その6 ペンギンのいる生活
せっかくの日曜日だというのに、朝からミントの魔法少女活動ミーティングにつきあわわされていた。
と言っても、ミントが一人で騒いでいるだけで、ほとんど相手にしてないんだけど。
「ミント・スプラッシュ! クール・カッター! ミント・ハリケーン!・・・名乗ってどうする!?」
新しい技を考えているらしいんだけど、いちいち叫ぶのはやめて欲しい。
「もー! のりこも何か考えてよー! 日本人の感性で」
そう言われても。
「はっ、そうだ。日本らしく漢字で攻めてみるのはどーだ? のりこ、ミントって日本語でなんていうの?」
「んー・・・・・・。薄荷?」
「薄荷! えーと、えーと、氷薄荷!」
かき氷?
「薄荷台風!・・・・なんか、違う!」
「いっそのこと、ペンギンの着ぐるみで、ペンギン乱舞とか?」
「!」
いや、冗談だから。適当に言っただけだから。
その手があったかって顔はやめろ。それもう、魔法少女じゃないから。ただの着ぐるみ戦士だから。
この間、新しく現れた魔法少女のシュガー・ピンクさんに激しく対抗意識を燃やしているらしく、最近ずっとこの調子。
確かに、魔法少女として完敗だったと思う。
誰が見ても、ピンクが主役だと思うよねー。色合い的にも。
ただ、ピンクさんは魔女としての実力はいまひとつなんだよね。結局、害虫退治できてないし。被害甚大だったし。壊れた花壇の修復も、結局、ミントが一人でやってたし。
ミントは魔法少女としては残念だけど、魔女のお仕事はちゃんとしてるみたいだからな。
たぶん。魔法少女としての活躍を期待されているのはピンクさんで、ミントは新米ピンクさんのお目付け役なんじゃないかと思う。
本人に聞いたら、わざとらしく目をそらしたから、概ね合っていると思う。
それにしても、ピンクさんか。
あの子の害虫退治は信用できないというか、不安が大きいので、できれば本来の魔女のお仕事である害虫退治(異次元からやってくる瘴気とかいう有害物質を何とかすること)と魔法少女活動(魔女の偉い人の趣味で、魔法少女として活動した映像やレポートを報告すると、手当がもらえるらしい)は、切り分けてもらえないものだろうか。あの子に任せると、いつか、大惨事が起こる気がする。
んー・・・。
あ。いい案が。
「ミントはさ。別に、魔法少女に何か憧れがあるとか、思い入れがあるとかじゃないんだよね?」
まずは、確認。
「うん。魔法少女として活躍すると、手当がつくから。魔法少女手当! ペンギン雑貨を買うんだー」
ぐっと両手を握りしめ、瞳を輝かせるミント。
「それって、面白いネタが提供できれば、無理にミントが魔法少女になる必要はないんだよね?」
「・・・・・・・。うん。まあ、そうだね」
少し考え込んでから、わずかに小首を傾げて答えるミント。うむ。その仕草は可愛い。
「悪役をやればいいんじゃない? ペンギンの着ぐるみ着て、『世界をペンギン色に染めてやるー』とか、意味不明なこと言ってれば、なんかそれっぽいし。経費でペンギン雑貨も買えるんじゃないの?」
「な、なるほど! のりこ、頭いい! いつの間にか、目的を見失っていたのかも。・・・・あ、でも! それだとペンギンが悪者になっちゃう。な、悩む・・・」
両手で頭を抱え込んでいる。
そんなに悩むことなんだ。
「もしかしたら、ペンギン色に染められたい子が現れるかもよ?」
ちょっと、そそのかしてみる。
「か、考えておく・・・」
うーん。もうひと押し?
