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その4 英国ミステリ同好会

 魔法少女による害虫駆除活動の翌日。

 てっきり、『2年2組の転入生、ミント・ハリケーンさんは、害虫駆除業者なんですって』とか、噂になってるんじゃないかと思ったけど、余計な心配だったようです。

 いや、害虫駆除のことは噂になってたけれど、ミント・ハリケーンの名前は一切出てこなかった。あんなに素顔丸出しで、名前だって捻ってないというのに。

「もしかして、魔法で何かしたの?」と、ミントに聞いてみたら、「これが私の魔女としての実力だ」とか得意げな顔で答えてきた。

 まあ、確かに。魔女としては、実力があるんだろう。魔法少女としては、かなり残念な部類だが。

 


 そして、再び放課後。

 今日は部活があるので、魔法少女活動には付き合えないと宣言すると、部活動に興味を持ったらしく、なんかミントもついてくることになった。

 そんなわけで、私こと相羽のりこは、ミントを連れて部活棟へ向かっていた。連れてっていうか、ミントが勝手についてきてるんだけど。

 部活棟は、校舎と寮の半分くらいのところにあり、文科系の実績のある部活と、お嬢様たちが主催するなんだかよくわからない同好会の活動の場となっている。大した距離じゃないけれど、連絡通路とかで繋がってるわけじゃないので、一端下駄箱で靴を履き変えないといけないのが面倒くさい。

 私が入っているのは、英国ミステリ同好会という。ミステリーの「ー」がないのは、こだわりでもなんでもなく、申請の時にうっかり書き漏れたせいらしい。部員数は4人。活動は週2回、火・木。お茶を飲みながら、本を読んだり感想を言い合ったり、全然関係ないことをただ話してたりするだけの、ゆるい集まりだ。にもかかわらず、ちゃんと部室があるのは、先輩の財力のおかげです。寄付金の額がものをいうらしい。私立の高校ってみんなこうなのか、この学校が特殊なのか。



 部活棟への道すがら、ふと疑問に思った割とどうでもいいことをミントに聞いてみた。

「そういえばさ。魔法少女って、小中学生がなるもんじゃなかったけ? 確か」

「あー・・・。そうみたいだけど、小中学校は政府の許可が下りなかったんだって。深刻な病が蔓延する恐れが高いからって・・・」

「深刻な病?」

「中二病・・・とかいう・・・」

 ああ・・・・・・。政府め、微妙な仕事をしおって。

「あと、もう一つ。ミント・ハリケーンって・・・・」

「うん、偽名。ちょっと、やりすぎた。今は、反省してる」

 やっぱりか・・・・。

 そうこうしている内に、部活棟に到着した。部活棟には専用の下駄箱があるので、そこで部活用の上履きに履き替える。

「上履きいるの? 持ってきてないよ」

 そうだった。こいつもいるんだった。

 確か、どこかに来客用のスリッパがあったはず、とキョロキョロしていたら声をかけられた。

「お探し物は、これかな?」

「翠!」

 1年の時のクラスメートで、私と同じ英国ミステリ同好会の仲間である、涼白翠だった。

 肩口まである、サラサラストレートの黒髪が美しいなかなかの和風美少女。黙って立っていると、ちょっと近づきがたい雰囲気があるけれど、中身は全然とっつきやすい。今も、来客用スリッパを両手に一つずはめて、なんだかうれしそうにこっちを見ている。

 私とミントが部活棟に向かっているのを見て、用意してくれたんだろうなー。

「ありがとう。探しに行こうと思ってたとこだった」

「ふふー。きっと、必要なんじゃないかと思ってね。はい」

 翠はにっこり笑いながら、スリッパを私に差し出した。ミントではなく。

 あれ? 別に、人見知りするような子じゃないはずだけどな。まあ、いいか。

 スリッパを受け取って、ミントを紹介する。

「もう知ってるとは思うけど、うちのクラスの転入生で、私と同室になったミント・ハリケーン。部活の見学したいって言うから、連れてきちゃった」

 軽く会釈をするミントを、翠は探るような目で見つめる。それはもう、じっとりと。うん。そう。じっとりと・・・。

「ふーん? 私は、5組の涼白翠。クラスは別れちゃったけど、のりちゃんの親友です。よろしくね?」

 し、親友なんて言い方されると、ちょっと照れるな。・・・じゃなくて。なんか、ミントに対して含みがあるような?

