その7 バニラ・ブルー
「ただいまー」
ペンギンのお出迎えを楽しみに、うきうきと寮の自室のドアを開けると、見知らぬ魔法少女が立っていた。
部屋の端っこで大人しく立っているペンギンを確認してから、とりあえず聞いてみる。
「・・・・・どちら様?」
「誰かいるのー?」
魔法少女が答える前に、背後からのんきな声が聞こえてくる。
うん。いる。おまえの関係者だ。
「魔法少女のバニラ・ブルーよ。よろしく」
腕組みをしたまま、魔法少女は名乗った。
よろしくって、何をよろしくされるんだろう? 魔法少女は、もう間に合ってるんだけどな。一体、あと何人現れる予定なの?
「な、ななな!? 何してるの、ここで!? それに、その色・・・」
あー。かぶってるねぇ。色が。誰かさんと同じ、青と白の衣装だ。んー、でも、ちょっとイメージは違うかな?
ゆるふわボブの金髪に、アイスブルーの瞳。小柄なのはミントと一緒だけど、胸はメロンサイズ。なんだか、柔らかそうな体。決して、太っているという意味ではない。
少し胸元の開いた服に、ミニスカート。
レースとフリルを多用した白いインナーは、氷をイメージしているのかな。レースの模様が、それっぽい。そして、凍えるようなアイスブルーの上着とひざ下ブーツ。
冷たいけれど、甘い、バニラアイスみたいな女の子。
仕草も、なんか女らしい。しなしなしているというか、くねくねしているというか。私がやったら、ただのたこ踊りになると思う。なんで、あの子は女らしい動きになるのか。これが、女子力の差?
「色がどうかしたの?」
ちょっと身じろぎしただけで、フリルとかレースとかなんかいろいろ揺れる。
「どうしたも何も・・・・、つまりは、こういうことだ!」
ミントの叫び声とともに、青白い閃光が走る。
今、ここで、光る必要あるのか?
「これが、魔法少女クール・ミントだ!」
私を押しのけて前に進み出ると、仁王立ちになるクール・ミント。
銀色の毛先がくるくるしたポニーテールに、菫色の瞳の、どこかミステリアスな雰囲気の漂うクールビューティー。ただし、黙っていればの話だが。
スレンダーなミントは、フリルやリボンはほとんど使われていない、シンプルなミニスカートの衣装だった。スカートも、タイ・・・あれ? この間まで、ミニタイトスカートだったのに、プリーツになってるよ。悪あがきか・・・。
えーと、ほかに目を引く装飾と言えば、ペンギンの飾りぐらい?
ペンギン、好きなんだなっていうのは、伝わってくる。まあ、個性と言えば個性か。
胸元と、手袋とブーツの折り返しに、ペンギンモチーフの飾りがついている。イヤリングもペンギンだった。
あのイヤリング、ちょっと可愛いな。
はっ。いかん、いかん。ペンギン雑貨に目覚め始めてるよ。
「どうしてブルーなの?」
「似合うから!」
バニラ・ブルーの質問に、間髪入れずに答えるクール・ミント。
「クール・ミントって聞いてたから、てっきりグリーンだと思ったのだけど」
「だって。こっちのほうが似合うから!」
うむ。どっちの言い分にも一理ある。
しかし。青が二人揃うとなると、やっぱりセンターはピンクだよね。まあ、青と緑でもセンターはピンクか。
んー、でも。3色いればトリオだけど、青二人にピンク一人だと、青はなんていうか、完全に脇役っていうか、引き立て役っていうか、助さん角さんっていうか。
「ミントって言ったらグリーンでしょ。今からグリーンに変えなさいよ」
「いやだよ! もう、デビューしちゃったし。後から来たほうが変えるべき・・・いーや、そもそも! 追加の魔法少女が来るなんて聞いてないよ! とっとと帰りなよ! 間に合ってるから!」
「嫌よ。せっかく邪魔しに来たんだもの。私もコレで、デビューするわ」
言い争いが始まったよ。ミントが一人で熱くなってて、バニラ・ブルーは余裕で受け流している感じだけど。
てゆーか、デビューってなんだよ?
