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その5 ピンク色の嵐

 お昼休み。中庭の中央にある花壇の中に、ピンクの閃光が走った。光が消えると、人が一人すっぽり入っていそうな大きさの、花のつぼみが現れる。

 薄いピンク色をしたつぼみは、上のほうに行くにつれ、つまり、花びらの先のほうに行くにつれ、色が濃くなっている。

 つぼみは、淡い光を放ちながら、ゆっくりと花開いていき、中から、魔法少女が現れた。

 背中の真ん中あたりまである、ピンク色のふんわりクルクルした髪には、あちらこちらに小さな白い花の飾りが散らばっている。

 薄ピンクのふんわりした衣装には、濃いピンクの花飾り。スカートはもちろん、ふんわりミニで、裾には白いフリル。スカートの上には、オーガンジーっていうんだっけ? 透ける感じの布で覆われていて、なんかヒラヒラしている。キラキラ光っているのは、ビーズかなんかが縫い付けられているみたい。

 そして。それを着こなすのは、砂糖菓子のような、甘口美少女。

 美少女は、全開の笑顔で、決め台詞を口にした。

「魔法少女シュガー・ピンク☆ 平和を乱す悪いコに、甘~いおしおき、し・て・あ・げ・る☆」

 ウィンク。ウィンクを決めてきましたよ!?

 本物だ。本物の魔法少女だ。

 残念な魔法少女にすっかり慣れてしまったせいか、うっかり感動してしまった私でしたが、翠の冷静な言葉が、正気に戻してくれました。

「何、アレ? ばかじゃないの」

 そうだった。

 アレは、本物の『魔法少女』なんかじゃい。本物の魔女ではあるけれど、『魔法少女』としては、ニセモノなんだった。




 新学期初めての部活の後、翠とは、たまに一緒にお昼を食べている。まあ、当然のようにミントも一緒にいたりするんだけど。

 ミントのことは、ざっくりと説明してある。ざっくりと。余計なことを省いて。

 

 魔法の国からやって来た魔女で、異次元から空間をこじ開けてやってくる黒い害虫を退治するために、政府公認の元、この学校に転入してきた。魔法少女のコスプレは、正体を隠すためで、政府も公認の害虫退治の制服である。

 

 というのが、翠にした説明です。まあ、大体、合ってる。大体。

 ちなみに、説明を省かれた余計なこととは、以下の通りです。


 その1 黒い害虫は、本当は、瘴気とかいう人体に害を及ぼすガスで、害虫の形をしているのはミントが魔法で細工したから。魔法でやっつけたって、目で見てわかりやすくしようと思って、とかミントは言っていた。本当に変な生き物がやってくる場合も、まれにあるらしいけど、その時は魔法少女ごっこをしている余裕はないとも言っていた。

 その2 魔法少女のコスプレは、大魔女様とかいう魔女の偉い人の趣味で、本来の魔女活動(異次元と通じる穴をふさいだり、瘴気をなんとかしたりすること)には全く関係ない。いつの間にどうやって撮影したのか知らないけれど、魔法少女姿で戦っている映像とレポートを報告し、それを元にアニメを制作しているらしい。どうでもいい。本当に、どうでもいい。


 以上の2点は、翠に話したら、怒られることが確実なので省略しました。私もすっかりミントのいる生活に慣れてきちゃったし、二人にぎすぎすされると居心地悪いしね。隠ぺいに協力しました。


 翠は胡乱な目でミントを見ていたけれど、一応は納得してくれたようで、急に仲良くとはいかないけれど、少しは険悪さがなくなったかなー、と。たぶん。


 

 そして。本日も、翠とお昼ご飯の約束をしていた。

 天気がいい日は、中庭で食べることが多い。翠はお弁当。私とミントは、購買でパンを買ってくる。まだ、肌寒いけれど、そこはミントが魔法でなんとかしてくれた。見えない壁を作って、風が通り抜けないようにしてくれたので、陽があたるとむしろ暖かい。

 慣れると、魔女がいる生活はなかなか悪くない。

 まあ、それは置いておいて。

 いつもより少し遅れてきた翠は、見慣れない子を連れてきた。

 背中の真ん中あたりまである、薄茶色の癖毛っぽい髪を三つ編みにした、黒縁メガネの女の子。クラシカルなタイプのセーラー服のスカーフの色は紺。ということは、私たちと同じ2年生のはずなんだけど。こんな子、見たことないよ? 転入生がきたとかいう話も聞いてないし。誰?

