残る者
戦いの後、称賛はいつも同じ場所に集まる。
剣を振るい、敵を打ち倒した者。
魔法で流れを変えた者。
奇跡のような一撃を見せた者。
ウォーテンの名前は、その中にはなかった。
「……気にしてる?」
荷物をまとめながら、マーニャが聞いた。
「いや」
ウォーテンは短く答えた。
嘘ではない。慣れていた。
気にしていないわけではない。
ただ、自分の立場を弁えていた。
「ま、あんたはそういうタイプよね」
マーニャは肩をすくめると、杖を担いだ。
火と風を扱う魔術師で、戦場では目立つ存在だ。
「リルク、準備できた?」
「うん。回復薬も揃ってる」
穏やかな声で応えたのは僧侶のリルクだった。
彼の神聖魔法は安定しており、小隊の生存率を大きく引き上げている。
「ナレンは?」
「もう外で待ってる」
弓使いのナレンは、いつも少し先にいる。
無駄口は少ないが、索敵と射撃の精度は確かだった。
四人は、正式な部隊ではない。
選抜から漏れた者、あるいは中位に留まった者たちの寄せ集めだ。
だが、だからこそ、組むことになった。
「次は北の林道だってさ。小規模だけど、魔物が出るらしい」
マーニャが地図を広げる。
「小規模、か。でも油断は禁物だ」
ウォーテンはその言葉を繰り返した。
小規模の戦い。
つまり、主力は来ない。
目立つ勇者候補も来ない。
自分たちの出番だった。
―――
林道は静かだった。
風が木々を揺らし、乾いた葉が擦れる音だけが続く。
その静けさが、逆に緊張を生む。
「……三体」
ナレンが低く言った。
指差す先、木の陰に魔物の影が見える。
まだこちらには気づいていない。
「どうする?」
マーニャが小声で聞く。
「一体ずつ確実にいこう」
ウォーテンは即答した。
強くはない。
だが、油断すれば負傷する相手だ。
「ナレン、左から一体落とせる?」
「いける」
弦が静かに鳴る。
矢は一直線に飛び、魔物の喉元を貫いた。
残りの二体が気づき、こちらへ向く。
「来る!」
マーニャの火球が一体の動きを鈍らせる。
もう一体が突進してくる。
ウォーテンは前に出た。
真正面から受ける。
弾く。
押し返す。
力は拮抗している。
だが、押し切れない。
その一瞬の隙を、ナレンの二射目が埋めた。
魔物の脚を射抜く。
体勢が崩れる。
「今!」
ウォーテンが踏み込む。
浅い。
だが確実に当てる。
倒れた魔物は、まだ動いていた。
ウォーテンは躊躇せず、もう一度剣を振るった。
息の根を完全に止めた。
「……終わり」
小さく息を吐く。
「相変わらず地味ね」
マーニャが苦笑する。
「でも、安定してる」
リルクが続けた。
ウォーテンは何も言わなかった。
ただ、倒れた魔物を見下ろしていた。
倒しただけでは終わらない。
終わらせるまでが戦いだ。
その感覚は、いつからか身体に染みついていた。
―――
戦いは続いた。
派手な場面は一度もなかった。
だが、誰も倒れなかった。
リルクの回復が間に合い、
ナレンの矢が隙を埋め、
マーニャの魔法が流れを整え、
ウォーテンが前に立ち続けた。
一つ一つは小さい。
だが、途切れなかった。
戦闘後、四人は林道の出口に座り込んだ。
「疲れた……」
マーニャが地面に倒れ込む。
「でも、無傷だよ」
リルクが笑う。
ナレンは矢筒を確認しながら言った。
「無駄がない」
ウォーテンは少し遅れて座った。
息は上がっている。
腕も重い。
だが、立てないほどではない。
「……少しは、強くなってるかな」
ぽつりと呟く。
誰に向けたわけでもない言葉だった。
マーニャが横目で見る。
「さあね。でも」
少し間を置く。
「あんた、死なないわよね」
ウォーテンは苦笑した。
「褒めてる?」
「一番大事なことよ、それ」
ナレンが短く言う。
リルクも頷いた。
「生きてるから、次がある」
ウォーテンは空を見上げた。
特別な力はない。
誰よりも強いわけでもない。
それでも。
今日も、残った。
それだけは確かだった。