「そういえば、魔女には使い魔っていうのがいるんじゃないの?」
ミントが悩みだしたおかげで、ようやく静かになったのに、うっかりこっちから話を振ってしまった。
「使い魔?」
「うん。しゃべる黒猫とかが、話し相手になってくれたり、頼りない魔女に説教したりしてた気がする」
何かの、映画かアニメか漫画の中で。
「あー。土人形をお手伝いにしてた魔女はいたかなー」
「ミントにはいないの? しゃべる黒猫とか。しゃべるペンギンとか。あ、生のペンギンじゃなくて、ぬいぐるみがいいな。ひざ下ぐらいの大きさで、もふもふしたやつ。あー、でも、手乗りサイズも捨てがたい」
そんなのいたら私も欲しい。この部屋で、一緒に生活したい。
『のりこさん。朝ですよ。起きてください』とか、毎朝ペンギンに揺り起こされたい。
妄想してたら、ミントにギュッと手を握られた。
「のりこ、ありがとう。のりこに会えてよかった」
え? 何? いきなり、改まって。
「じゃあ、さっそく作ってくるから!」
キラキラと瞳を輝かせながら立ち上がって宣言すると、ミントは姿を消した。
忽然と。
透明人間にでもなったみたいに。
いや、てゆーか、なんか心霊現象みたいな?
どっちにしろ、心臓に悪いからやめて欲しい。
せっかく、本格的に静かになったので、清夏先輩に借りたミステリーを読むことにした。
そのうち帰ってくるだろうとのんきにしていたのだけれど、朝になってもミントは帰ってこなかった。
一瞬、ミント・ハリケーンなんて生徒は最初から存在していなくて、全部私の白昼夢だったんじゃ? とか、考えたりもしたけれど、寮の部屋にはミントの私物が残っている。制服やら、通学かばんやら、ペンギン雑貨やら。
よかった。アレが白昼夢なら、自分の脳を疑うところだよ。
いや、しかし。現実なら現実で問題がある。今日は月曜日なんだけど、あいつ授業には間に合うのか?
もし来なかったら、なんて言っておけばいいんだろう? 下手に仮病を使うのもなぁ。てゆうか、戻ってくるんだよね? 謎の失踪とかになったら、どうしたら!?
ぐるぐるしながら教室に入ると、先に来ていたミントに挨拶された。
「おっはよー。のりこ」
普通に登校してるし! いつの間に?
「昨日のアレ、完成したから。放課後、楽しみにしてて!」
ハイテンションで報告してくる。
余計な心配させやがって。中間報告をしろ。中間報告を。
そして、待ちに待った放課後。
いや、私はそんなに楽しみにしてたわけじゃないんだけどね? うん。
部屋に戻ったら、ひざ下くらいのサイズのペンギンがいた。
・・・・・・何ペンギン?
なんか、割と本物っぽいデザインで、ビニールっぽい材質。もうちょっと、ぬいぐるみっぽいほうがよかったなー・・・。
「どう、どう!? とても土人形とは思えないできでしょ!? この子、泳げるんだよー。お風呂でもプールでも海でも、どんとこいだよ!」
え? 泳げるの? 防水? あー、それで、ビニールっぽい素材なのか。
「おいでー」
ミントが床に膝をついて両手を差し出すと、ペンギンはミントに向かってよちよちと歩き出す。
ほ、本当に動いた!?
ようやくたどり着いたペンギンの頭を、嬉しそうに撫でるミント。
うん。なるほど。
可愛いけど、役には立たないな。
それに。
「しゃべらないの?」
「う・・・。そ、それは、今後の課題ということで。後、声とかしゃべり方とか決められなくて」
あー、それは大事だよね。うん。難しい問題だ。
「分かった。私も何か考えておく」
「のりこが珍しく乗り気だ」
「あ。それと、手乗りサイズのペンギンもよろしく」
「のりこがペンギンの魅力に目覚めた。それは嬉しいけど、なんか、いいように使われている気もする」
腑に落ちない様子のミント。
ううん。そんなことない。気のせいだって。
その夜。さっそく寮のお風呂へ、ペンギンを連れて行ってみた。
ペンギンは思ったよりも早く泳げるので、泳がせている間は浴槽に入れなかったけれど、水族館に行ったみたいで、なかなか楽しい。
ほかのお嬢様方にも、新しいおもちゃとしてなかなか好評だった。みんなが普通に受け入れているのは、魔法の力が働いているからなのかどうか。あえて、追及はしないでおく。
泳がせなければ、一緒に湯船に浸かることもできて、うん、なんか、和む。
これで、お話ができればなー。
魔女のいる生活は、なかなか悪くない。
そんな、今日この頃。