「遅れてごめん。えっと、紹介するね。こちら、同じ5組の佐藤桃さん。体調を崩して、しばらく休学していたんだけど、今日から復学したんだって」

「あ、さ、佐藤桃です・・・」

 佐藤さんは、うつむき加減におどおどと挨拶をした。

「あ。2組の相羽のりこです。はじ・・・めまして?」

 同じ学年に休学してる子がいるなんて、聞いたことないけど???

 混乱していたら、ミントの舌打ちが聞こえてきた。

「2組のミント・ハリケーンです」

 普通に挨拶している。

 あれ? 気のせい?

「同学年に休学している子がいるなんて、聞いたことないんだけど、クラスのみんなも先生も、普通に納得して受け入れているだよね。最近、似たようなことがあったばかりだから、きっとどこかの害虫駆除業者の仲間なんじゃないかなーって思って、連れてきてみたの」

 き、気のせいじゃなかった。そういうことか。

「え? なんで? どういうこと、なの?」

 翠に正体がばれていることに気付いていなかったらしい佐藤さんは、動揺を隠せない様子で、翠とミントを交互に見つめる。動きがせわしない。なんか、小動物っぽいな、この子。

 対して。ミントのほうは、一つため息をつくと、佐藤さんの肩を両手でがっしりと掴み、丸め込みに入る。うん。たぶん、アレは、丸め込もうとしてるんだと思う。

「翠とのりこには、魔女の素質があるんだ。だから、魔法の暗示が効かない。なので、事情を話して協力してもらってるんだよ。特に、のりこは寮の部屋も一緒だし」

「な、何言ってるの? 魔法少女のことは、一般人には秘密のはずじゃ!?」

 さっきのおどおどした様子は、演技だったんだろうか? ミントには、普通に食って掛かっている。いや、単に人見知りなだけ?

「魔女の素質がある子は、一般人じゃないんじゃないかな。っていうか、もういいから、ちょっとこっち来て。あ、のりこ、ごめん。先に食べてて。この子、魔女としては新米で、加減ってものが分かってないんだよね。ちょっと、あっちで教育してくるから」

 ミントは、ずるずると佐藤さんを引きずっていき、離れたところで何やら言い聞かせている。たぶん、翠には聞かせたくない話をしてるんだろう。

 私と翠は、言われた通り先にお昼を食べることにした。

 ていうか。魔女の素質があるのは翠だけで、私はミントに強制的に巻き込まれただけなんだけど。佐藤さんの魔法が効かなかったのは、なんでか知らないけど。まあ、たぶん、ミントのせいというか、おかげというかなんだろうな。



 中庭中央の花壇に閃光が走ったのは、ちょうど、お昼ご飯を食べ終わったときだった。

 そして、魔法少女が現れる。もしかして、私と翠が食べ終わるのを待ってた? このタイミングの良さ。

 魔法少女の頭上には、また、あの黒い穴が開いていた。

 ミントは、花壇の外、私たちと魔法少女のちょうど中間くらいのところにいた。私たちには背を向けて、魔法少女と黒い穴の様子を窺っている。

 穴から、ぼとぼとと害虫が落ちてくる。バレーボール大の丸い体に、細い足がいっぱい生えている。この間のと同じ奴だ。あの赤く光る眼、不気味だからやめてほしい。てゆーか、使いまわしかよ。自分の出番じゃないからって、手を抜いたな。

 ・・・あれ? この間より数多い? 20匹くらいいるような。

 穴から落ちてきた害虫の大群は、わしゃわしゃと足を動かし、魔法少女ににじり寄っていく。

「ひゃー!!」

 って、おい!

