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繋ぐ者

煙は、村に入る前から見えた。


黒く、重い。

風に流されながらも、消えない。


「……中隊規模ね」


マーニャが顔をしかめる。


「数が多い」


ナレンが短く言った。


ウォーテンは頷いた。

今までとは違う雰囲気だ。


対応できるかどうかの境目だった。


「急ごう」


四人は足を速めた。


―――


村に着いた時、すでに戦闘は始まっていた。


怒号。

火の手。

金属のぶつかる音。


その中心に、ライゼルの姿があった。


「前に出ろ!俺が道を切り開く!」


剣を振るい、魔物をなぎ倒している。

速い。強い。

一撃で仕留めていく。


だが。


「隊列が乱れてる……」


リルクが息を呑む。


前に出過ぎている。

後衛がついていけていない。

回復が間に合っていない。


「他も同じね」


マーニャが視線を巡らせる。


別のパーティも、同じだった。

強さを見せようとして、前へ前へと出ている。

その結果、連携が切れている。


「崩れる」


ウォーテンは低く言った。


次の瞬間だった。


一体の魔物が側面から回り込み、後衛に飛び込む。


悲鳴。


回復役が倒れる。


「っ……!」


ライゼルが振り返る。

その一瞬の遅れ。


前線に空白ができる。


魔物が押し込んでくる。


「……まずい」


ウォーテンは一歩前に出た。


「ナレン、右側の抜けを止めて」


「了解」


「マーニャ、左の密集に牽制」


「任せなさい」


「リルク、負傷者優先で回して」


「うん!」


指示は短く、的確だった。


考えている時間はない。

見えているものを、そのまま繋ぐ。


ウォーテンは中央へ走った。


崩れかけた前線の隙間に入る。


一体、受ける。


押し返す。


もう一体、来る。


弾く。


深くは踏み込まない。

崩さない。

ただ、止める。


「後ろ、立てるか!」


倒れた戦士に声をかける。


「……まだ、いける」


「なら下がるな。ここで止める」


短く言い切る。


その間にも、ナレンの矢が抜けた敵を射抜き、マーニャの魔法が流れを押し返す。


リルクの回復が、ぎりぎりで繋ぐ。


一つ一つは小さい。

だが、途切れない。


ウォーテンは剣を振るう。


倒すためではない。

崩さないために。


仲間を信じてるからこそ、自分は囮になる。


一人が大きな動きをせずとも流れができている。


―――


「なんで……崩れない?」


ライゼルが息を荒げながら呟く。


さっきまで押し切れていたはずの流れが、止まっている。


いや、止められている。


視線の先。


そこにウォーテンがいた。


前に出すぎず、引きすぎず。

ただ、穴を埋め続けている。


派手な一撃はない。

だが、空白がない。


「……持ち直してる」


誰かが言った。


その言葉通りだった。


一度崩れた陣形が、ゆっくりと整っていく。


前線が戻る。

後衛が機能する。

連携が繋がる。


流れが変わる。


「押し返せ!」


今度は自然に声が上がる。


強さではない。

形が戻った。


それだけで、戦える。


―――


戦いが終わった頃には、日は傾いていた。


村は半壊していたが、全滅は免れた。


負傷者は多い。

だが、生きている。


ウォーテンは剣の血を拭った。


だいぶ刃こぼれしている。

自分の戦った証が刻まれている。


「……助かった」


背後から声がした。


振り返ると、ライゼルが立っていた。


「お前が入らなかったら、崩れてた」


ウォーテンは少しだけ考えてから答えた。


「君たちの力でここまでもってたんだよ」


ライゼルは何も言わなかった。


視線を外す。


ウォーテンはそれ以上言わなかった。


マーニャが横から笑う。


「ようやく気づいたみたいね」


ナレンは何も言わず、矢を回収している。


リルクは負傷者の手当てを続けていた。


ウォーテンは村を見渡した。


助けられた命。

失われたもの。

その境界に、自分はいた。


派手なことはしていない。


だが。


「……誰も死ななかった」


小さく呟く。


自分がいた場所で死者は出ていなかった。


それで十分だった。


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