「それにしても、パッとしない衣装ねぇ。もう、名前から何から全部変えたほうがいいんじゃない? そうねぇ。抹茶グリーンとかどうかしら?」
「いやだよ! 似合わないもん」
抹茶グリーンて、斬新だな。えーと。抹茶っぽい緑で、和テイストの魔法少女コスチューム?
着せてみるまでもなく、似合わないのがわかるな。あ、でも。翠が着たら似合うかも。黒髪が美しい和風美少女だからな、翠は。
・・・・・・・・・・いや? いや、いや、いや! 魔法少女抹茶グリーンとか、ないから! ないから!
「あ! そうだ。のりこがやればいいんじゃない? 抹茶グリーン。日本人だし」
「やるか! 私を巻き込むな!」
こっちに飛び火してきたよ。しかも、何だよ。日本人だしって、そのざっくりとした理由。
「ふう。こうしていてもらちが明かないわね」
髪をかき上げながら、ため息をつくバニラ・ブルー。
全くだな。なので、どうぞお帰りください。
「場所を変えるわよ。私の魔法少女としての実力を見せてあげるわ。どちらが、よりブルーにふさわしいか、勝負よ」
まだ、やるんだ。まあ、いいや。行ってらっしゃい。私はここでペンギンと遊んでるよ。そういえば、この子まだ名前がないんだよねー。ミントと意見がまとまらなくて。しょうがないから、そのままペンギンって呼んでいる。このまま、定着しそうだ。
「その勝負、受けて立つ! 行くよ。のりこ」
え? 私も、行くの?
「そうね。観客は必要だわ。まあ、でも。行きたくないというなら仕方がないわね。ここで勝負しましょう」
私の表情から何か読み取ったのか、答える前に、偉そうに宣言された。
・・・・・・・本気っぽい。
分かった、行くよ。行けばいいんでしょ!
で。どこへ行くのかと思えば、寮の玄関先かよ。
部活をやってない寮生が、ちらほら帰ってきてるのが気になるんですけど。
「あら。寮にも害虫が出たのかした。嫌だわ」
「新しい方もいらっしゃるのね。早く、何とかしてほしいわ」
そうだった。こいつら魔法少女は、他の生徒には害虫駆除業者だと思われているんだった。あの衣装も、会社の制服だと思われてるらしい。生徒の中には、『害虫駆除はやりたくないけど、あの制服は着てみたいな』とか、言ってる子もいた。
魔法少女コスが制服の会社って・・・。
魔法少女喫茶とか?
魔法にかけられたら、財布の中身がとんでもないことになりそうだな。
「ええと。杖みたいなのが、いるんでしたっけ? では、こんなのはどうかしら?」
バニラさんは、他の生徒のことは全く眼中にないようだった。ついでに、私のことも。観客、いらないじゃん。
ミントに対して不敵に笑うと、右の手のひらを前に突き出す。
光とともに、杖っぽいものが現れた。
コーンの部分が長細い持ち手になっている、アイスクリーム型の杖。んー、バニラとチョコミントのダブルかな。嫌がらせだな、これ。本当に、邪魔しに来たんだ。この人。
杖は、空中でクルクルと回転してから、バニラさんの手の中に納まった。
おお。すごい。バトン演技なんて出来るんだ。ん? バトン演技? バニラさんの手、パーのまま動いてなかったよね? あの杖、一人で勝手に回ってたよね? つまり、魔法の力か。なんだ、じゃあ別にすごくないな。
ん? いや? どうなの? これは、これで、すごい・・・のか?
段々、基準が分からなくなってきたよ。
「ぐぬぬぬぬ。バニラ・ブルーなんだから、ブルーハワイのアイスとかにすればいいじゃん。ブルーの座をかけた勝負とか言いながら、つまらない嫌がらせをしてくるとは。まあ、いい。お手並み、拝見だ。行け! 害虫ども!」
ミントの合図で、おなじみの黒い害虫が、わらわらとバニラ・ブルーに押し寄せる。
悪役みたいになってるけど。てゆーか、悪役そのものだけど。いいのか? それは?
