。
後衛が置き去りになる。
補給が切れる。
連携が崩れる。
一人、また一人と押し込まれていく。
「まずい……!」
誰かが下がる。
そこに穴ができる。
魔物が流れ込む。
崩壊の兆しだった。
―――
その時だった。
「右、抜ける!」
矢が飛ぶ。
正確に、側面のゴブリンを射抜く。
「誰だ?」
振り向く。
四人。
ウォーテンたちだった。
「ナレン、右抑えて」
「了解」
「マーニャ、前の密集崩して」
「任せなさい!」
「リルク、回復ラインこっちに引き寄せて」
「うん!」
指示が飛ぶ。
短い。
迷いがない。
ウォーテンはそのまま中央へ入った。
崩れかけた場所へ。
「下がるな!」
叫ぶ。
倒れかけた兵の前に立つ。
受ける。
押し返す。
一体。
もう一体。
数は多い。
だが、流れは止まる。
「ここで止める!」
踏み込まない。
崩さない。
ただ、繋ぐ。
ナレンの矢が抜けを潰し、
マーニャの魔法が圧を削ぎ、
リルクの回復が命を繋ぐ。
そして。
「ライゼル!ここは僕が囮になる!陣形立て直して火力で
倒してくれ!」
ウォーテン隊の連動で群れに隙が生まれる。
「……ライゼル隊長!今です!」
副隊の一人が呟いた。
ライゼルは我に帰ると自分のパーティに指示を出す。
「レイヒ!最大火力の魔法で風穴を空けろ」
「ハイシェルは俺たちに闘神のバフをかけろ!」
「ミッドと俺は中央に切れ込む」
ライゼル隊の動きによって大軍がかなり痛手を負い、逃げていく。
その間もウォーテン隊はライゼル隊の補助をしていた。
目に見えて押している。
「持ち直してる……!」
声が上がる。
流れが変わる。
「さすがライゼル様だ!」
大軍の群れに風穴を開けたのはライゼル隊だ。
しかしウォーテン隊
派手な動きはない。
だが、隙がない。
穴がない。
「……あいつが、繋いでるのか」
歯が軋む。
本来なら。
自分がやるべきだった。
隊を導き、勝利に導く。
その役割を。
奪われている。
―――
戦いは、やがて終わった。
魔物は退いた。
殲滅ではない。
だが、突破もされていない。
護衛は成功した。
城も守られた。
「助かった……」
誰かが言う。
安堵の声が広がる。
ウォーテンは剣を下ろした。
息は荒い。
腕は重い。
それでも、立っている。
隣でマーニャが笑う。
「また繋いだわね」
「たまたまだよ」
「はいはい」
ナレンは何も言わず、矢を回収する。
リルクは黙って負傷者を診ている。
いつも通りだった。
―――
少し離れた場所で、ライゼルは立っていた。
手の中の剣が、わずかに震えている。
勝った。
任務は成功した。
だが。
「……違う」
小さく呟く。
これは、自分の勝利ではない。
自分の戦いでもない。
「なんでだ……」
視線の先。
ウォーテンがいる。
目立たない。
称賛もされていない。
自分が称賛されてあいつは一従者扱いを受けている。
しかもそれを受け入れている。
なぜだ!?お前らの動きが決定的なのになぜそんな扱いで
我慢できるのだ!?
俺を下に見やがって…
ならずっと下っ端にしておくか。
そしてそのわざとらしい動きが
「……気に入らない」
その感情だけが、残った。




