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価値を持たない者

ウォーテンは、自分が特別ではないことを知っていた。


剣の振りは遅くない。

体力も人並み以上にはある。

訓練を休んだこともなかった。


だが、それだけだった。


勇者候補が十人並べば、彼は真ん中あたりに沈む。

剣筋で目を引く者がいる。

神聖魔法を早く扱える者がいる。

生まれつき加護が濃い者もいる。


ウォーテンには、そういうものがなかった。


「悪くはない」


教官はいつもそう言った。

褒め言葉ではなく、区切りのいい言葉だった。


悪くはない。

だが、足りない。


その日も訓練場の端で、ウォーテンは木剣を握っていた。

向かいには、名家出身の勇者候補ライゼルが立っている。

同じ年齢、同じ時期に徴募され、同じだけ剣を学んできた男だった。


開始の声と同時に、ライゼルが踏み込む。

速い。

分かっていた軌道なのに、半歩遅れる。


受けた瞬間、手首に重みが走った。

押し切られる。

体勢が崩れる。

二撃目で木剣が弾かれ、三撃目が喉元で止まった。


「そこまで」


教官の声が飛ぶ。


ライゼルは木剣を下ろし、息も乱れていない。

ウォーテンは地面に転がった自分の剣を拾った。


「惜しかったな」


見ていた候補生の一人が言った。

慰めのつもりなのは分かった。

だが、惜しかったことなど一度もない。

最初から届いていない。


「次はもっと粘れよ」


別の声が飛ぶ。

笑いは混じっていない。

嘲りでもない。

それが余計に堪えた。

本気で期待されていないのだ。


教官は次の組み合わせを呼び上げた。

ウォーテンは列の端に戻る。


剣を握った手がじんじんと痛んでいた。

だが、その痛みよりも重いものが胸に残る。


まただ。


勝てないことではない。

届かないことでもない。

最初から、そこに立つべき者として数えられていない感覚。

それが、何より堪えた。


昼過ぎ、訓練場に伝令が駆け込んできた。


魔王軍の先遣隊が、北の街道沿いの集落を荒らしているという。


規模は大きくない。

本隊でもない。

だが、放置できる距離でもなかった。


勇者候補たちは、そのまま実戦に回された。


現地に着いた時には、すでに家屋のいくつかが燃えていた。

黒い煙が空に伸び、泣き声と怒号が入り混じっている。

魔王軍の魔物は多くない。

数だけ見れば、候補生たちで十分押し返せる。


実際、戦いは早かった。


前に出たのは、目立つ者たちだった。

ライゼルは先頭で剣を振るい、二体まとめて切り伏せた。

神聖魔法に優れた少女が負傷者を癒し、槍使いの少年が屋根の上の魔物を正確に仕留めた。


歓声が上がる。

住民たちの視線が、自然と彼らへ集まる。


ウォーテンも戦っていた。

ただ、彼のいた場所は少し違った。


倒れた兵を担ぎ、燃え移りそうな荷車を蹴り倒し、逃げ遅れた子どもを抱えて路地を走った。

派手な一撃はない。

歓声もない。

剣を振るう回数より、人を支える回数の方が多かった。


それでも、戦いが終わるまで、彼は一度も止まらなかった。


すべてが片付いた頃には、夕陽が傾いていた。


集落の広場では、勇者候補たちが囲まれていた。

住民たちが礼を言い、教官が彼らの戦果を確かめている。


「やはりライゼルは違うな」

「さっきの一撃、見たか?」

「次の正式選定に近づいたんじゃないか」


そんな声があちこちから聞こえた。


ウォーテンは少し離れた場所で、血のついた布を桶で洗っていた。

誰かに頼まれたわけではない。

さっきまで子どもを抱いていた腕が、ようやく重さを思い出したように軋んでいた。


老いた女が近づいてきて、彼の前に立った。

礼でも言われるのかと思ったが、違った。


「あんたも、あの子たちの仲間かい」


「あ、はい」


女は広場の中心を見た。

視線の先には、称えられている候補生たちがいた。


「あの人たちはすごいねえ」


そう言って、去っていった。


ウォーテンは手を止めなかった。

止める理由もなかった。


自分は間違いなくここにいた。

動いた。

役にも立ったはずだ。

けれど、誰の記憶にも残らない働きというものがある。


桶の水が赤く濁る。

その色を見下ろしながら、ウォーテンはふと笑った。


悔しさの混じった、乾いた笑いだった。


夜、宿舎へ戻る道で、仲間のマーニャが隣に来た。


「今日は助かったよ。あたし一人じゃ、あの子ども二人は運べなかった」


「そうか」


「そうか、じゃないでしょ。少しは胸張りなさいよ」


ウォーテンは少し考えてから答えた。


「胸を張るには、足りないよ」


マーニャは反論しようとして、やめた。

彼が本気でそう思っていると分かったからだ。


しばらく無言で歩いた後、ウォーテンはぽつりと言った。


「僕はさ」


「うん」


「たぶん、すごい勇者にはなれない」


マーニャはすぐには答えなかった。

否定もできなかった。


「でも、それで終わるのは嫌なんだ」


ウォーテンは前を向いたまま言う。


「誰かに価値があるって言われるのを待ってたら、たぶん一生このままだ。だったら、自分で見つけるしかない」


「何を?」


「自分が持つ価値を」


その言葉は、まだ形になり切っていなかった。

ただ、胸の奥で沈みきらずに残っていた。

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