「あらあら? こんな雑魚で、私をどうにかできると思って? うふふ。行くわよ。スイート・バニラ・キス」
バニラ・ブルーが杖を突きだすと、アイスの先から、白いハートがいくつも飛び出し、害虫たちの体に刺さっていく。
わ。効いてる。しかも、なんか、ちゃんと魔法少女っぽい。
やっつけたわけじゃないけど、害虫たちは動けなくなってしまったようで、その場でプルプルと震えている。
「うっふふ。とどめ。ブルー・ハリケーン」
空中に青い木の葉みたいなのが、いくつも現れた。ごうっと風が吹いて、木の葉は一斉に害虫たちに切りかかっていく。
なんか、痛そう。
木の葉に切り付けられた害虫は、黒い霧みたいになって、そのまま拡散していく。
この技、ミントへの嫌がらせのためだけに考えたんだろうなー。
「おのれ、よくも! では、これならどうだ!」
だから。それじゃ、悪役だってば。まあ、この方がはまってる気もするけど。なんかノリノリだし?
裏切り者の魔法少女で、悪の女幹部で、何かに血迷ってペンギンの着ぐるみを?・・・一体、何があったのか。それにしても、ペンギン乱舞か。手乗りサイズのもふもふペンギンなら、私も乱舞されたいかも。でも、そのためには、私も魔法少女にならないといけないんだろうか。魔法少女・抹茶グリーン。抹茶ミドリ・・・。いや、ないな。うん、ない。・・・そうすると、他には・・・。あ。被害者の少女Aとか? そして、すっかり乱舞のとりこになった少女Aは、1日1回の乱舞と引き換えに、クール・ミントの手下に?
ペンギン乱舞は魅力だけど、ミントの手下は嫌だなぁ・・・・。
「きゃあ! 何、あれ?」
ん? 悲鳴?
いけない。すっかり妄想にふけっていた。一体、何が・・・・って、何、あれ!?
黒くてでっかい、犬っぽい、獣? なんか、ドーベルマンとか、そんな感じ?
だからぁ。目が赤く光るの、怖いからやめてってば。
しかし。ついに、害獣退治まで手掛けるようになっちゃったよ。
にらみ合う黒い犬と魔法少女。
あ。犬が駆け出した。速い。一直線に魔法少女に襲い掛か・・・・ろうとして、杖で殴り飛ばされた。
いきなりすぎて魔法が間に合わず、つい、手が出ちゃった、って感じだけど。
「チッ」
魔法少女の舌打ち。そして。
「アイス・ボム」
杖の先を犬に向ける。バニラとチョコミントのアイスの玉が、犬に向かっていくつも飛んでいく。
ぱん! ぱん! と、軽い破裂音が続く。アイスは犬にあたると、炸裂した。白い煙と青い閃光が次々と起こる。
犬の姿が煙で完全に見えなくなると、ようやく、ボムの発射が終わる。
倒した・・・のか?
風が吹いて、煙を吹き飛ばしていった。
そこには、もう、何もない。
よ、よかった。
たとえ、茶番だと分かっていても、あんなんでてきたら怖いって。
「どう? これが、私の実力よ。どちらがブルーに相応しいかなんて、聞くまでもないわね。じゃあ、また、邪魔しにくるわね」
そう言い残して、バニラ・ブルーは姿を消した。
か、勝ち逃げだ。
これ以上、面倒なのを出される前に、さっさと退散したっぽい。
「な、ちょ、ま・・・・。くーーーー!!」
ペンギンスティックを振り回し、悔しそうに唸るミント。
よし。放っておこう。
「じゃ、私、先に部屋に帰ってるから」
ミントを置いて、部屋に帰ることにした。
日も陰ってきたことだし。魔法少女姿のミントと一緒に部屋に帰るのは、ちょっとご遠慮したいし。
その後、ミントはどこからか、ペンギンの着ぐるみを入手してきたようだ。
作ったのか、買ったのか?
気になったけど、なんか、聞ける雰囲気じゃなかった。
部屋の真ん中に置いたペンギンの着ぐるみと、向かい合わせに座り込み、一人で考え込んでいる。
悪の女幹部が生まれる日は、近いかもしれない。