 逃げるな! 戦え! 魔法少女!

 あ、ちょっと、こっちに連れてこないで!

 私は、翠にしがみつく。

 すると、青と白の閃光が走った。

「魔法少女クール・ミント。剣山!」

 迷いなく、剣山って言いきった。もう、それでいくんだ。

 ・・・・こいつ、もしかして自分の見せ場を作るために、わざと害虫を大量発生させたんじゃないだろうな。

 出番を取られると思ったのか、はたまた、魔法少女の使命に目覚めたのか。ピンクの魔法少女は、ハッとした顔でミントを見ると、何か決意したように唇を引き結び、くるりと害虫の群れに向き直る。

「さあ。かかってらっしゃい! シュガー・ピンクが相手になるわ!」

 いや、さっきまで悲鳴あげて逃げてましたよね?

 ピンクは、魔法の杖を害虫たちに突き出すと、そのまま真上に振り上げる。

「ピンク・トルネード!」

 ごうっと激しい音を立て、ピンク色の竜巻が、花壇の花もろとも害虫たちを巻き上げていく。

 技としては見栄えがするけど、何この惨状。花壇がめちゃくちゃなんですけど!

「ま、巻き上げてどうする!?」

 花壇の心配をしていたら、焦ったようなミントの叫び声が聞こえてきた。

 もしかして、ここまで被害を出しておきながら、退治できてないの?

 ピンクには、ミントの声は聞こえてないようだった。

 振り上げていた杖を下ろすと、竜巻が消える。反対の手で、余裕のしぐさで髪をかき上げている。こっちに背を向けているので、見えたわけじゃないけれど、たぶん、得意げな顔をしているんだろう。

 上空で、何かが光った。ふっとピンクの周りが陰る。そして、落下音。

 ピンクの目の前に、巨大な害虫が落ちてきた。

 も、もしかして、アレ全部合体しちゃったの!? 巨大害虫は、ピンクよりも若干大きい。そして、あちこちに花びらの飾りがついている。いや、可愛くないから。

「にゃーーー!!!」

 杖を放り出し、尻餅をつくピンク。

 腰を抜かしている場合か、魔法少女―!?

 ビカリと巨大害虫の赤い目が光ったような気がしたその時、ミントの涼やかな声が聞こえてきた。

「ペンギンアタック改!」

 さっきよりも、一回り大きな影が生まれ、巨大ペンギンが降ってきた。

 

 どんっ! ぷちっ。

 

 あ。つぶれた。

「修業が足りないようね。精進なさい。では、さらば!」

 光とともに姿を消すクール・ミント。その口調は、いったい何の真似なのか。

 後には、地面にへたり込んでいるピンクと、巨大ペンギンが残された。

 ピンクはともかく、あのペンギン、どうするんだ?

 とか思ってたら、後ろからミントに声をかけられる。

「花壇も壊れちゃったし、中庭の新しいオブジェってことでいいよね? 咄嗟に出しちゃったけど、なかなか悪くないよね!」

 いつの間に。

「いいわけないでしょ! 直ぐに、片づけて。」

「えぇ!? そんなー。可愛いのに。新しい憩いの場の象徴として・・・」

「片づけて」

「はい・・・。夕方までには、なんとかします」

 翠に怒られて、項垂れるミント。

 そういえば、お昼休み、後どれくらい残ってるんだろう? 時計を確認すると、授業開始5分前だった。

「翠。後5分。急いで戻らないと」

 いろいろつっこみたいことはあるけれど、ともかく、私たちは急いで校舎へと戻った。奴らの魔法少女活動のために、授業に送れるわけにはいかないのだ。



 ちなみに、午後の授業に間に合わなかったのは、佐藤さんだけでした。

 壊れた花壇は、翠の監督の元、夕方までには修復が完了しました。

 報告、終わり。 


 

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