表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/23

第6話:月光の祭壇と一匙の砂

音のない渓谷を抜けた先は、広大な円形の盆地になっていた。まるで巨大な隕石が落下した跡地のような、巨大なクレーター。周囲の崖にも、あの月のクレーターのような窪みが無数に刻まれている。ここが、『月の欠片』の正体…あるいは、それを見つけるための終着点であることは間違いなかった。


盆地の中央には、月光をそのまま固めたような、青白い石でできた祭壇が一つ、静かに鎮座していた。人工物であることは間違いないが、いつの時代に、誰が、何のために作ったのか、見当もつかない。


俺とセリアは、恐る恐るその祭壇に近づいた。祭壇の上面には、ちょうど手のひらを置けるくらいの大きさの、完璧な半球状の窪みが一つだけ彫られている。


「ここに何かを嵌めるのね、きっと」


セリアの言う通りだった。だが、肝心の『何か』がどこにも見当たらない。俺たちは辺り一帯をくまなく探したが、窪みに合いそうな石や、特別なアーティファクトのようなものは、何一つ見つからなかった。


「手詰まり、か…」


俺がため息をついた、まさにその時。もはやタイミングが良いのか悪いのか分からない、いつもの電子音が脳内に響いた。


「本日もスキルガチャの時間でーす!」


俺はもう、期待も何もせず、ただ無心でガチャを回した。


【指定したスプーンで、一度だけ、あらゆる物質を『完璧な一杯分』だけすくい取ることができる】


「…………スプーン一杯」


あまりのくだらなさに、俺は乾いた笑いを漏らすしかなかった。隣のセリアも、俺の表情を見て察したのか、同情的な視線を向けてくる。


俺は無意識に、足元の砂を指でつまんだ。サラサラと、指の間からこぼれ落ちていく、ただの砂。だが、この場所にある砂だ。この『月の涙』と呼ばれるクレーターにある、ただの砂。


『地に眠る、月の欠片』


その言葉が、頭の中で反響した。

欠片。

月の、欠片。


俺は、はっと顔を上げた。周囲の崖に刻まれた無数のクレーター模様を見る。あれが『月』を模したものだとしたら? この盆地そのものが、巨大な『月』だとしたら?


「…セリアさん。もしかしたら、『月の欠片』って、特別な宝石とかじゃないのかもしれない」


「じゃあ、何だっていうの?」


「これだよ」俺は足元の砂を掴んでみせた。「この場所に眠る、この砂そのものが、『月の欠片』なんだとしたら?」


俺の突拍子もない言葉に、セリアは眉をひそめた。

「砂が? でも、もしそうだとしても、どれだけの量を窪みに入れればいいの? 一掴み? それとも…」


その通りだ。祭壇の窪みは、あまりにも精巧で、完璧な半球を描いている。適当な量を入れても、何も起こらないだろう。求められているのは、完璧な『量』。


その瞬間、俺の脳裏で、世界で一番どうでもいいと思っていたスキルが、閃光のように輝いた。


『完璧な、一杯分』


「…そういうことかよ…!」


俺は背負っていた荷物袋から、食事に使うための、ごく普通のスプーンを一本取り出した。そして、祭壇の前に膝まずくと、スキルを発動した。


俺はスプーンを、そっと地面の砂に差し込んだ。何の抵抗もなく、スプーンの皿に、まるで磁石に吸い寄せられるかのように、サラサラと砂が収まっていく。そして、山盛りになるでもなく、足りないでもなく、スプーンの縁と全く同じ高さで、完璧な『一杯分』の砂がすくい取られた。


俺はゴクリと喉を鳴らし、立ち上がった。そして、祭壇の窪みの上に、ゆっくりとスプーンを傾ける。


サラサラサラ…。


一匙の砂が、窪みの中へと静かに注がれていく。そして、最後の一粒が落ちた瞬間、奇跡が起きた。窪みは、まるでこの瞬間のためにあつらえられたかのように、一粒の隙間もなく、完璧に砂で満たされたのだ。


一瞬の静寂。


次の瞬間、窪みの中の砂が、まばゆい銀色の光を放ち始めた! 祭壇全体が低い唸り声を上げ、俺たちの足元の大地が、ゴゴゴゴゴ…と振動する。


そして、祭壇の中心から、一本の巨大な光の柱が、天に向かって真っ直ぐに放たれた。その光は、空に浮かぶ沈黙の守護神…『太陽の船』へと、一直線に伸びていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