 はっ。もしかして、ミントが害虫駆除業者だと気付いてるんじゃ。いや、でも、翠は地元民で自宅から通ってるから、昨日の放課後はいなかったはず。

「じゃあ、行こっか。先輩たち、もう来てるみたいだし」

「あ、うん」

 翠に促されて、とりあえず部室に向かうことにした。



 突然連れてきたミントのことを、先輩たちは歓迎してくれて、私はほっと胸を撫で下ろした。普通の部活なら(特に人数の少ない)、新入りは大歓迎なのかもしれないけれど、うちの学校の同好会はちょっと違う。お金さえ払えば、たとえ一人でも活動できる上、部室ももてるため人数は重要じゃないのだ。

 すべては主催者の胸先三寸。主催者に気に入られなければ、会に入ることはできない。新入生の勧誘とかもしてないし。気に入った生徒を、個人的に勧誘してる人はいるみたいだけど。

 英国ミステリ同好会の主催者は、3年3組の四条彩寧先輩と、同じ3組の緑川清夏先輩。二人とも寮生で、いわゆるお嬢様というやつです。彩寧先輩は京都の由緒あるお家の御令嬢で、清夏先輩のお家は不動産関係のお仕事を手広くやっているそうです。グループ経営とかしてて、会長の娘? とかなんとか。

 二人は1年生の時からずっと同じクラスで、まあ、いわゆる親友というやつ。同好会を作ったのは、二人が1年の時で、ずっと二人きりで活動してたんだそうだ。

 なぜ、ここに私と翠の二人が加わったのかというと、話は簡単で、翠と清夏先輩は仲の良いいとこ同士なのだ。翠は清夏先輩に誘われて、私は翠の友人枠というか、まあ、ついでのおまけです。一般庶民なのに寮に入っているのは私一人で、珍しがられてたから、そのせいもあるかな。私が入会できたのは。ちなみに、翠の家はこの辺りの大地主の家系で、結構土地を持っているんだそうだ。親から聞いた話だけど。今は普通のサラリーマンをしていて、ちょっと土地を持ってるだけだよ、と翠は言っていたけど、ちょっとってどれくらいなんだろう・・・。

 まあ、それはともかく。先輩方二人は、留学生のミントに興味をひかれたようった。見た目だけは、クール系の美少女なんだよな、こいつ。ある意味、詐欺だ。

「初めまして。3年で、この会の会長をしている四条彩寧です。私、お紅茶が大好きで、この同好会の主に英国の部分を担当しているの。今日は、お茶会を楽しんでいってね。あ、ミステリーとか読まなくても、全く問題ないので、心配しないでね」

 おっとりと自己紹介する彩寧先輩。腰のあたりまである、ストレートのつやつやした黒髪がチャームポイントの和風美女。初対面の時は、彩寧先輩のほうが翠の従姉なのかと勘違いしたんだよね。外見的には、紅茶よりもお抹茶とか立ててるほうが似合いそうなんだけど、本人は英国式のお茶会のほうが好きなようで、毎回、紅茶とお菓子を提供してくれる。

「同じく、3年の緑川清夏だ。副会長で、ミステリーを担当している。この部屋にあるミステリーは全部私の私物だが、読みたい本があったら、遠慮なく借りていってくれ。ここにある本以外でも、読みたいミステリーがあったら、言ってくれればそれも取り寄せるから」

 対して、清夏先輩は茶味がかかった柔らかめな髪をショートカットにしたさわやか系。スラリとした体躯とさっぱりした言動も相まって、下級生女子から大モテだ。

「北欧の辺りから転入してきた、ミント・ハリケーンです。よろしくお願いします」

 クラスの自己紹介もこれだった。『北欧の辺り』とか、微妙なこと言ってるのに、魔法の力が働いてるのか誰もつっこまないんだよね。とか思ってたら!

