その3 魔法少女活動
朝から、ミントはそわそわしていた。
今日の放課後、いよいよ、本格的に『魔法少女活動』を始めるらしい。
「手ごろな“穴”を見つけたから、今日の放課後にちょうどいい感じに“瘴気”が出てくるように細工しといた」とか言っていた。
“穴”っていうのは、異次元? と繋がっていて、そこから人の精神に害のある“瘴気”が出てくるのだそうだ。
相羽のりこの、魔法用語解説でした。
魔女(自称)であるミントは、政府の要請を受けて、穴をふさぐ仕事をしているが、今回、魔女の偉い人である大魔女様の趣味で、政府容認の元、うちの高校で『魔法少女活動』をしなければならないらしい。
何度聞いても、意味わからん。
てゆうか、そんな危険な穴が本当に存在するなら、いらん細工してないで、さっさとふさいでおいてほしい。
ちなみに私は、運悪くミント・ハリケーンと学生寮で同室になっただけの、普通の高校2年生です。
変身シーン見せられたり、一緒に空を飛んだりしたので、この子は本当に魔女なのかもと思ったりしたこともあったけど、時間がたつと、だんだん気のせいのような、どうでもいいような気分になってきてます。
そして、放課後。
魔法少女活動に私が立ち会うことは、ミントの中で決定事項らしく、カフェテラスへと連れてこられた。ここが、事件現場(予定)か。
万葉女子高は、元お嬢様学校なので、カフェテラスなんてこじゃれたものがあるんだよ。いや、まあ、今でも、生徒の半分以上はお嬢様なんだけど。そのせいなのか、お値段は普通の喫茶店並みで、私のような一般市民生徒のお財布には大変優しくない。なので、利用者は主に、部活や習い事をしていない一部のお嬢様方だ。ほどよく人がいて、魔法少女デビューには、確かに調度いい場所かも。
お嬢様と魔法少女か。一体、どんな化学反応を起こすやら。
・・・・あ、ちょっとだけ、楽しみになってきたかも。
カフェテラスには、思ったほど人がいなかった。いつもは、もう少し席が埋まっていたような? それに、なんか窓際の奥の一角だけ、がら空きなんだけど。変だな。あそこ、結構いい席だと思うんだけど。なんか、不自然・・・・て、そうか、人為的ってことか。
ちらりと、隣にいるミントを見る。
ミントは、私たち以外の人がいる場所を、一通り確認しているみたいだった。確認が終わると、問題の場所を見つめながら、軽く頷く。
「じゃ、そろそろ、始まるから。のりこは、その辺で見てて」
み、見てるだけでいいんだよね?
私は、何にもしないよ!?
心の中で、決意を固めながら、問題の場所を見ていると、テーブルの2メートルくらい上の辺りに、黒い穴が現れた。
黒い線が、コンパスみたいに円を描いたと思ったら、ぱかってなった。ぱかって。なんか、“ムコウガワ”から蓋を開けたみたいに。
“ムコウガワ”は、真っ暗だった。
「きゃっ!何かしら、あれ?」
みんなも気が付いたみたいで、小さな悲鳴があちこちで聞こえる。みんな、穴に注目しているみたいだけど、あわてて逃げ出したり、取り乱したりしている人はいないようだ。結構、冷静だな、みんな。
穴から、何か丸くて黒いのが落ちてきた。
バレーボールくらいの大きさで、わしゃわしゃと昆虫みたいな足がいっぱい生えた、・・・・・・「おはぎ」みたいなのが。おはぎには、赤く光る眼がついていた。暗がりでは、会いたくないタイプだ。
5個・・・5体? 落ちてきたところで、穴は蓋をしたみたいに閉じた。ぱかっって。
おはぎは、テーブルの上で動き回っている。あんまり、動きは早くない。
可愛い・・・・ような、気持ち悪い・・・ような・・・。
いや、やっぱり、あの足の動き、虫みたいでなんかヤダ!
こっちには、来ないで!
ちょっと、魔法少女どこいった?
早く、アレ、何とかして!
叫ぼうとして、息を吸い込んだら、青い閃光と白いドライアイスの煙みたいなのが立ち込める。
なるほど。衣装に合わせて、光は青くしてみたのか。最初に見たのよりは、それっぽいような。
「魔法少女クール・ミント。・・・・・・・剣山?」
おまえは、華道部か!? しかも、疑問形だし! 仁王立ちで、腰に両手をあてて、首かしげてるし!
いつの間に移動したのか、ミントは、おはぎがうごめいているテーブルの、隣の空テーブルの上に立っていた。
たぶん、注目を集めるための演出なんだろう。なんか、もう既にいろいろ失敗している気がするんだけど。
ため息をついていたら、お嬢様たちのささやき声が聞こえてきた。
「魔法少女ですって」
「あの方が、あの虫を退治してくださるのかしら?」
「まあ、害虫駆除の方ですの?」
「少し、様子を見てみましょう?」
これが、これが、日本のお嬢様たちの実力。
魔法少女も、害虫駆除業者扱いだよ。幅広いな、魔法少女活動。
この微妙な空気の中、どうするつもりなのかと思っていたら、ミントは、右手に持ったペンギンスティックを振り上げたポーズで固まっていた。
えーと?
害虫駆除業者に間違われたのがショックだったのかな?
いや、なんか違うような。
見守っていると、ミントは、神妙な顔で一つ頷いて、振り上げていたスティックを下ろし、おはぎたちのいるテーブルに飛び移る。
「とうっ!」
そして、再びペンギンスティックを振り上げ、
「ペンギンアタック! ペンギンアタック!」
殴打!?
魔法少女!?
・・・・・・・・・。あ。あいつ、魔法少女っぽい技とか、何にも考えてなかったんだな・・・・。
まあ、ちゃんと効果はあるらしく、ミントに殴られたおはぎたちは、「きゅうっ」とか、ちょっとかわいい悲鳴を上げると、さらさらと崩れ、塵になって消えていった。
私的には、被害さえなければ、魔法少女としてどうなのかとかは、割とどうでもいいんだけど。今朝のわくわくしたミントの様子を思い出すと、ちょっとかわいそうになってくる。うん。どう考えても、残念な結果だよね、これ。自業自得とはいえ・・・。
「悪は滅びた」
おはぎを駆除し終えたミントの目は、ちょっと座っていた。
「では、さらば!」
再び、光と白煙。白煙が消えた後には、クール・ミントも姿を消していた。テーブルの上に、靴跡だけを残して。
辺りを見回したけれど、カフェテリアの中に、ミントはいないようだった。
どよめくお嬢様たちを残し、とりあえず寮の私たちの部屋へ向かってみることにした。
やっぱり、ミントは部屋に帰ってきていたようだ。中から、泣き声みたいなのが聞こえてきて、ノックをためらう。
「う、うぅ・・・。私の、私のペンギンスティックがっ・・・・」
「そこっ!?」
あ、しまった。うっかり、勢いで開けてしまった。
ミントは部屋の真ん中に座り込み、ペンギンスティックを布巾でごしごし拭っていた。布巾が微妙に濡れている感じなので、水洗いした後、拭いているところなのかな。
ともあれ。そんなに、心配はしなくてもいいみたいだな。
やれやれ。
なんか、あまりにも残念すぎて、魔女とか魔法少女とか、どうでもよくなってきたよ。




