届く距離
最初に変わったのは、剣の重さだった。
同じ剣のはずなのに、以前より軽く感じる。
振り下ろした後、次の動きに入るまでの間が短くなっていた。
「……速くなってる」
ナレンがぽつりと呟いた。
「え?」
ウォーテンは思わず聞き返す。
「振り。前より半拍早い」
ナレンはそれ以上言わなかったが、それで十分だった。
ウォーテンは自分の手を見た。
特別な感覚はない。
だが、確かに以前とは違う。
筋肉の張り。
踏み込みの安定。
呼吸の深さ。
積み重ねたものが、形になり始めていた。
―――
「正面から行けるようになってきたじゃない」
マーニャが火球を放ちながら言う。
林道での戦闘。
魔物は以前より数が多い。
「無理はするなよ!」
リルクの声が飛ぶ。
ウォーテンは前に出た。
以前なら、半歩引いていた距離。
今は踏み込める。
衝突。
腕に衝撃が走る。
だが、崩れない。
押し返す。
ほんのわずかだが、相手の体勢が揺れる。
「今だ!」
ナレンの矢が飛ぶ。
魔物の肩を貫く。
ウォーテンは間を詰めた。
剣を振るう。
以前より深く刺さる。
二撃目。
三撃目。
魔物の動きが止まる。
ウォーテンは呼吸を整えながら、剣を下ろした。
「……いける」
小さく呟く。
それは誰に聞かせるでもない言葉だった。
―――
戦いの後。
マーニャが地面に座り込みながら笑った。
「ねえ、ちょっと大きくなった?」
「俺が?」
「うん」
ウォーテンは自分の体を見る。
「そうかな?」
「うん、たぶん全体的にがっしりしてきてる」
「本当に?」
「何度言わせんのよ!」
マーニャは笑った。
リルクが間に入る。
「前衛として凄く安定してきてるよ」
ナレンも短く頷いた。
ウォーテンは少しだけ考えてから言った。
「……少しは強くなってるかな」
「少しどころじゃないでしょ」
マーニャが即答する。
「いないと困るレベルよ、もう」
その言葉に、ウォーテンは言い返さなかった。
代わりに、剣を見た。
血は拭き取られている。
刃に欠けはない。
何度振っても、変わらない。
自分も、少しは変わっただろうか。
―――
夜。
焚き火の前で、四人は簡単な食事を取っていた。
「ウォーテンってさ」
マーニャがふと口を開く。
「うん?」
「最初からそこそこ強かったのに、なんであんなに自信なかったの?」
ウォーテンは少し考えた。
「そこそこ、だからじゃないかな」
火を見つめながら言う。
「上には上がいるし、下を見る理由もない。中途半端って、基準がわからないんだ」
「なるほどね」
マーニャは納得したように頷く。
「でも今は?」
ウォーテンは答えるまでに、少し間を置いた。
「……まだ特別じゃないよ」
静かに言う。
「でも」
顔を上げる。
「前よりは、届く気がする」
その言葉に、誰も否定しなかった。
ナレンは火に薪をくべ、リルクは穏やかに笑い、マーニャは少しだけ満足そうに息を吐いた。
ウォーテンは手を握る。
力がこもる。
以前より、確かに強い。
だがそれは、誰かを圧倒する力ではない。
ただ。
倒れないための力。
支え続けるための力。
そして、もう一歩だけ踏み込むための力。
ウォーテンは立ち上がった。
「明日も行こう」
その声は、少しだけはっきりしていた。
誰にも選ばれないまま。
それでも。
自分で進むことはできる。