 翠が、翠がやってくれた。

「北欧の辺りって、なんなのそれ?」

「え?・・・神秘的な感じがするかと思って」

 いや、うさんくさい感じがするけど。

「意味が分からないんだけど。っていうか、具体的にどこの国なの?」

 翠が、翠が攻撃的だ。

「どこの国がいいと思う?」

 真顔で聞き返すな!

「・・・・・・本当は、どこから来たの?」

「魔法の国から」

 きりっと引き締めた顔で何答えてるの? 秘密の設定じゃなかったの、ソレ? そして、もはや、神秘的を通り越して痛々しい。

 一方的に険悪になっている翠をどうしていいかわからず、あわあわしていたら、清夏先輩が助けてくれた。

「その辺にしておかないか、翠。あんまり、転入生をいじめるもんじゃない。大体、彼女は留学生なんだから、多少日本語の言いまわしがおかしくてもしょうがないだろう」

 なるほど。みんな、そんな風に好意的に解釈していたのか。

「清夏ちゃん・・・。分かった。つい、熱くなりすぎてたみたい。また後で、ゆっくりお話ししましょうね、ミントさん」

 にっこり笑った翠の、目だけが笑っていない。射るように、ミントを見ている。

「さ、みんな。お茶の用意ができたわよ。座って頂戴。今日の紅茶はウバ、お茶請けはチーズケーキよ。それと、清夏ちゃんが差し入れでもらった、クッキーもあるから」

 彩寧先輩、なんていいタイミングで。ありがとうございます!

 いつもの丸テーブルに、一つ椅子を追加して、彩寧先輩→清夏先輩→翠→私→ミントの順で座る。とりあえず、翠とミントは引き離さねば。

「どうかしら? ミントさんのお口にも合うとよいのだけれど」

「ん。すっごく、おいしいです」

 紅茶を一口飲んで、ミントは目を輝かせた。

 そうでしょう、そうでしょう。彩寧先輩のお茶は絶品だよね。茶葉は、京都の紅茶屋さんから取り寄せてるそうなんだけど、そこのお店は、インドとかスリランカとかから直接茶葉の買い付けを行っているんだって。

 ちなみに、本日のウバはスリランカのお茶だ。爽やかな香りと、ほどよい渋みが心地よい。一杯目はストレートで、濃くなった二杯目はミルクティーにするのが、英国ミステリ同好会の定番です。ウバのミルクティー、好きなんだー。うれしいな。

「のりちゃんは、ウバが好きだよね」

 翠に笑われてしまった。うきうきしてるのがバレバレだったようだ。まあ、翠の機嫌が直って何より。クラスも別れちゃったし、新学期始まってからは、ずっとミントと一緒だったからな。翠と話すの久しぶりだし、今日の同好会楽しみにしてたんだよね。

 しばらくは、翠と私、先輩たちとミントで、和やかに会話とお茶を楽しんでいたんだけど、突然、思い出したように清夏先輩が恐ろしいことを言い出した。

「そう言えば、昨日。カフェテラスに魔法少女が現れて、害虫退治をしてくれたんだってね。クール・ミントって言ったかな。ミントって、緑色だよね。クール・・・・涼白・・・。ふふ、もしかして、翠が魔法少女の正体だったりするのかな?」

 ちょっと、先輩!爽やかな笑顔で、一体何を言うんですか!?

「清夏ちゃん!どうして、私が魔法少女のコスプレして、害虫駆除をしなくちゃなんないの!」

 飲みかけの紅茶を乱暴にソーサーに戻して、翠は叫んだ。顔が赤いのは、怒りのせいだろう。そして、翠は、憎々しげにミントを睨んだ。まるで、お前のせいだと言わんばかりに。

 うん。まあ、その通りなんだけど。・・・・翠って、もしかして、やっぱり、ミントの正体に気付いてる?

「それに! 私よりも、ミントさんのほうが怪しいと思う! 魔法少女とやらが現れたのは、ミントさんが転入してきてからだし、名前も一緒だし!」

 うん。そうだよね。私も、そう思う。

「冗談だって。そんなに、ムキになるなよ。それにしても、もう現れないのかな。私も、見てみたいな。そして、ぜひ正体を突き止めたい」

 あー。ミステリ好きの心に火が付いちゃったんだ。

 いや、それはそれとして。こうまで、ミント魔法少女説をスルーしてくるとは。

 何か、怪しい力が働いているとしか思えないよね。恐ろしいよ。魔法の力。

 そして。翠には、ミントの魔法が効いてない?・・・ってこと?

 ちらりとミントを見ると、目があった。ミントは、安心しろというように、大きく頷いて見せると、おもむろに口を開いた。

「じゃあ、私は、のりこに1票入れる」

『入れるな!』

 あ。翠とハモった。



 その後は、なんだか有耶無耶のうちにお茶会が終了した。

 私とミントは、お家の人が車で迎えに来てくれるという翠を、校門まで送り届ける。

 一応、部活が終わる時間に合わせて、最終のバスが出るんだけれど、翠はいつもお家の人が迎えに来てくれるのだ。

 いつもは、お迎えが来るまで、二人でおしゃべりしながら待っていたのだけれど、今日は違った。校門につくまで、私たちはずっと無言だった。翠は、ずっと何か考え込んでいるし、ミントも珍しく大人しくしていた。

 校門までたどり着いたところで、ようやく翠がこっちを見た。

「悪意があるわけじゃないみたいだけど、でも、やっぱり言っておく。のりちゃんを、変なことには巻き込まないで」

「もちろん」

 真剣な眼差しの翠に、ミントは即答する。

「害虫駆除的な意味でよ?」

「うぐ。・・・・善処します」

 ああ。やっぱり、翠は気付いていたんだ。そして、ミントにやたらと突っかかっていたのは、私を心配してくれてたんだ!・・・くう。なんか、一気に胸が熱くなった。

「ありがとう、翠!でも、大丈夫。私は基本、見てるだけで、絶対に手伝わないから!」

 高ぶった気持ちのまま、断言する。

「えー? ちょっとくらいは、手伝ってくれても・・・」

『うるさい。黙れ』

 ミントの情けない声での訴えは、二人のハモリで封じられた。

「まあ、今日のところは、この辺にしておいてあげる。のりちゃんも、事情が分かったうえで、その娘に付き合ってるみたいだし。だまされたり、危険な目にあったりしてるわけじゃないならいいの。でも、何か困ったことがあったら、いつでも私に相談して。約束だよ」

「うん。ありがとう、翠」

 じっと翠の目を見つめて、私はもう一度お礼を言う。

 この高校に入って、よかったな。翠と出会えて、よかったなって、心から思う。・・・出会わなくていいのとも、出会っちゃったけど。

 ちょうど、お迎えもやって来た。翠は私にだけ手を振ると、車に乗り込む。

 私は、車が見えなくなるまで、手を振り続けた。

 完全に、車が見えなくなり、寮に帰ろうとしたら、ミントが呟いた。

「あの翠って娘、魔女の素質がある」

 な、なんてことを言うんだ。

「翠は、魔法少女のコスプレをして、害虫退治をしたりしない!」

 カッとなって声を荒げると、予想外だったのかミントはびくっと後ずさる。

「え・・・いや。魔法少女活動は、魔女の副業だし。別に、害虫駆除をしに来てるわけじゃないし・・・」

 え? えーと、そうだっけ? あれ? えーと、じゃあ、つまり、どういうこと?

「素質があるだけで、魔女なわけじゃないから、今のところは、普通の人より魔法にかかりにくいってだけかな。だから、クール・ミントの正体をごまかすための暗示も効いてないんだよ」

 あー、なるほど。暗示が効かなければ、魔法少女の正体ってバレバレだよね。何にも隠されてないし。

「よりにもよって、のりこの友達なんて、面倒だな。いや、考えようによっては、面白い展開か? 新しい友人である魔法少女と、その正体を疑う以前からの友。二人の友情の間で、揺れ動くのりこ! うん、悪くない展開だ」

 こ、こいつ。大魔女様とやらのオタ趣味に、翠まで巻き込むんじゃない。

 ミントの頭を両手で掴んで、激しくシェイクすると、目を回しているミントを置いて、一人寮へと戻る。

 翠、宇宙人の乗るUFOとか、目撃してないといいけど。一昨日の、空中散歩(その2参照)を思い出して、私はそっとため息をついた。


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